MotoGPとは

二輪の世界では、舗装された路面のコースで行われるレース競技をロードレースと呼ぶ。その最高峰のシリーズがロードレース世界選手権(通称「世界グランプリロードレース」)である。MotoGP、Moto2、Moto3、MotoE(※2024年現在)という4つのクラスがあり、それぞれが世界選手権として行われていて、ライダーとコンストラクターとチームのタイトルが設けられている(MotoEはマシンがワンメイクのため、タイトルはライダーとチームのみ。

ロードレース世界選手権に出場しているマシンは、一般のストリートバイクをベースにして競技用に改造したものとは異なり、ロードレース専用設計の車両である。その中でもMotoGPとMoto2とMoto3では、4ストロークの自然吸気エンジンを搭載する車両が使用されている。これら3カテゴリーを分ける違いで最も大きなものはエンジン排気量で、MotoGPが1000cc、Moto2が765cc、Moto3が250ccとなっている。

MotoGPは二輪ロードレースの頂点に君臨するカテゴリーであり、そのレースシリーズであるMotoGP世界選手権には、5つのバイクメーカーが参戦している。(※2024年現在)コストの過度な高騰を抑えるために様々な規制が設けられているが、エンジンや車体といったバイクの根本的な領域ではかなり自由な開発がMotoGPでは可能であり、参戦しているバイクメーカーはそれぞれの考えや技術をもとに独自のマシンを作り出している。なお、MotoGPマシンがレースを走るのはMotoGP世界選手権のみである。

RC213V(2024年)

初期(2002年~)のMotoGP技術規則

ロードレース世界選手権の最高峰クラスは、長年にわたって「500cc」だった。文字どおり、エンジン排気量が500ccまでの車両によって競われるクラスである。排気量が500ccであれば4ストロークと2ストロークのどちらのエンジンでも構わなかったが、4ストロークの倍の点火チャンスがある2ストロークのほうが高い出力を自ずと出せることなどから、1970年代中盤以降の500ccクラスは2ストローク車の独壇場であった(そこへあえて4ストローク車で挑戦していったのがHondaで、1979年から1982年まで、長円形ピストンエンジンを搭載したNR500で参戦した)。

だが、1990年代の半ばに至ると、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)の排出量が多い2ストロークエンジンを搭載して販売される一般のストリートバイクはほとんどなくなり、モータースポーツの世界でもそれに同調した動きを取るのが自然な流れとなった。そこで、500ccクラスに替わる新たなトップカテゴリーとして作られたのが、4ストローク車を主体とするMotoGPであった。

技術規則のうえでは、MotoGPは2ストローク車も許容するものとなっていた。だが、全体的な4ストローク化を促すために、同タイプのエンジンを使う車両にアドバンテージがある内容とされていた。そのため、カテゴリー初年度であった2002年シーズンこそ2ストローク車も出場していたが、2年目の2003年シーズン以降は全車が4ストローク車となった。

カテゴリー初期のMotoGP技術規則では、4ストローク車の場合、排気の上限量は990cc、燃料タンク容量の上限は24ℓとされた。車両の最低重量はエンジンの気筒数によって異なる数値が設定され、3気筒以下は135kg、4気筒と5気筒は145kg、6気筒以上は155kgであった。

なお、2024年現在のMotoGPでは、ECU(電子制御ユニット)のハードウェアおよびソフトウェア、そしてタイヤは出場全車が同一規格のものを使用している。だが、MotoGPカテゴリー初期では、ECUは自由な開発が認められ、タイヤ(メーカーおよび製品)の選択も自由だった。

RC211V(2002年、右から2番目)

様々であったMotoGP初年度各メーカーのエンジン仕様

カテゴリー初年度であった2002年シーズンには、Honda、ヤマハ、スズキ、アプリリア、そしてシーズン終盤から参戦のカワサキが、いずれも4ストロークエンジンを搭載するMotoGPマシンを走らせた。そこで興味深かったのは、シリンダーレイアウトの選択が次のとおり、バイクメーカーによって実に様々であったことだった。
■並列4気筒を選択したメーカー:ヤマハ、カワサキ
■並列3気筒を選択したメーカー:アプリリア
■V型4気筒を選択したメーカー:スズキ
■V型5気筒を選択したメーカー:Honda

このように選択が分かれたのには、気筒数によって車両の最低重量が異なるという技術規則であったこと、そしてまったく新しいレギュレーションのもとで何が最適解であるかはどのメーカーも知るはずもなかったことが背景にあった。その中でHondaはV型5気筒を選択したわけだが、これは気筒数が多いほうが高出力化につなげやすいだけでなく、実はV型5気筒はエンジン全体の形状を「球体」のようにまとめることができ、車両のパッケージングにおいても有利に働くという理由もあった。

いずれにせよ、このようなシリンダーレイアウトのエンジンを搭載した二輪ロードレーサーの例は過去になく、V型5気筒の採用はRC211Vを「実にHondaらしいMotoGPマシン」たらしめた最大の要因となった。

4ストロークV型5気筒 Vバンク角75.5°のRC211Vエンジン

RC211V 2002年モデルから2006年モデルまでの進化

エンジンは排気量990cc・Vアングル75.5°のV型5気筒、フレームボディーは変形型のツインスパー形式、そしてリヤサスペンションはユニットプロリンク。こうした主要コンポーネントの形態は、2002年の初代モデルから2006年の最終モデルまでの歴代RC211Vにおいてはずっと変わりなかった。とはいえ、あらゆるコンポーネントについてHRCは絶えず細かな改良を重ねており、シーズン中にも様々な仕様違いのバリエーションを作るなどして、より良い結果を追求する努力を惜しまなかった。

MotoGP初年度であった2002年シーズンには5つのバイクメーカーがそれぞれ独自のMotoGPマシンを走らせた。その中で、Hondaが投入したRC211Vの初代モデル(類別記号NV5A)は、開催された16戦のうち14戦で優勝するという圧倒的なリザルトを叩き出した。それでもHRCは、NV5Aにある問題点や改良すべき点を認識しており、2003年モデルのNV5Bでは、エンジンの高回転・高出力化を進めながら、強大なバックトルク(後輪から車両側へという逆方向で伝達されるトルク。エンジンブレーキにより後輪の回転数が著しく減少することで発生する)の軽減やブレーキング時の後輪のホッピングの抑制、作動性が高く軽量・コンパクトなロータリー型ステアリングダンパーの採用などを図って走行性能を一層高め、ライダーおよびコンストラクターおよびチームのトリプルタイトルを2年連続で獲得するという栄冠に結実させた。

RC211V 2002年仕様

RC211V 2002年仕様

RC211V 2003年仕様

RC211V 2003年仕様

RC211V 2004年仕様

RC211V 2004年仕様

RC211V 2005年仕様

RC211V 2005年仕様

RC211V 2006年仕様

RC211V 2006年仕様

2004年モデルのNV5Cでは、HRC独自の電子制御スロットルシステムであるHITCS(Honda Intelligent Throttle Control System)の採用によるエンジンコントロール性の改善を実現し、ユニットプロリンクリヤサスペンションのデザインを大きく変更してトラクション性能の向上を図った。そして2005年モデルのNV5Dでは、HITCSの制御に磨きをかけるなどの熟成努力に加え、仕様違いのエンジンや車体を製作してテストし、新たな可能性の模索を行った。

2004年に投入されたHITCSの構造図

2004年シーズンにおけるHondaは、ライダーズタイトルは逸したが、コンストラクターズタイトルは3年連続での獲得を果たした。だが2005年シーズンは、RC211Vがライダーとコンストラクターのどちらのタイトルも獲れずに終わった初めてシーズンとなった。そこで、990ccレギュレーションの最終年であった2006年シーズンに向けてHRCは、是が非でもタイトルを奪還するために、2種類のRC211Vを開発した。ひとつは従来型の正常進化モデルであるNV5HD、そしてもうひとつはエンジンとそれを抱えるフレームボディーを一新したNV5HGである。

MotoGP

HRCスタッフが「ニュージェネレーション」という通称を与えていたNV5HGでは、エンジンは従来同様にV型5気筒のシリンダーレイアウトながらも全面的に新設計として小型化を図り、それに合わせてフレームボディーも一新して、よりコンパクトなものに。これらの大仕事によって慣性モーメントを低減させた。また、ホイールベースは正常進化モデルのNV5HD(HRCスタッフは「オリジナル」と呼んだ)と同じながら、コンパクトなフレームボディーのおかげでスイングアームピボットの位置をより前方に位置させた。これによって、NV5HDではより長いスイングアームの使用を可能とし、トラクション性能の向上につなげた。また、電子制御スロットルHITCSを第2世代システムに進化させて搭載した。こうした開発努力により、「ニュージェネレーション」NV5HGは、同車をただひとり駆ったニッキー・ヘイデンによってライダーズタイトルを獲得。HRCはこの2006年シーズンのコンストラクターとチームの両タイトルも奪還して、RC211VによるMotoGPの990cc時代を締めくくった。

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テクノロジーモータースポーツテクノロジーMotoGPMotoGPの始まりとRC211Vシリーズの概要