Hondaの研究開発施設 第3回

2024.09.25

道が製品を鍛える「鷹栖プルービンググラウンド」

道が製品を鍛える「鷹栖プルービンググラウンド」

鷹栖プルービンググラウンド

Hondaは1990年、北海道上川郡鷹栖町に鷹栖プルービンググラウンドを開設した。旭川市の北に位置する鷹栖町は北海道のなかでも積雪量が多く、冬は−20℃以下になる日もある極寒の地だ。例年、11月から4月にかけてのほぼ半年間に渡って雪が降る。この冬季テストを行なうのに恵まれた条件を生かし、新設するプルービンググラウンドの地に鷹栖町を選択。それまで点在していた寒冷地テストの機能を集約した。

また、高速走行する車両の直進安定性や静粛性を評価する周回コースや、山間部の曲がりくねった道でハンドリング性能を評価するためのワインディングコースなどを設置しており、Honda車を世界に通じる性能と品質に鍛え上げる場としての役割を担っている。

1.45km2の敷地面積を有する栃木プルービンググラウンドの5倍以上、7.89km2の広大な敷地面積を有する鷹栖プルービンググラウンドには、高速周回コース(6,820m)、EU郊外コース(13,923m)、US登降坂(4,086m)・市街地・郊外コース(2,700m)、総合コース(検証路1,300m、旋回路500m)、ワインディングコース(6,180m)などがある。

世界各地の道路を忠実に再現しているのも、鷹栖プルービンググラウンドの特徴のひとつだ。ヨーロッパやアメリカ、アジアに実在する道路を路面の状態や道路の起伏にいたるまで、再現された路面の種類は54種類におよぶ。栃木プルービンググラウンドで基本性能を磨き、鷹栖プルービンググラウンドでダイナミックパフォーマンスを鍛え、最終的な評価は現地で行なうという、栃木〜鷹栖〜現地の開発のループを精度高く構築するためである。

鷹栖プルービンググラウンド(2019年撮影)

鷹栖プルービンググラウンド(2019年撮影)

高速周回コース

1995年に開設した高速周回コースは、一部区間で速度制限がないドイツのアウトバーンや、日本の山間部の高速道路に多い高低差を伴いながらS字曲線を描くカーブ、さらにアメリカのフリーウェイにあるカープールレーン(2名以上乗車するなど、一定の条件を満たした車両の通行が認められる優先レーン)を再現。アップダウンや凹凸路面を設置したのは、車両の高速域における商品性を確保するためだ。テストではときに200km/hを超える車速で走り、限界領域でテストしなければわからない運動性能や乗り心地等を評価している。

高速周回コース

鷹栖プルービンググラウンド 高速周回コース

高速周回コース(冬季)

鷹栖プルービンググラウンド 高速周回コース(冬季)

EU郊外コース

EU郊外コースは信号機がない円形交差点のラウンドアバウトに加え、現地と同じ標識を設置し、リアルな環境を再現するため、あえて経年変化したドイツやイギリスの郊外路を忠実に再現している。ここでは主に路面からの振動やロードノイズをテストし、乗り心地などの感性的価値の評価と磨き込みを行なう。

EU郊外コース

鷹栖プルービンググラウンド EU郊外コース
鷹栖プルービンググラウンド EU郊外コース

US登降坂・市街地・郊外コース

2018年に新設したUS登降坂・市街地・郊外コースは、北米向け開発モデルの現地テストを国内でも同様にテストできるようにする目的で設置した。それまで、北米向け量産モデルの現地検証はアメリカ・ロサンゼルス近郊で行なっており、現地のコースは市街地、登降坂、郊外、高速の4つのエリアで構成されていた。

市街地エリアは交差点を除いて直線路が続き、車速は低いが頻繁な加減速が求められる。登降坂エリアはアップダウンがあり、旋回半径の小さなカーブを市街地より高い速度で走行することが求められる。アップダウンのなかに旋回する区間があることで、パワートレーン性能とハンドリング性能の複合的な性能を評価することが可能となる。郊外エリアでは、アップダウンの多い直線路を登降坂と同程度の速度で一定走行することが求められ、高速エリアでは直線と、アップダウンのない旋回半径の大きなカーブを高車速で走行することが求められる。

鷹栖プルービンググラウンドには登降坂・市街地・郊外の各コースを新設することにした。登降坂コースについては既設エリアに現地のような高低差がなかったため、隣接する傾斜地を新たに造成して設置した。

郊外路コースの設計にあたっては、現地コースでの乗り心地を忠実に再現するため、現地コースの路面プロファイルを計測。現地と同じ路面波長1mで±1mmのうねりを実現するため、設営工事を行なう際に新たな工法を用いることで乗り心地の評価に必要な10Hz〜20Hzの周波数領域における振動を発生する路面振幅を再現した。

US登降坂・市街地・郊外コースは高速周回コースの一部走行と合わせ、現地で約35kmあったルートを評価に寄与する要素を抜き出して16kmに凝縮したことで、現地で約60分要した走行時間を15分に短縮することができた。そのぶん、開発の効率化を図ることができている。

US登降坂コース

鷹栖プルービンググラウンド US登降坂コース

US市街地コース

鷹栖プルービンググラウンド US市街地コース

総合コースは走る・曲がる・止まるの、クルマの基本性能を総合的に評価するコース。
その他、150R旋回コース・ITコースや登坂コースもあり、市街地交差点や登降坂性能のテストも行なっている。

150R旋回コース・ITコース

鷹栖プルービンググラウンド 150R旋回コース・ITコース

登坂コース(冬季)

鷹栖プルービンググラウンド 登坂コース(冬季)

ワインディングコース

1993年に完成したワインディングコースは鷹栖プルービンググラウンドで最も早く運用を始めたコースで、世界有数の過酷なコースとして知られる、ドイツのニュルブルクリンク北コースを模して作られている。初代NSX(1990年)を開発するにあたってニュルブルクリンクでテストした際、国内にも同様の過酷なコースがなければ世界に通用するクルマの開発は困難だと痛感。その思いがワインディングコース建設の原動力になった。

ニュルブルクリンク北コースは高低差が約300mあり、低・中速コーナーから200km/hを超す高速コーナーまで、多様なコーナーがある。高速コーナーでの旋回Gは1Gにも達し、変化するアンジュレーション(起伏)は大小さまざまなコーナーと組み合わさることでサスペンションに大きな入力を与え、ボディーを強く変形させようとする。

また、連続するコーナーの多くは見通しがきかないため、車両がドライバーの意のままに反応しないと不安感を覚え、自信を持って運転することはできない。高速で旋回しながらジャンプするスポットもあり、車両とドライバー(体力だけでなく心理面においても)にとって極めて過酷なコースといえる。

鷹栖プルービンググラウンドのワインディングコースは、ニュルブルクリンク北コースのエッセンスを1周6,180mに凝縮している。コーナーは9Rから160Rまで大小を配置し、高低差は57.5m。厳しいアンジュレーションやブラインドコーナー、ジャンプスポットを備え、車両とドライバーを“いじめ抜く”環境が設けられている。この過酷なコースを繰り返し走行して鍛え上げることで、性能を極限まで追い込み、ドライバーが「意のまま」と感じられるダイナミックパフォーマンスを作り込んでいる。

ワインディングコース

鷹栖プルービンググラウンド ワインディングコース
鷹栖プルービンググラウンド ワインディングコース

このように、鷹栖プルービンググラウンドは寒冷地テストの舞台としての役割と、世界各国の開発モデルの複合的な性能評価と車両一台分の乗り味を評価する役割、さらに世界に送り出すHonda車の走りを鍛え上げる場としての役割を担っている。

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