製品 2024.03.08

新型アコードがイメージしたのは、体操でいうと「幅の広い平均台」? e:HEVで世界に打ち出す「Hondaらしさ」とは

新型アコードがイメージしたのは、体操でいうと「幅の広い平均台」? e:HEVで世界に打ち出す「Hondaらしさ」とは

2024年春、新型「ACCORD(アコード)」が日本に登場する。高い環境性能と操る喜びを両立するハイブリッドシステム「e:HEV(イー・エイチ・イーブイ)」にさらなる磨きをかけ、「セダン」の新たな価値を世に問うモデルとなっている。Hondaを代表するモデルのひとつであるACCORDと、その心臓部のe:HEV。それぞれの開発責任者に、そのプレッシャーや、開発にかける想いなどについて話を聞きました。

横山 尚希(よこやま なおき)

新型ACCORD 開発責任者
横山 尚希(よこやま なおき)

エンジン吸気部品設計の担当などを経て、2013年に9代目 ACCORDでHonda初のストイキ直噴システム開発を担当。2018年、11代目 ACCORD エンジン設計プロジェクトリーダー。2023年に11代目 の新型ACCORD開発責任者に就任。

佐々木 貴啓(ささき たかひろ)

e:HEV 開発責任者
佐々木 貴啓(ささき たかひろ)

数多くの実車環境機能担当などを経て、2013年に第2世代HEV用2.0L エンジン開発 実車プロジェクトリーダーに。2019年、第4世代 中型e:HEV 環境機能の取りまとめを担当。2022年にe:HEV開発責任者に就任。

イメージは「体操競技の平均台」? 目指したのは、ゆとりと懐の深さがあるクルマ

――ACCORD開発責任者の横山さん、e:HEV開発責任者の佐々木さん。まずは開発責任者にアサインされた際の想いを聞かせてください。

横山

最初は正直、プレッシャーでしかなかったです(笑)。ACCORDといえばHondaを代表するモデルのひとつであり、失敗が許されない重要なポジションにあるモデルですから。それを任せてもらうのはとても名誉である反面、やはり緊張感もありましたが、何よりも買っていただいたお客様に「買ってよかった!」と思っていただけるクルマを届けたい想いが強かったです。

佐々木

私の場合は、Honda独創のハイブリッドシステム「e:HEV」の前身である「SPORT HYBRID(スポーツ ハイブリッド) i-MMD(※)」の開発がスタートしたときからチームに参加してきましたし、立ち上げ時の苦労やさまざまな開発を経て、このハイブリッドシステムが今ようやくこの次元に到達する、それまでの過程をずっと見てきたんです。ですから、プレッシャーはもちろんありましたが、それよりもこれまでをともにした開発メンバーたちと楽しみながら進めていきたいという気持ちのほうが強かったです。

※Intelligent Multi‐Mode Drive:インテリジェント・マルチモード・ドライブの略

燃費性能の高さだけでなく、Hondaらしい「上質で爽快な走り」を強く意識して開発された新型ACCORD
左から、e:HEV 開発責任者の佐々木貴啓と、新型ACCORD 開発責任者の横山尚希 左から、e:HEV 開発責任者の佐々木貴啓と、新型ACCORD 開発責任者の横山尚希

――新型ACCORDを開発するうえで、具体的にはどのようなクルマをつくろうとイメージされていたのでしょうか?

横山

開発のはじまりは、純粋に「いいクルマをつくりたい」という素直な想いでした。そこから、「ACCORD」にふさわしい「いいクルマ」とは何だろうと掘り下げていった結果、普段使いするなかで「ゆとり」や「懐の深さ」を感じられるクルマにいきつきました。例えば、通勤やレジャーで快適に移動できるだけではなく、気持ちが整ったり、考えがクリアになったり、そういった体験ができると「いいクルマだな」「このクルマを選んでよかったな」と感じてもらえると考えたんです。いつもの移動の時間でさえもお客様の活力になって、目的地での行動をより充実したものにしてくれる、そんな「いいクルマ」を目指しました。もう少し具体的に例えると……、「平均台」ってあるじゃないですか?

――あの体操競技の平均台でしょうか?

横山

はい。私たち開発チームは「幅の広い平均台」をイメージしながらコンセプトに落とし込み、開発のベクトルを揃えていきました。一般的な平均台って幅10センチしかないんですよね。そこで演技ができるのは限られた人で、ほとんどの人は落ちてしまいます。もしその幅がもっと広ければ、より多くの人たちがその上で安心感持って自由に演技ができるようになると思いませんか?

クルマも同じだと思うんです。運転している間、クルマに搭載された制御がドライバーの運転を自然にサポートしてくれると、ドライバーは安心して運転でき、気持ちを整えることができると思うんです。ひとりでも多くのお客様にとって、そんな懐の深さがある、「相棒」のようなクルマを目指しました。また、Hondaの技術力を国内外にアピールする使命もACCORDは担っていると思っています。運転を通じて、お客様に性能進化やHondaの技術力をしっかり伝えたいと考えていました。

スポーツe:HEVで追求した「操る喜び」「上質で爽快な走り」

――新型ACCORDが「スポーツe:HEV」という言葉を用いて、「操る喜び」「走る楽しさ」に特化した打ち出し方をしていますね。e:HEVがそうした価値を追求するに至ったきっかけはなんだったのでしょうか?

佐々木

きっかけは、走りに対する市場の評価でした。2モーターのハイブリッドシステムは、2013年の先々代ACCORDから導入され、高い環境性能とともに、走りにおいては素早いレスポンス、低速域での高い静粛性が強みでした。しかし、強い加速を要求されると、エンジン回転数が吹け上がることで静粛性に影響してしまう。このようなシーンだけを取り上げられてしまうと、それが走行性能全体に対する評価として影響してしまい、開発チームとしては非常に悔しい思いをしていました。

そこから、「しっかりと走りの価値を認めてもらいたい」という強い想いのもと、e:HEVの強みである静粛性に磨きをかけながら、加速するときは感性を刺激する爽快な走りも目指す、「上質・爽快の走り」のコンセプトが生まれました。このコンセプトに沿って、高効率領域を拡大したエンジンと大出力ジェネレーターのシナジーにより、強い加速時にも燃費悪化を抑えながら、リズミカルな爽快オペレーションを実現するパワートレインに刷新しました。

さらに、骨格変更によるギアレシオの最適化とバッテリーアシストの強化により、エンジン直結領域を拡大することで静粛性がさらに強化され、ようやく我々が追い求めていた「操る喜び」を実現するパワートレインができたと感じています。

左側は旧来型のe:HEVで、右側が新型ACCORDに搭載する最新のe:HEV。従来の構造では難しかったギアレシオの最適化が可能に。また、新しいジェネレータによって、直噴エンジンのポテンシャルを最大限に引き出している 左側は旧来型のe:HEVで、右側が新型ACCORDに搭載する最新のe:HEV。従来の構造では難しかったギアレシオの最適化が可能に。また、新しいジェネレータによって、直噴エンジンのポテンシャルを最大限に引き出している

――お二人のお話をうかがっていると、お互いに認識やビジョンをすり合わせながら開発に励んできたからこそ、新型ACCORDの誕生につながったと感じます。お互いが担当されている領域の仕事について、どのように見ていますか?

横山

私もパワーユニット開発出身なので、その開発の楽しさも難しさもよく知っているつもりです。パワートレインの開発はいろんな制約があると思いますが、アイデアがあれば制御の可能性は無限大だとも思うんです。クルマの心臓部ともいえるパワートレインの領域で、Hondaらしさを追求し、Hondaの未来を担っていく商品に欠かせないものを提供する。その一連のなかで、新型ACCORDにとってベストなパワートレインをともに仕上げていけると信じていました。

――佐々木さんはいかがでしょうか?

佐々木

機種の開発責任者は、さまざまな技術や素材をうまく調理してクルマ1台をつくりあげるとても難しい立場で、機能開発とはまた異なる視点での仕事が求められます。その点、横山さんはビジョンが明確で、それを開発メンバーに分かりやすく伝え、開発のベクトルを合わせることをとても重視されていたので、機能側からいろいろと提案しやすかったことが、結果的に新型ACCORDの誕生につながったと思います。

北米で先行販売。気になる海外の反応は?

――日本に先駆け、すでに発売開始している北米での評判はいかがでしょうか?

横山

走行性能については、先代や競合に対してもしっかりとアドバンテージを感じられると、現地のジャーナリストやお客様から高評価をいただいています。セールスについては、CAFE(※)規制のため、北米でのハイブリッドの販売比率を50%にするという目標が定められ、ACCORDは重要な役割を担っていました。この目標は先代モデルの販売実績比率からするとかなりチャレンジングではありましたが、目標を達成することができました。それだけ強いパワートレインを開発できた証明でもあると思っています。

※CAFE:企業平均燃費値(Corporate Average Fuel Economyの略)

2024年春に発売される日本仕様の新型ACCORD 2024年春に発売される日本仕様の新型ACCORD
今回、日本で発売される新型ACCORDには、北米の仕様に入っていなかったADAS(安全運転支援システム)の「Honda SENSING 360」や、バイザーレスメーター、エクスペリエンスセレクションダイヤルなどを搭載。加えて、Googleも搭載しており、これらを組み合わせて装備できているのは日本仕様のみ。 今回、日本で発売される新型ACCORDには、北米の仕様に入っていなかったADAS(安全運転支援システム)の「Honda SENSING 360」や、バイザーレスメーター、エクスペリエンスセレクションダイヤルなどを搭載。加えて、Googleも搭載しており、これらを組み合わせて装備できているのは日本仕様のみ。

――最後に、お二人それぞれが叶えたい「夢」について教えてください。

佐々木

ハイブリッド技術は、もともと燃費向上を目指して生まれたものであって、初期のハイブリッド車では燃費が良くても、走りには我慢が必要なシーンもありました。しかし、新型ACCORDではエンジン、ドライブユニット、バッテリーなどのハードを刷新し、それを最大限に活用する制御技術の進化により、燃費を悪化させずに上質で爽快な走りを実現できました。この燃費と走りの両立は、まさしくハイブリッド車でしか実現できないものであり、高い競争力を持つパワートレインに仕上がったと自負しています。

自分が理想とするパワートレインを実現させたいと夢見てきましたが、やっとその夢が叶いました。次はこの技術をさらに進化させ、クリーンで環境性能が高く、エンジンを搭載したハイブリッドならではの「操る喜び」を具現化したe:HEVと、BEV / FCVと切磋琢磨することで、お客様への選択肢を増やし、世界中にHondaユーザーを広げていきたいですね。マルチパスウェイ(※)で魅力的なモビリティを提供し続けることで、お客様の移動の制約を解消し、新しい場所での体験を豊かにしていきたいです。その結果、みんなが笑顔になることで、私の仕事もとても価値あるものになると信じています。今後も手を抜くことなく、時代に合った提供価値を常に最大化させていきたいですね。

※マルチパスウェイ:最もエネルギー効率が高くなるよう、全方位で技術の可能性を模索し、複数の経路でカーボンフリー社会を目指すという考え方

横山

大学時代、私はエンジンの研究をしていました。その頃の「燃焼のさせ方から変えて環境負荷を低減させたい!」という想いから、「エンジンといえばHonda」と考え、入社しました。入社後は環境性能を向上させるHonda初の直噴システムの開発を担当でき、私の一つ目の夢を達成できました。その後は、環境性能をしっかりと抑えながらも「運転することが楽しくて、気持ちいい」と思えるクルマをつくりたいと考えるようになり、今回の新型ACCORDの開発で、二つ目の夢が叶ったと実感しています。

そして、自分自身が少しずつ変わってきたと感じているのは、エンジンが大好きでHondaに入社したけれど、パワートレインは正直なんでもいいんじゃないかと思えるようになってきたことです。大切なのはそのクルマが「Hondaらしいか」ということ。環境性能を追求しながらも楽しく、気持ちよく、新しい世界感を提供できる、そういったモビリティを企画・開発することが次の私の夢です。それがお客様に喜んでもらえたら最高ですね。

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