概要
ステアフィール、コーナリング限界性能、直進安定性。ニュルブルクリンクにおけるFFモデル最速※を実現した「デュアルアクシス・ストラット・サスペンション」
FF車のフロントサスペンションは、駆動輪を支えながら転舵の役割も担っています。高トルクエンジンのFF車は、ドライバーの意図しない旋回力"トルクステア" が発生しやすく、また、従来のストラット・サスペンションでは、コーナリング時にタイヤの接地性が確保しにくいという課題がありました。Hondaのデュアルアクシス・ストラット・サスペンションは、それまでのストラット・サスペンションで一体だったナックルとダンパーを分離し、転舵軸に自由度を持たせることでこれらの課題をクリアしました。
トルクステア
高トルクエンジンのFF車は、なぜトルクステアが発生するのか
高トルクエンジンのFF車ゆえに発生するトルクステアは、操舵する意図がないにもかかわらず、クルマが曲がろうとする現象のことで、コーナリング加速時に多く発生します。
幅広タイヤを装着するストラット・サスペンションのFF車の場合、エンジントルクの入力点であるホイールセンターと転舵軸の距離(センターオフセット量)が長いため、転舵軸を中心に、急激なトルクによって、タイヤが向きを変えようとする力(トルクステア)が発生してしまいます。その結果、急発進時などでハンドルが取られてしまいます。従来のストラット・サスペンションでは構造上センターオフセット量は縮めにくく、長年の課題でもありました。
ダンパーフォークを追加してセンターオフセット量を大幅に短縮
サーキット走行における高Gコーナリング等では、路面に伝わる駆動力に左右差が生じると、転舵軸まわりの力の釣り合いが崩れることによって、トルクステアが生じてしまいます。この挙動はニュルブルクリンクのFFモデル最速を目指すテストドライバーに不安感を与えるため、トルクステアの低減が強く求められました。そこでHondaは、ダンパーフォークを追加することで、それまで一体で転舵させていたナックルとダンパーを独立して動作できるようにしました。これにより転舵軸の設定自由度は大幅に向上し、転舵軸をホイールセンターにより近づけることで、トルクステアの原因のひとつだったセンターオフセット量を大幅に短縮することができたのです。
トルクステアが大幅に低減した結果、卓越した操縦安定性を実現
その結果、急発進時や急加速時に発生していたトルクステアを大幅に低減させ、さらにコーナリング出口などの旋回中加速でも、すぐれた操縦安定性とステアフィールをもたらす卓越したハンドリング性能を獲得しました。
接地性
高速コーナリング時に損なわれる従来のストラット・サスペンションの接地性能
コーナリング時、クルマに大きな遠心力が働くと、ロールによって外輪が外側に倒れこもうとし、タイヤの接地性能が低下してしまいます。これを防ぐためには、サスペンションが沈み込みながら、タイヤを路面に対して垂直に保つようキャンバー(タイヤの倒れ角度)を変化させることが理想です。しかし従来のストラット・サスペンションでは、キャンバーの変化量が少ないため、接地性能の向上には限界がある、という課題を残していました。
ダンパーフォークを追加してキャスター角を最適化
従来のストラット・サスペンションは、構造上、ダンパー軸と転舵軸は同じ後傾角度でした。デュアルアクシス・ストラット・サスペンションは、ダンパーフォークを追加し、その2つの軸を分離独立させたことで、転舵軸の設定自由度が大幅に向上しました。従来より転舵軸を後傾させることで、キャスター角を大きく設定することが可能となったのです。
接地性能向上によりコーナリング限界性能や高速直進安定性が大幅に向上
コーナリング時のキャンバーの変化量を増大させたことで、転舵時のタイヤ接地性が向上し、さらにダンパーの最適な角度設定により、理想的な収れん特性を発揮することが可能となりました。その結果、コーナリングの限界性能を大きく引き上げ、高速域の直進安定性をも大幅に向上することができました。
まとめ
FFモデル最速※1という金字塔に貢献
「トルクステア」と「コーナリング時の接地性能」は、FFスポーツカーのさらなる高い運動性能を開発するうえで長年の課題でした。
これらの課題をクリアした技術がHondaの開発した「デュアルアクシス・ストラット・サスペンション」です。
転舵と車高保持という、2つの仕事それぞれに最適な軸を持たせたことで、トルクステアの低減とコーナリング性能を大きく向上させました。それが「2つの軸(デュアルアクシス)」を持つデュアルアクシス・ストラット・サスペンションの最大の特長です。
シビック TYPE Rの2015年モデル(FK2型)、2017年モデル(FK8型)に搭載され、ドイツのニュルブルクリンクでFFモデル最速※1となるラップタイム※2を記録するうえで大きな役割を果たしました。
※1 Honda調べ。2015年モデルは2015年9月現在、2017年モデルは2017年4月現在。
※2 2015年モデルは7分50秒63(2014年5月測定)、2017年モデルは7分43秒80(2017年4月測定)。
いずれも量産前の開発車両によるHonda測定値。
関連コンテンツ
テクノロジーデュアルアクシスストラットサスペンション