
デザイナー人生においてもターニングポイントとなる予感
――鈴木さんのこれまでのキャリアを教えてください。
鈴木
2015年に入社し、欧州やアジア向けのバイクデザインのサポート業務を経て、その後は先行デザインや大型バイクのデザインに携わらせて頂きました。大型バイクではCRF1100LアフリカツインやX-ADV
750、そして今回のCB1000Fコンセプトを担当しました。

――CBはやはり重みがあるモデルだと思いますが、デザインを担当する前は鈴木さんにとってどのように見えていましたか?
鈴木
私が入社する前からCBという名前は知っていましたし、入社後にその歴史に触れてみると、改めて偉大なバイクだなと…。やはりHondaのバイク=CBという揺らぐことのない存在感があり、Hondaのスポーツバイクを代表するブランドだと思っています。
――そのCBのデザインを担当すると決まった時、まず率直にどう思いましたか?
鈴木
おぉ!となりました。CBのデザインに携われる機会は貴重ですし、本当に光栄だと。デザイナー人生においてもターニングポイントになるモデルだろうという予感がありました。
――デザインするにあたって、どのように進めていったのでしょうか?
鈴木
やはり歴史あるモデルなので、その過程でどのように進化してきたのか、これまでのCB並べて見ながら、改めてデザインチームで議論し、CBとはどのようなモデルなのかを解釈するところからスタートしました。その作業を経て、CBは時代に合わせた最先端のテクノロジーを盛り込みながらも、スポーツから日常まで、あらゆるシーンでライディングの楽しみを提供してきたバイクだと結論付けました。
コロナ禍ということもあり、2020年のコンセプトモデル「CB-F コンセプト」は、ホームページでの公開となったわけですが、お客様から良い反響もいただき、ロードスポーツのこれからの基準となるモデルが必要だろうという流れで、改めて「CB1000Fコンセプト」の企画が動き出したんです。
Best Balance Roadsterを目指して
――デザインコンセプトを伺えますか?
鈴木
デザインコンセプトは、「新しい時代のCB」です。先ほどもお話したように、CBは常に時代の最先端で走る喜びを提供してきたバイク。現代ではどのような価値をどう伝えていくべきなのかを考えました。
これまでバイクに乗ってきた方には「これこそHondaのCBだね」と思っていただけるデザインや性能を、そしてこれからバイクに乗りたいと思っている方には憧れとなるような存在であるべきだと。とはいえ、手の届かない様な特別な物ではなく、あくまで日常の延長にある特別感を意識しました。

――開発コンセプトはいかがでしょうか?
鈴木
トップモデルとしてのCBらしさと乗りやすさ、使いやすさのバランスが取れた「Best Balance Roadster(ベストバランスロードスター)」を掲げています。
そこからデザインキーワードとして「Re-Construction(リコンストラクション)」を掲げて、CBたる存在感を現代に求められるプロポーションに再構築していきました。
――リコンストラクションする上で何かポイントはありましたか?
鈴木
CB1000Fコンセプトのデザインとして、必ずなくてはならないと思ったのは“風格”です。過去に様々なデザインや排気量のCBがあったわけですが、やはりどの時代でもそのトップモデルには堂々たる風格があるんです。
しかし、風格があっても、手の届かない存在にはしたくない。風格をもちながらも、あらゆるキャリアのライダーが、自分にも楽しめそうだなと思ってもらえるバランスを意識しました。

――その意識が具現化したデザインポイントはどのあたりですか?
鈴木
具体的にはエンジン周りやタンクに力強い要素をもってきて、水平基調をベースにヘッドライトの位置を決めるなどして風格ある佇まいを表現しています。その反対に、シートから後方に向けて、軽やかにスッと抜けるようなデザインにすることでコントラストを演出。軽やかさをプラスすることで、風格がありつつも扱いやすさを感じていただきたいと考えました。
風格に軽やかさを加えることを目指したとはいえ、過去のCBとは少し異なったアプローチのデザインなので、最初はスケッチを描いている私自身にも違和感はありました。そしてスケッチから3次元のモデルに起こしていく際になるとまた違った印象になるので、風格と軽やかさのベストなコントラストを実現するために、スケッチやモデルでのトライを繰り返しました。

――再構築以外にも、なにか新しいチャレンジはありますか?
鈴木
サーフェス(面)の硬さと柔らかさのバランスです。描いたスケッチから立体にする際に、モデラーと話しながら試行錯誤しました。
CB1000Fコンセプトはロードスポーツバイクなので、オーソドックスな部品構成は守りたいという思いがあって、鋼板製のフューエルタンクを採用しました。スチールらしい面の表情、角のRの取り方でも硬さと柔らかさのバランスは意識しています。
そしてテールライトの大きさにもこだわりましたね。最初は少し小さめのものを考えていたのですが、フロントに力強さを凝縮しているとはいえ、全方位で見た時の風格を考慮すると、後ろから見た時の存在感も欠かせないと思いました。フロントはオーソドックスな丸形ヘッドライトを採用していますが、取り付ける高さはかなり吟味しました。ヘッドライトの位置でスポーティーさを表現しつつ、胸を張ったような堂々とした風格を表現するために、最適な位置を何度も検討しました。

時代を超えて愛される普遍的なデザイン
――CBのなかでもFということで強く意識したことはありますか?
鈴木
Fの特徴でもあるシンプルな造形やクリーンなサーフェスは現代でも新鮮だと感じます。そういった時代を超えても受け入れられる、廃れない普遍的なデザインであることが大事だと考え、このCB1000Fコンセプトも、時代を経ても、いつまでも新鮮さを感じていただけるバイクにすることを意識しました。
このCB1000Fコンセプトのプロジェクトを通して、改めてCBのこれまでの歩みとそこにある先人達の想いに触れる機会を得ることができ、多くの学びがありました。環境規制など、バイクを取り巻く環境はどんどん変化して行くと思いますが、そのなかでもCBは、提供するべき価値が変わらないモデルであってほしいと願っています。

Profiles

鈴木 勇波
モーターサイクル・パワープロダクツ
プロダクトデザイナー