POINTこの記事でわかること
- Hondaのブラジルでの活動は1971年のバイク輸入販売から始まった
- 1976年の工場の創業に際して果樹栽培、森林再生、農業という3つのプロジェクトも同時始動
- 食糧寄付、排水処理などに注力し、現地との共生を創業開始当初から重視してきた
Hondaは、2050年までにすべての製品と企業活動においてカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げており、持続可能な開発目標(SDGs)に沿った事業活動の推進をしています。Hondaの経済的発展並びに企業の存続は、環境における社会的責任を全うするための技術開発や企業姿勢と密接に結びついているのです。
1971年、ブラジルでの事業を開始
Hondaのブラジルでの活動は、1971年のバイクの輸入販売から始まりました。その数年後に創業者である本田宗一郎が夫婦でブラジルを訪れた際、ブラジルにおける事業の成功を確信しました。実はこのとき既にHonda製品はバイクの品質はもちろんのこと、アフターサービスのレベルの高さ、スペアパーツの入手の容易さ、整備士のレベルの高さなどが評価され、ブラジルの人々の間で好意的に受け取られていたのです。
1970年代半ば、ブラジルでは大幅な法改正があり、あらゆる車両の輸入が禁止されてしまいました。事業開始数年という重要な時期に、Hondaはブラジル事業から撤退するか、このままブラジルで製品を製造し続けるかの選択を迫られたのでした。
後者を選んだ場合でも、当時マナウスの地でバイクを製造することは困難な状況でした。マナウスの近くに部品の供給元となる事業者がなかったことに加え、主要市場であったブラジル南東部へ製品を運ぶ道路もなく、事業を安定的に継続させるための労働力も不足していたためです。
しかしこのとき、Hondaの企業文化であるチャレンジ精神が奏功し、事業存続を選択。1976年にブラジル初の工場がアマゾナス州の州都マナウスに建設されました。
2024年にマナウス工場は創業48年目を迎え、これまでに出荷されたバイクの総数は2,900万台を突破。モトホンダ・ダ・アマゾニアでは現在8,600人以上の従業員の力により、19車種・5,500台以上のバイクを1日に生産しています。
またこれ以外にも、モトホンダ・ダ・アマゾニアは創業開始以来、環境管理・保全施策を実施し、従業員と地域社会・環境に利益を還元してきました。
現地との共生を図るため、3つの環境保護プロジェクトを始動
マナウスでの事業が順調に発展するにつれ、現地生産品の品質管理と改良を目的としたバイク試験場をつくる必要性が増していきました。
ただ、試験場の選定は容易ではありませんでした。テストコースを建設するだけの十分な広さがあり、工場に近く物流に支障を来たさないことに加え、新製品の機密を守るために都市から十分に離れているといった条件を満たす必要があったためです。こういった様々な条件下、環境との調和を図りながらできるだけ森林を保全することを目指し、土地の選定が行われたのでした。
結果、工場から80㎞離れたリオ・プレト・ダ・エバに1,000ha以上の理想的な土地が見つかりました。ただし、この土地には、アマゾンに匹敵する、生物多様性を持つ原生林の巨大な自然保護区があったのです。
この土地の総面積の一部は現地の法律に則り、野生動物や原生植物を保護するために確保せねばなりませんでした。
そういったなか立ち上がったのが、果樹栽培、森林再生、農業という3つのプロジェクトです。その一つ、農業プロジェクトは2003年に始まりました。農業プロジェクトにおいてまず取り組んだのが野菜の栽培です。栽培にあたり、養分を含んだ水溶液(水耕栽培)を利用することで土を使わずに植物を生育させるシステムが採用されました。これにより、無農薬で栄養価の高い食品をマナウス工場の従業員に提供することができるようになりました。
またサービス管理エリアのマネージャーエドアルド・アルベス・デ・アシス曰く「社員が日々野菜を絶賛し、プロジェクトに感謝する姿を工場内のレストランの責任者としてしばしば目にします」とのことです。
収穫された作物のうち、約160㎏のレタスは、週に2回、1日1万1,000食以上を提供する工場の社員食堂に送られます。他に、144tを超える果物や野菜がGACC(Grupo de Apoio A Criança Com Câncer do Amazonas/小児がん患者支援団体)などの慈善団体に寄付されています。
経済的に余裕のない家族に宿泊施設と食事を提供しているGACCの支援を受ける人々の中に、白血病を患う少女・エステルちゃんがいます。彼女は2歳のときに白血病と診断されました。アマゾナスの多くの町、特にエステルちゃんたちの住むような川のほとりでは、高度な医療を受けることができません。そのため、エステルちゃんと母親は5日間かけてボートで川を渡らなければ、専門病院で治療を受けることができませんでした。GACCの支援のおかげで、エステルちゃんの治療は3年目に突入しています。
GACCの栄養士であるタミレス・ルアナ・ロドリゲス・コスタさんは「私たちの施設にHondaが食料を寄付してくれることで、子どもたちに十分な食事や治療中に必要な栄養素を提供することができ、とても助かっています。Hondaのパートナーシップと支援に感謝します」と、語ります。
工場排水の完全浄水が可能な最新処理施設
この他にもモトホンダでは、環境保全を目的とした法定保護区に自生する動植物の調査や、廃棄物の削減・再利用の手法を開発し続けています。とりわけ23年間稼動しているマナウスの廃水処理施設は、技術的ベンチマークであり、南米におけるHondaの最も近代的な施設の一つとされています。
自然保護と地域社会への配慮を重視し、Hondaは2001年よりこの大規模な浄水プロジェクトを開始。工場の生産工程、食堂、トイレから出る排水の処理を担っています。
この排水処理施設では1カ月あたり7,500万ℓ(人口3万人の都市への供給量に相当)の排水を処理する能力を持ち、物理化学的処理と生物学的処理を同じ施設で行うことができるため、浄化プロセスをより効率的に進めることができます。このことから、Hondaの南米における最も近代的な施設の1つとして注目されているのです。
浄化処理が完了すると、水は再利用できるようになり、再利用された水は工場のかんがい(農作物を作るために人工的に排水と給水を行う技術)と工業過程で出た汚れの洗浄という2つの目的で使用されます。また、処理水の一部は自然に還元され、イガラペス生態系の保全に貢献しています。イガラペスとは、アマゾンの森を貫く細長い川のことで、地域コミュニティにとって重要な交通手段であると同時に動物の生物多様性にも寄与しています。
敷地内の湖には汚染物質を除去した水が放流されており、ここで魚が自由に泳いでいる姿が確認されることからも、排水処理の質の高さがうかがえます。
「廃水処理施設は、従業員だけでなく、国の環境機関からも認められており、私たちはそのことを誇りに思っています」と入社以来12年間、廃水処理施設で働いているマルシアナ・リマさんは語ります。
これらは、「自由な移動の喜び」と「豊かで持続可能な社会」の実現を目指すHondaの環境・社会的責任を示す取り組みの一例に過ぎません。Hondaは、今日の消費者の期待を上回るだけでなく、将来の世代のための発展をこれからも考え続けていきます。
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現地に到着してすぐ、マナウスの土壌は野菜栽培に必要な栄養素が不足していることがわかりました。私たちは早速土壌の成分を分析し、大栄養素と微量栄養素、有機化合物の補正に取りかかりました。さらに、良い苗を保有している生産者の選定・研修にも力を入れ、20年以上かけてチームを整えてきました。このプロジェクトに参加できたことを誇りに思います。