CBR1000RR エンジニアトーク 初代「Fireblade」から貫かれるHondaフラッグシップスポーツの哲学

CBR1000RRが目指したのは
「おまかせで速く走れる」電子制御ではない

宮城

ではいよいよ、今回の新型CBR1000RRの最大のトピックである「電子制御」のことを伺いましょう。
スーパースポーツ専用ABS、電子制御サスペンション、スロットルバイワイヤ、エンジンマッピングの変更、セレクタブルトルクコントロール、クイックシフター……Hondaが満を持してこのクラスに採用した電子制御として、いま考え得る機能を、全て盛り込んできたな、という印象を持ちました。
一方で、欧州勢を中心とした競合モデルには、先行してこうした機能が搭載されてきたのも事実。
本当に自分たちが納得のいくものができるまで、じっくりと作り込むというのはHondaのポリシーだというのはよく知っていますし、そのために時間をかけたのだと想像していますが、ライダーとしてはそのぶん「Hondaならでは」の思想を期待したくなります。それは、どういったものなのでしょうか。

細川

大前提として、主役がライダーである、というものがあります。
CBR-RRが目指したのは、扱いやすくて、より多くの方に楽しんでいただけるスーパースポーツ。けれど、「誰でもスロットルを開けていれば速く走れる」という「甘やかしてくれるバイク」「おまかせで速いバイク」ではありません。
バイク乗りとして「バイクに操られる」というのはご免ですし、そういう感覚をライダーに与えたくないと考えました。

佐藤

スポーツはうまくいったのか、失敗したのかがわからないと次のステージには行けません。不用意な操作をしてしまったとき、リカバリーを助けてくれる。場合によってはミスしたことを気づかせてくれる。目指したのは、あくまでもライダーが主役となれる制御ですね。

宮城

以前、MotoGPマシンの「RC-V」のことについてお話を伺っていたときに「Hondaが目指す電子制御は『ライディングエイド』ではなく『ライダーズエイド』だ」という言葉を聞いて、それがずっと心に残っていました。電子制御によってバイクを速くするのではなく、電子制御によってライダーをサポートし、結果として速く走れるようにすると。まさしくそのコンセプトを継承していますね。
たとえば、初級から上級までのライダーが乗って、どういうシーンでどんな感覚が得られるでしょうか。まず、一般的なライダーの視点から。佐藤さん、いかがでしょうか。

佐藤

実は、最終モデルのNSR250Rを愛車にしているんです。

宮城

ほう。これはまた結構スパルタンなものにお乗りですね(笑)。あれは一時代築いたバイクでしたね。

佐藤

はい。NSR250Rは私にとってのひとつの理想なんです。ある意味では「ただものではないな」という手強さも感じるけれど、軽いからすべてが手の内にあって、自在に操れるという自信を与えてくれる──1000ccという大排気量モデルでありながら、NSR250Rを操るような感覚で積極的に走らせられるのが、電子制御を採用した今回のCBR1000RRだと考えています。これは、徹底的に軽量化したのに加え、「どこかでバイクが見守ってくれている」という心強さがあるからなんだと思います。

宮城

なるほど。マージンが増えることで、自信を持ってバイクを操っていけるわけですね。細川さんはどうでしょうか。

細川

初級のライダーが中級にステップアップするのにも、役割を果たせると考えています。佐藤が言ったように「常に見守ってくれている」という安心感があるから、たとえば、走行会に参加したときなどに、「もうちょっと攻めてみようか」「自分より速いライダーについていってみようか」という気持ちになれると思います。
上級者は、自分のライディングスタイルに合わせて各種のデバイスをカスタマイズしながら、理想の走りを追求する……という楽しみ方もしていただけます。サーキットでスリックタイヤを履かせて走るようなシーンを考慮したセッティングも設定していますし、誰もが、それぞれのレベルでバイクの持つパフォーマンスを引き出して楽しめるんです。

佐藤

ライダーといっしょに、バイクも成長していくような感覚。ステップアップした先に、新たな発見が待っている。他のスーパースポーツでは味わえない、そんな新しい楽しみ方をしていただけるのではないかと思っています。

宮城

確かにCBR-RRとして新しいアイテムを手に入れて、新時代に足を踏み出した。けれど、随所に初代「CBR900RR」の原点回帰とも思える思想が見え隠れするのが、私はすごくうれしく感じました。
操ることを誰もが楽しめるようにしたい。そして、サーキットで計測できる「タイム」だけではなく、ライダーが何を感じられるのか、という点に立脚しながらオートバイづくりをしているというのが、やはり「CBR-RR」の変わらぬコンセプトというわけですね。

後編に続く

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