製品 2024.03.27

5人の30代デザイナーが目指したのは「ちょうど良さ」。CBR650R / CB650R DESIGNERS STORY[アーカイブ掲載]

5人の30代デザイナーが目指したのは「ちょうど良さ」。CBR650R / CB650R DESIGNERS STORY[アーカイブ掲載]

2019年3月に発売されたCBR650RとCB650R。開発に携わったデザイナーチームは、ちょうど若手でもベテランでもない“真ん中世代”。2つのバイクは、どんな人のどんな存在であってほしいのか、彼らにその想いを聞いてみました。

吉冨裕輝

CBR650R デザイナー もっと見る 閉じる 吉冨裕輝

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渡邉和樹

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二日市誠

CBR650R&CB650R 3Dモデラー もっと見る 閉じる 二日市誠

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石栗嘉之

CBR650R モデラー もっと見る 閉じる 石栗嘉之

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渡辺孝

CB650R モデラー もっと見る 閉じる 渡辺孝

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真ん中世代の価値観、“ちょうどいいがよくわかる”

CBR650RとCB650R、これらのモデルに携わった皆さんは全員が30代です。デザインという主要部分を、同世代で、しかも比較的若手で構成されるのは珍しいことのように思えますがいかがでしょうか?

吉冨
吉冨

30代が揃ったのはたまたまです。なんでも言いやすい代わりに、逆にグイグイ言われる遠慮のない関係性が築けたことはよかったですね。特に僕と(渡邉)和樹とは同年齢の同期入社。そんな2人がCBR650RとCB650Rのデザインをそれぞれ担当することになったわけですが、機種開発の後半には勤務地は埼玉と熊本で離れていたにもかかわらず、まるで日常会話の延長のようにいつもスムーズに情報のやり取りを行うことができました。

渡辺
渡辺

650ccという排気量が自分達の世代とちょうど被ると思うんです。特にネイキッドの方は下にCB125RとCB250Rがあり、これらをフレッシュな20代とするなら、トップモデルのCB1000Rは40代以上のベテラン。650はそのどちらにも属さず、その意味で自分自身を投影しながら描くことできました。

その30代をどういう世代だと感じていらっしゃいますか?

石栗
石栗

ひと言で表現するならフレキシブルな世代と言えるかもしれません。キャリアを積んだ先輩と新しい感性を持つ後輩の声をフラットに聞き、それを天秤にかけたり、取捨選択したりしながら判断できる。もしくは判断を任せてもらえる立場になったことは大きいですね。

渡邉
渡邉

20代や40代以上の人たちと比べて、明らかに違っている部分なんて、実際にはそう多くないと思います。ただ、悪ノリし過ぎず、だからといって保守的にもなり過ぎないちょうどよさ。その加減がわかり始めるのが、30代に入ってからじゃないでしょうか。

二日市
二日市

モノを買うときに世代が出やすいかもしれません。特に今は価格が安いか、高いかの両極端になりがちですよね。若い頃は安さ優先で構わないものの、30代に入ってくるとあまりチープなモノはどうかと思いますし、とはいえ贅沢できるほどの余裕もない。ここにいるメンバーがまさにそうですが、家庭があるとなおさらでしょう。いろいろな制約の中で、ちょうどいいモノを選ぼうとするとなかなか難しく、さまざまな場面でそうした狭間にいることを実感するのが僕らの世代ですね。

“ちょうどいい”を詰め込んだ妥協のない美しさを表現する

皆さんの世代を取り巻くそうした環境や感覚が、CBR650RとCB650Rに反映されていますか?

吉冨
吉冨

もちろん。「自分たちが今欲しいバイク」を徹底的に深堀りし、行き着いたカタチ、質感、カラーリングが投影されています。先代モデルのCBR650FやCB650Fとは大きく変わりましたが、年月の経過やユーザーの嗜好、トレンドの変化も踏まえた、あるべきデザインになっていると思います。シンプルでわかりやすく、悪目立ちしないけれど無表情じゃない。そのバランスを精査しながら、(渡辺)孝さんの言う「ちょうどいい」感じをフルカウルとネイキッドのそれぞれで表現しています。

渡邉
渡邉

ただカッコいいからみたいなのはもういらない。なぜこの形状にしたのか、なぜこの表面処理なのか、加飾ではない理由のあるデザインにしています。長く使えるプレミアムなモノが欲しくても、闇雲に高価だと現実的じゃない。機能と美のバランスを最大限に図りながら、手に届く範囲に収まっていることを意識していますね。モノ選びの基準が安さありきではなく、デザインや質へシフトしていく世代に選んでもらえるとうれしいです。

皆さんの世代を取り巻くそうした環境や感覚が、CBR650RとCB650Rに反映されていますか?

石栗
石栗

僕らが密にコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進めていることを周囲はわかってくれていました。そのため、明確なロジックとともに結果を報告していくと意外と障壁はなかったですね。

渡辺
渡辺

「CBR」も「CB」もHondaの大きなブランドであり、年齢や年代によって思い入れはさまざま。それを裏切らず、なおかつ自由に世代を行き来できるモデルとして受け入れられているように感じます。CBR650RとCB650Rは、多岐にわたる兄弟モデルの中、例えるなら大らかで人当りがいい次男。そんな存在ですね。

渡邉
渡邉

デザイナーはスケッチで、モデラーはクレイの粘土を削ったりしてバランスを取りながら「ちょうどいい」を表現できますが、一番大変だったのはそれをデータ化する二日市さんでしたよね。

二日市
二日市

本当です、それ。デザイナーがつくりたい理想を描き、それを立体化するのがモデラーですが、僕の仕事は量産に備えて、パーツの一つひとつをデータ化すること。つまり、そこに「ちょうどいい」なんていう、あいまいな表現はないわけです。「もう少し色気が欲しい」とか「ここはダイナミックに」とか「ここはパキパキって感じじゃなくて有機的に仕上げて」みたいなニュアンスを数値で再現しなければならず、そのせめぎ合いというか、つばぜり合いはなかなか大変でした。

吉冨
吉冨

デザイナーの仕事は2Dの世界ゆえ自由度が高い反面、それを3Dにしていくとどこかで辻褄が合わないことも多々あります。その矛盾を上手く汲み取って表現してくれるのがモデラーであり、最後に帳尻を合わせてくれるのが二日市さんのような3Dモデラー。燃料タンクのデータだけで14回もつくり直しましたよね。みんなの理想通りのカタチで製造するためにトライを繰り返し、妥協しなかったからこそ生まれたアウトプットだと思っています。

異なる2つのキャラクター

CBR650RとCB650Rの違いをごく簡単に言えば、カウルの有無です。プラットフォームが共通のモデルゆえの苦労があるとすれば、それはどういったところでしょうか?

渡邉
渡邉

「“ミドルSSP(スーパースポーツ)”を目指したCBR650R」と「先進的でありながら、よりバイクらしい“エモーショナル”な佇まいや質感を目指したCB650R」。例えばCBR650Rであれば、リアカウルを跳ね上げて高い運動性を際立たせたい。CB650Rがストリートファイターでそのままカウルを取ればよかったのですが、実際にはよりスタンダードなネイキッドのため、むしろシートは下げたい。燃料タンクも同様で、スーパースポーツなら短くコンパクトに、逆にネイキッドなら長く伸びやかにしたい。それを共通パーツで表現する必要があったため、バランスを図るのは簡単ではありませんでした。

渡辺
渡辺

CB650Rのデザインが少し先行してスタートしたのですが、石栗さんが「カウルのことはこっちでなんとかするから、気にせず好きにしていいよ」って言ってくれて楽になりましたね。そのおかげでネイキッドのスタイリングに集中でき、紆余曲折を経て最終的にどちらのモデルもいいところに落ち着きました。

制約の中、やはり苦労があったわけなのですね。そこも同世代の力で乗り越えられたことはとてもよかったです。では、それぞれのモデルをどんな人に、どんな風に乗ってもらいたいと考えていますか?

吉冨
吉冨

基本的には30代の、つまり我々と同世代のライダーを想定しています。価格や車重、エンジンパワーはちょうどいいところにありますが、だからといってスタイリングは落ち着き過ぎず、機能を明確にするため、かなりトガらせています。CBR650Rにはサーキットも似合うシャープさを与えていますし、CB650Rではエモーショナルな質感に特化。それでいてお互いにクロスオーバーする部分がありますから、極めて幅広い使い方に応えてくれるモデルだと考えています。

石栗
石栗

650ccという排気量は、いわゆるミドルクラスにカテゴライズされています。上にも下にも振れる余白があるとも言え、その懐の深さが30代を中心に広がっていくといいですね。担当したCBR650Rを引き合いに出すと、若い世代の好みにも応えてくれるアグレッシブさと、ベテラン世代も気負うことなく乗れるスタンダードバイクの雰囲気を併せ持っていると自負しています。スペックやヒエラルキーに惑わされず、自分にとって何がいいか。そういう価値観で選んでいただけるモデルですし、事実それにふさわしい仕上がりになっているはずです。

デザインのこだわり

CBR650R

CBR-DNAを継承したダイナミックなキャラクター

CBR650R

SSPが持つ“力強い塊が前方へと喰らいつくような勢い”を“タンクからミドルカウルへ繋がるダイナミックな流れ”、“ミドルカウルからマフラーまで抜ける軽快感”によって表現。CBRのボディラインを継承しつつ、ショートテールによってより強調されたフロントのマスボリュームと前傾感のついたプロポーションがCBR650R独自のキャラクターを生み出した。

CBRフェイス

CBR650R

CBRシリーズのアイデンティティである精悍な眼差しのツインヘッドライトを採用することで、“F”から“R”への進化、運動性能の高さを表現。またCBRならではの先進のエアロダイナミクスを取り入れたカウルやヘッドライト下のダクトなど、本来のスーパースポーツとしての“機能に裏付けされたスタイリング”を目指した。

ツインラムエアダクト

CBR650R

デザイナーの発案で生まれたラムエアダクト。従来車はフロントに吸入口のない自然吸気型エアボックスであったが、ラムエアダクトが描かれた一枚のスケッチを発端に開発チームで検証を開始。開口部の大きさや形状、表面処理に至るまでテストと検討を重ね、性能向上を実現させるとともに、ライダーへさらなる加速を予感させる表現をした。

SSPコックピット

CBR650R

「スポーツバイクに乗る高揚感」を演出するために、キーをコックピット部から排除するなど、メーターまわりの構成を極力シンプルに統一、必要な情報をすばやく直感的にライダーに伝えることを重視した。加えてハンドルとステップポジションを変更し、より前傾感を強めることによって、走りを楽しめるライディングポジションとした。

エアアウトレット&レイヤー

CBR650R

効率的な冷却・排熱を狙ったエアアウトレットとレイヤー。フルフェアリングされた全体のバランスを外観的に引き締めた印象を与えるだけではなく、アウトレット形状を、エキゾーストパイプのラインとキャラクターラインに調和させることによって、アイデンティティである直4(直列4気筒)のエキゾーストパイプの曲線美を“魅せる”表現をした。

CB650R

先進性とエモーショルを両立した佇まい

CB650R

モーターサイクルらしいエモーショナルな佇まいを目指し、外装パーツのみならずフレームもミニマイズ化し“凝縮感”を出すことで足まわりを際立たせ、それにより踏ん張りの利いた安定感のあるプロポーションを表現。また先進技術によってコンパクトにした機能パーツによって、直4エンジンの造形やエキゾーストパイプの曲線などの機能美を“魅せる”表現をした。

フロントまわりの凝縮感

CB650R

力強く安定感のあるイメージを実現するために、ヘッドライトやエアインテークダクトを車体のセンターに引き寄せることで“凝縮感”を表現。また多くの樹脂パーツをアルミに置き換え、性能を確保しながらミニマイズ化することで、ライダーの視界をさえぎることのないコックピットまわりと、コンパクトなパッケージングを実現。同時にワンクラス上の上質感にも寄与している。

ツインエアダクト

CB650R

“機能とスタイリングの両立”を実現させたいというデザイナーの想いから生まれたチャンバー吸気型ツインエアダクト。吸気効率の高いダクト形状と構造から見直したエアボックスにより、コンパクトでありながら吸気性能を向上させるとともに、シャープで先進性のあるデザインを施した。

伸びやかでメリハリあるフューエルタンク

CB650R

フューエルタンク前端のシャープな形状のキーカバーエリアから、“鍛え上げられた筋肉”のような有機的なタンク後端までを面変化として調和させることによって、メリハリのある造形とネイキッドバイク然とした前後の伸びやかさを表現。CB650Rのキャラクターとなる存在感のあるフューエルタンクを目指した。

リアまわり

CB650R

CB/CBRと共通デザインでありながら、それぞれの個性と違いを表現することを目指した。CB650Rはブラックアウトしたパーツ構成によってカウルの存在感をなくしシンプルさを強調。CBR650Rはフロントまわりのフェアリングのボリュームとリアまわりが調和するように、外装パーツの裏側まで塗装を施し存在感を表現した。

ちょうどいい Point 01

ミドルクラス
650ccという排気量のカテゴライズは、いわゆるミドルクラス。上にも下にも振れる余白があるとも言え、その懐の深さが真ん中世代にとって“ちょうどいい”。

ちょうどいい Point 02

バランス
機能と美のバランスを最大限に図りながら、価格帯も真ん中世代にとって手が届く範囲に収まっている。モノ選びの基準が安さありきではなく、デザインや質へシフトしていく真ん中世代に選んでもらいたい“ちょうどいい”バランス。

ちょうどいい Point 03

存在感
兄弟モデルの中、大らかで人当りがいい次男のような存在。CBR650Rはサーキットも似合うシャープさがあり、CB650Rはエモーショナルな質感に特化していて、悪目立ちしないけれど無表情じゃない“ちょうどいい”佇まい。

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