エンジン百年のジレンマを解決し、常識を覆したVTEC
まずはじめに、VTECとは何かをご紹介しましょう。
エンジンが生まれて百年、VTECが登場するまで、エンジンは“不器用”でした。
“不器用”とは、「あちらを立てれば、こちらが立たず」ということ。
VTECが登場するまでのエンジンは日常の使い勝手を立てると、スポーツ性が立たず、スポーツ性を立てると、日常の使い勝手が立たずジレンマにおちいる状況だったのです。
「日常の使い勝手」と「スポーツ性」を両方立たせ“器用”なエンジンにする技術。それがVTECです。
“器用”なエンジン、VTECの新発想
エンジンは、「吸気」「圧縮」「燃焼」「排気」を繰り返して動力を生み出します。
VTEC以前のエンジンは、「吸気」「排気」を行うバルブと呼ばれる弁の開きが常に一定でした。
だから、日常よく使う低回転でちょうどよく「吸気」できる《少なめ》のバルブの開きにすると、スポーツ走行で多用する高回転でちょうどよく「吸気」できる《多め》のバルブの開きにできないため、“不器用”なエンジンだったわけです。
そこで、バルブの開きが常に一定という常識を覆し、低回転で《少なめ》、高回転で《多め》にバルブの開きを切り替え、両方ともでちょうどよく「吸気」させる。それがVTECの新発想です。
バルブの開きを《少なめ》と《多め》に切り替えるVTECのメカニズム
そのしくみは簡単。バルブを押し下げるカムとロッカーアームを従来の1種類から2種類にし、バルブの開きを《少なめ》と《多め》に切り替えるのです。
その切り替えは、真ん中が切り離されているロッカーアームの中のピンを油圧で動かして行います。
低回転時は、ピンが引っ込んでいるので、真ん中のロッカーアームが空振りします。バルブは、両端のカムの小さな突起で押し下げられ、開きが《少なめ》となります。
高回転時は、油圧でピンを動かしてロッカーアームをひとつにつなげます。するとバルブは、真ん中のカムの大きな突起で押し下げられ、開きが《多め》となるのです。
「油圧でバルブを押し下げるカムの種類を切り替える」それがVTECのメカニズムです。
つまりVTECは、エンジン誕生百年の常識を覆す新発想で「日常の使い勝手」と「スポーツ性」を両立させ、世界ではじめて“器用”なエンジンをつくり上げた技術です。