
優れた性能と美しいデザインを追求
スッと転がっていくような走り出し。軽快で伸びのある加速感。優れた直進安定性。Hondaは、車いすレーサーの開発にあたり、求められる機能を突き詰めるとともに、乗ることに喜びを感じていただけるような美しいデザインを追求し続けてきました。
1993年にホンダ太陽で「車いすレーサー研究会」が発足したあと、1999年にホンダアスリートクラブが誕生。翌2000年から本田技術研究所で本格的に車いすレーサーの開発に着手。長年の進化を重ね、ホンダR&D太陽、本田技術研究所に加え、八千代工業(現在のマザーサンヤチヨ・オートモーティブシステムズ)の3社共創で 2014年に「極〈KIWAMI〉」を開発。「ホンダアスリートクラブ」発足から20年となる2019年、これまでの技術の粋を結集し、さらなる高みを目指したレーサーモデル「翔〈KAKERU〉」を発表しました。
乗る人の力を引き出し、乗る人にも優しい翔〈KAKERU〉
翔〈KAKERU〉は、カーボン製のモノコックフレームとフロントフォーク、ディスクホイールにより軽量高剛性であることと、これまで外部に露出していたステアリングのダンパー機構をフレーム内に内蔵したビルトインダンパーステアリングが機構上の特長です。また、フレームを流麗なウイング形状にデザインすることで、前面から受ける風を効率よく後方に流す優れた空力特性を有し、車いすレーサーとして優れた性能を確保しています。
そして、Honda独自の「漕ぎ力計測機器」と「テストベンチ」を組み合わせて活用することで、事実(数値)によって裏付けされたポジションを選手個々に確立し、選手のパフォーマンスを最大限発揮できるレーサーを設計。選手のパフォーマンス向上への貢献を目指しています。
緻密な計測と熟練の技でつくり上げるカーボンモノコックフレーム
車いすレーサーの設計にあたり、選手がレーサーに乗った状態で360度周囲から撮影し3次元データを作成。そのデータをベースに、膝・尻座面の位置、身体を固定するベルト位置などの細かな調整を行いモデリングします。車両ごとに各部位の剛性を最適化して設計データを作成します。
設計データに忠実な剛性を再現するよう、熟練の技で正確に美しくカーボンシートを張り込み、軽量・高剛性のフレームをつくり上げます。加えて、従来スチールパイプだったアクスルを金属3Dプリンターの積層造形技術で製作することでも軽量・高剛性を追求しています。超軽量高剛性ホイールは、薄層の材料を2枚貼り合わせるとともに、内部を発泡材と桁を活用した構造を開発することで軽量・高剛性を実現しています。
美しさと空力に寄与するビルトインダンパーステアリング
車いすレーサーには、操舵したフロントタイヤを直進状態に戻す、バネを内蔵したステアリングダンパーが備わっています。外部に露出するのが一般的ですが、Hondaは、その機構をコンパクトにし、フレーム内に内蔵しました。
コンパクトなサイズにするにはダンパーを支えるアーム長を短くしなければならず、フロントタイヤを保持するバネ力を得る設計は困難で、一時は改良前より重量が増加する状態となりましたが、設計を煮詰めることで、軽量・コンパクト化に成功。ビルトインダンパーステアリングにすることで、流麗なフレームデザインを可能とし、前面投影面積を減らし優れた空力性能にも寄与させました。
空気抵抗を減らし、後方に風を積極的に流すウイング形状のフレーム
フレームは、元F1デザイナーのアドバイスも受け、フロントフォークの付け根から後方まで、クルマのキャラクターラインのように、やわらかな膨らみのウイング形状が貫かれたデザインを採用しました。これは、乗る人が誇りを持てるような美しさとともに、優れた空力性能を追求したデザインです。
ステアリングダンパーが露出していない流麗なウイング形状デザインにより、フレームまわりにスムーズな空気の流れをつくり空気抵抗を低減。トップスピードの向上に寄与させました。さらに、後方に空気が流れることで、前走車の後方に入るメリットを低減させる効果も狙っています。
ダイヤモンド粉末を塗布したハンドリム
カーボンディスクホイールに装着するハンドリムはカーボン製とし、ダイヤモンド粉末を薄く均一に塗布。ウェットでも滑りにくく、漕ぎやすい全天候型ハンドリムとしています。通常は、アルミのハンドリムにゴムを巻き付けるなどの処理が施されますが、それでも雨の時に滑りやすいというアスリートからの意見を元に、Honda独自に開発した技術です。選手の好みやグローブの種類に応じて選択できるよう、ダイヤの粒度を2種類用意。このリムだけでも購入できるようにしています。
乗り込み時に優しい形状のベルトブラケット
車いすレーサーは、座面上部に選手の身体を固定するベルトを装着します。そのベルトを固定するブラケットには、もともとL字型の金具が用いられていましたが、選手が乗り込む際にこの部分を身体で擦っていることを知り、よりスムーズに乗り込めるように丸みを帯びた優しい形状のベルトブラケットを開発しました。このように細部に至るまで選手目線のデザインを追求しています。
すべての選手のために
“勝利の笑顔をアスリートに届ける”ことを目指した車いすレーサー翔〈KAKERU〉、「漕ぎ力計測機器」と「テストベンチ」は、Hondaのサポート選手のためだけにとどまらず、すべての選手を支えることを目指しています。
そのために、フレーム、ホイール、ハンドリムを個別に購入できるサービスを行うとともに、今後は、「漕ぎ力計測機器」と「テストベンチ」のレンタルや科学的なトレーニングの実施も視野に入れ、車いす陸上競技のサポート活動をさらに推進していきます。



