プルービンググラウンドとは
プルービンググラウンドは開発車両で走行テストを重ね、量産化に向けて技術とクルマを鍛え上げていく試験施設である。リアルワールドの環境を忠実に再現し、実際に走らせ、厳しい条件のテストで、走る・曲がる・止まる、のクルマの基本性能を確認し、実走行から得た検証結果を企画・開発にフィードバックする。
実際の道路上では路面などの条件が変動するため、精度の高いデータを収集するのは困難だ。そのうえ、狙いの条件で確かめるためには現地まで移動しなければならず、多くの労力を必要とする。一方、プルービンググラウンドには各種の道路環境が設置されているため、高度に管理された条件のもとで再現性高く試験を繰り返すことができる。そのため、研究開発の高効率化につながり、より良い技術・製品を早くお客様に提供することができるようになる。
Hondaは1958年に日本初の高速テストコースである荒川テストコースを開設した。1979年には増大するテストのニーズに対応するため、栃木県芳賀郡に栃木プルービンググラウンドを開設した。総敷地面積は1.41km2。ここでは車両を構成するコンポーネントや製品全体の耐久信頼性を確認するとともに、振動や騒音などの静粛性や車両運動性能をテストしたり、グレードや仕様の違い、あるいは仕向地ごとの適合を行なったりする。
栃木プルービンググラウンド
栃木プルービンググラウンドは四輪車だけでなく、二輪車や芝刈機、耕うん機等のパワープロダクツ製品の開発テストを行なう、Hondaならではのテストコースだ。そのため、コースの種類も多く、周回コース、特殊路、総合コース、旋回路、登降坂路、水槽路、低μ路、中μ路、悪路コース、ワインディングコース、直線コース、モトクロス・スーパークロスコース、バギーコース、パワープロダクツテスト場などを備える。コースの種類は40以上におよび、総延長は74kmに達する。
1周4kmの周回コースは大きく4レーンに分かれており、内側から特殊レーン、低速レーン、中速レーン、高速レーンの順に並んでいる。高速レーン(高速周回路)の各コーナーには最大傾斜角45度のバンクがあり、最高速度200km/hまでのテストが可能。ここでは高速域での直進安定性、車線変更、ブレーキング時の挙動や静粛性などを確かめる。
周回コースにある横風送風装置は最大で毎秒30mという台風並みの風を吹かせることが可能で、トンネルの出口で突然受ける横風など、走行時に受ける横風の影響をテストすることができる。また、周回コース内の特殊レーンでは、世界のさまざまな路面を再現しており、騒音低減や乗り心地などをテストしている。路面は10種類あり、コンクリートの悪路やヨーロッパに多い石畳の道、いわゆるベルジャン路などを設置。ベルジャン路についてはベルギーから石を取り寄せ、1枚ずつ手貼りで敷き詰めている。別のレーンには、アメリカに多いコンクリート路盤をつなげた路面やうねりのある路面を設置している。
全長1200m、幅52mの面積を持つ総合コースでは主にブレーキ特性の検証などを実施。直径200mの定常円を持つ旋回路では、一定速度で走行した場合の車体やサスペンション、タイヤ等に与える影響についてテストする。また、世界各国の認定テスト、転倒限界、ブレーキ性能などもここで行なう。
登降坂路には4種類の異なる坂道を設置し、登降坂性能等をテスト。低μ登降坂路と呼ぶ滑りやすい路面も設置している。冠水状況を再現した水槽路は水深を自由に設定でき、浸水テストなどを行なう。
低μ路は特殊なタイルを敷き詰めた路面に水を撒くことで、雪や氷の上など、滑りやすい路面を再現したコースだ。ここではタイヤがロックした状態やスリップしやすい状況でのVSA(Vehicle Stability Assist)やAWD(四駆性能)などのテストを主に行なっている。
1周1.7kmの悪路コースでは、小石や砂利道での耐久走行および乗り心地のテストなどを実施。ワインディングコースは鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)のような連続したRが異なるコーナーを組み合わせた非常にテクニカルなレイアウトになっており、操縦安定性や旋回性の確認を行なう。Rが小さいタイトなコーナーや二輪車向けのワインディングコースもある。
1.6kmの直線コースでは各種ドライバビリティのテストを実施。モトクロス・スーパークロスコースは世界選手権や国内選手権の開催コースを参考に作ったコースだ。パワープロダクツテスト場には世界のさまざまな種類の芝生を植えたエリアとさまざまな土壌を再現したエリアがあり、それぞれ芝刈機やトラクター、耕うん機のテストを行なっている。
栃木プルービンググラウンドさくら
Hondaは栃木プルービンググラウンドさくら(栃木県さくら市)を2016年に開設した。重要性が増す先進安全技術の開発を効率的に行なうためである。
テストコースは、直線コース、多目的コース(市街地模擬コース)、悪路検証コースがある。約1kmの直線コースは主に安全運転支援システムHonda SENSINGの機能の一部である衝突軽減ブレーキ(CMBS)路外逸脱抑制機能などの回避支援機能のテストに使用している。
また、信号交差点やラウンドアバウト(環状交差点)を再現した市街地模擬コースでは、トラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)や駐車支援機能(自動含む)のテストを行なっている。交差点での出会い頭事故に対応したテストや、車々間通信の検証テストも実施可能だ。
多目的コースは一般道自動運転、高速道自動運転、高度運転支援の性能検証を行なう目的で設置した。一般道自動運転の性能検証を行なうためには、地域性への考慮が必要であり、既存のテストコースでは困難と判断。従来は栃木プルービンググラウンドで行なっていたが、「さくら」に新設した。
自動運転の検証テストには、曲率の異なる道路やラウンドアバウトといった道路条件、信号に応じた交差点通過など交通法規に対応する必要があるほか、海外の交差点や信号にも対応する必要がある。直線コースでは、路面マーカーや道路境界について、海外の環境を忠実に再現しており、市街地コースも含め国内外の条件や法規に合わせた自動運転の検証が行なえる環境を整えている。
Hondaは「2050年に全世界で、Hondaの二輪車、四輪車が関与する交通事故死者ゼロを目指す」※1と宣言しており、自動運転の実用化も視野に入れている。交通事故ゼロ社会と自由な移動の喜びにつながる安全運転支援技術の普及拡大に貢献する施設が、栃木プルービンググラウンドさくらだ。
※1 Hondaの二輪車、四輪車が関与する交通事故:Hondaの二輪車・四輪車乗車中、および歩行者・自転車(故意による悪質なルール違反、責任能力のない状態を除く交通参加者)が関与する交通事故。
栃木プルービンググラウンド開設時映像(1979年撮影)※2
※2 現在のテストコースと異なる部分があります。
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