第Ⅲ章
独創の技術・製品

第2節 四輪車 第6項 ハイブリッド・システム

第2節 四輪車 
第6項 ハイブリッド・
システム

世界最高効率を
めざした低燃費の
追求

エンジンとモーターという2つの動力を用いて走行するハイブリッドカー。
その目的は、燃料の消費をできる限り抑え、いかにCO2の排出量を減らすかにある。
しかしハイブリッド・システムの手法はさまざま。無数にあるともいえる。
つまり低燃費という絶対的な目的に対して、システムの仕様に絶対的な正解はない。
だからこそ、エンジンとモーターをどう組み合わせ、使い分けるかは、つくり手の意思によって決まる。
高い目標を掲げ、自分たちが信じて挑んだシステムを、必ず実現すること。それが最善の答えとなる。
約四半世紀にわたって進化を続けてきたホンダのハイブリッドシステム。
その開発の軌跡をたどる。

「環境性能」と「走る喜び」を求めて

 2019年10月23日、ホンダは二輪車・四輪車の電動モビリティー製品やエネルギーマネジメント技術を含む独自の高効率電動化技術の新たな総称「Honda e:TECHNOLOGY」を発表した。カーボンニュートラル社会の実現に向けて、新たな一歩を踏み出す意思表明でもあった。
 その中で四輪車においては、新たな時代のハイブリッド・システムとしてモーター走行を主体とした2モーターハイブリッドを電動化のコア技術とし、そのコミュニケーション名称を「e:HEV」とすることを明らかにした。これは、それまで約四半世紀にわたり展開してきたホンダのハイブリッドシステムの進化・熟成と、今後の方向性を示すものであった。
 ホンダは、世界規模で地球温暖化対策の議論が活発になり始めた1990年代初頭には、電動化のさまざまな研究をすでに始めていた。電気エネルギーを利用するクルマとしてすぐに思い浮かぶ電気自動車(以下、EV)、水素を利用しクルマ自らが発電しながら走行する燃料電池自動車(以下、FCV)、そしてガソリン車とEVの「いいとこ取り」を狙うハイブリッドカーであった。
 温室効果ガスで最も人為的な起因となるのがCO2である。クルマが排出するCO2をなくすにはEVやFCVが最善ではあるが、電気単独での走行はモーターやバッテリーなどさまざまな電動化技術が発展途上だった。そこで、電動化されたクルマを広く普及させていくためにも、ハイブリッドカーを量産化することでCO2の排出量を可能な限り減らしていくことが最良と考えられた。
 CO2排出量の低減。そのためには、徹底的な低燃費化が必要である。ガソリン使用量が少なくなれば、環境負荷が軽減され、同時にユーザーにとっても経済的メリットに直結する。だが、ホンダ車である以上、低燃費だけでなく、走る喜びが高次元で実現されなければならない。そのための、世界最高の技術を実現してこそ、お客様に新たな価値を提供できると、研究・開発に携わる技術者たちは信じていた。
 ホンダのハイブリッドシステムの歴史は、ホンダらしい独自の道のりをたどることとなる。

世界最高*1燃費35km/L*2の実現と、その裏で

 1996年、初代インサイトの開発が始まった。
 チームに与えられた開発目標は「世界最高の低燃費車をつくること」。具体的な数値としては、どこの量産車も成し得ていない「35km/Lを達成せよ」であった。
 インサイトの開発に先立ち、パワーユニットの先行開発はすでに進んでいた。数あるハイブリッド方式の中でホンダがまず着手したのが、後にIMA(インテグレーテッド・モーター・アシスト)と名付けられるシステムであった。エンジンを主動力として走行しながら、発進・加速時など必要に応じてモーターがエンジンをアシストするシステムで、それまで突き詰めてきたエンジンの低燃費技術をフルに生かしながら、1つのモーターと比較的小容量のバッテリーで軽量・コンパクトにつくることができ、生産コストも抑えられた。しかもモーターアシストは、まるでガソリンエンジンのターボのような力強い加速をもたらし、低燃費と爽快な走りを両立することができた。だが、IMAに頼るだけでは、目標達成には至らなかった。
 燃費世界一という目標が達成できなければ、このクルマは存在価値がないというきわめて過酷な要件を前に、インサイトのプロジェクトは進んでいった。少しでも燃費の向上につながる要素があれば、躊躇なく採り入れられた。
 ボディーデザインは、まずは空力ありきという考えのもと、Cd値(空気抵抗係数)を量産車では類を見ないレベルまで突き詰めていった。車体の軽量化については、すでにNSXで実現していたアルミボディーの技術をさらに進化させた「新骨格軽量アルミボディー」を完成。さらに、欧米の燃費審査基準を見越して設定された車両重量820kgは、絶対にクリアしなければならない数値だったため、すべての部品が軽量化の対象となった。

Cd値を突き詰め開発された「新骨格軽量アルミボディー」

Cd値を突き詰め開発された「新骨格軽量アルミボディー」

インサイトに搭載されたIMAはパラレル方式を採用プリウスはシリーズパラレル方式であった インサイトに搭載されたIMAはパラレル方式を採用
プリウスはシリーズパラレル方式であった

 開発を進めていく中で、1997年に最大の誤算が起きた。トヨタ自動車(株)(以下、トヨタ)が一足先に量産ハイブリッドカー、プリウスを発表したのだ。開発者たちは誰もが「やられた」と口にした。当時の首脳陣も「あれこそホンダが最初に出さねばならなかった」と述懐するほど、後れを取ったことを悔やんだ。
 プリウスのハイブリッド・システムは、発進・低速時はモーター主体、速度が上がるとエンジンとモーターを併用するもので、エンジンとモーターの特性を生かし工夫されたシステムだった。しかし、インサイトとは基本的な考え方が違うものであり、自分たちが取り組んでいる技術の独創性に自信が持てることが分かると、開発は加速していった。燃費は、勝てる。
 1999年11月、ホンダ独自のハイブリッド・システムIMAを搭載した初代インサイトが発売された。世界最高燃費35km/L、卓越した空力性能、車重820kg*3を達成したアルミボディー。ホンダ独自のハイブリッドカーに、世界が注目した。
 ホンダはハイブリッドカーをスピーディーに展開していくうえで、まずは小型車から開発を始め、なおかつ既存の機種にも搭載可能なシステムを考慮し、軽量・コンパクトでエンジンとの親和性も高い1モーターのパラレル方式によるIMAを完成させた。しかしこれは、1つの答えでしかない。
 研究所では近い将来を見据え、さまざまな機種への展開や電動化の基礎技術となり得る、「理想のハイブリッド・システム」について、次の進化に向けた検討が進んでいた。

  • :1999年当時。ホンダ調べ
  • :燃料消費率35.0km/L(10・15モード走行) 5速MT車
  • :5速MT車
初代インサイト

初代インサイト

IMA(ECA型)

IMA(ECA型)

初代インサイト 走行動画

進化の理想は2モーター
しかし電動化技術が追いつかない

ハイブリッドカーとして理想的な走りを定性的に導き出した ハイブリッドカーとして理想的な走りを
定性的に導き出した

 ハイブリッドカーとしての進化を目指すうえで、理想の走りとは何か。検討を重ねた結果、モーターだけの走行・エンジンで発電しながらのモーター走行・エンジン走行、この3つの走りを自由に切り替えられるシステムが、理論的には最も効率が良いという結論が導き出された。そして、それを実現するシステムを考え出すことが、次なるハイブリッド・システム開発の初期目標となっていった。
 「すでにインサイトを開発していた時から、理想の走りについてのイメージは定性的にでき上がっていました」と、ハイブリッドカーの開発に長年携わってきた、仁木学(当時、本田技術研究所四輪R&Dセンター 主任研究員)は話す。
 ハイブリッド・システムを構成する要素の組み合わせはさまざま考えられる。モーターの数・エンジンの排気量・トランスミッションの形式・バッテリーの容量などの組み合わせから、世界一の燃費効率を実現でき、なおかつ走りが良いものとは何か。当初の選択は、エンジン・CVT(無段変速機)と、発電用モーター・走行用モーターを組み合わせたシリーズパラレル方式だった。
 「このシステムだと、EV走行(電気のみによる走行)もできるし、エンジンで発電しながらモーター走行もできるし、エンジンだけでも効率良く走ることができます。1999年には実証実験機も当時の小型車ロゴでつくりました。モード切り替えが自由に選択できるので、実際にとても良い燃費が達成でき、走りも良いものでした」(仁木)
 しかしこの段階では、クルマのパッケージングとして成立するものではなかった。モーターの発電効率をさらに高めながら、システム全体をコンパクトにしなければならなかった。

「全部取ってしまえ」
世界最高効率*4へのブレイクスルー

 IMAはインサイト発売後、世界で称賛され、多数の賞を獲得していた。2001年、シビックの既存モデルに搭載されたシビックハイブリッドが誕生。2005年、シビックのフルモデルチェンジの際にはハイブリッド車も同時に発表された。2004年にはV6エンジンと組み合わせてアコード(米国仕様)に搭載。その後も小型車を中心にIMA搭載車の展開を広げていった。
 その一方で、開発チームは2モーターシステムのコンパクト化に腐心していた。ハイブリッドカーのパワーユニットとしては、発電用と駆動用の2モーターシステムの方が原理的には効率が良く、モーターのサイズを大きくすれば出力は上がるが、搭載が難しくなる。システム全体を小型化しながら2つのモーターで低燃費化するには、発電用モーターから走行用モーターまでの電気伝達効率を向上させるため個々のモーターやインバーターの効率を徹底的に高めることがカギであった。
 2005年、2モーター方式の先行研究が正式にスタートすることになった。これを機に、懸念されていたチームのあり方も見直された。開発現場には、電気系とメカ系に分かれた組織では目標達成は難しいという強い危機感があった。そこで、部門を統合し、AHR(Advanced Hybrid Research)が組織された。
 エンジン・トランスミッション・モーターそれぞれに分かれていた組織の壁を取り払ったハイブリッドチームの研究体制が整った。やるからには、世界最高のシステムでなければならないとの思いを、互いに改めて共有した。目標は、当時の競合他社のハイブリッド・システムに燃費で勝てる、電気伝達効率85%と定められた。電気系もメカ系もそれぞれの数値成果を持ち寄り、掛け合わせていく。その繰り返しの日々が続いた。
 しかし、うまくいかない。モーターの効率を上げるのはもちろんだが、最大の課題はコンパクト化だった。CVTが収まるトランスミッションケースに2つのモーターを搭載することが、難題となっていた。
 この課題解決を目指し、技術的な検討や議論を重ねた結果、ブレイクスルーが起きた。
 「シンプルに、モーター以外は全部取ってしまえ」
 それは、CVTをなくし、エンジン走行時は直結クラッチで駆動させ、あとは2つのモーターだけというシンプルな構造にすることを意味した。
 ホンダ独自のシリーズパラレル方式は、高速クルーズ走行時はエンジン走行モードに切り替わる。これはエンジン出力を発電に回すより、駆動力に直接使う方が燃費に有利になるからだ。それならば、CVTのようなプーリーとベルトではなく、マニュアルトランスミッションのトップギアに相当するギアとエンジン直結クラッチを設ければ、エンジン出力を効率良くタイヤに伝達できる。
 「なぜ最初からここに至らなかったのか。それは、電気伝達効率が悪くて燃費性能は出にくいだろう、モーターは大きくて搭載も難しく限られた使い道しかないのではないか、といったシリーズハイブリッドに対する先入観があったからです。構造を見直す視点が必要でした」(仁木)

シリーズパラレル方式の構造を見直すことで、CVTを取り外すというブレイクスルーが起きた シリーズパラレル方式の構造を見直すことで、
CVTを取り外すというブレイクスルーが起きた

 実現に向けて、開発チームの視界が一気に開けた。2009年3月、2モーター式ハイブリッドシステムは、研究段階から量産開発段階へ移行した。そして開発目標は、「世界最高効率」と定められた。経営陣に宣言をし、高い目標を掲げることで、一人ひとりのモチベーションはさらに高まっていった。
 「AHRという組織ができなかったら、実現につながる成果はなかったと思います。全員が部門の壁を越えて同じ現場・現物・現実を知り、同じ思いで問題に取り組まなければ目標達成は絶対に不可能でした。個々を尊重し、信頼して研究を続けた結果です」(仁木)

  • :パワートレーン(PT)効率を世界最高にするという目標
    PT効率(%)=車両走行エネルギー(Wh)÷消費燃料エネルギー(Wh)

アコードで30km/L*5の低燃費を達成した
2モーター式のi-MMD

 ホンダのハイブリッドカー戦略は、あらゆるクラスに対応した多車種展開を可能とすること。IMA搭載車は、お客様にそれまでのエンジン車から違和感なく乗っていただけるハイブリッドカーとして評価され、2012年10月には世界約50カ国、累計100万台を達成するまでに成長していたが、低燃費システムとしてより効率に優れたシステムを確立する必要があった。
 当時、2モーターシステムの開発責任者を務めていた島田裕央(当時、本田技術研究所四輪R&Dセンター 主任研究員)はこう話していた。
 「ホンダはIMAでハイブリッドの普及を進めてきました。シンプルなシステム構成と低価格で実現できる1モーターハイブリッドとして、重要な役割を果たしています。私たちとしては、この経験を生かし、将来にわたって優位性を維持したい、ハイブリッドとして突き抜けたいと考え、たどり着いたのがこの2モーターシステムなのです」
 開発のゴールは、2013年発売のアコードへの搭載と決まった。技術者たちはお互いの開発領域で高効率を競い合った。
 「2モーターシステムでは、電気で走行する場合に、発電用モーターとそのインバーター、走行用モーターとそのインバーターの効率が『掛け算』で効いてきます。例えば、それぞれの効率が93%くらいと非常に高くても、全部掛け合わせるとあっという間に70%台に落ちてしまう。それだけに、各自が目標とする効率を極限まで高くする必要がありました」(当時、本田技術研究所四輪R&Dセンター 第5技術開発室 村田雅史)
 「世界最高効率という高いモチベーションが、チーム一人ひとりの力を引き上げていきましたね」(仁木)
 長きにわたる取り組みの末、アコードへの搭載を可能にしたハイブリッドシステムi-MMDが完成した。発電効率、充放電効率、モーター効率、回生効率など、電動デバイスの効率を徹底的に高めたモーター主体のシステムとして成立させ、新開発の2.0LアトキンソンサイクルDOHC i-VTECエンジンと組み合わせることで、30km/Lというアッパーミドルセダンとして圧倒的な低燃費となめらかで力強いドライブフィールを実現した。
 仁木は、実現を成し得たチームの力を振り返った。
 「技術に関しては、いいものはいい、ダメなものはダメ、と上下関係なく言い合っていましたね。個々がぶつかり合いながらも同じ目標に向かっている。一人ひとりがアイデアを出し合い、違う考えを聞く。一人では力が発揮できなくても、チームとして能力を束ねれば、最大限の力が生まれます」

  • :燃料消費率30.0km/L(JC08モード走行) アコードハイブリッド
i-MMDを搭載したアコード

i-MMDを搭載したアコード

モーター式ハイブリッド・システムi-MM

2モーター式ハイブリッド・システムi-MMD

2モーター式ハイブリッド・システムi-MMD構造図

2モーター式ハイブリッド・システムi-MMD構造図

さらに進化させたi-MMDを主軸にハイブリッド・
システムを2モーター式に集約し、e:HEVへ

 アコードの開発にめどが立った2012年、ホンダは3タイプのハイブリッド・システムを同時に発表した。2モーター式のみならずハイブリッド・システムの可能性を追求し、同時に研究・開発を続けてきた成果であった。
 IMAを進化させ、小型車に最適な1モーター式の軽量コンパクトなSPORT HYBRID i-DCD(Intelligent Dual Clutch Drive)、アコードに搭載される中型車に最適な2モーター式のSPORT HYBRID i-MMD(Intelligent Multi Mode Drive)、そしてV6エンジンと3モーターを組み合わせた大型車に最適なSPORT HYBRID SH-AWD(Super Handling All-Wheel Drive)である。

SPORT HYBRID i-DCD

SPORT HYBRID i-DCD

SPORT HYBRID i-MMD

SPORT HYBRID i-MMD

SPORT HYBRID i-MMD

SPORT HYBRID SH-AWDを構成するツインモーターユニットと高出力モーター内蔵の7速DCT

 低燃費技術、脱炭素技術にさまざまな角度で取り組み、さまざまな排気量の機種に搭載することで選択肢を増やし、お客様のライフスタイルに合ったハイブリッドカーを提供する、ホンダならではのハイブリッドフォーメーションであった。
 2013年、i-MMDを搭載したアコードが発売された。しかし開発陣は、その手を緩めてはいなかった。アコードのプラットフォームには搭載できたものの、他のミドルクラスの機種に載せることを想定すると、モーターをもっとコンパクトにする必要があった。
 アコードで世に送り出したi-MMDのモーターは、コイルに一般的な丸銅線を使った分布巻きを採用していた。モーターをもっと小さくするには角型断面の銅線を加工して組み上げるセグメントコンダクター巻きを採用することで容積効率を高めることができる。開発チームではこの次の進化を目指したモーターを「世界最高効率」を意味する「HAW(Honda Advanced Winding)モーター」と称して開発を進めていた。

丸銅線を使った分布巻きと角型断面の銅線を加工し組み上げた

丸銅線を使った分布巻きと角型断面の銅線を
加工し組み上げた
セグメントコンダクター巻き比較図

HAWモーター

HAWモーター

 HAWモーターを開発中の2011年の末には、またもやトヨタに驚かされる出来事が生じた。アクアが発売され、そこに搭載されたモーターはHAWモーターの考え方と同じものであり、類似性にチームは愕然とした。検証するとHAWモーターの方がサイズ・スペックともに上回っていることが分かったものの、先行されたことが量産に向けた段階でチームを苦しめる原因となっていった。
 これは構造が似ているため当然、製法も似てくる。そこには特許の壁が立ちはだかったものの、当時の研究所とホンダエンジニアリング株式会社(EG)*6、そして浜松製作所が一体となったチームワークでこれを克服した。まさに苦し紛れの知恵とチームワークで乗り切ったのである。
 開発を担当した貝塚正明(当時、本田技術研究所四輪R&Dセンター 第4技術開発室) は、次のように述べている。
 「大事なのは、世界初、という高い目標を目指すこと。そして、コミュニケーションです。ホンダはやはりコミュニケーションでまわっている。しっかり対話していけば、たくさん協力してくれる。例えば浜松の現場で困っていることがあれば、とことん話す。それならと、こちらの条件を再検討する。そういった柔軟な対話が大切ですね」
 製造段階でのさまざまな工夫や新たな手法の開発によって、HAWモーターの量産が可能となった。従来i-MMDのモーターに対してシステム比23%の小型軽量化と高出力・高トルク化を実現した第2世代のi-MMDは、2016年のオデッセイに搭載された。以降、2017年にステップ ワゴン、2018年にはクラリティPHEV・CR-Vへと展開を広げ、同年のインサイトでは希少資源である重希土を廃したモーターを実現し、さらなる環境負荷低減と安定した生産に寄与している。
 そして2019年10月、ホンダはハイブリッド・システムのフォーメーションを、小型車への搭載も可能となった2モーター方式に集約し、i-MMDからe:HEVへと改名。将来に向けた電動化コア技術として進化に取り組むことを表明した。e:HEVは、2020年1月発売のステップ ワゴンを皮切りに、フィットやアコードへと順次、展開を広げていった。

  • :ホンダの生産競争力を確保するための生産技術の研究・開発の役割を担うために、1974年に本田技研工業生産技術部とホンダ工機を統合し設立。2020年、生産技術の研究開発の一部機能を本田技術研究所へ移管。四輪車生産技術開発・設備製造機能を本田技研工業四輪事業本部に統合し本田技研工業と合併

未来のために、チームの力で世界最高を目指し続ける

 自動車業界は100年に一度の大転換期といわれるように、将来に向かってクルマの電動化はますます進んでいく。エンジンで語られてきた「パワーと燃費」は、電動パワーユニットでは「効率」に置き替わる。ハイブリッド・システムで目指した「世界最高効率」は、間違いなく、確実に、未来につながっている。この軌跡の中で育った技術と、技術者の思いは、未来のホンダ車の礎として息づいていくのである。
 島田はかつてこう語っていた。
 「エンジニアにとって世界一の意味は、自己満足だけではないと思うのです。お客さまにその時点での一番の価値を提供できます。アコードハイブリッドは、このクラスをリードする立場になりました。こうして業界のリーダーになることによって、アコードハイブリッドに追いつけ追い越せと、他者が頑張ってくるわけですよ。その結果、例えばCO2削減の点では、ホンダの販売台数以上の効果が得られるのです。つまり、世界一になれば、より大きなことができる。私たちは、環境に貢献できる仕事や世の中に貢献できる仕事がやりたくてエンジニアになったわけです。そう思うと、これからも進化の手を緩めるわけにはいきませんね」
 苦労に苦労を重ね、ようやく「理想のハイブリッド」をものにした仁木も、これで完成したとは微塵も思っていない。
 「『世界最高』はある日突然でき上がるものではありません。チーム一人ひとりの取り組みが積み上がってできるものです。なかなかうまくいかず、苛立ちながらも、ようやく一歩進みながらチームの力となって具現化されていく。やっとカタチになったと思ったら、まだ先があることに気付くのです」
 技術者たちによって蓄積されたハイブリット・システムの技術は、今後普及が期待されるEVやFCVといった電動車の取り組みに引き継がれている。そして、ホンダが目指すカーボンニュートラル社会の実現に向け、新たな挑戦が続けられている。

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