第Ⅰ章 経営

想いを未来へ

取締役 代表執行役社長
三部 敏宏

ホンダは創業以来、幾多の困難に直面しながらも、その現実に真正面から立ち向かい
時代に先駆けるチャレンジを繰り返すことで突破口を開き、今日まで成長を遂げてきました。
太平洋戦争の終戦から間もなく、日本が復興を目指し始めたそのただ中で
「技術で人の役に立ちたい」という想いを創業者である本田宗一郎が胸に抱き
歩み始めた時から今日に至るまで、それは一貫しています。
創業以来の75年にわたる足跡を編纂した経営編は、世の中が大きく変わる中
ホンダがいかにして時代の波を捉え、または乗り越えてきたのか、その時々の経営判断を紹介しています。
創業者が掲げ、歴代の経営者が継承してきたホンダフィロソフィーの本質を
具体的な実践例として記しています。

変わらないもの 変えてはいけないもの

 1956年に制定された社是は、二度にわたって手を加えられていますが、その趣旨・本質は時代を超えて、ホンダの考えがとても明確に表現されています。お客様の喜びを第一に置き、私たちが何をするために存在するかを端的に言い表しています。「人間尊重」と「三つの喜び」もまた、私たちの行動指針として、ホンダの全ての事業活動のDNAとして、まさに血肉となって息づいている理念です。
 いつの時代にあっても、先を見通すことほど難しいことはありません。創業者をはじめとして、歴代の経営者はそれぞれの時代に難問と向き合い、挑戦し、挫折を乗り越え、失敗から学んで前へ進んできました。その時々の判断、決断のよりどころとしてホンダフィロソフィーがありました。
 経営という観点からホンダの歴史を振り返り、フィロソフィーがいかに実践されてきたかを知ることは、未来のホンダをどう創造していくべきかの指針となり、ホンダで働く一人ひとりにとっては、困難に立ち向かう場面での一筋の光となることでしょう。激変する世界の中にあって、不変のフィロソフィーを有することは、私たちホンダの大きな強みなのです。

変わるもの 変わるべきもの

 ホンダがごく小さな会社に過ぎなかった草創期、本田宗一郎は、世界一になると宣言しました。周囲の誰一人、そんなことができるわけがないと思っていた時代です。しかし、実現の手だてが見えない中で夢を描き、全身全霊を懸けて取り組んだからこそ、世界一への歩みが始まり、今のホンダがあります。
 ホンダの企業活動の原点は何かといえば、従業員一人ひとりのやりたいこと、すなわち夢の実現にこそあるのです。夢を描き、実現する力が私たちの原点です。

 この考えに基づき75周年を迎えた今年、グローバルブランドスローガンを再定義し、「The Power of Dreams」に「How we move you.」を副文として加えました。
 ホンダらしさとは、ホンダの製品やサービスそのものにあるのではなく、それらをつくり出す一人ひとりが目指す「夢」に宿っているのです。
 デジタル・ITの急激な進化や、環境意識と社会構造の変化によって、世界は激変の時代を迎えています。自動車産業においては、CASEやMaaSに象徴される新たな価値と、カーボンフリーという社会命題に直面し、ホンダのみならず、関連するさまざまな産業のあり方が大きく変わろうとしています。100年に一度といわれる大きな変化の時代を迎えた今こそ、ホンダが次のステージへと進化を遂げる絶好の機会だと捉え、「第二の創業」の気概を持って、これからのホンダを皆さんと一緒に創っていきたいと考えています。
 夢は常に変化していきます。過去の成功体験にこだわって、チャレンジを恐れていては、新しい夢を描くことはできません。私たち一人ひとりが今一度、自分の夢に思いをはせ、夢のチカラを起点に、人の心を動かすことができるよう、そして自らが変わることを恐れることなく、新たな挑戦を続けていきましょう。

 未来の歴史は、私たちの手に委ねられています。

  • :2023年4月、ホンダがこれからも存在を期待される企業であり続けるために、ホンダのありたい姿、真に実現したいこと、提供価値を明確化するべくグローバルブランドスローガン「The Power of Dreams」が再定義された。スローガンに添えた「How we move you. 」は、ホンダの一人ひとりの夢を実現する力が、人と人の心を動かすことを示している