
四半世紀ぶりに復活した「PRELUDE」はどんなモデルに?
――1996年に発売された5代目から四半世紀以上を経て、Hondaのラインアップに「PRELUDE」の名が復活します。このモデルにはどのような意味が込められているのでしょうか?
山上
PRELUDEは、元々クラシック音楽の「前奏曲」という意味を持っています。つまり、新たな始まりや序章を象徴する言葉ですね。新型PRELUDEもまた、新しい時代に先駆けるスポーツカーとして、どこまでも行きたくなるような走りの楽しさを再定義する存在になりたいと思っています。

――PRELUDEの復活が決まったとき、どのようなモデルにしようと考えましたか?
山上
正直、最初から「PRELUDEを復活させるぞ!」と決めて開発したわけではないんです。今の時代に合った、新しいスポーツモデルのあり方を模索していたら、結果としてPRELUDEという名前がぴったりだった、という流れですね。だからこそ、過去のクルマを単に復刻するのではなく、現代の技術や価値観に合わせたクルマにすることを大切にしました。
――新たな時代のPRELUDEとして、求めた価値はどんなものだったのでしょうか?
山上
やっぱり反響がどうしてもヘリテージという部分に寄ってしまいがちなんですよね。でも、私たちとしては、まずそういった先入観に染まってほしくないという思いがありました。
今回のPRELUDEは、決して「過去のやり直し」ではありません。ただ、歴代モデルの良さをしっかり学び、継承しつつ、現代にふさわしい形で進化させることを大切にしました。今の流行を取り入れる部分もありますが、流されすぎてしまうのも違う。そういったバランスを取ることが、今の時代には大切なことだと考えています。
時代によってPRELUDEの特徴は変化してきましたが、共通しているのは「スポーツ性」と「スペシャリティー(特別感)」ですね。そして、常にその時代の最先端技術を積極的に取り入れるというチャレンジ精神も大事なポイントです。今回の新型も、PRELUDEらしさを受け継ぎながら、新しい時代のスポーツカーとしてどうあるべきかを突き詰めました。
――1980~90年代を知る人は、PRELUDEと言えば“デートに出かけるクルマ”としてのイメージがあるかもしれません
山上
今と昔ではデートの形も変わっていますが、その本質は変わらず、「誰かと特別な時間を過ごすこと」なのかなと考えました。
そう考えると、PRELUDEは「いろんなシーンで、特別な時間を楽しめるクルマ」なんだと思います。スポーツカーというと、F1や戦闘機のような鋭さが想起されますが、今回のテーマは、グライダーのように、もっと気持ちよく空を滑りながらどこまでも進んでいくイメージに近いのだと思います。
カモフラージュラッピングの意義とは?
――今回のPRELUDEでは、開発車両にカモフラージュラッピングが施されています。一般的にカモフラージュと言えば、デザインの細部を分かりにくくする「擬装」が目的ですが、なぜデザインを加えたのでしょうか?
山上
確かに、カモフラージュの目的は本来、開発車両のデザインを隠すことです。しかし、今回のPRELUDEは、2023年のジャパンモビリティショーでコンセプトモデルを発表し、ある程度デザインは公開していたので、完全に隠す必要はなかったんです。ですから、「見せるための擬装」にも意味がありました。むしろ、PRELUDEが持つストーリーやコンセプトをより多くの人に感じてもらうために、このラッピングデザインを施しました。

――このカモフラージュデザインの方向性は、どのように決められたのでしょうか?
山上
コンセプトや提供したい価値観については、すでに理解が深まっていたので、私からは「こういうデザインにしてほしい」と細かく指示は出さず、「誰もが振り返り、写真を撮りたくなるようなものにしてほしい」と伝えました。カモフラージュは本来目立たないためのものですが、今回は「隠しつつも目立つ」という矛盾を抱えたミッションでした。だからこそ、単なる迷彩ではなく、視線を引きつけるデザインが必要だったんです。
森岡
まずはチームでアイデア出しを行いました。最初は何も制限を設けず、PRELUDEに合うデザインを自由に考えました。その結果、歴代PRELUDEをモチーフにしたもの、スポーティーさを強調したもの、抽象的なパターンを取り入れたものなど、多種多様なアイデアが出てきました。
――そこからどのように絞り込んでデザインの決定に至ったのでしょうか?
森岡
まずアイデアを分類することから始めたんです。パッと見たときのインパクトが強いもの、ストーリー性があるもの、歴代のPRELUDEと関連が深いもの、新型PRELUDEらしさが強いもの——こういった視点でアイデアを整理して、山上さんにもフィードバックをいただきながら、アイデアを絞り込んでいきました。
山上
開発責任者という立場上、決めなければいけない場面では決断を下す必要があります。ただ、その一方で、私の発言にみんなの意見が引っ張られてしまうこともあるんですよね。
特に、デザインのようなクリエイティブな領域では、単純に「好み」で決めてしまってはいけないと思っています。デザイナーたちがどんなことを考えてこのデザインを提案してくれているのか、そこに込められたメッセージは何なのか——そういったことをじっくり考えることが大切だと感じていました。
実際に、そのとき思ったことは伝えましたが、「これにしなさい」とか「これはダメ」といった指示は出さないように意識していましたね。ただ、当時の記憶を振り返ると、「案の中だと、これが気になるかな、なぜなら…」といった話はしていた気がします。

森岡
最終的なデザインを決める際は、特に揉めることもなくスムーズに決まりましたね。とても自然な流れで決定していった印象があります。
山上
最終的に選ばれたデザインが、一番グランドコンセプトに近いと感じました。カモフラージュだけでなく、クルマ全体のデザインやダイナミクスの考え方とも一致していましたし、チームのメンバーもそういうイメージで取り組んでくれていました。
いいデザインというのは、決めた後にじわじわと「これで良かったな」と感じるものなんですよね。最初に選んだときよりも、時間が経つにつれてその選択の正しさを実感することがあります。改めて振り返ってみても「やっぱりこのデザインで良かった」と思います。
青いグラデーションに込めた想い
――美しいグラデーションが目を引くデザインですが、どのように構築されていったのでしょうか?
森岡
山上さんが先ほどおっしゃっていた「いろいろなシーンで、デートのような特別な時間を楽しめるクルマ」という考えをもとに、デザインを考える際も、「デートとは何か?」というところからスタートしました。
ただ恋人同士のドライブにとどまらず、現代におけるデートの形を改めて探し、最終的には「特別な時間を共有すること」がデートなのではないか、という結論に至りました。
そう考えると、デートの対象は恋人に限らず、夫婦、親子、祖父母と孫、兄弟、親友——さらには「自分とクルマ」という関係性まで含めてもいいんじゃないかと。新しいPRELUDEが生み出すのは、そういう「特別な時間を過ごすための空間」なんだと、デザインを考えるうちにどんどん確信に変わっていきました。

――その思考を繰り広げる中で、実際に出かけてみたりもされたんですか?
森岡
PRELUDEで行きたくなる場所ってどこだろう?」という疑問が浮かんで、上司に聞いてみたところ、西伊豆スカイラインを勧められて、実際に行ってみました。
クルマを走らせ、景色を楽しみ、写真を撮るなど旅を楽しんでいる中で、改めて「クルマでどこかへ行くことそのものが楽しい」ということを体感しました。道の駅に立ち寄ると、いろんな人と話す機会があったり、そこに停まっているクルマに目を奪われたり——そういう小さな発見が積み重なって、「ただの移動以上の価値」があると実感しました。
この体験をきっかけに、コンセプトをさらに深めるため、週末ごとに旅に出て、「どこまでも遠くへ行った先にある景色」を探し続けました。空、湖、川——どの景色も、そこに行った人だけが出会える特別なもの。その感動を、どうにかデザインに落とし込みたいと思い、カモフラージュデザインの方向性を決めたんです。
――美しいグラデーションが目を引くデザインですが、どのように構築されていったのでしょうか?
山上
私はチームにもよく話していたんですが、空を見上げたときに、青空を白い何かがスーッと飛んでいると、それだけで気持ちが良いじゃないですか。海の風景でも、白い帆が風に揺れていたり、遠くに白い飛行機が飛んでいたり。そういう、自然と目を引く気持ちよさをデザインに取り入れたいと思ったんです。
森岡
PRELUDEというクルマが持つ「旅」や「自由な移動」のイメージに着目して、どこまでも進みたくなる爽快感を表現したいと考えました。そこから試行錯誤を続けて、色や形を調整しながら、最終的に「白と青のグラデーションを基調とし、直線と曲線を組み合わせた幾何学パターン」を採用しました。
特に大切なのは、新型PRELUDEの象徴ともいえる要素が、シンプルな形の中に集約されていることです。特に、この正方形の中に一本スッと通ったライン——これが、PRELUDEのフロントデザインとも自然にリンクしているんですよね。そこに、グラデーションが広がっていく、これはどこまでも行きたくなる気持ちと、積み重ねてきた歴史の両方を表しています。

――その思考を繰り広げる中で、実際に出かけてみたりもされたんですか?
山上
ヘリテージというのは、単なるノスタルジーではなく、「時間の積み重ね」という意味でもあります。それが、デザインの中にふわっと漂っているように感じてもらえたらいいなと。もちろん、説明しなければ分からないかもしれません。でも、なんとなくでもいいから、見る人の気持ちにじわじわと寄り添っていくようなデザインにしたかったんです。
森岡
このデザインは、空に見える人もいれば、海や山に見える人もいるかもしれないし、あるいは「思い出」のような感覚で捉えてくれる人もいるかもしれない。
PRELUDEは、Hondaの中でもどこかロマンチックなクルマだと私は思っていて、そうしたニュアンスを表現するために、あえて色をはっきり分けるのではなく、自然なグラデーションを取り入れました。
単なる青と白のグラデーションではなく、川や海、山など、見る人のイメージによって印象が変わるように、微妙に緑や紫のトーンを加えています。そのため、角度や光の当たり方によって、青にも紫にも、時には緑にも見えるように調整しました。

――デザインをカモフラージュとして落とし込む際には、どのように形を作り上げていったのでしょうか?
森岡
単に線を並べるだけでは動きが生まれないので、グラフィックに動きを持たせることを意識しました。そもそも、このデザインの目的は「発売までの期待感を高めること」。だからこそ、止まっているときでも少し動きがあるように見せたかったんです。
例えば、グラフィックが「パタパタと波打っているように見える人」もいれば、「くるくると回転しているように見える人」もいるかもしれません。そうした視覚的な楽しさを作るために、あえて一部のパターンを回転させ、配置に変化をつけています。
また、カモフラージュデザインの中に「フレア」の要素も取り入れています。これは太陽の光や日差しをイメージしたもので、「外へ出かけたくなるような気持ち」を視覚的に演出するために加えました。形を見えにくくする機能だけでなく、見る人が「どこかへ行きたくなる」デザインにすることを目指しました。
「どこまでも続く旅」が始まる

森岡
写真で欧州の道を走るPRELUDEの姿を見て、自然と盛り上がりました。「爽やかな色のカモフラージュが登場」と書いてある記事もあって、意図が伝わっているんだなとうれしくなりましたね。
あとは、メディア向け試乗会の様子をYouTubeでも多く公開してくださっているのですが、その際にカモフラージュ仕様のPRELUDEを使っていただいて、検索すると画面いっぱいに青いサムネイルが並ぶようになったんです。
視覚的なインパクトとして、自然と「新型PRELUDE=青いカモフラージュデザイン」という認識が広がったのは大きかったですね。これだけ目に入れば、意識せずともPRELUDEのイメージが多くの人に伝わるんじゃないかと。狙っていたわけではないですが、結果的に大きな効果を生んだと思います。
山上
PRELUDEが象徴するのは、ただの移動手段ではなく、「旅を楽しむ時間」そのもの。人と人の関係性をつなぐクルマ、過去と未来をつなぐクルマ、日常と非日常をつなぐクルマ——そうした幅広い価値観を内包しながら、新型PRELUDEは今、新しい時代のスポーツカーとして走り出そうとしています。
そして、もし街中でカモフラージュのPRELUDEを見かけたら、そのデザインの裏に込められた想いや、作り手たちが紡いだストーリーを思い出してほしいですね。それはただの擬装ではなく、「クルマとともに旅をする喜び」を表現した一つのメッセージですから。
Profiles

山上 智行
PRELUDE開発責任者

森岡 さくら
コミュニケーションデザイナー