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「エネルギー発展の歴史の一部になりたい」EVを活用した新たなバリューチェーンを構築

電気自動車のバッテリーを活用した再生可能エネルギーで、カーボンニュートラルの実現に貢献する──Hondaが取り組む新たなエネルギーサービス領域で技術開発を行っている大垣 徹と西尾 唯。「生活を豊かにするエネルギーの進化において、歴史の一部になりたい」と話すふたりが感じる仕事の醍醐味とは。

大垣 徹Toru Ohgaki

電動事業開発本部 エネルギーシステムデザイン開発統括部 エネルギーサービスシステム開発部 エネルギーシステム性能開発課

学生時代は燃料電池の研究を行う。2009年Hondaに新卒入社。長年、電気自動車(EV)向けバッテリーシステムの開発に携わる。社内公募制度を利用し、2023年にエネルギーサービス領域へ異動。中古バッテリーを活用した定置型蓄電池の研究開発を行う。

西尾 唯Yui Nishio

電動事業開発本部 エネルギーシステムデザイン開発統括部 エネルギーサービスシステム開発部 エネルギーシステム性能開発課

学生時代はディーゼルエンジンの燃焼を研究。2009年Hondaに新卒入社後も、ディーゼルエンジンの開発に関わる。その後、ハイブリッド電気自動車(HEV)の制御開発に携わったのち、2022年よりエネルギーサービス領域で車載用バッテリーを活用した電力コントロールのための研究開発を行っている。

カーボンニュートラル実現に向けて、EVを起点にした再エネ活用の仕組みを作る

「自由な移動の喜び」と「豊かで持続可能な社会」の実現を環境安全ビジョンに掲げ、カーボンニュートラルへの動きを加速させているHonda。エネルギー先進国であるアメリカをメイン市場に、電動モビリティを起点とした新たなエネルギーサービスに取り組んでいます。

大垣

「カーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギー(以下、再エネ)、とくに太陽光発電などの自然エネルギーの活用が一つのカギとなります。

自然エネルギーはCO2排出を抑えられる一方で、天候や時間帯に左右されるため、晴天時は余剰電力が生まれるけれど、曇りの日や夜間は発電できないといった現状があります。そのため、必要な時に必要な量の発電ができる火力発電との置き換えには課題がありました」

その解決策の一つとして大垣や西尾が取り組んでいるのが、蓄電池を使った再エネの活用です。

大垣

「たとえば、昼間に太陽光で発電した余剰電力を蓄電池に貯めておき、夜間に必要な電力を取り出すことができれば、電力の平準化が可能です。私たちは、そこに必要となる蓄電池に、電気自動車(以下、EV)のバッテリーを使うための技術開発をしています」

西尾

「最終的なビジョンは、再エネで作った安価でクリーンな電力を、お客様が家での生活やクルマでの移動などに使えるようにすること。そのためには、EVを活用するのが有効な手段です。

Honda インターナビ(Internavi)*の解析によると、クルマの約95%は自宅やお出かけ先など、どこかに停車しています。この遊休資産を活用するために、いつ電力を貯め、いつ使い、いつ戻すのかをコントロールする頭脳が必要です。また、中古バッテリーを取り出して活用するための開発、さらに、クルマとさまざまなものをつなぐ充電器などのデバイスの開発も必要です」

*普通のカーナビでは把握できない渋滞情報、災害情報、安否情報など、多彩な情報をご提供するHonda独自の「通信型ナビ」

このプロジェクトにおいて西尾が担当するのは、「頭脳」の部分。いつクルマが充電して放電するかを制御する機能です。大垣が担当するのは、EVから取り出した中古バッテリーを定置型電池として活用するための研究開発です。

クルマを中心にしつつも、より大きな枠組みでバッテリーのバリューチェーンを生み出すため、社内のEV開発部署や事業開発部門はもちろん、新たなパートナーとの連携も進んでいます。

西尾

「まずは、電力会社です。日米ともに電力会社とのコネクションを強化しています」

大垣

「また、EVの中古バッテリーを取りこぼすことなく定置型電池に組み替える仕組みを作るため、協力会社との連携を強化しています。廃車前のEV回収から蓄電池構築、そして電力市場への活用までスムーズに流すための準備を進めています」

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環境問題に技術で貢献する──惹かれたのはHondaの技術力

大垣と西尾は、共に2009年の入社。同期ではありますが、これまではそれぞれ別の領域を担当していました。西尾が長らく取り組んでいたのは、学生時代から研究していたディーゼルエンジンの制御開発です。

西尾

「学生時代もHondaに入社してからも、ディーゼルエンジンひと筋。ただ、就職する際にもカーボンニュートラルという世の中の動きは意識していました。燃費の良いエンジンを作る技術でCO2削減に貢献したいという想いがあったんです。Hondaは技術に対して自由に、積極的に取り組んでいく風土があると感じたことが入社の決め手です。

しかし、カーボンニュートラルへの動きが加速するなかで、ガソリンのハイブリッド電気自動車(以下、HEV)の制御開発へ異動。プロジェクトリーダーとして次世代制御の研究を行っていました。その後、エネルギーサービスの領域でこれまで培ってきた制御開発の知見が活かせると感じ、現在の部署に進むことになりました」

大垣が学生時代に取り組んでいたのは、水素系の燃料電池の研究。Hondaへ就職した決め手は、西尾と同じく技術力に惹かれたことでした。

大垣

「環境問題に対して技術でブレイクスルーしようというHondaの姿勢は当時から感じていましたし、今もその姿勢は変わらないですね」

2023年に現在の部署に異動するまで、入社以来EV向けのバッテリー開発に携わってきた大垣。エネルギー領域に挑戦しようと考えたのは、世の中への貢献度を求めてのことでした。

大垣

「EVの開発も社会から求められていますが、世の中全体を考えた時に、もっと大きな貢献ができる仕事をしてみたいと感じたんです。そこで、社内の公募制度を活用してエネルギー領域の仕事に異動しました。実は、西尾さんと一緒に仕事をしたいという気持ちも少しありました」

ふたりが初めて同じプロジェクトに携わったのは3年ほど前。クルマのエネルギーマネジメントやバッテリーの熱コントロールをするために、地図データを活用しようという取り組みでした。当時の互いの印象をこう話します。

大垣

「西尾さんは学術的にも優れている人なので、理論的なアプローチの仕方に同期ながら憧れを感じましたし、そういった知見を活かしてエネルギーマネジメント制御の開発を牽引している仲間がいることが刺激になりました」

西尾

「大垣さんは、人当たりも良く、心がとても安定しているんです。当時、クルマやバッテリーの制御に地図を使う事例がなく、私は関係各所との調整に手こずっていたのですが、大垣さんは常に冷静に物事を進めていたのが印象的でした」

チャレンジすれば新しい仲間が増えていく。人を大事にする社風だから挑戦できる

現在、エネルギー領域という新しい分野に挑戦している西尾ですが、これまでもHondaでさまざまな挑戦をしてきました。当然、多くの壁にもぶつかってきましたが、それを糧に自らを成長させてきたと振り返ります。

西尾

「ディーゼルエンジンをハイブリッドにするという試みにチャレンジしたことがありました。当時は可能性が未知の研究開発であったため、研究チームは私を含めた3名ほどのスモールチームで取り組むことになったのです。

大学と共同研究しながら2年かけて設計からシミュレーション、製作、テストまでやり切ったのですが、ずっと仕事のことを考えている日々でした。でも、諦めずにやり通す粘り強さは、その経験で身についたと思います」

また、プロジェクトリーダーを務めた際には、マネジメントの難しさにも直面したと言います。

西尾

「本当に優秀なメンバーが集まったのですが、優秀だからこそ、それぞれが確固たる意見を持っていたんです。リーダーとして、一人ひとりの想いを大切にしながらもチームとして一つにまとめていくことに苦労しました。けれど、その経験があったから、人を頼ることができるようになったと感じます」

一方の大垣は、エネルギー領域に挑戦し始めたこの1年ほどが、もっとも大きな挑戦だと話します。

大垣

「これまで取り組んでいたEVの領域でも新技術へのチャレンジはありました。けれど、あくまでクルマの開発という枠組みの中のもの。社内の先人たちが残してくれた事例やプロセスを応用することができました。

でも、エネルギー領域では自分たちが先駆者です。いわゆる“虎の巻”も自分たちが作っていかなければいけません」

その難しさに直面しながらも、「今のチャレンジは苦ではなく、むしろ楽しい」と笑います。それは、チャレンジを後押ししてくれるHondaの風土があるからだと言います。

大垣

「これまでも、新しい技術にチャレンジする時には必ず後押ししてくれる人がいました。EVがまだニッチな領域だったころから成長するまでの過程を経験させてもらうなかで、だんだん仲間が増えていく感覚があって。みんなでやっていくんだという環境においてもらったことは幸運でした」

西尾

「『人を大事にする』という考えを持つ人がちゃんといる会社ですよね。

私も『こういうことがやりたい』という要望はたくさん出してきましたが、しっかり耳を傾けてくれます。なんでも聞いてくれるというわけではありませんが、個々のモチベーションが高くないと組織としての成果につながらないので、マネジメント側も最終的には個人の想いを尊重することを大事にしていると思います」

社会に貢献している手応えを感じながら、新たな世界が生まれることをめざして

新たなエネルギーサービスを確立すべく奮闘しているふたり。自分たちが先駆者だからこそ、手探りで進める不安は抱えつつも、Hondaならではの強みを活かしていきたいと話します。

西尾

「クルマを通して築いてきたお客様との接点は、揺るぎないストロングポイントです。エネルギーサービスによって、そのHondaブランドの価値をどう広げていくかを考えています」

大垣

「私の担当する中古バッテリーにおいて、信頼性はとても重要なポイント。これまで車両開発で培ってきた信頼性を横展開することで、Hondaだから提供できる価値があると思います」

その価値を発揮するために、「EVに対して懐疑的に思われていることを技術でブレイクスルーしたい」と大垣は話します。

大垣

「現状ではEVについて語る時、走行距離の短さや充電時間の長さ、バッテリーの劣化、そもそも本当にエコなのかといった懐疑的な意見が出てきます。そういった懸念を技術で解決して、『当時のあの悩みは何だったのだろう』という世界を作ることが目標です」

西尾も同様に、新しい世界、新しい生活を作ることを目標に掲げます。

西尾

「この先数年で見れば、再エネやカーボンニュートラルの動きは国が推進する社会政策の一つです。でも、カーボンニュートラルの取り組みは本来、生活を豊かにすることにつながるはず。海外から燃料を輸入することなく電気を地産地消できれば、経済的にも潤います。そういった仕組みを作って、私自身も豊かな生活ができると思える世界を作りたいですね」

そして、その視線はさらに先へ──大垣は、「ちょっとファンタジーな話ですが……」と前置きしつつ、こう続けます。

大垣

「人類は太陽の力を借りて農業もするし、エネルギーで生かされてきました。エネルギーを発展させて問題解決しながら生きてきた歴史があるなかで、私もその歴史の一部になりたいな、と思っているんです」

西尾

「いいですね。やはり、今の仕事の醍醐味はスケールの大きさにあると思っていて。カーボンニュートラルに直結する活動ができているという手応えがあります。そこから生活にまでクローズアップできたらいいですよね。

そのためにも、粘り強く取り組める力を持っていること、そして、提案や発信など行動力がより求められる職場にすることが大事です」

大垣

「エネルギーに満ち溢れた人と一緒に働きたいですよね。Hondaはさまざまな分野で開発をしていますから、何かしらの分野の専門性を持っていれば活躍できるステージがあるはずです」

自分たちの仕事が新たな社会システムの構築につながる──豊かで持続可能な社会を作りながら、エネルギーの歴史の一部になることをめざし、ふたりは挑戦を続けます。

※記載内容は2024年2月時点のものです

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