二輪車で世界初搭載したHondaのDCTが
ライダーの感覚に近づく進化を実現
2010年、デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)を二輪車で世界初搭載※1したあと、HondaはDCTを絶え間なく進化させ続けてきました。2012年、NC700シリーズやCTX700などに搭載し使う人の輪を拡大。2016年にCRF1000L Africa Twinに搭載し、使う場所を拡大しました。そして2020年、より静かにスムーズに、ライダーの感覚に近い制御を実現する進化を遂げました。
デュアル・クラッチ・トランスミッションとは
ダイレクト感のある加速などの利点を持ったマニュアルトランスミッションの構造をそのままに、クラッチ操作とシフト操作を自動化したトランスミッションです。クラッチ操作不要で、ライダーはスロットルとブレーキの操作に集中して走ることができ、通常のマニュアルトランスミッションでは構造上、どうしても発生してしまう変速時の駆動力の途切れを抑えた、なめらかな加速・減速が可能です。
1速-3速-5速-発進用クラッチと、2速-4速-6速用クラッチという2つのクラッチ(デュアル クラッチ)を備えたトランスミッションとして、二輪車では世界初※1の技術です。
※1:2010年6月現在(Honda調べ)
変速方法はシフト操作を自動化した「ATモード」と、常に好みのギアをライダー自身が選ぶ「MTモード」の2種類。「ATモード」では、通常の「Dモード」に加えて、よりスポーティな走りに向いた「Sモード」が選択可能。また、走行状況に応じてシフトスイッチで随時変速可能で、変速後はATモードに自動復帰します。
CRF1100L Africa Twinでは、ピッチ、ロール、ヨーの角速度と加速度を検出する6軸IMU(慣性センサー)を搭載。コーナリング走行検知制御の追加により、シフトタイミングをよりライダーの感覚に近づけるとともに、発進制御と変速制御の熟成により、安心感やダイレクト感を実現します。
デュアル・クラッチ・トランスミッション内部の仕組み
加速時、減速時に自動で行われているクラッチ操作、変速動作をご紹介します。
自動でギアを切り替えるための仕組み
通常のマニュアルトランスミッションでは、左足のシフトペダルを操作することでシフトスピンドルを回転させ、シフトドラム、シフトフォークを介してギアをスライドさせますが、デュアル・クラッチ・トランスミッションでは、シフトモーターがその役割を担います。オプション設定のフットペダルを使用する場合も、同様にシフトモーターによってシフトスピンドルが動作します。
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より多くの方にお届けするための工夫
クラッチ操作とシフト操作なしで楽しめるマニュアルトランスミッションの走行感覚を、より多くの方にお届けするために、エンジンや車種の特徴に応じて、構造の最適化を行っています。例えば、「NC750S」「NC750X」と「X-ADV」、3タイプで同一のフレームに同一のエンジンを搭載するシリーズでは、「X-ADV」のフロアタイプのステップを実現するために、クラッチやクランクシャフトのレイアウトを見直しました。
開発者の思い
DCTの究極の目的を、我々は「操る楽しみの創造」としています。2010年にDCTを生み出して以来、開発メンバーは、目的の実現に向け進化に取り組み続けてきました。
DCTは、クラッチとシフト操作からライダーを解放しながらも、他のATとは異なる「ダイレクトな駆動力」を伝達できるため、モーターサイクルならではのファンライディングをスポイルしない優れたシステムです。 実際に乗っていただけければ、ただのATでないことはすぐに分かっていただけると思います。ライダーが欲しいトルクや加速感を、思ったときに、思ったように取り出せる。私たちがDCTで提供したいのは『人馬一体感』なのです。
2010年 “世界初搭載 システムの確立”
我々は、2008年にミラノショーで技術開発を発表したあと、 2010年、スポーツツアラーVFR1200Fに二輪車として世界で初めてDCTを搭載しました。ATモードとMTモードをライダーの意思で切替え、ATのときも一時的にマニュアル操作を可能にする考え方は、このときから採用していました。
2012年 “使う人の拡大”
DCTをより多くのライダーに体感いただこうと、2012年に、700ccのNCシリーズへ展開。油圧クラッチ制御で先行する四輪のノウハウや製造インフラを活用し、従来のシステムに比べて部品点数削減を含め、大幅に構造を見直し、よりコンパクトで、よりリーズナブルに提供することができました。NCシリーズが好評を獲得するとともに、多くの派生モデルがDCTを搭載し、より多くのライダーに体感いただくことで、広く認知される技術へと育ちました。
2016年 “使う場所の拡大”
DCTでは「使う人」だけでなく、「使う場所」の拡大も図りました。2016年のCRF1000L Africa Twinにおいて、オフロードという新たなシーンへの適用にチャレンジしました。クラッチ制御と変速制御を見直すことで、ダート走行を想定したモードを新設。乗る場所を選ばない「アドベンチャーモデル」として好評を博しております。Africa Twinでは、DCTモデルの選択が全体の約半分にまで迫り、ライディングに集中力を必要とするオフロードにおいても、DCTはその真価を発揮できることを証明しました。
2018年 “緩急自在の7速化”
このように、使う人やシーンを『拡げる』ことに取り組んできた次のステップとして、モデルごとの狙いに最適化した進化をソフトとハードの両面から実現し、操ることの充実感を『深める』ことを狙いとしました。
まずはGold Wingにおいて、パワーフィールを余すことなく楽しめるように変速フィールの向上を狙い、従来の5速MTに対し7速に変更。低速側をクロスレシオにすることにより変速に伴うショックを低減し、7速をワイドレシオにすることで、高速巡航時のエンジン回転数を抑えて静粛性を大幅に向上させています。さらに、変速時のミッション打音や作動音などを低減するダンパーを各部に採用することで、より優れたシフトフィールを実現しています。
また、ギアチェーンを採用することで、リバース専用シャフトを追加することなく、軽量・コンパクトなシステムで、またがったまま車体の切り返しが楽々できる微速前進とリバース機能を搭載しました。制御技術の進化としては、スロットルバルブ開度を電子的に制御するスロットル・バイ・ワイヤ(TBW)との協調制御により、変速の素早さと質感向上を両立させています。
2020年 “よりライダーの感覚に”近づいたDCT制御
CRF1100L Africa Twinでは、6軸IMUによって、車体のバンク角度や加速、減速状態を検知することで、コーナリングなど走行状況に合わせたギア選択を実現。ライダーの感覚により近いフィーリングでの変速を可能としました。クラッチレスポンスの特性を切り替えるG-スイッチとあわせ、ダイレクトでエキサイティングな走りを楽しめます。
DCT技術は非常に他の技術との親和性が高く、センシングデバイス、ECU、AI等の充実にともない、まだまだ進化していくものと考えております。より高い「操る楽しみの創造」をめざし、今後も技術開発を推進します。