コロナ禍は、世界からあまりにもたくさんのものを奪いました。大人でさえ先行きが見えない混沌のなか、10代の若者たちは——?社会貢献推進室では、彼ら彼女らとともに“夢”を語るために「The Power of Teen」というプロジェクトを発案。情熱で多くの人を巻き込み、駆け抜けた軌跡を紹介します。
林 由佳Yuka Hayashi
人事・コーポレートガバナンス本部 総務部 社会貢献推進室
1999年新卒入社。インド在住後、再入社チャレンジ制度を利用して2012年復職。広報部を経て2016年より社会貢献推進室に異動。The Power of teenでは推進担当を担う。
齊藤 紀恵Kie Saito
人事・コーポレートガバナンス本部 総務部 社会貢献推進室
2008年新卒入社。グローバルテレマティクス部を経て2014年より社会貢献推進室に異動。The Power of teenでは実務担当を担う。
閉塞感漂う今だからこそ、夢を描き、前を向く力をTeenに届けたい
大勢の人が、集まれない。会えない、話せない。
新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐためには、残念だけども仕方ない。
その結果、2020年は東京オリンピックもパラリンピックも、夏の甲子園も中止。
同じ空間を共有して集うイベントは、社会全体を覆うような諦念に飲み込まれ、軒並み延期や中止を余儀なくされました。
齊藤「Hondaが活動支援を行なっている『学生フォーミュラ日本大会』や『TOMODACHI Honda グローバル・リーダーシップ・プログラム』などもすべて中止になってしまい、各方面から『落ち込んでいる』『前を向けない』『希望を持てない』というお声をたくさん耳にするようになりました」
林「『未来を創る子どもの育成支援活動』は、Hondaが掲げる社会貢献活動の4つの柱のうちのひとつ。次世代を担う子どもたちの支援は、企業文化の観点からも重要な取り組みと位置づけられています。
だからこそ、コロナ禍で10代の子たちが落ち込んでいる今、Hondaが動かなくてどうするんだ!という使命感がどんどん大きくなっていきました」
Hondaとして、今こそできる何かをしたい。それは何なのか——?
感染拡大が深刻化しつつあった5月頃、齊藤 紀恵と林 由佳は毎週のようにミーティングを重ねながら“今できること、やるべきこと”を議論していきました。
齊藤「Honda全体で言えば、感染者の搬送車両(仕立て車)を提供したり、フェイスシールドを生産したりと、世界各地で多様な活動がはじまっていました。自分たちの仲間が、技術を生かして社会のために行動しているという事実は、とても誇らしかったです。同時に、自分たちも何かできることをやりたい、と」
試行錯誤のなか、過去の取り組みからひとつの答えが見えてきました。
林「『TOMODACHI Honda グローバル・リーダーシップ・プログラム』は、高校生が対象の活動です。人生の進路を決める多感な時期に、Hondaが提供するプログラムを通して彼らは本当にたくさんのことを吸収してくれました。
その姿を見て、自分たちの取り組みが、10代の彼らの人生に何かしらプラスの影響を与えることに貢献できているんだ、と実感したのを思い出したんです」
目の前の現実が先行き不透明だからこそ、前を向くための“夢”が大切なんじゃないか。
あるいは、夢を考えるきっかけを提供することで、少しでも前向きになる支援ができるはず。
この気づきが、「The Power of Teen」のはじまりとなりました。
情熱だけで一歩踏み出し、Hondaらしさを詰め込んだプロジェクトへ
10代の若者たちが、夢の力を信じ、夢実現に向けたチャレンジへの一歩を踏み出すきっかけのプロジェクトに。これが「The Power of Teen」のコンセプトです。
6月末、想いが定まって動き出そうとしたころで、齊藤と林には「とにかく時間がない」という事実が突きつけられました。
林「子どもたちが主役のプロジェクトなので、最初は夏休みにやろうと考えていたんです。でも、ここから企画を承認してもらい、具体化して、準備して、告知して……と考えると、全然時間がなくて」
齊藤「7月1日の報告内容を振り返ると、抽象的な想いしかない企画資料でした(笑)『とにかくこの企画をやらせてくれ!』と、そこにあったのは情熱だけ」
奇しくも、7月1日で上司が代わったタイミング。着任した初日から、想いだけがあふれている企画をぶつけにいったのです。
林「こういうところがHondaらしいと思うんですが、『想いはわかった、やってみようか!』と背中を押してもらえて。但し、無理に夏休みに実施するより、もっときちんと企画を作り込んだ方がいいというアドバイスから、実施時期は見直すことにしました」
そして浮上してきたのが、9月24日——Hondaの創立記念日です。
Teenの夢を応援するプロジェクトを、Hondaが夢に向かう挑戦への一歩を踏み出した日にリリースしよう、と。
また、このプロジェクトを具体化していくなかで、「世の中に元気を届けたい」というコンセプトも、徐々に明確な輪郭を持つようになっていきました。
林「当然なんですが、この状況下では大人だってなかなか元気でいられないんですよね。実施に当たっては社内外のさまざまな人たちを巻き込んでいかなければいけません。でも、どの部門の社員も『良い取り組みだね』と賛同してくれたんです。
それで、この取り組みでHondaの社員も元気になれる機会にしたい、と思うようになっていきました」
想いをかたちにしていくプロセスは、齊藤と林にとってはワクワクとプレッシャーが入り混じる日々でした。
夢を発表してもらうTeenには、Hondaの夢の力を感じてもらうためHondaJetに乗ってもらおう。
夢に向かい、挑戦し続けるスペシャルゲストに「シェア夢授業」を行なってもらおう。
HondaJetの生みの親・藤野道格さん、最強レーシングドライバー・佐藤琢磨選手、Honda HEATラグビー選手・具 智元選手を招いて。もちろんすべて、オンラインでの実施で。
齊藤「綱渡りのようなスケジュールで進めていかねばならず、正直、企画を立ち上げた自分を恨んだ瞬間が何度もあります(笑)」
ところが、そんな不安も苦労も吹き飛ぶような驚きの連続がふたりを待っていたのです。
共感を呼ぶ大義だからこそ、人が集い、協力のもとに突き進む力が生まれた
結論から言うと、参加を打診した3名のスペシャリストは全員が快く引き受けてくれました。
Teenに夢の力を、世の中に元気を届けたいという想いに共感し、ぜひ協力させてほしい、と。
林「『夢の力』って、かなり抽象的な概念です。だからこそ、運営側では何度となく議論を交わし、本質を突き詰めて考えていきました。たとえば、失敗しても前に進む勇気をくれる。夢を実現した後には達成感、喜びがある。見える景色を変えてくれる。
そうした想いのひとつひとつに、皆さんが強く共感してくださいました。だからこそ、同じベクトル、同じ情熱を共有しながらコンテンツの作り込みが進められたと思っています。
齊藤「特に意識したのは、単なる成功体験を語ってもらうだけにはしないこと。Teenが自らの夢に向かってチャレンジするときに、より具体的に自分の進むべきプロセスをイメージできるようなヒントにしてほしかったからです。
そもそも、夢なんて考えたことがないという子だって多いと思うんです。でも、夢について考えるのはワクワクするし、夢に向かってがんばるのは素敵なこと。それに気づいてもらえたらいいなと考えていました」
社会的意義が大きい取り組みゆえに、賛同する外部企業の協力も多数得られました。
特に佐藤琢磨選手のスポンサーでもある江崎グリコ㈱様は、映像提供や情報拡散を快諾してくれたのです。
林「企業の垣根を超えたコラボレーションでしたが、驚くほどスムーズに話が進みました。コンセプトの強さに加え、オンラインコミュニケーションだったのも成功要因かもしれません。形式的なやり取りをカットして、本筋だけでどんどん話を進められましたから。社会貢献という大義をもった活動には、これからもいろんな可能性があるということも学べた経験でした。」
1分1秒無駄にせず、すべてオンラインで進めてきた二人。約2か月で企画を作り上げ、実行に移せたのも、誰ひとりとしてネガティブな意見がなく、“世の中を元気にしたい”という想いが共通だったからだと、振り返ります。
大義に筋の通った取り組みならば、情熱を持った旗振り役を信じ、任せる。
そんな一面からも、Hondaらしい企業文化がうかがえます。
授業コンテンツは、アメリカとの時差がある中、常務執行役員の藤野さんも一緒になって、放映前日ギリギリまで編集作業を行ったり、初めてのオンライン配信ではノウハウがなく、演出や設備に四苦八苦したり。
部分的に見れば、やっぱり大変なことばかりだったのにはちがいありません。
「生きた心地がしなかった」ほどの焦りもありながら、「The Power of Teen」は多くのチャレンジと功績を残した取り組みとして、無事に終幕を迎えました。
▼可能性溢れるティーンの「夢」をオンライン発表会で配信! The Power of Teen
自由で、強く、多様な夢の力。Hondaはその先を見つめ、支援し続ける
「The Power of Teen」によって、林と齊藤のふたりも改めて“夢”の意味を考えることとなりました。
齊藤「Teenの発表を聞いていて、夢に決まったカタチなんてないんだ、と再認識しました。夢の持つ役割も多様にあって、人によっては、毎日をワクワクさせてくれるもの、あるいは、努力し続けるモチベーションにもなる。違いこそが無限大の可能性なんだと感じました。
それは、“Hondaらしさ”に十人十色の受け止め方があるのと同じかもしれません。夢にもいろいろな受け止め方があり、定義する必要がないほどに自由であり魅力的なものだと思います」
林「『The Power of Teen』では、応募から『シェア夢発表会』への参加のために選考を行ないました。でも、Teenの夢そのものに対しては、絶対に甲乙つけたりはしませんでした。評価基準は夢の内容ではなく、あくまでも実現へのプロセスにおけるチャレンジや工夫です。
だからこそ、誰の夢もすばらしい。それに、コロナ禍でも元気になれる、自分も誰かも幸せになれるような夢には、大きな価値があるのだと感じました」
夢を発表したTeenたちの間には、純粋に互いの夢をリスペクトする雰囲気が醸成されていたそうです。
ひとりの夢が大人も子どもも関係なく共感を生み、共鳴しながら輪を広げていく様子が映し出されました。
また、破天荒でイレギュラーなプロセスすらも楽しめるところにHondaらしさを感じた、というのも、ふたりの共通認識です。
齊藤「予定不調和があるからこそ、驚きや感動が生まれるんだと思います。実際に運営する側は大変だけど(笑)Hondaの場合は、カオスなくらいがちょうど良いな、と」
林「私たち自身、初めての試みばかりだったので、毎日がドラマでしたね。でも、そのプロセスで学んだことがたくさんあり、改めてHondaって良い会社だなと感じられたのが良かったです。Teenを、世の中を元気にする力を秘めた会社なんだと思えました」
Teenは、次世代をつくっていく世代。
そしてHondaは、そんな彼らを支援することに力を尽くす会社。
コロナ禍の閉塞感を“夢の力”で打ち破ろうと発足した「The Power of Teen」は、その狙いを果たしただけでなく、携わったひとたちひとりひとりの心に、未来を照らす輝きをもたらしてくれました。
▼「The Power of teen」のHPはこちら
https://global.honda/jp/philanthropy/pot/index.html