CBR1000RR エンジニアトーク 初代「Fireblade」から貫かれるHondaフラッグシップスポーツの哲学

制御設計担当・大越 悟(おおこし さとる)以下・大越

コーナリング時や加速時の後輪スリップを抑制する「Hondaセレクタブルトルクコントロール(HSTC)」は、スロットルや ロール角に基づいてエンジントルクを細かくコントロールします。後輪のスリップを抑制することで、ライダーは自分の思い描く加速を、安心感を抱きながら楽しむことができるようになります。
このHSTCも、スロットルを開けたら一番速く走れるように制御してくれるものではなく、自分の許容範囲を超えたとき助けてくれるシステムになっています。あくまでもライダーが主役です。

◆Hondaセレクタブルトルクコントロール(HSTC)前後の車輪速センサー及びIMU(加速度センサー)の信号から後輪のスリップや前輪の浮き上がり(ウィリー)を検知、スロットルバルブを操作しトルクを制御することによりこれらを抑制する。

制御設計担当・大越 悟

電装システム、ハードウェア設計担当 山本千晶

電装システム、ハードウェア設計担当 山本千晶(やまもと ちあき)以下・山本

そうした制御の作り込みに加えて、操作系のフィーリングにもすごくこだわりました。
スロットルバイワイヤにしても、クラッチ操作なしでシフトアップ、ダウンができるクイックシフターにしても、ライダーとバイクとの間に、これまでは存在しなかった部品が加わることになります。それによって、これまでCBR-RRとして培ってきたダイレクトな操作感が損なわれるのは絶対に避けたいと思ったんです。

宮城

確かに、昔レースで使われていたクイックシフターなどを思い出してみると、お世辞にもタッチがいいものではなかったですね。レースなら結果さえ出ればよいかもしれませんが、市販車としては操作に喜びが感じられるものでなくてはいけない。

山本

そうですね。スロットルケーブルの操作感を再現するためのスプリングや、フリクション発生機構なども、荷重が違うものをいくつも作って乗り比べながら仕様を検討したり、ストロークセンサーの内部構造を工夫して、センサーが仕込まれていることを感じさせないソリッドなタッチを追求したり。 ライダーが「電子部品」を操っているのではなく、あくまでもバイクというメカを操っているのだという感覚を大切にしました。これまで多くのバイクを乗り継いできた方にも納得いただける仕上がりになったと自信を持っています。

◆クイックシフターシフトアップ、ダウンにともなうクラッチとスロットル操作を不要とするシステム。シフトロッドに配置されたストロークセンサーがシフトペダルの操作荷重を信号に変換。ECUが持つ車速・加減速状態・ギアポジションの情報と併せることで燃料噴射停止タイミング、スロットルバルブ開度、点火時期を制御。ギアの駆動荷重を抜くことでクラッチ操作なしでのシフトチェンジを可能にする。

一人でも多くのライダーに望む走りを
手にしていただくための電子制御サスペンション

宮城

そして「SP」では、サスペンションも電子制御になりました。スピードはどのくらいなのか、バンク角はどのくらいなのか──そうした走行状況によってサスペンションの減衰特性がアクティブに変化しますね。
「走る・曲がる・止まる」がすべて連動するシステムだけに、これの作り込みは大変だったのではないでしょうか?

興梠

様々なデバイスが連動するシステムなので、困難な開発になることは予想していました。しかし、私たちが目指したのは「より多くのシチュエーションでライダーとマシンとの一体感が楽しめる性能」を実現すること。「純粋に思いのままに操ることの楽しさと快感」を表現すること。そのためには、軽量化による慣性モーメントの低減と並んで、アクティブに車体姿勢をコントロールする電子制御サスペンションはぜひ採り入れたいと考えました。 新世代のCBR1000RRとして、ぜひこのタイミングでチャレンジすべきだと。

宮城

これまで磨き上げてきた「CBR-RR」の魅力に電子制御という武器が加わる。確かに、新しいデバイスを採り入れるには、またとないいい機会ですね。

興梠

システムのハード部分については他のモデルに搭載されているものと多くの共通点がありますが、その制御に関してはサスペンションメーカーのÖHLINSとの共同開発で最新世代の制御技術を採用しています。その大きな特徴の一つがOBTiです。これにより「減速・旋回・加速」などの制御の設定をメーターを見ながら簡単に変更することができます。その上で私たちが特にこだわり、力を入れたのは各制御デバイスと連動した各種サスペンションモード設定をあらかじめ作りあげるということでした。

岩谷

私もサーキットを走行しレースにも参戦しているのですが、サスペンションのどこをどのように調整したら、どのように挙動が変わるのか……というのを完全に理解するのは本当に難しい。サーキットで走ってはピットインして、工具を使って調整し……を繰り返し、試行錯誤しながらちょっとずつ理解するのがやっとです。どのライダーも自分好みのセッティングを出すために日頃苦労を重ねているのではないかと思います。でも、CBR1000RRならこうした作業も工具不要。スイッチひとつでセッティングを変更できれば、ライディングの幅が大きく広がりますよね。

◆ÖHLINS Smart ECシステムサスペンションメーカーのÖHLINS(オーリンズ)と共同開発。車載された各制御ユニットからの車体情報をサスペンションコントロールユニットが受け取ることでライディングの状況を常に判断。前後サスペンションの減衰特性を走行状況にあわせて可変する。

◆OBTi…Öhlins Object Based Tuning interfaceシチュエーション・目的に沿ったサスペンションの調整が可能なÖHLINS Smart ECのセッティングシステム。CBR1000RR SP/SP2に搭載。

宮城

サスペンションのセッティングは、きちんとした手順を踏まないと自分に適したものを見つけられないですし、ノウハウも必要。バイクを楽しむ上でもかなりハードルの高い部分です。
あれこれと自己流で設定を変更した結果、当初の目的とは逆に非常に乗りにくいセッティングになってしまった……というライダーも多いかもしれません。そう考えると、イージーに設定を変更できるこのシステムは、多くのライダーにとって非常にありがたいものになりますね。

興梠

サーキットを速く走るのに適したモード、ワインディングを楽しく走るのに適したモード、街中や難しい路面コンディションで安心して走るのに適したモード……。レース界でトップレベルの技術を誇るÖHLINSのエンジニアと一緒に、熊本、栃木、北海道のテストコースでテスト走行を繰り返し、さらにヨーロッパの一般公道から各国のサーキットまで、あらゆるシーンでさらなる調整を加えてきました。ライダーが出会うであろう様々なシチュエーションを想定しながら仕様を突き詰めるということに力を注ぎました。

山本

路面の悪いところに来てしまったとか、その状態で急に雨が降ってきたとか、公道を走るというのは、ある意味でサーキットよりもシビアです。だからこそ、「走りながらでも簡単にモードを切り替えられる」ことにこだわりましたし、ずっと公道を本籍としてきたCBR-RRならではの、本当にあらゆる状況で操ることを楽しめるキャラクターを作りあげることができたと考えています。

テクノロジーHondaフラッグシップスポーツの哲学

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