環境に優しい4ストローク船外機のパイオニア
Hondaの船外機

環境に優しい4ストローク船外機のパイオニア Hondaの船外機

創業者、本田宗一郎の信念「水上を走るもの、水を汚すべからず」より、一貫して環境負荷の少ない船外機を追求し続けるHonda。長らく主流だった2ストローク船外機に対し、重量やコストに大きなハンディを負う4ストロークエンジンで世界の市場に挑み続け、環境保全の動きから4ストロークエンジンが主流となった今も、パワーユニットメーカーの強みを活かしながら、環境性能、品質、耐久性に優れた船外機づくりに注力しています。

半世紀以上変わらぬ環境への想い。受け継がれる「Honda Marine DNA」

1964年、軽量で安価に生産が可能な2ストローク船外機がほとんどを占める中、Hondaは汎用4ストロークエンジンを搭載した船外機でマリン市場に参入しました。他社が見向きもしなかった4ストロークを採用した理由は、環境への強いこだわり。船外機は構造上、水中に排出ガスを排出するため、オイルも放出する2ストロークは水中環境への影響が大きかったためです。

その後も、他社が2ストロークをつくり続ける中、Hondaは4ストローク船外機を独自に進化させ、クリーンで低燃費、静粛性や耐久性にも優れた船外機として評価を高めていきました。

1993年に欧州では、船外機に対する排出ガス規制「ボーデン湖規制」が実施。当時世界一厳しいと言われた規制値だったものの、Honda船外機の全ラインアップが規制値をクリアしたことで一躍脚光を浴びました。この「ボーデン湖規制」が契機となり、1990年代の半ばからは2ストロークに代わって4ストロークエンジンが船外機の主流となっていきました。

船外機の高性能化が進む中、四輪車の開発も手がけるHondaは、VTECやPGM-FIといった先進技術を船外機に搭載。環境に優しく高性能なHonda船外機は世界中で活躍しています。

Hondaの船外機の歴史横にスクロールしてご覧ください

Hondaの船外機の歴史

環境性能と耐久信頼性で、プロに選ばれるHondaの船外機

Hondaの4ストローク船外機は当初より、低速での扱いやすさや低騒音・低振動で低燃費といった特徴が評価され、漁業などのプロユースで活躍。近年では沿岸警備艇や観光用高速艇などでの採用例も多く見られます。

船舶は水の抵抗が大きいため、船外機のエンジンは5000~6000回転といった高回転域を多用します。また、クルマのようにブレーキがないため、減速や停止のためにはギアをリバースに入れてプロペラを逆回転させます。プロユースでは、高積載状態でこうした運転が多く、高い推進力や制動性能、そして耐久信頼性が求められます。

Hondaは4ストローク船外機の先駆者として業界をリードする技術を追求し続け、四輪エンジンをマリナイズした開発により、推進力、制動性能、高精度なリーンバーン制御による低燃費など、環境にも人にも優しい船外機を作り続け、信頼性を確立しています。

船外機の基本構造

一般的に、船外機はエンジンの動力をドライブシャフトを介してプロペラに伝達し、推進力を得て、前進用と後進用の各べべルギアをクラッチシフターで切り替えることで、プロペラを正回転/逆回転させます。

エンジンの冷却は一部の小型船外機を除いて水冷式を採用。クルマやバイクのようにクーラントで間接的に冷却する方式と異なり、ギアケース付近から外部の水を取り込み直接冷却します。そのため、海水などによる腐食を防ぐため冷却通路には耐食性を確保するための表面処理が施されています。

排気ガスの排出方法も船外機ならでは。エキゾーストマニホールドから出てきた排気ガスは、エンジン冷却を終えた水で温度を下げながら、プロペラ中心部から水中に排出します。

船外機の基本構造

船外機の基本構造
船外機の基本構造

船外機は水面で使用され、特に海水では船外機に多用されるアルミニウム部品が腐食しやすいため、腐食対策が重要となります。アルミニウムは電位差のある材料が接触し、そこに電気回路を構成させる電解液(海水)が存在するとアルミニウムを腐食させる電流が流れます。電触と呼ばれるこの腐食からアルミニウム部品を守るために、船外機にはアノードメタルと呼ぶ犠牲金属を設置しています。アノードメタルは素材の電気的特性からアルミニウム部品の代わりに腐食し、定期的に交換することで船外機を腐食から守ります。

アノードメタル配置

アノードメタル配置

四輪エンジンを最適化。Hondaだからできる「マリナイズ」

Hondaは、性能や信頼性が確立された四輪エンジン技術を活用することで、船外機の高性能化を図っています。1995年に発売したBF90/75での、四輪エンジンのクランクシャフトとコンロッド共用を始まりに、BF130/115では動弁系とバランサー機構まで共用部品を拡大。BF225では船外機初となるVTECや可変吸気などの採用も可能としています。

四輪エンジンのマリナイズにあたり、船外機ではクランクシャフトが直立するようにエンジンを搭載するため、潤滑系の変更が必要になります。メインギャラリーから主運動系や動弁系へのオイルラインは四輪エンジンと共通ながら、オイルケースへの戻りラインは独自のものになるほか、カムチェーンへのオイルジェット追加や、ピストンリング類の最適化などを行っています。

冷却系については、外部の水を取り込む直接冷却となるため、冷却水通路全体に腐食対策を施します。その上で、排気通路近くから水を取り込んで予熱し、水温を安定化させることでシリンダー間の冷却バランスを確保。最も高温になりやすい最上部シリンダー付近にサーモスタットを配置してオーバーヒートを抑制します。エキゾーストマニホールドにもウォータージャケットを設けて排気ガスも冷却します。

潤滑系の主な変更点

Hondaの船外機 潤滑系の主な変更点

冷却系の主な変更点

Hondaの船外機 冷却系の主な変更点

Hondaの船外機を支える4つの主要技術

高度なリーンバーン制御で低燃費を追求「ECOmo」

船外機では、スロットル全開時の約50~80%の回転に保たれたクルージング領域での航行頻度が高い特徴があります。このクルージング領域において、理論上最適とされる燃料噴射量より希薄な燃焼(リーンバーン)で航行することを可能にし、従来の船外機に対して燃費性能を向上させる技術が「ECOmo」です。

O2センサー搭載モデルでは、Honda独自のO2フィードバック制御により、より高精度なリーンバーン制御を可能とし、さらなる低燃費に寄与します。

ECOmo

■ECOmoはEconomy Controlled Motorの略称。
■BF350~BF40、BFP60の各モデルに搭載しています。(2024年3月現在)

立ち上がり加速を向上させる「BLAST」

「BLAST」は「走る楽しさ」を目指して開発した、Honda独自の空燃比連動点火時期制御技術です。ボートは、加速時(立ち上がり時)に十分なパワー(トルク)が無いと船体の前部が上を向いた状態が続き、水の抵抗が少なく燃費に有利な航行姿勢(プレーニング)になかなか移行できません。

「BLAST」はスロットルを全開にする加速時において、トルク最大となる空燃比に制御し、それに連動して点火時期をノッキング限界まで進角制御することで、よりトルクを向上させる技術です。この技術により立ち上りの加速性能が向上し、プレーニング状態への移行時間を短縮することができました。「BLAST」によって「走る楽しさ」と「優れた燃費・環境性能」を両立させています。

BLAST

空燃比の制御イメージ

BLAST 空燃比の制御イメージ

■BLAST(空燃比連動点火時期制御)は、“Boosted Low Speed Torque”とBLAST爆発的・痛快な(加速)の意を合わせた呼称。
■BLASTはBF350~BF40、BFP60の各モデルに搭載しています。(2024年3月現在)

低回転域から高回転域まで、トルクフルな走りを実現する「VTEC」

ボートは水中抵抗が高いため高速域でのパワーが重要である一方、トローリングなどアイドリング回転付近での粘り強さも必要です。

VTECはHonda独自の技術で、エンジンの回転数が上昇した時にバルブの開閉量とタイミングを切り替えて吸気効率を高める、可変バルブタイミング・リフト機構を採用しています。低速域から力強く、高速域まで伸びやかに加速する全域トルクフルな走りを実現し、燃費性能に寄与します。

VTEC

動作イメージ

VTEC 動作イメージ

■VTEC:Variable Valve Timing & Lift Electronic Control System
■VTECはBF350、BF250、BF225、BF150、BF100、BF90の各モデルに搭載しています。(2024年3月現在)

エンジンの運転状況に応じて燃料噴射を最適コントロール「PGM-FI」

PGM-FIは、各種センサーが感知したエンジンの運転情報から、ECUが最適な燃料の噴射量を算出し供給する電子制御燃料噴射システム。無駄なく効率的に燃料を使うので、環境性能に優れ、低燃費。また寒い朝など季節や天気に関わりなく、スムーズに始動します。

船外機では、着桟時などにボートを停止させるために、前進状態からリバースに切り替えるシフト操作が行われます。そういったクルマやバイクとは異なる船外機ならではのモードに対応する、船外機独自の制御も採用しています。

PGM-FI

システムイメージ

PGM-FI システムイメージ

■PGM-FIはBF350~BF40、BFP60の各モデルに搭載しています。(2024年3月現在)

世界中に船外機を供給。多機種を高品質に生産する細江船外機工場

細江船外機工場では2馬力から6馬力の小型モデルを除く、8馬力から350馬力までの21機種を生産し※1、日本を含む世界各国へ供給しています。このうち250馬力までの20機種を1本のラインで生産。馬力順に機種を切り替えながら1ヶ月の間に全機種を生産します。

機種を切り替える際は機種ごとに用意されたアタッチメントに付け替え、ラインスピードも調節。生産品質を高めるとともに、幅広い機種にも対応できる熟練工と効果的に配置されたフォロー要員により、高い生産品質の維持を実現しています。

※1 2024年3月時点。2馬力から6馬力の小型モデルはホンダパワープロダクツチャイナで生産

大型・高機能に対応した、BF350専用セル生産ライン

Hondaのフラッグシップ船外機となるBF350では、少人数の作業者で組み立てる、専用のセル生産ラインを採用。先進の設備も導入し、高性能・高機能モデルに対応する生産体制を構築しています。

大きくエンジンエリアとフレームエリアに分かれ、それぞれ4工程で組み上げます※2。各自が受け持つ作業数が多いため、確実な作業が行えるように作業支援システムを独自開発。パソコン画面に作業内容が表示され、トルクレンチなど工具も連携し、締付トルクの判定なども行います。

また、全高が2mを超える大型船外機となるため、昇降機能を持たせた専用台車などの作業治具も専用に開発しています。

※2 ピストンやシリンダーヘッドなどの小組はエンジンエリアの前工程で実施

「人と環境に優しい経済的で高品質な4ストローク船外機」をつくり続けてきたHonda。今後も、その基本コンセプトをベースに、世界一人と環境に優しい水上モビリティを、より多くの人に提供していきたいと考えています。

そのために、「人に優しい」技術として、船外機にとどまらず、自動航行を見据えた自動着桟技術の研究開発や、「環境に優しい」技術として、小型モデルから着手している電動推進機の研究開発などさまざまな取り組みを推進しています。

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