POINTこの記事でわかること
- 130年前の蒸気自動車から最新F1マシンまでが集結する自動車の祭典
- F1参戦60周年を記念し、HondaのF1初優勝マシンが一夜限りの復活
- 伝説のF1マシンのドライバーにHondaの元ワークスライダー宮城光さんと角田裕毅選手が登場
自動車とモータースポーツの過去、現在、未来が交差する場所。それがグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードです。今回は舞台となるイギリス ウェスト・サセックス州グッドウッドから2024年のイベントレポートをお届けします。
F1初参戦60周年を記念し、HondaのF1初優勝マシンが60年ぶりに走行
グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードの舞台となるのは、イギリスのウェスト・サセックス州にあるグッドウッドです。英国貴族リッチモンド公爵家に代々伝わる4452ヘクタール(東京ドームおよそ1000個分)の広大な私有地に、世界中の様々な自動車ブランドがブースを構えて新旧モデルを展示するほか、丘陵地を駆け上るヒルクライムコースでは、130年前に作られた蒸気自動車から最新のF1マシンまで、合計600台以上の車両が走行するシーンを間近に見ることができます。このコースは、藁を固めて作ったストローベイルと呼ばれる昔ながらの緩衝材で囲まれていることも特徴のひとつです。
この一大イベントを体験するため、イベントが行われる週末には20万人ともいわれる大観衆が訪れ、古今東西のレーシングドライバーや自動車メーカーの首脳が一同に介します。つまり、フェスティバル・オブ・スピードはもはや自動車イベントの枠を大きく超え、国際的な自動車文化を象徴する巨大な社交場でもあるのです。
フェスティバル・オブ・スピードでは、毎年、様々なテーマを設けるとともに、そのテーマに相応しい自動車メーカーを招待するのが恒例となっています。そして今年、1964年のF1初参戦から数えてちょうど60周年を迎えた日本のHondaも、世界の名だたる自動車ブランドとともに光栄にも招待を受けることとなりました。なお、Hondaがフェスティバル・オブ・スピードに招かれるのは、2005年、2019年に続いて3度目のことです。
今回はF1参戦60周年記念ということで、第一期Honda F1を代表する名作マシン“RA272”が現地に送り込まれました。RA272は1965年メキシコグランプリでHondaにF1初優勝をもたらした、まさにそのマシンです。これとは別に、オラクル・レッドブル・レーシングが持ち込んだRB18も登場。さらには二輪の世界選手権を戦ったマシンRC142やRC213Vも出展され、二輪と四輪の両方でHonda・モータースポーツの過去と現在を表現する形となりました。
伝説のF1マシンの復活 60年ぶりの走行は観客の拍手喝采で見送られた
RA272を操るドライバーについても、Hondaは過去と現在を結びつけるアイデアを温めていました。
1990年代にホンダコレクションホールが完成して以来、RA272のレストア(修復)を見守り、そのコンディションを確認するテストドライバーを務めてきたのは、Hondaの元ワークスライダーでもある宮城 光さんです。一方で、ビザ・キャッシュアップ・RB・F1チームの角田裕毅選手は、鈴鹿サーキットレーシングスクール(現ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿/HRS)の卒業生で、ホンダ・レーシング(HRC)が技術支援を行うパワーユニットでF1世界選手権を戦う現役ドライバー。そこで、土曜日の走行を宮城さん、日曜日の走行を角田選手に任せることで、Honda F1の歴史を過去から未来へとつなごうとしたのです。
もっとも、およそ60年前に製作されたF1マシンであるRA272を、海外のイベントで他の参加車に混じって走らせるのは、容易なことではありません。もちろん、イギリスに運び込む前には入念なメンテナンスが実施されましたが、それでもチーフメカニックの川畑 久によると「エンジンをかけるだけでも奇跡に近いこと」だそうです。
事実、初日の走行となった土曜日には、スタート地点でのエンジン始動に予想外に手間取った影響で、宮城さんは予定していた枠とは別のタイミングでヒルクライムに挑みました。
このとき、日本からやってきたHondaのメカニックたちは、なんとかRA272の走りを観客の皆さんに見ていただこうとして、各部のチェック、補助バッテリーの交換、最後には押し掛け※と、ありとあらゆる手立てを試みました。そして、ついにエンジンが再始動に成功したとき、固唾を呑みながらその様子を見つめていた観客の皆さんから大きな拍手が沸き起こりました。それは、メカニックたちの決して諦めない姿勢と、60年のときを経て美しいエンジン・サウンドを奏でるRA272に送られた、賞賛の拍手だったのかもしれません。このとき、その場にいあわせたHonda関係者は、誰もが胸が熱くなるような感動を味わったといいます。
※人力でクルマを押してエンジンをかける方法
一方で、日曜日はエンジンが比較的スムーズに始動したため、角田選手は幸運なことに予定どおり1回目の走行を終えることができました。
60年前と最新F1マシンの乗り比べに角田裕毅選手も歓喜
その角田選手、走行直後にはこんな話を聞かせてくれました。
「スタート前に『思いやりを持って、優しく扱ってくださいね』とのアドバイスを受けたので、発進ではエンストさせないように、ちょっと丁寧すぎるくらいにドライブしました。その後もジェントルに、ゆっくりとアクセルペダルを踏んでいったところ、エンジンも気持ちよく回ってくれて、本当に気持ちよく走行を終えることができました。エンジンは9,500rpmとか10,000rpmまで回しましたが、心地いい振動が骨の髄まで染み渡ってくるような感覚でした。クルマのダイレクトな感触とか、一体感みたいなものは現代のクルマでは味わえないもので、とても楽しかったのですが、1回目の走行だったので、まだ存分に楽しんだとはいえません。この辺は、2回目の走行に期待したいところです」
そう語っていた角田選手ですが、1回目の走行後にオラクル・レッドブル・レーシング側の都合で状況が一転。Hondaの了承を受けて、2回目は角田選手がRB18、宮城さんがRA272に搭乗することとなります。結果的には、Hondaと縁が深いふたりのドライバーが歴史的なF1マシンと現代のF1マシンをそれぞれ操ることになり、本来のコンセプトにより近い状況が生まれたともいえるでしょう。
2回目の走行を終えた角田選手は、次のように語りました。
「60年前と現代のF1マシンを乗り比べることができて、とても新鮮な経験となりました。特に、RA272の、ダイレクト感というか、いまのマシンにはないような振動を感じながら加速していく気持ちよさは、なかなか味わえないものでした。とはいえ、それぞれの時代の技術を結集して作られたクルマという面では、2台に共通するものがあったと思います。このような機会をいただいて本当に光栄です。そして、初めてのグッドウッド、本当に楽しかったです。機会があれば、また是非、挑戦したいと思います」
こうして、数々の奇跡と幸運に恵まれながら、Hondaのフェスティバル・オブ・スピードは幕を閉じたのでした。
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