GOLDWINGのテクノロジー

Hondaのフラッグシップモデルにふさわしい ユニカムOHC4バルブ水平対向6気筒

Hondaのフラッグシップモデルにふさわしい ユニカムOHC4バルブ水平対向6気筒

先代以前とは異なる開発姿勢

“The King of Motorcycles”というコンセプトを掲げて、1975年からHondaが発売を開始したゴールドウイングは、Hondaモーターサイクルのフラッグシップとして着実な進化を遂げ、2025年に誕生50周年を迎えました。

1975年に発売された初代ゴールドウイング

1975年に発売された初代ゴールドウイング

このシリーズの大きな特徴は、1次・2次振動の低減と低重心化を図り、シャフトドライブ式の後輪駆動との相性を念頭に置いて、モーターサイクルでは珍しいクランクシャフト縦置きの水平対向多気筒エンジンを搭載していることです。気筒数は、1987年以前が4気筒で、1988年以降は6気筒を採用しています。
そして前後長を短縮するため、クランクシャフトの下部にトランスミッションやクラッチを配置する、二階建て構造を初代から導入していたことも、ゴールドウイングのパワーユニットの特徴です。

1982~1987年に販売されたゴールドウイングの水平対向4気筒エンジン

1982~1987年に販売されたゴールドウイングの水平対向4気筒エンジン

ゴールドウイングの6代目として、2018年に登場したSC79は、このシリーズならではの魅力を維持しながら、日常域の扱いやすさや運動性能を高めるため、先代までとは異なるスタンスで開発しました。
既存のゴールドウイングシリーズが、初代1000cc、2代目1100cc、3代目1200cc、4代目1500cc、5代目1800ccという順序で排気量を拡大し、装備の充実化による重量増が発生していたのに対して、6代目はあえて排気量を拡大せず、先代から約40kgの軽量化を達成しています。

車体レイアウトイメージ図

車体レイアウトイメージ図

SC79のパワーユニットは、先代の基本構成を踏襲しつつも、最高出力/最大トルク/燃費/静粛性の向上や小型軽量化を念頭に置いて、全パーツを刷新しました。
なかでも重要な課題となったのは、車体設計の自由度を高める軽量コンパクト化で、先代との比較では、エンジン前部から左シリンダーヘッド後端までの距離がマイナス29mm、排気系を含めての重量は約マイナス9.5kg(マニュアルトランスミッション仕様。DCT仕様はマイナス約7.1kg)という数値を実現しました。

エンジンコンパクト化イメージ図(上:SC79 下:先代)-01

エンジンコンパクト化イメージ図(上:SC79 下:先代)

ユニカムバルブトレインの導入

さまざまな性能に磨きをかけるべく、SC79が搭載するパワーユニットは、随所にHonda独自の技術を導入しています。その筆頭に挙がるのが、ユニカムバルブトレインの動弁系です。

ユニカムバルブトレインを採用

ユニカムバルブトレインを採用

吸気バルブをフィンガーフォロワーロッカーアーム、排気バルブをローラーロッカーアームで駆動するこの機構により、4バルブでありながら、2バルブだった先代以前と同等のコンパクトさを維持し、燃焼室形状をバスタブ型→ペントルーフ型に改善しました。
それに加えて、カムシャフトのプロファイル変更や内部で渦巻き状の流れが発生するエアクリーナーボックスの採用(2本の吸気ダクトを、左側は車体前方に、右側は車体後方を向く形で配置)、新規開発のインテークマニホールドやエキゾーストシステムなどによって、SC79のパワーユニットは、最高出力が80kw/5500rpm→93kw/5500rpmに、最大トルクが161Nm/4000rpm→170Nm/4500rpmに、定地燃費が20.0km/ℓ→27.0km/ℓに向上しました。

エアクリーナーボックス内部で渦巻き状の流れが発生

エアクリーナーボックス内部で渦巻き状の流れが発生

もともとユニカムバルブトレインは、モトクロッサーのCRFシリーズが先鞭を付け、のちにVFR1200FやCRF1000Lアフリカツインなどが導入した技術です。ただ、それらとは車載状態でのシリンダーへッドの角度が大きく異なり、気筒数が多いため、SC79は騒音対策を施したロッカーアームを導入しています。
また、既存のユニカムバルブトレインが、吸気用と排気用のロッカーアームの支点を別々としていたのに対して(ただし、初期のCRFシリーズやCRF1000Lなどの吸気バルブは直押し式)、シリンダーヘッドのさらなる小型軽量化に注力したSC79は、吸気用と排気用のロッカーアームの支点を共用しました。

CRF1000Lのユニカムバルブトレイン

CRF1000Lのユニカムバルブトレイン

シリンダー前後長を大幅に短縮

シリンダーの前後長を短縮するため、ボア径を74→73mmに縮小すると同時に(ストロークは71→73mmに延長)、1/3/5気筒と2/4/6気筒のボアピッチを各9㎜、左右シリンダーのオフセットを各4mm短縮したことも、SC79の特徴です。

シリンダー前後長を大幅に短縮したSC79

シリンダー前後長を大幅に短縮したSC79

一方、この変更は放熱性や耐久性の低下を招く可能性もあるため、その対策としてSC79では、スーパースポーツのCBR600/900RRシリーズなどで実績を積んだアルミコンポジット製シリンダースリーブや、抜群の強度と剛性を誇るクロモリ素材:SCM440Hのクランクシャフトを採用しました(先代以前のシリンダースリーブは鋳鉄製で、クランクシャフトは一般的な炭素鋼)。
また、シリンダーのボアピッチ・オフセットの縮小と最高出力・最大トルクの増大は、クランクシャフトの支持部にも大きな負担を与えます。そのため、クランクケースの合わせ面と別体式ホルダーに関しては、肉厚や素材、締結方法などに関して、数限りない仕様変更とテストを行った結果、十分な耐久性が確保できました。

ふたつの機能を一体化したISG

スターターモーターとジェネレーターが独立式だった先代のパワーユニット

スターターモーターとジェネレーターが独立式だった先代のパワーユニット

先代以前のゴールドウイングのエンジンが、クランクケース後部の右側に始動用のスターターモーター、クランクケース後部の左側に発電を担当するジェネレーターを設置していたのに対して、SC79のそれはふたつの機能を一体化したISG(Integrated Starter Generator)を採用し、クランクケース後部の左側にマウントしています。

始動と発電を兼務するISGは小型軽量化と静粛性に貢献

始動と発電を兼務するISGは小型軽量化と静粛性に貢献

ISGの導入による最大のメリットは、スターターモーターと付随するギアや配線類の廃止によって、システム全体で約2.4kgの軽量化を達成したことです。そして既存のスターターモーターのようなピニオンギアの飛び込みがなくなったため、始動時の静粛性も向上しました。

ISGの作動イメージ図

ISGの作動イメージ図

ISGの原点は、アイドリングストップ機能を主目的とするスクーター用のACG(AC Generator:交流発電機)スターターで、クランクシャフトの同軸に装着することを前提にしていました。一方のSC79はクランクシャフトの後端からヘリカルギアを用いてISG駆動を行うため、静粛性や耐久性を考慮して、ヘリカルギアのカップリングに使用するダンパーをアークスプリング+ラバーの機械式としています(先代以前はオイルを用いたビスカス式)。

※ACGスターターの初採用車は2007年に発売したクレアスクーピーで、その後はPCX125/160やリード125などが採用。

進化を続ける水平対向6気筒

1975年に登場した初代から、ゴールドウイングはHondaにとって特別なモデルで、初代から3代目の水平対向4気筒と4代目から5代目の水平対向6気筒は、独創的な構成を採用していました。
6代目となったSC79は、モトクロッサーやスーパースポーツ、さらにはスクーターなどとの関連性もある技術を導入しています。そしてそういった柔軟な姿勢でHondaならではの革新的な機構を随所に取り入れたからこそ、このパワーユニットは先代を凌駕する扱いやすさや運動性能、静粛性を獲得できたのです。



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