G-スイッチとセレクタブル トルク コントロール ──
二つのスイッチは、どんなライディングの楽しさを広げてくれるのだろうか?
CRF1000L アフリカツイン DCTには二つの機能が採用されている。 G-スイッチとセレクタブル トルク コントロールだ。 この二つとは、どのような機能でどのような効果があるのだろう。 まずは開発チームに話を聞いてみよう。そして実際に走り出そう。 “True Adventure” アフリカツイン DCT が得意なフィールドであるオフロードで、どんな楽しい世界を見せてくれるのだろう。
二つのスイッチがもたらす効果、とは?
それってどう効くんですか?実験の中にその答えを探る。
Hondaがモーターサイクル用に開発したデュアル・クラッチ・トランスミッション(以下DCT)は、スポーツバイクに装備される多段ミッションと同様の構造ながら、二つのクラッチを自動制御することで発進時、停止時、変速時を含めてクラッチ操作を自動化した、Honda独自の二輪用トランスミッションだ。
ここで大切なのは、このDCTが変速操作をメカニズムに任せることが可能ではあるが、このDCTは“イージードライブを目指したオートマチックではない”ということ。“より深くライディングを楽しむため”に造られたメカニズムなのだ。
DCTをイージードライブのオートマチックだ、と思っている人の多くは、発進させるとき、スイッチでニュートラルからDモードを選択して、シフト操作やクラッチ操作がなくアクセルを捻るだけで苦もなく走る……、それが先入観の元なのかもしれない。HondaのDCTは自分の意思に合った、タイミングでシフトアップ・ダウン操作が可能なのだ。もちろん、マニュアルモードを選択すれば、ライダー自身が変速操作しながら走ることもできる。
アフリカツインに搭載されるDCTは、発進、変速などの設定がアップデートされた最新バージョンでもあり、プログラムされた自動変速をするDモードで走っていても、まるで自分の意志通りにシフトをしてくれるような感覚がある。しかも、2気筒エンジンが生み出す鼓動感やトルク感を楽しめるよう、早めのシフトアップをするプログラムを基本とし、かつてのアフリカツインらしさまで表現されている。また、Sモードを選択すれば、さらにキビキビした走りに適した変速プログラムとなるほか、アクセルの開け方次第でライダーの意思をくみ取るような変速プログラムに変化する。あえてマニュアルシフトの必要性を感じないほど意思どおりの走りが楽しめる。
だからこそ、このDCTを走らせると既存のMT車と同等以上の走らせる歓びがあることに気が付くのだ。
ライダーはクラッチ操作から解放されるだけではなく、発進、停止時のエンストの心配はもちろん、変速時のシフトミスもない。この安心感。そして肉体的、精神的疲労感の軽減は、一度体験すると驚くことになるのもDCTの特徴だ。
なにより、今までMTモデルで当たり前のようにクラッチとギアチェンジを行っていた“運転操作”そのものが、想像以上に自分自身の“CPU”を食っていたことに気がつく。クラッチ、シフト関連の操作をDCTに任せられることで、ライディング中にゆとりが生まれ、より走る事への集中と、楽しさが増す。つまりモーターサイクルをより深く感じ、より充実した時間を過ごせるのだ。これぞDCTの大きなメリットだ。
そう、DCTは長いバイク歴を持っている人ほど、魔法だと感じるのである。
DCTを搭載するモデルの中でも、CRF1000L Africa Twinは高い注目度を集めている。“アドベンチャーツアラー”という世界的な人気セグメントに向けた、Hondaのレジェンドモデルの復活である。また名前から連想されるように何処でも走りたくなる性能が備わっていること、つまり舗装路はもちろん、特にオフロードの走りを楽しめる造りにしたことが話題の一つだ。
僕はこれまで何度もこのモデルをライディングし、その楽しさを様々な場面で体感してきた。なかでも、DCT装備モデルで体験したオフロード走行では「クラッチレバーを操作しないだけで、こんなにライディングに広がりが出るのか!」と驚いた。
MT車では発進時、1速にシフトし、クラッチとアクセルを合わせてスタートさせる。この時、路面状況によっては、滑ったりエンストしたりしないよう、オフロードでは最も神経を尖らせる瞬間だ。
一方、DCTは驚くほどスムーズに発進をし、自動的にシフトアップもしてくれる。MT車で緊張すると、必要以上にエンジン回転を上げてしまったり、半クラッチが長くなってしまったり、乗り手の心の内がバイクの挙動にモロに現れてしまう……。
その点、2010年から体験してきたDCTの中でも、より制御が進化したアフリカツインのDCTは、スマートなシフトとクラッチ操作の設定がなされ、オフロードでのフィット感が良い。ライダーを見事アシストしてくれるのだ。
加速をしても、ミスシフトのない変速、素晴らしいクラッチワークをDCTはこなすから、僕はその先の道の状況や、カーブの手前でのブレーキングに集中し、曲がるタイミングやコーナリングなど、走ることに集中することができる。
例えばダート路に多い通過速度の低いタイトなカーブでは、MT車の場合、クラッチ操作が必要になる場合も珍しくない。その場合、左手の操作に神経を使いながら、グリップを握る手首を力まないよう軽くつかみ、バイクを安定させることも同時に行う必要がある。これがDCTの場合、レバー操作から解放されるので、グリップを握る手、肘、肩から力みがなくなり、コーナリングの旋回力を自然に引き出せる。僕の場合、特に左のタイトコーナーが決まる。これは嬉しい。
オフロード走行で多用するスタンディングポジションでも同様だ。前述したクラッチ操作や、左足のつま先で行うシフト操作がないので、操作を前提に自分のポジションを置く、という意識から解放され、路面とバイクにとってベストなポジションでコントロールをする事に集中できる。これは砂利道、オフロードコースにある砂の道、ヒルクライム、ダウンヒル、連続するギャップでも同様に、大きなアドバンテージだった。
止まる時も同様。ギアチェンジのことを意識して、足を踏み換え易い地面を確認して止まる必要がない。だからオフロードコースにある、大きな轍や足着きの悪い場所でもそのストレスを感じなくてすむ。これはちょっとした新発見をした気分。
走り終わった頃には「DCTはオフロードをより楽しくするもの」というイメージが確立したほどだ。
「それで新機能はどれくらい効果的なんですか?」
そして、このDCTをよりオフロードにフィットさせる装備として、アフリカツインには“G-スイッチ”がある。
どうして新たにG-スイッチを採用したのだろう。
その理由はこうだ。最新のDCTシステムには “アダプティブクラッチ制御”が採用されている。DCTは奇数段、偶数段へと変速する時、2つのクラッチを協調させ、スムーズに変速し、結果的に駆動力の途切れない走りを実現している。
また、DCTは、アクセルのON / OFF操作時にクラッチをわずかな時間、半クラッチ状態とすることで、駆動ショックを緩和することで快適性も高い。駆動力の変化によって起こる車体のピッチングをマイルドにしているのだ。
DCTに盛り込まれたこうした制御の効果は、例えば2人乗りの時、シフトアップ時、シフトダウン時の挙動によりライダーとパッセンジャーのヘルメットがゴツンと当るようなことも無く、低速走行時にアクセル操作が多少、雑になってしまった時も挙動が抑えられ、取り回しの快適さももたらしてくれるのだ。
一方で、この滑らかな制御は、テストを担当した開発陣によると、「オフロードで一瞬の挙動を生み出したい時、アクセル操作に駆動の反応が遅れたように感じる」というではないか。聞けばそれは1/100秒から1/1000秒単位の領域の部分だそうだが、「もっと一体感を出そう」──そのために、駆動系の要でもあるDCTのセッティングにも注文が入った。それがクラッチの繋ぎ方、放し方だったという。つまりG-スイッチはオフロード走行時に、アクセルと後輪の一体感を高めるためのスイッチとも言えるのだ。
このG-スイッチ、その効果を体感しやすいのは、低速で旋回する林道のカーブ、あとは砂利道など滑りやすい路面を活かしてリアをスライドさせたいときのアクセル開け始めの一瞬の挙動、ということだ。実際、その違いはハッキリと実感できる。
テスト後、そんな好印象を思い出し友人のライダーにアフリカツインのDCTについて説明をすると「それでG-スイッチはどれくらい効果的なんですか?」と質問してきた。主観的な印象として話したわけだが、彼は客観的に説明して欲しいという。オフロード経験が乏しく、ロードバイク好きな彼とは話がすれ違うばかり。これは今一度、検証しなければならない……。
さらに「セレクタルブル トルク コントロールも、効き具合の段階は、どう変化するのか?」と質問してきた。 「ダートでアクセルを開けてもまったく問題無く恐くない」という説明は、アフリカツインのような大型バイクでダートを走り慣れた自分視点の説明だ。そもそもオフロード経験がない、少ない、あっても滑るのが怖いからアクセルを開けられない、というのが普通だ。これは話がすれ違うのが当たり前なのだ。
そこで、まずはG-スイッチとセレクタブル トルク コントロールの開発に携わったスタッフに直接「どのように試せば解りやすく、その違いを引き出しやすいですか?」という事を含め、改めて機能のことを確かめる事にした。
質問に答えてくれたのは開発チームの瀬尾 哲(Satoshi Seo)さん、中村公紀(Masanori Nakamura)さん、そして伊東飛鳥(Asuka Ito)さんだ。
Q──G-スイッチについて教えて下さい。そもそもDCTモデルになぜG-スイッチは必要になったのですか?
伊東: アフリカツインにDCTモデルの設定が決まり、開発初期段階では従来からあるDCTモデルでオフロードを走り、その親和性を確認しました。そしてアフリカツインのDCTで、オフロードで走って見ると、車体を起こす、後輪をスライドさせる意思でスロットルを開けた時、“操作に対して駆動が来るまでの反応が少し遅れる”という声が上がりました。DCTはそれまでオンロードでの快適性重視のセッティングにしていたためです。そこでオフロードに適正化したクラッチ制御をするためにG-スイッチを設けた、というのがその理由です。
Q──オンロードの快適性を、どのようにオフロードへの適正化を図ったのでしょうか?
伊東: 遅れるその時間はコンマ数秒という短時間な部分です。オンロードでの快適性とは、スロットル操作が多少ラフになってしまっても車体挙動に現れにくいクラッチ制御のセッティングとしています。スロットル操作で生まれる最初の駆動力の山を削り、その衝撃を和らげる、という方向です。
オフロードを走る上級者はスロットルへの反応が欲しい。そこで、クラッチの制御をライダーの意思に即応するような物としている、と捉えて下さい。
Q──そうしたセットアップはどのように作り込んでいったのででしょうか。
瀬尾: 開発チームの中でも技量の違いがありますので多人数で意見を出し合いながら進めました。開発チーム内外から意見をもらい、それぞれのオフロードレベルにマッチする作りこみをしました。
Q──セッティングはどんな道で?
瀬尾: 様々なオフロード路面で確認していますが、特に重視したのは林道などに良くあるジャリ道です。
Q──そこまでオフロード走行への拘ったの理由は?
伊東: アフリカツインのユーザーには積極的にオフロード走行を楽しまれる方がいます。オフロード走行で一体感を持った走りを提供することは譲れません。そこでオフロードに適正化したクラッチ制御となるG-スイッチが必要と判断しました。また、Dモードで走行中、G-スイッチを入れると、オフロード走行をしていると判断し、DCTのシフトスケジュールも変化しますので、自分で選択が可能なSモードと合わせて、ユーザーの皆様は選択肢の多さにとまどってしまうかも知れません。それにたいしては、オフロードモード、というパッケージ化も一つの手法でした。しかし、アフリカツインでは、電子制御の部分をユーザー自身でチューニングを楽しんでいただこう、とDCTのSモードを3段階、セレクタブル トルク コントロールの効き具合も3段階とすることで、ライダーの感性を合わせ込める設定としています。
Q──G-スイッチを入れたとき、Dモードはどう変わるのでしょうか。
伊東: 通常、舗装路ではDモードで走行中、56~58km / hで6速にシフトアップするような変速スケジュールとなっています。G-スイッチを入れると、オフロードを走行していると判断し、Dモードでも、だいたい59~61km/hぐらいで4速、から5速でしか上がりません。また、タイトなコーナーでの車体挙動をコントロールしやすくするために、車速が下がった時の3速から2速へ、2速から1速へのシフトダウンを遅らせて、なるべく3速および2速のままで粘るような設定としました。
Q──G-スイッチの、一番のベネフィットと変化の実感はどのようにすれば解りやすいですか?
伊東: 注力したのは、走っていてDCTの効果を感じられた、という部分ではなく、MT車同様違和感なく楽しめるパッケージです。今日は上手く乗れている、というライディングの実感を楽しんでもらいたい。そんな思いで造っています。
G-スイッチのON / OFFの差異は、1速、15km / hくらいの低速からアクセルを開ける、閉める、を短時間に繰り返すと、開けた瞬間、閉じた瞬間の駆動の挙動の出方が違うので確認していただけると思います。また、低速の8の字走行をすると、減速、加速時、旋回時にそれが解りやすいと思います。
Q──セレクタブル トルク コントロールについて教えて下さい。
瀬尾: 加速時の路面と駆動輪のスリップを感知し、エンジンのトルクを制御するシステムをトルクコントロールシステムと呼びます。
後輪が路面を蹴って、車体を前に進ませる力、これをトラクションと表現しますが、このトラクションは同じ路面でも、バンク角、ライダーの体重移動、サスペンションのセッティングで変化をします。セレクタブル トルク コントロールでは、路面やライダーのスキル、ユーザーの好みに合わせて3段階に変えられるのが特徴です。
Q──“制御”はどのようなキャラクターなのでしょうか?
中村: 後輪が滑ることで制御が入る。その制御の中で加速ができることを狙っています。安心して加速する。これが目指したポイントです。
VFR800Xのプログラムをベースに、アフリカツインの特性に合わせた制御に変更しました。
Q──その作り込みは?
瀨尾: イグニッションスイッチを入れた状態ではトルクコントロールレベルは常にデフォルトの設定(レベル3)になるようにしています。濡れた石畳路など の滑りやすい路面で、加速中に後輪がスリップしても、スリップを抑制し安心して走行できるモードです。まず、このレベル3から設定を進めました。
Q──レベル2、レベル1の設定はどのように決めたのでしょうか?
瀨尾: オフロードコースでエキスパートライダーにセレクタブル トルク コントロールをOFFにして走行をしてもらい、どのように滑りを活用しているのかデータ計測を行いました。そのデータを基にレベル2、レベル1の介入度の配分を決めていきました。
Q──セッティングで重視したのはどんな部分でしょうか。
瀬尾: 制御中であっても、車体がコントローラブルであること、つまり意のままにライディングが出来るか?を重視しました。
オフロードにおいては、制御でトルクを大きく抑制すれば、制御中にスロットルを開けてもトルクが無く、車体コントロールが難しくなります。スリップの割合に合わせたトルクを細かく設定し、安心感をスポイルすることなく、コントローラブルな性能を実現しました。
Q──アフリカツインの開発で新たに経験(挑戦)したことは?
中村: 2気筒の燃料噴射カットシステムでのスムーズな制御という部分です。
HondaではVFR1200Xなどに採用している、スロットルバイワイヤーを使ったトルクコントロールシステムを持っていますが、こちらはスロットルを電子制御できるのでスムーズなトルク制御が可能です。アフリカツインでは、ダイレクトな走りのためコンベンショナルなワイヤー式スロットルバルブを採用しているため、燃料カットシステムでの制御が必要でした。すでにVFR800Xにて採用しているシステムではありますが、気筒数が半分になるため新たなトライでした。
開発の出だしは、VFR800Xのものをベースに作業を始めました。アフリカツインへと専用化にあたって、4気筒のVFRよりも、位相クランクのアフリカツインの2気筒エンジンでは燃料噴射を綿密にコントロールしないとギクシャク感がでます。トラクションにスムーズさが出ない。そのため、ライダーがスムーズなトラクションを感じられるよう、燃料噴射のカットのタイミング、燃料噴射カットのパターンを綺麗に並べていくことが重要でした。
既存のシステムでも、対象とするエンジンやバイクのキャラクターが変わるところでの苦労でした。作動時にトルクを落としたい中で、どんな間隔で出力をカットするべきなのか。アフリカツインでのセッティングはまずはそこを見極めるところから始めました。
瀬尾: 燃料の噴射を50%間引く場合でも、「噴く・噴かない・噴く・噴かない」という場合と、「噴く・噴く・噴かない・噴かない」があります。どちらも50%燃料噴射を間引いた状態になります。どちらがスムーズかを試し、そのパターンを決めていきます。
中村: また、DCT側のクラッチ制御も変えています。クラッチに与えるトルクの計算を専用設計しています。エンジン回転数やスロットル開度から推測出来るものが、燃料カットが入るので、相関関係が崩れます。
伊東: たとえば発進時の場合です。速度ゼロからのスタートで滑りやすい路面。そこにトルクコントロールが介入した場合、燃料噴射が間引きされている状態です。DCTはエンジン回転数、スロットル開度から得た信号で「これくらいトルクが出ているから、クラッチを繋ぎましょう」と計算をしています。駆動輪の空転を察知して燃料噴射を間引くことで後輪の空転を抑えるトルクコントロールが介入すると、エンジン回転数、スロットル開度とは別にエンジンがストールする事を考慮して、クラッチを通常時より柔らかく繋ぐような制御を別に計算させています。
瀬尾: クラッチ、トルクをコントロールすることで、デフォルト設定でも走りやすい、安心して滑りやすい場所を通過できるよう設定しています。
よりアクティブに走りたい、というライダーのためOFFにして走る事も可能です。アフリカツイン本機の性能がオフロード走行においても高いので、OFFにして車体をコントロールしながら乗るのも楽しいと思います。
電子制御のシステムとしてはシンプルなのですが、細部までこだわり設定したので、多くのお客様に楽しんでいただけると思います。開発中、様々な機種とも比較をしましたが、その点においては自信あり、と考えています。
Q──どのような場面でテストをすると解りやすいですか。
瀬尾: 舗装路ではトルクコントロールが動作することは少ないため、林道などの砂利道で、アクセルの開け方を変えながら色々と試してみて下さい。
斯くして僕は、G-スイッチとセレクタブル トルク コントロールの効果を試すべく、オフロードコースへと向かったのだった。
テストコースで試したこと、解ったこと
DCTモデルでオフロード走行をより楽しめるように装備したGスイッチ。そして舗装路はもちろん、様々な路面で効果を発揮するセレクタブル トルク コントロール。レベル3、レベル2、レベル1、そしてオフと選択できるその効果をオフロードテストで体感してみた。
■G-スイッチはデフォルト(OFF状態)の場合
G-スイッチの変化について、開発チームから教わったように舗装路で試してみた。
テストは、もっとも挙動変化が解りやすい1速ギアを選択。DCTのモードはMTモード。速度20km / h前後で一定を保ち、そこからアクセルの開ける、閉じる、を繰り返しバイクに加速、減速の挙動を与えてテストをした。
G-スイッチはOFFの状態でまず感触を確かめる。アクセルを開けた時の加速感はガツンとした角がなくスムーズな加速、アクセルを閉じれば同様にスムーズに減速する。少し速度を上げると、ダイレクト感が増してくる。エンジンの回転数が上がり加速感も大きくなり、そこからアクセルを閉じた時、エンジンブレーキの効き具合も強く、挙動は大きくなる。加速のためにアクセルを開けた瞬間や、アクセルを閉じてエンジンブレーキが掛かる瞬間の急な挙動の変化は少なく穏やか。
■G-スイッチをONの場合
次にG-スイッチをONの状態で同様のテストをする。アクセルを開けた瞬間、アクセルを閉じた瞬間に感じる駆動の衝撃がハッキリと違う。なるほど、アクセル操作に対し、後輪の駆動力が即応しているような印象で、アクセルと後輪が直結した感覚になるほど。こう言うと大袈裟だが、普通のMT車のようだ、という印象だ。開発チームの意図を再確認する事ができた。
オフロードでの8の字ターンでG-スイッチを試す。
次にG-スイッチのOFF / ONでの違いをさらに試すべく、フラットなオフロードでのテストを行った。「アクセルのオン、オフでバイクの挙動が解りやすく、G-スイッチの効能を感じやすい」と開発者から教えてもらった8の字走行だ。
パイロンを適度な間隔に2本配置し、その間で8の字を書く、というもの。パイロンからパイロンはできるだけ直線的に走り、パイロンの周りを小さく回る。細長い8の字走行だ。その中で、加速、減速、旋回、そして加速へと短時間に様々な操作と挙動変化が訪れる。その中でよりG-スイッチの素性を見て欲しい、という提案なのだ。また、テストは4回。セレクタブル トルク コントロールをデフォルト(レベル3)でG-スイッチのOFF / ON、セレクタブル トルク コントロールをOFFにした状態で、G-スイッチのOFF / ONで感触を比較。また、各テストで回ったのは3ラップ。時間にして1分以下。慣れると体が補正してしまうし、純粋にG-スイッチを入れる、入れていない、の違いを第一印象で比較することに集中した。
DCTの走行モードはDモード、前後OEMタイヤ、空気圧は標準レベルでトライした。
8の字ターンテスト──1
セレクタブル トルク コントロール→デフォルト(レベル3)
G-スイッチ→デフォルト(OFF)
ラップ1、直線部分からスタート。パイロンを左周りにターンして入る。アクセルを戻し、エンジンブレーキを利用し寝かし込みに入る。その瞬間、バイクがフワッと空走したような気がした。ダートの路面に前輪がグリップを失わない範囲でアフリカツインを寝かし込み、前輪に舵角を付けたい。が、少々不安があるのは、ぶっつけ本番だからだ。アクセルを開けながらバイクを起こし、もう一つのパイロンまで加速をする。アクセルを開けると同時にバイクはゆったり起き上がり、同時にセレクタブル トルク コントロールが介入する。
ラップ2へと入る。直線的に加速をして、アクセルを閉じ、減速。その瞬間、ラップ1同様、減速時のショックを和らげるDCTの働きで、駆動が途切れるような瞬間があり、寝かし込むタイミングでやや大回りになるような気がした。この印象はラップ3まで同じだった。
8の字ターンテスト──2
セレクタブル トルク コントロール→デフォルトレベル(レベル3)
G-スイッチ→ON
テスト1と同じように直線から8の字コースに入る。最初のパイロンに目掛けてアクセルをオフ、減速に入る。その瞬間、G-スイッチが入っている方が、エンジンブレーキで後輪が路面を捕らえているような感触が明確に伝わってくる。テスト1よりも自信をもって寝かし込み、そして旋回操作に入れた。
ラップ2、直線で加速しアクセルを閉じ、減速。そしてバイクを寝かしこむ。ここでもその一連がとてもスムーズに繋がる。テスト1の時、減速開始とともにフワっとした空走感はなく、一気に深くアフリカツインを寝かし込めるので、寝かした角度と前輪の舵角がバランスしていて、フロントサスペンションがしっかりと仕事をしている。テスト1のようにおっかなびっくり寝かしている感じがない。旋回後、加速をするとセレクタブル トルク コントロールが介入し、最初の開け始めの瞬間、G-スイッチをONにした方が加速の立ち上がり、というか、後輪の蹴り出す感覚が強い。なるほど、G-スイッチの効果はこれなのか、と思う。ラップ3も同様の印象だった。慣れた事も手伝ってか、テスト1より走りやすいのか……。まだ自分の感覚に自信を持てない。
テスト2で実感したのはむしろアクセルを閉じた瞬間の後輪と路面の食いつき感のようなものだった。
8の字ターンテスト──3
セレクタブル トルク コントロール→OFF
G-スイッチ→デフォルト(OFF)
このテスト3でそれまで体験した事が気のせいではないことが解る。ラップ1、直線部分から入る。アクセルを閉じ、減速する。そして旋回へ。テスト2で感じた寝かし込みやすい印象が、テスト1の時のようにスパッと寝かし込めない、少し間隔とズレがあり、バイクを寝かすのが僅かに遅れる印象だ。その結果、前輪が理想の旋回ラインよりも少し遠回りをする。アクセルを開けてバイクを起こしながら直線で加速へと移るのだが、この時も、旋回ラインがワイドになっているせいで、直立するまでの間にアフリカツインは直線部分を消費し、加速区間が短く感じる。不足した分をアクセルを大きく開けて補うと、加速力は後輪を滑らせ、リアが横に流れる……。
そしてアクセルを閉じ、減速、という中で、ラップ1の最初のターンインと同じような現象が起こり、ワイドラインを通る印象に。旋回へと入るのに寝かすのが遅れる→立ち上がりの加速も一瞬遅れる→直線で挽回しようとアクセルを開ける→リアが流れる→減速が遅れる──ラップを重ねるほどに焦りのライディングになった。
8の字ターンテスト──4
セレクタブル トルク コントロール→OFF
G-スイッチ→ON
テスト3で、セレクタブル トルク コントロールをOFFにした結果、パワースライドを誘発した走りになった。それを逆算すると、やはり直線からアクセルを閉じ、減速、旋回のために寝かしこむ、という流れの中で、旋回へのキッカケになる寝かし込む時、一瞬の遅れから旋回が遅れる、という現象を反省し、理想のラインを走る事を心がけた。
ラップ1、直線部分からパイロンへのアプローチ。アクセルを閉じ、減速。やはりテスト2の時と同じく、G-スイッチをONにした効果がアクセルオフ時にすでに体感できる。後輪にエンジンブレーキがダイレクトにかかり、ブレーキングと合わせて、減速感が高い。また、それが旋回ラインへとバイクを寝かす瞬間に集中しやすく、寝かし込み、旋回への一連がまたもやスムーズに繋がる。コンパクトにくるりと回れるので、バイクを起こすためにアクセルを開け、バイクが思い通りに直立状態となり、直線部分での加速もテールスライドを抑えながらまっすぐ加速する印象だ。加速力が無駄に横に逃げない。これはG-スイッチの恩恵、というよりも、G-スイッチをONにしたことでアフリカツインに起きた走りの挙動の変化、なのだ。アクセルを開けた時はもちろん、G-スイッチが入っている方が加速時の制御がよりしやすい。この好印象はラップ2、ラップ3とも同様。「あ、今操作が遅れた、ラインが外れた……」という気分にならず「決まった!」というか、巧く乗れている印象が先に立つ。気分が良い。
結論をいうと、滑りやすい路面でアクセルのオン、オフを問わず、G-スイッチを入れると、8の字のような極端な走りの連続でも実にコントローラブルになる。テスト3で感じた後手後手な旋回となり「巧くいかない」という焦りが薄まり、G-スイッチは、僕と8の字とアフリカツインの走りを見事にチューニングしてくれたのである。
テスト後、開発者の伊東さんに確認したところ、「G-スイッチのOFF / ONでアクセル操作に対し、クラッチの制御が替わることで感じたベネフィットではないでしょうか」という意見だった。パイロン旋回中の速度は低く、その時点のクラッチ制御はG-スイッチのOFF / ONによる違いは無いというから、まさしくG-スイッチの恩恵だ。オフロードでG-スイッチはなるほど効果的だった。
セレクタブル トルク コントロールはどうなのか。
アフリカツインのセレクタブル トルク コントロールはどうだろう。効果の分かり易いジャリ道のオフロードで発進加速テストをして比較してみた。
アフリカツインの開発でテストを担当した開発者から聞いた話では「セレクタブル トルク コントロールのデフォルト(レベル3)は、加速する時車体が左右にブレず、まっすぐ加速をする。介入度を一段弱めたレベル2は、加速時に少し路面を堀りながら加速する、でも安定感はある。そして介入度が最も弱いレベル1は、オフロード経験者が旋回中のアクセル操作でテールスライドを少しする、ただし、オーバーアクションにならないようなレベルとしています」と聞いた。
そして、林道などでもっとも一般的な砂利道を想定して電子制御のプログラミングをしたという。その意味ではデフォルトが初級向け、レベル2が中級者向け、そして最弱の効き具合(レベル1)は上級者向け、と言うこともできるのだろう。
ただし、路面コンディションによって、その効き具合にも違いが出るのは当然。ライダーの好みによっても相性がある。それらを想定した上でテストに臨んだ。
テストは停止状態から発進加速で行った。主に発進直後にセレクタブル トルク コントロールがどのように作用、制御介入をするのかを検証。G-スイッチのダート路旋回テスト同様、発進からの加速は、アイドリング状態からアクセル全開までのアクセル開度を100%として、そのうちのアクセル開度10%ほどまでゆっくり開ける加速と、アクセル開度50%ほどまで一気に開け、急加速をする、の2種類の加速方法で、違いを体感すべく試してみたのだ。
セレクタブル トルク コントロールは、デフォルトレベル(レベル3)、2回目に最弱(レベル1)、3回目はオフにして介入度の変化を試した。このテストではセレクタブル トルク コントロールの比較に集中するため、走行モードはDモード、G-スイッチはデフォルト(OFF)の状態(通常、アスファルトを走り出す状態)でテストをしている。動画を観て頂きたい。
ジャリ道加速テスト──1
セレクタブル トルク コントロールル→デフォルト(レベル3)
G-スイッチ→デフォルト(OFF)
加速時アクセル開度→ゆっくりと10%開ける。
まずデフォルトレベルでトライ。アクセルをじわっと10%ほど開け加速を始めた瞬間、セレクタブル トルク コントロールが介入して加速音がブッブッブと途切れるようなエンジン音に変わる。乗っていると加速感はあるが、僅かに途切れる感触だ。車体は安定し、後輪がまっすぐ素直にバイクを押し出す印象。全く怖さはなく安心感が強い。滑る路面を忘れるほどスムーズな加速だ。
ジャリ道加速テスト──2
セレクタブル トルク コントロール→介入度最弱(レベル1)
G-スイッチ→デフォルト(OFF)
加速時アクセル開度→ゆっくりと10%開ける。
次にセレクタブル トルク コントロールの介入度は最弱のレベル1。アフリカツインの場合、ハンドル左側のスイッチボックスからレベル変更が簡単にできる。停止からじわっと10%まで開けて発進し加速。今度は先ほどより加速が途切れるような介入度が低く、速度の乗りが少し早いようにも思える。2速にシフトアップした瞬間あたりから介入度が強まった。それはデフォルトレベルと比較して、最弱の状態ではその介入する回数そのものが減少しているようにも感じる。
最弱の介入度レベルでも、滑り出した時はしっかり空転を抑える、という印象。ノーマルタイヤだからといって危ない状況になりそうな危うさは感じない。ライダーはアクセルを開け、バイクがまっすぐ加速するのに意識を集中し、バイクを直立させておくように意識するだけだった。直線であれば、今日のコンディションでも不安ナシ、というのが感想だ。
ジャリ道加速テスト──3
セレクタブル トルク コントロール→OFF
G-スイッチ→デフォルト(OFF)
加速時アクセル開度→ゆっくりと10%開ける。
次にセレクタブル トルク コントロールをOFFにしてみた。じわっと開ける10%程度ではレベル1と大差ないのでは、と想像しながら挑む。平地の加速ではまったくその通りの印象だった。不安なく発進完了。横滑りもない。仮に路面状況がジャリではなく濡れた土などでは容易に後輪は空転したかもしれない。
同時に、ハラハラしたのは隠しようのない事実で、セレクタブル トルク コントロールの手堅い空転制御が、ライダーを緊張から解き放つという意味で大きな後ろ盾だと感じた。
ジャリ道加速テスト──4
セレクタブル トルク コントロール→デフォルト(レベル3)
G-スイッチ→デフォルト(OFF)
加速時アクセル開度→50%まで急開
次のテストは発進時にアクセルを一気に50%ほどまで急開した状態で比べてみた。これはもう急加速と言えるレベルで、テストコース以外ではあえてやる必要性がないというもの。より明確にセレクタブル トルク コントロールの働きが解るものと実施した。
セレクタブル トルク コントロールがデフォルト状態では開けた瞬間から介入度がグッと高まる。ゆっくり10%開け、のテスト1では、開けた後、一気に制御が介入し、後輪が滑らないようエンジンを制御し加速→制御介入→加速、のサイクルを短く繰り返しつつ加速をした。アクセルを50%の開度で固定しているため、空転を察知して制御介入後、加速を再開しても、再びばっさりと介入して加速度が減衰。それを繰り返す。それでもノーマルタイヤ、ノーマルの空気圧にも関わらず危ない、と思うほどは滑らない。
ジャリ道加速テスト5
セレクタブル トルク コントロール→介入度最弱(レベル1)
G-スイッチ→デフォルト(OFF)
加速時アクセル開度→50%まで急開
次に、セレクタブル トルク コントロールを介入度最弱(レベル1)にして発進してみる。介入度が低いだけに、開け始めに後輪が路面をほじくるように空転する感触が強い。が、それを感知したセレクタブル トルク コントロールが後輪の空転を停めるべく介入した。その様子はデフォルト(レベル3)の介入よりもさらに加速と介入時の加減速の差が大きい。ガク、ガク、ガク、となりながら加速をする。加速をする時、後輪が路面を蹴る感じが大きい分、制御が入った時の加速が途切れる落差が大きい、と表現すればよいだろうか。それでいて速度の乗りは速いようにも感じる。ジャリ道ではそのような結果となった。
ジャリ道加速テスト6
セレクタブル トルク コントロール→OFF
G-スイッチ→デフォルト(OFF)
加速時アクセル開度→50%まで急開。
そしてセレクタブル トルク コントロールをOFFにした。停止状態からアクセル急開50%の加速をする。今までは制御が介入したが滞りなく加速をしてくれたが、滑る後輪を抑えるのは自分の経験だけ。ナーバスになる。
アクセルを開ける。その瞬間から後輪は大きく空転し後方にジャリが飛ぶ音がする。ライダーの僅かなバランスの崩れをついて、バイクがテールスライドを始める。加速方向に滑る、というより駆動力が横方向に逃げて暴れる、という印象だ。
ノーマルタイヤならよりコンディションがよい場面、またはオフロードタイヤを履いたことを念頭にしたレベルだと思った。もしくは砂地を走る時に選択すべき制御だろう。ちょっと冷や汗をかいた。
ここまでの印象としては、セレクタブル トルク コントロールを使っている段階では「これなら電子制御が無くてもいけるのでは?」と甘い幻想が脳裏をよぎったのは正直なところ。しかしアクセルを開けるほど、路面変化が大きいほど、OFFにしたときの要求されるライダーの仕事量は増える。スキル次第。たしかにそのとおり。50%の急開にして開けたスロットルを維持するのが精一杯。こんなに滑るのね、というのが偽らざる心境だ。今回は同一条件の比較が目的だったので、アクセル開度は一定としたが、本来であれば、セレクタブル トルク コントロールが介入した、ということは滑る路面で後輪が空転している、ということ。つまり、アクセルを戻し、後輪の空転を抑えた方が加速を得やすい、ということになる。こうした制御をいかしながらのライディングテクニックを探求するのがこれからの楽しみになるのだろう。
なにより、滑る、という思いから緊張感で体に力が入る。急加速をすると、バイクのセンターから僅かに体の重心がずれただけで後輪が流れたりする。まっすぐ進むことすら高い技量が求められる。セレクタブル トルク コントロールがいかに有効な存在かも理解できた。
もう一つテストをした。坂道発進。セレクタブル トルク コントロールをデフォルト(レベル3)とOFFの2種類で、アクセルをじわっと開度10%まで開けた時と50%まで急開したときで比較してみた。左足を地面に降ろし、リアブレーキを踏みながら停止。そこからアクセルを開けて発進する、坂道発進の手順だ。
ダート路坂道発進テスト──1
セレクタブル トルク コントロール→デフォルト(レベル3)
G-スイッチ→デフォルト(OFF)
加速時アクセル開度→ゆっくりと10%まで開ける。
まずセレクタブル トルク コントロールはデフォルト(レベル3)。停止状態からアクセル開度をゆっくりと10%まで開けて発進する。濡れたダート路。発進した直後からセレクタブル トルク コントロールは介入する。平坦路の加速テスト同様、介入の仕方は似ている。加速はするが制御も入る、というもの。アフリカツインは何事もないように発進をした。後輪が滑って横に動くということもなく、スルスル、すんなり発進し坂を上る、という印象だ。
ダート路坂道発進テスト──2
セレクタブル トルク コントロール→OFF
G-スイッチ→デフォルト(OFF)
加速時アクセル開度→ゆっくりと10%まで開ける。
効果をあらためて実感したのはセレクタブル トルク コントロールをOFFにして坂道発進したときだ。アクセルの開け方はダート路坂道発進テスト1と同じ。しかし、平坦路から加速するのとは異なり、坂を押し上げようとする後輪は、エンジンのパワーが伝わった瞬間から空転を開始し、バイクを直立させていないと、すぐに横滑りをはじめそう。停止状態からの発進では駆動力が横方向に逃げてしまうと、登坂力が落ち速度が落ちる。すると、バイクが不安定になり、アクセルを開けにくく、開けても後輪が滑りやすくなる、というスパイラルに陥る。そうならないようにライダーは細かく体重移動をして調整をする必要がある。これもコントロールする楽しさかもしれないが、この状況で坂道発進する時、いかにリスクなく、安全な場所までバイクを運ぶか、を優先したい場面。想像以上に低いアクセル開度からその違いがでたな、と思った。今回テストした坂道の斜度は林道ならどこでも遭遇しそうな登り坂である……。
ダート路坂道発進テスト──3
セレクタブル トルク コントロール→デフォルト(レベル3)
G-スイッチ→デフォルト(OFF)
加速時アクセル開度→50%まで急開。
すでにダート路登坂テスト1、2で体験した変化で答えは見えたように思うが、同じテストをアクセル開度50%でも行う。セレクタブル トルク コントロールをデフォルト(レベル3)にして坂道を発進。
一気にアクセルを開け走り出す。ジャリ道での発進加速同様、後輪の空転を抑える制御がしっかり入り、発進後一瞬にして加速が減衰。しかし、加速度が速いので、停止時に地面に着いていた左足をステップに上げるまでのわずかな時間、体が加速に遅れないよう神経を使う。バイクが傾くとそのまま後輪が滑り出すのでは、と少々不安になる。僅かにスライドしたがそれ以上にはならないので、取り越し苦労だったが、少し後輪を振りながら坂を上りきった。テストとはいえ、この場面でアフリカツインの50%のアクセル開度を与えるのは少々乱暴か……。
ダート路坂道発進テスト──4
セレクタブル トルク コントロール→OFF
G-スイッチ→デフォルト(OFF)
加速時アクセル開度→50%まで急開。
最後にセレクタブル トルク コントロールをOFFにしてアクセル開度50%を与え坂道発進する。これは映像を見て頂くのが一目瞭然。地面に着いていた足をステップに戻す前に後輪は右側に大きく滑り出し、慌ててバイクの傾きを補正し、軌道を修正。今度はその反動で反対側に滑り、その揺り返しでまた逆に滑る……。まっすぐ登らないのだ。
一見オフロードテクニックを駆使してライディングをしているようだが、テストでなければここまでする必要はまず無い。状況に対して明らかに駆動力が大きすぎる。もし、こんな開け方をしたあげく、バイクがコントロール不能になり、転倒でもしたら……。起こすだけで相当な体力を使うことになるし、怪我でもしたら大変だ。楽しいダートライディングも疲労困憊の苦い思い出になる可能性だってあるのだ。
テストを終えて
結論を言うと、動画を見て客観的に解る違い、セレクタブル トルク コントロールの効果は、走らせているライダーには明瞭に解る。今回のテストは反復作業でもあり、回数を重ねる毎に学習し、先んじて体が動いてしまうもの。だからある程度の予測のもと現象を受け止めているな、と振り返ることができる。
つまり、初めて通る場所、ツーリング先などで、滑らない、と思った路面が実は滑りやすかったりすると、ライダーが即応しきれないケースも考えられる。走り慣れた道でも、季節や天候によって路面状況が変わることも珍しくない。
ダートの坂道発進で「大丈夫、車体をまっすぐ、後輪の駆動力が掛かるようなシートへの座り位置を考えよう……」ということに集中し走らせる事、これはセレクタブル トルク コントロールがもたらす新しいライディングプレジャーだと思った。
後輪を盛大に滑らせ補正しながら派手に走ることも楽しいが、それに比肩するほど“ライディングの本質”を突いている。なにより、ライディングはサバイバル。転ばぬが勝ち。
もう一つ主張しておきたいのは、これらの装置がライディング技術と呼応してさらに楽しみを広げてくれることだ。アクセルの開け方などにより、より駆動力を引き出せるよう、右手をコントロールしてみるとそこには新しい深みがあった。スキルによって深みも味わいも変化するライディングの歓びは、G-スイッチ、セレクタブル トルク コントロールという頼もしい客観的サポートが加わった今も同様に存在する。僕達を助けてくれるこのコンビを得た上で、というのが大きなベネフィットだ。
そして、今回の事で強く感じたのは、G-スイッチとセレクタブル トルク コントロールを使いこなし、路面に合わせて自分のスキルとバイクをチューニングすることで、走る楽しさがさらに広がる、ということ。
もちろん、アフリカツインの基本パッケージの性能の高さがあり、DCTがダートでの楽しみを広めてくれたことを基本とするが、そこに加わったアディショナルな装備、セレクタブル トルク コントロールの存在は、オフロード好きにも、オフロードには用がない、という人にも同様の割合で大きなアドバンテージとなる。
また、オフロードでの走りをもっと深めたい、という人にはG-スイッチが嬉しい装備だと実感した。これなら何処へでも行きたくなる。そう、このバイクには“頼りになる仲間”がいつも乗っているのだ。 「さぁ、新しい旅に出ようではありませんか!」とアフリカツインは言っているのである。
松井 勉モータージャーナリスト
1963年東京生まれ。日本のモーターサイクル・ジャーナリスト。
1986年から、インタビュー、試乗インプレッション記事、レース参加リポート、などを雑誌、バイク専門誌に寄稿。ラリー経験も豊富でDAKARラリー、SCORE BAJA1000にも参加している。Africa Twin DCTで、アメリカ西海岸、バハ・カリフォルニア半島もAdventure Touring している。
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