Tech Views Vol.10 フランジレスタンク&チタンタンク

カッコ良さや軽さだけじゃない──。
フランジレスタンクとチタンタンクを採用したHondaのタンクへの拘り。

HondaはCB1100EX / RSにフランジレスタンクを、そしてCRF450R、CBR1000RR SP / SP2にチタンタンクを採用した。
そのワケは? 開発に隠された苦労は?それらのタンクは、ライダーに何をもたらすのだろう?
モーターサイクルジャーナリストの松井 勉さんが、フランジレスタンクとチタンタンクを開発・製造した“Honda製オートバイのマザー工場”である熊本製作所を訪ねた。そこにはHondaのタンクへの拘りがあった。

フランジレスタンク —— それはカッコいいタンク造りへの拘りと挑戦だった。

なぜフランジレスタンクだったのか?
そこには、趣味性や質感をあげる計画があった。
まず、フランジレスタンクとは何だろう。
そのタンクをCB1100EX / RSに採用するきっかけは? 製作工程は難しいのか?
色々な疑問を設計、デザイン、生産の各担当者にぶつけてみた。そして製造工程を見せてもらった。

チタンタンク —— 魅惑の素材をどうやって使いこなしたのか?

アルミやカーボンに匹敵する軽いチタン素材。
市販モデルの燃料タンクにチタンを、何故採用したのか?
チタンと言えば、軽く高性能化に貢献する素材という認識がある。
だが反面、高価で製造が難しいというイメージだ。
CRF450R、CBR1000RR SP / SP2にチタンタンクを採用した背景には何があるのか?
ライダーへのメリットは?

松井“ベン”勉

松井 勉モータージャーナリスト

1963年東京生まれ。日本のモーターサイクル・ジャーナリスト。
1986年から、インタビュー、試乗インプレッション記事、レース参加リポート、などを雑誌、バイク専門誌に寄稿。ラリー経験も豊富でDAKARラリー、SCORE BAJA1000にも参加している。Africa Twin DCTで、アメリカ西海岸、バハ・カリフォルニア半島もAdventure Touring している。

Hondaのタンクへの拘り、知ってますか?

 燃料タンク──。オートバイ乗りなら誰でも敬愛を込めて“タンク”と呼ぶこのパーツについて今回はお伝えしたい。
 言わばオートバイの顔でもあるタンクは、カタチや大きさ、色などデザインの印象を決定づける大切なものだ。もちろんタンクの重要な機能は、燃料を入れる器であり、ニーグリップをしてライダーとオートバイに一体感を持たせる大切な接点である。また、休日には磨いて自分とオートバイの関係を醸成する愛すべき存在だったりもする。
 タンクにまつわる思い出といえば、ツーリング先で、季節や時間帯によって風景を映し出すタンクに見とれて、その姿を写真に撮った経験を持つ人は僕だけではないはずだ。それは心に深く残る記憶だ。オートバイとの生活を豊かにしてくれる宝物でもある。

 スクーターやスーパーカブのようにフットボードの下やシートの下にある燃料タンクもあるが、今回のテーマはスポーツバイクの燃料タンクである。

 そのタンクに関してHondaから気になるニュースが入ってきた。CB1100EX / RSに彫りの深い造形美を持つタンクの製法や塗装に拘ったフランジレスタンクを採用したというのだ。これは、所有感、カッコ良さを追求したものだと理解した。
 また、モトクロスマシン、CRF450R。そしてCBR1000RR SP/SP2にチタン製の燃料タンクを搭載したという。チタンと言えば、軽量素材。カスタムパーツの世界でも、マフラーやエキゾーストパイプに使われる他、ボルト類も販売されている。
 チタンは軽い、高性能化の近道、ただし、高価、という印象がある。

スポーツバイクと呼ばれるオートバイほど趣味性の高いモビリティーはない。これは僕の持論だ。だからこそ、カッコ良いタンク、軽くなって運動性が良くなることで愛車への愛情が深くなり、満足度が高くなる。この二点は乗り手の趣味、好みに合致すれば、これほど嬉しい性能はない。そこに機能美が生まれると僕は考えている。カッコ良いからといって無駄な装飾は似合わないだろうし、性能を追求するための軽い素材という整合性も必要だ。
 その点、Hondaの取り組みは間違いなく、僕達に愉しさ、嬉しさを届けてくれる物造りの技だと思う。

 しかし、これまでの取材経験に照らすと、フランジレスタンクは製造工程が複雑で、大量生産には向いていないという認識を持っている。
 同様にチタンも専用部品として製作され、レーサーマシンや特別な車両に使用されていることはあるが、一般の二輪車のタンクに使われるような素材ではないと認識している。

 これは造った人に話を訊くほかない。そこで、タンクの生産をしているHondaの二輪車生産における世界のマザー工場である熊本製作所へと飛んだ。
 ここはHonda二輪の生産拠点であり、2011年からスポーツバイクなどを設計する本田技術研究所二輪R&Dセンターの一部が熊本製作所内に移転してきたことで、“ 創る”と“ 造る”が同じ敷地内で行われる重要な場所でもある。
 その結果、設計と生産のスタッフが常に一体となって情報共有しながら作業を進めることで、仕事のやり方がスピーディーになったばかりか、問題があれば即!当事者同士が顔をつきあわせることが出来るようになった。そしてそれが垣根を越えた信頼関係を生み、物造りへのモチベーションを押し上げているという。
 その相乗効果が今回のタンク造りに何らかのソリューションをもたらした、と僕は確信しているのだ。

タンクへの拘りを知る。

 Hondaのエンジニアから聞いた印象的な言葉がある。
「オートバイに機能だけの部品はありません。どんな部品も、“ 見られる”外観意匠なのです」
 燃料タンクは正にその代表格だ。そんな燃料タンクにHondaは拘りを持っている。

 オートバイの個性を語る前に機能として大事な部分、それは安全性だ。ガソリンを入れるだけに万一の時にガソリンが漏れ出すと二次被害になる。それを未然に防ごうという研究にもHondaは拘りを持っている。  四輪車で行われている衝突安全実験を二輪車でも実施しているのだ。衝突時にライダーと燃料キャップが干渉して外れたりしないか、衝突の衝撃でタンクが変形しても燃料がもれないかなどを、実際に衝突実験を実施し、より安全な車体と燃料タンクを造る努力をしている。
 また、長く安心してHonda製品を楽しんでもらうように、燃料タンクにも高い信頼性が得られるよう設計をしている。タンクを車体に搭載する時、路面やエンジンからの振動を吸収する緩衝材としてラバーブッシュを使うが、それを留めるボルトのサイズやカラーの形状など、細かな信頼性についても多くのノウハウがあるという。積み重ねた経験と知識だ。つまり、見えない部分にまで注がれた高い技術のおかげで、安心して僕達はタンクを愛でることができる、というわけだ。

 まずHondaの燃料タンク造りの基礎をお伝えしたところで、本題の気になるタンク造りについて報告をしたい。Part 1ではCB1100EX / RSに採用されたフランジレスタンクを、Part 2ではCRF450R、CBR1000RR SP / SP2に搭載されるチタン製燃料タンクについてである。

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