バイクに乗れない女性や子供でも、メインスタンドはかけられるのか?

今回のテーマは“メインスタンド”だ。

「メインスタンドに、Hondaの優れた技術が投入されているのか?」

その疑問を解き明かしてみることにした。
たかがメインスタンド、されどメインスタンドである。

モーターサイクルジャーナリスト・松井 勉さんの奥様、そして小学生の息子さんに登場して貰った。バイクに乗れない小柄な女性や11歳の男の子に、メインスタンドは簡単にかけられるのかを、検証してみた。

メインスタンドは大切なバイクアイテム
メインスタンドの扱いやすさをバイク未経験の女性と子供が検証

僕はバイクにメインスタンドが着いていることを重視する一人だ。というか、センタースタンドが好きだ。しっかり停めておけるし、メンテナンスをする時も便利だし、洗車する時もリアタイヤを簡単に回せるし、フロントタイヤもメインスタンドで停めてあれば意外と簡単に回すことができる。荷物を積む時も安心だし、イザとなればパンク修理だってできる。
だからバイクライフにとって、頼りがいのある装備なのだ。だからこそバイクにメインスタンドは着いていて欲しい。

スーパーバイク系モデルやオフロードモデルでは無くても仕方ないと思うが、ツーリングバイクやスクーター、あるいはロードバイクでもまず欲しい装備だと僕は考える。問題があるとすれば、軽い50㏄などはまだしも、大きなバイクともなると、ちょっとしたコツを掴まないと上げられないことがある。逆にいえば、バイク乗りの特権とも言える。やり方をマスターすればたいていの人は出来るし、実は難しくない。ちょっとした知恵の輪のようなものなのだ。

メインスタンド

メインスタンドを使うポイントは3つ。

  1. メインスタンドを掛ける時、ライダーはバイクの左側に立つ。左手でハンドルグリップ、右手で車体後部のハンドルを持ちバイクを正立させる。
  2. メインスタンドの2本の足が接地するように地面に下ろす。
  3. 下ろしたメインスタンドの足が2本とも地面に着いた状態でメインスタンドのペダルを踏み込み、右手のハンドルを斜め後方に持ち上げるようにする。 言葉に書くと複雑だが、初めて自転車に乗れた時のように、コツさえ掴めばこれが不思議なぐらい当たり前のようにできるのだ。

僕はこの仕事を始めてからも、取材する時はメインスタンドを装着しているバイクを、必ず使うことにしている。そんな僕が感じているのはHondaのメインスタンドは扱いやすいということだ。それは“操作力の重い軽い”だけではなく、全体の操作感を含めた印象で、それは走り終えた時の満足感まで膨らませてくれるようだ。

Honda以外のメーカーには、メインスタンドを掛けるのにはそれほど力を要さないものの、メインスタンドを外す時に意外と力を必要とするモデルもある。大型のツーリングバイクなどでそうなると、手慣れた僕でも緊張することがある。そう、これでは困る。上げるのも軽く、外すのも無理なくできること。これは大切だ。
しかし、具体的にどれくらい力を入れたらあがり、どれくらいの力で降りるのか。
“Hondaのメインスタンドは上げやすい”はどう実証すべきか。もちろん、研究所のような計測装置などない。あくまで僕の主観だ。だが、それは経験によるものだから、主観以上ではない。それでよいのか?

メインスタンドのことでこれほど悩むとは思わなかった。その時、ハタと思い付いた。僕がまだバイクに乗る前、近所の高校生が初めてバイクを手に入れた。キラキラして見えた。そしてそのバイクでメインスタンドを上げて見ろ、という彼は年上だが僕より身長は低い。体格、体重は同程度だろう。彼は軽々とやるが僕にはどうしてもあげる事が出来なかったことがある。
しかし、やり方を教わったらゆっくりとあげる事が出来た。その時を思い出し、スクーターのメインスタンドを上げたり下ろしたりしていた。その姿が不思議に思えたのか「どうしたの、何をしているの」と妻がのぞき込んだ。

そうか、彼らだ。11歳の長男、9歳の娘、そして妻の3人は僕が運転するリアシートに乗ったコトはあるが、バイクには乗らない。もちろんメインスタンドを掛けたこともなく、免許も持っていない。息子と娘はCB、VFRというスペルには鈍感だが、DSやPSPと聞けば目が光るどこにでもいる小学生だ。娘にはまだ荷が重い。そこで「難しい挑戦になるかもしれないが、協力をしてほしい」と息子、妻に実験を手伝ってもらう事にした。

メインスタンド

さぁ、家族による“バイクのシロウトでもメインスタンドを操作でき、しかも僕が感じるような安心感は得られるのか?”の実験の開始だ。
最初の検証は50㏄のスクーター、ZOOMERから始めた。僕がやり方を伝授する前にまずはやってみたまえ、と貫禄タップリに言ったものの、車重87kg、彼らが近所の移動に使う自転車のおよそ56倍はあるZOOMERを、息子も妻も一発でクリア。二人とも「できた!」と喜ぶ……。ちなみに妻は身長155cm、体重48kgで、息子は身長158cm、体重50kgだ。
こまかな感想を語るまでもないほどもなく簡単にできてしまったのだ。確かに軽い。僕がやるとメインスタンドのペダルを踏むだけで魔法のように上がる、と表現したくなるほどだ。そして二人とも下ろすのも簡単にクリアした。

続いて用意したのは125クラスのスクーター、SH-mode。車重はZOOMERより26kg増えて116kg。車体もぐっとボリューム感がアップする。息子はまずその大きさにちょっとたじろぐ。さすがに力を入れるだけでは無理。先ほど紹介したメインスタンドの上げ方を伝授し、やり方をみせて体の使い方を教えた。バイクを支える時の緊張した面持ちだが、スタンドのペダルに足を載せ、ZOOMERで学んだ要領をつかい、メインスタンドの両足を地面に付け、踏み込みながら右手で車体を後ろ斜め上方向に引き上げるようにすると、これまた意外にも簡単に「できた!」となった。
妻も息子同様、簡単にあげている。思わず「あ!」と口にでたほどだ。それは「案外、簡単」と心の声を代弁した。そして下ろすのも簡単にこなした。二人とも写真を撮るのに3回はやっているのだが、何度でも確実にあげている。

もちろん、ZOOMERのように軽々とは行かないが、経験者の僕がやってもSH-modeはメインスタンドのペダルを踏み込み、ラゲッジキャリアを兼ねたグラブバーを掴み、少し力を添えるだけでは車体は軽く上がる。それでいて上がったときの安定感もある。なんというか、上がる時の動き、そしてコトンと止まるときなど全体に上質感がある。

そしてPCX。こちらも125クラスのスクーターだ。車重が130kgとSH-modeと比較して14kg重い。目論見ではこのあたりがバイクに乗らない二人への限界か、と思い用意した。

PCXは全体に大きく見えるのはデザインだが、スペックを見るとSH-modeとは幅を除いては数mmの違いでしかない。低く長く見える印象にひるんだか、息子はまたもや緊張し思わず力が入る。そしてメインスタンドの両足を付けるのを忘れ、手前にバイクを傾けながら力んでいる。片足しかスタンドが接地していない状態だと僕でも重たい。なにしろ130kgなのだ。

メインスタンド

再挑戦。すると……、SH-mode同様すんなりとストンと上げる。一度上げると「もう一回」とリクエストするカメラマンの声に3回ほど連続であげてみたりする。バイクジャーナリストか、キミは!

妻はコツをつかんだか、とても30分前に初めてバイクのセンタースタンドを上げた人とは思えない慣れた動きをする。

体験するとSH-modeよりPCXの方が重たいことが解る。しかし、“数字の重さと、メインスタンドをかける操作性の重さは比例しない”ことも気が付いた。
スタンドのピボットの位置が車体の重みをどのように前輪と分担しながら上げるのか、をしっかり設計段階で検討されているのがよく分かる。実際、車輪サイズがSH-modeよりも小さいPCXの場合、より車体後部に支点があるように感じ、そしてスタンドのペダルを踏むと、やはり車体がジャッキアップされるようにフワッと浮く感触がある。今だ! と右手で少し力をそえればそのまま上がる印象なのだ。

二人には悪いがキミたちの成功体験もここまでだろう。
最後に用意したのは車重192kgのFORZA Siだ。250㏄のこのスクーターは車体サイズも125クラスと並べると遥かに大きい。最初に上げたZOOMERからみれば車重も倍以上だ。
これで“父の威厳をみよ”となるのがこの実験のオチでもある。
しかしだ。なんと初体験組二人はこのFORZA Siのメインスタンドを見事クリアした。息子など、PCXの一発目よりゆったりだが確実に上げてくれた。車体はPCXよりも62kgも重い。しかし、バイクを支え、メインスタンドの両足をしっかり地面につける、そして自分の体重をかけるようにスタンドのペダルに体を乗せ、右手でフッと力を入れると、重いドアが開くかのごとくFORZAのメインスタンドは持ち上がった。

そして妻。彼女は息子よりやや速いモーションで上げて見せた。二人とも重たい、とは口にしたが、「重たいだけで上げにくいとは感じなかった」と言う。出来ないとは感じなかったそうだ。

実際、FORZA Siを僕が掛けてみたも、192kgという車重なりの重さはあるが、メインスタンドのペダルを踏み込んだ瞬間から車体が持ち上がる感覚が明確にあり、右手の力を添えれば上がるという情報がその動き全体から感じられるのはSH-modeやPCXと同じ。なるほど、上がる、と思ったはずだ。
僕が考えるに、これはメインスタンドをフレームに取りつけている位置、つまり支点と車体の重量配分で重たくなる後部に近いところに設けることで、掛ける重みを感じさせず、そしてスタンドを立てた時の安定感もしっかりと伝える設計なのだろうと思う。

メインスタンド

しかしここで一つの疑問が涌く。コツを掴み目の前でメインスタンドを上げる彼らだが、これならどこのメーカーでも同じではないか、と。そこで他メーカーのスクーターでも試して見ることにした。

Honda以外にもA社、B社を販売する知り合いのディーラーで体験をお願いしてみた。まず、150㏄クラス、125㏄クラスのスクーターをA社で、そして軽量、コンパクトな車体で日本では人気の125㏄スクーターはB社のもので体験してみた。

まずA社の150㏄クラス。妻は最初「ウッ」と言ったまま動かない。そんなに重たいハズはない、ともう一度、コツをお復習いし再挑戦。今度は上がった。その印象はこうだ。「上がり始めるまでが重たく、メインスタンドが掛かる瞬間のガチャ、という音が嫌だ」と。それに、最初にメインスタンドの両足を地面に付ける時、Hondaに対してA社のものは2本の足が着いている感覚が乏しく、緊張した、という。どちらも慣れの範疇だろうが、僕がやってもなるほどそう思う。
そしてA社の125㏄スクーター。これは重さに関しては150㏄クラスのそれより軽いが、メインスタンドの両足が着く感覚、そしてスタンドが上がりきった時の金属と金属がぶつかるようなガチャンという感じは同じだった。言うなれば質感が低い。
そして125㏄なのに50㏄クラスのようなサイズ感で人気のB社のスクーターは、今までに経験したことがないくらいメインスタンドの操作力が軽い。おおお!これはHonda危うし、と思った程だ。しかし、下ろす時、「小柄な車体が信じられないほど重たかった」と言う。僕も体験したが、全くその通り。確かにすぐにメインスタンドが外れない、という安心感はあるが、上げる、下ろす、でこれだけ違いが有るとちょっと違和感がある。

しかし疑り深い僕は、じゃ、今Hondaを上げたらどうなんだ、と思い、展示してあったPCX150をお借りした。メインスタンドを妻が上げて一言。「あ、全然違う。」ホントか?と僕もやってみる。その通りだった。上げる時の力がしっかりメインスタンドの両足につたわる感、上げる時の力の一定ぐらい、そしてあがききる時のストン、という質感など、やれば誰にでも解るぐらい違った。
Hondaのメインススタンドはいい、と思っていた僕の主観が外れていない確信がもてた瞬間だった。

この実験で知りたかったことを確かめられて満足している。以前、ニューモデルの取材の時、Hondaはこうした常用する部分への設計にも拘る、という話を聞いたことがある。速さを示すラップライムや、ブレーキの制動距離、エンジンの出力やトルクなどと同様、“使い憎くては意味がない、しっかり使えてこそユーザーのため”という意志が詰まっている、というのだ。
細かい事の積み重ねに違いない。しかし、これは大切な事だ。

実験はその日、初めてメインスタンドを上げる事になった二人の姿が結果を物語っていた。Hondaのメインスタンドは基本的な扱い方を知ればだれでも簡単に扱える。難しくない。今回はメインスタンドという日常いつも使う物に焦点をあてた。やっぱり思った通り。上げるのも下ろすのも面倒なところが無く、自分の大事なバイクを停める時に行う大切な仕事として相応しい質感もある。
Hondaのメインスタンドはバイクを支えるただのつっかえ棒ではない。アナタが欲しいバイク、アナタのバイクの大切なメンバーなのだ。それはバイクショップで試乗した最後の瞬間に、是非確かめてみて欲しい。エンジン、フレーム、デザインと同じエンジニアリングが、そこに注ぎ込まれているのを体験するに違いないからだ。

User Reviews

  • Today

    18歳 女性

    50㏄のTodayに乗っています。メインスタンドしかありません。買い物に出かけた時、バスケットに荷物を入れる時など、安定しているのでメインスタンドは便利です。友人は市販のサイドスタンドを着けていますが、停める場所で車体が安定しないことや、荷物を載せるとき不安定になることもあるそうなので、メインスタンドが良い、と思っています。
  • PCX

    26歳 女性

    PCXでバイクに乗りはじめました。もう2年がたちます。メインスタンドのことなど、今まで一度も考えたことありませんでしたが、友人にスクーターを貸したところ、走りの良さとメインスタンドの扱いやすさが違う、と言っていました。当たり前、普通としか思っていなかったので驚きました。
  • PCX150

    24歳 男性

    PCX150です。私のスクーターにはサイドスタンドとメインスタンドの両方が着いています。普段はサイドスタンドを使う事が多いですが、道路の傾斜がある場所やガソリンを補給するときはメインスタンドを使います。両方あるとメリットを感じます。
  • Forza

    38歳 男性

    Forzaに乗っています。以前、他社の250ccスクーターに乗っていましたが、Hondaのメインスタンドは使い勝手が良いと思います。操作感や使い勝手に品質の良さを感じます。メインスタンドを上げきった時に、イヤな音がしないのも良いですね。
  • Sh-mode

    28歳 女性

    大きなバイクにも乗りたいのですが、身長が低いので扱いやすい125ccのスクーターに乗っています。Honda以外にも乗った経験がありますが、走りの違いよりも日常使う部分、アクセルやブレーキを操作する時の感触、それにメインスタンドを使う時の感触が優れていると思います。高級な感じというのでしょうか。私は好きです。
  • CB1100

    47歳 男性

    ツーリングに出た次の週末はCB1100の洗車、メンテナンスをしています。その時にメインスタンドは多いに役立ちます。ドライブチェーンへの給油やテンションの調整、またタイヤのトレッドに傷がないかを確認するのにも便利です。
  • Silver Wing

    51歳 男性

    長距離でのツーリングに使うことも視野に入れSilver Wingに乗っています。エンジンはパワフル、乗り心地も満足しています。反面、車重があるのでガレージでの取り回しは少々苦労しますが、メインスタンドを掛ける時の操作は軽く、確実にでき満足しています。他社製に乗っているバイク仲間も驚きます。かける時は軽いらしいのですが、下ろす時が重く感じてかなり力がいるそうです。
  • Gold Wing

    52歳 男性

    Gold Wingに乗っています。400kgを越える車重ですが、メインスタンドを使う事に抵抗はありません。確かに軽くはありませんが、コツさえ掴めば大丈夫です。ラゲッジを積むときの安心感と安定感は抜群。他の大型ツーリングバイクにはサイドスタンドのみのバイクもありますが、出先でのメンテナンスを考えるとやっぱりメインスタンドが便利ですね。
松井“ベン”勉

松井 勉モータージャーナリスト

1963年東京生まれ。日本のモーターサイクル・ジャーナリスト。
1986年から、インタビュー、試乗インプレッション記事、レース参加リポート、などを雑誌、バイク専門誌に寄稿。ラリー経験も豊富でDAKARラリー、SCORE BAJA1000にも参加している。Africa Twin DCTで、アメリカ西海岸、バハ・カリフォルニア半島もAdventure Touring している。

テクノロジーTech Views Vol.5 メインスタンド