イノベーション 2024.02.01

お出かけが楽しくなる最先端モビリティ「CiKoMa」「WaPOCHI」。常総市の取り組みで見えた可能性

お出かけが楽しくなる最先端モビリティ「CiKoMa」「WaPOCHI」。常総市の取り組みで見えた可能性

人口減でドライバーが不足する地域での移動をはじめ、子ども連れや高齢者のドアツードアの移動課題解決を目指すHondaのマイクロモビリティ「CiKoMa(サイコマ)」とマイクロモビリティロボット「WaPOCHI(ワポチ)」。茨城県常総市の協力のもと、2022年末から始まった技術実証実験は、2024年、地域の方々に体験機会を提供できるまで歩みを進めました。技術実証実験での手応えや様々な課題、将来実現したい世界など、開発者に話を聞きました。

松永 英樹(まつなが ひでき)

株式会社本田技術研究所
知能化領域 チーフエンジニア
松永 英樹(まつなが ひでき)

2009年Honda入社。ディーゼルエンジンの排ガス浄化システムの開発に携わり、2016年より乗用車の自動運転システムの開発に従事。現在はHonda協調人工知能を用いた搭乗型マイクロモビリティの開発責任者。

小室 美紗(こむろ みさ)

株式会社本田技術研究所
知能化領域 アシスタントチーフエンジニア
小室 美紗(こむろ みさ)

2017年Honda入社。普通自動車向け一般道自動運転機能の研究に携わった後、2021年から協調人工知能を用いたマイクロモビリティの開発に従事。WaPOCHIの開発責任者。

お出かけをもっと楽しく。コミュニケーション可能な「CiKoMa」とペットのような「WaPOCHI」

——搭乗型マイクロモビリティ「CiKoMa(サイコマ)」は、日常の中でどのような活躍を想定したモビリティなのでしょうか?

松永

「CiKoMa」は、「いつでも」「どこでも」「どこへでも」自由な移動を実現するモビリティです。専用の小型端末で呼べばその人の目の前まで来てくれて、さらに人がたくさんいる中を自由に走って行ける点で、ほかの自動運転モビリティとは異なります。

たとえば、観光地にたくさんの「CiKoMa」が走っていて、呼ぶと無人の「CiKoMa」が自分のそばまで来て目的地まで乗せてくれます。土地勘がない街中での移動や散策する際のサポートとしても役立つイメージです。

道中で「あっちに面白そうなお店があるから行ってみようよ」と「CiKoMa」に伝えるだけで目的地を変更してくれるなど、既存のナビよりも気軽かつ自由に動けるように、コミュニケーション機能にも力を入れています。お子さま連れの方や高齢者の方など、ここまで迎えに来てくれたら助かるのにというニーズに応えてドアツードアの移動ができるように、車道だけでなく歩行者と同じ場所でも走らせていきたいです。

搭乗型マイクロモビリティ「CiKoMa(サイコマ)」。Cooperative Intelligent KOMA(「駒:仔馬」の意) 搭乗型マイクロモビリティ「CiKoMa(サイコマ)」。Cooperative Intelligent KOMA(「駒:仔馬」の意)

——マイクロモビリティロボット「WaPOCHI(ワポチ)」は、どのようなモビリティなのでしょうか?

小室

「WaPOCHI」の主な機能は、荷物を載せて、ペットのようにユーザーの後ろを着いて行く追従機能と、人混みの中を先行して歩きやすくしてくれる先導機能の2つです。人は街を歩くとき、移動中に荷物をなるべく増やさないよう、小さめのバッグを選んだり、旅行のときにはお土産を買うのを後回しにしたりと、我慢していることがあります。また実際の検証の中で、誰かが前を歩いてくれることで歩行スペースが守られると、すごく歩きやすくなることに気がつきました。

もし「WaPOCHI」が荷物を持って一緒に歩いてくれたら、お子さま連れで荷物が多くなりがちな方や高齢者の方まで、気軽にお出かけを楽しんでみよう! と、心に余裕が生まれるのではないかと考えています。

マイクロモビリティロボット「WaPOCHI(ワポチ)」。Walking Support POCHI(ペットのように寄り添って歩行での移動をサポートするロボットの意) マイクロモビリティロボット「WaPOCHI(ワポチ)」。Walking Support POCHI(ペットのように寄り添って歩行での移動をサポートするロボットの意)

なぜ常総市で技術実証実験を? その理由と、地域からの反応

——あらためて、常総市で技術実証実験を開始した経緯を教えてください。

松永

幅広い世代の方々に使っていただくために、あらゆる状況を想定して、一般道の複雑な環境で自動運転技術の開発に取り組みたいという考えがありました。それに適したテスト環境を探していたら、常総市に廃校になった自動車教習所があったんです。

私たちは新しいモビリティ社会の実現において、全く新しい街をつくるのではなく「今あるものを活かして社会をより良くしたい」という考えを持っています。交渉を進めていくなかで、常総市側からも「新しい技術を取り入れて、地域住民のみんなの生活をより良くしていきたい」という意向を伺えて。両者の想いがちょうど合致したことが大きな理由です。

小室

Hondaも常総市も、「新しい技術で街をよくしたい」という同じビジョンを共有しているので、よいシナジーが生まれていると思います。そして、常総市の職員の皆さんも、本当に積極的に協力してくださるんです。それぞれ行政、企業という枠はありながらも、結局は人と人とのつながりでプロジェクトが動いているなと感じていますね。

松永

ロボットタクシーのような車道を走る自動運転車は聞きなじみあるかもしれませんが、歩行者と同じ場所でも車道でも自動走行できるマイクロモビリティの事例はこれまでなく、関連する法制度も十分に整備されているわけではありません。

「対応する法律がない」ことを理由に人に寄り添える新しいモビリティの開発を諦めたくない。法律を直接作ることはできないですが、技術実証実験を通して、どう世の中に役立つのかをきちんと示していくことが、新しい社会をつくるために重要だと考えています。

今回の技術実証実験に向け、常総市や警察のご理解ご協力、知見もいただきながら交渉を重ね、ようやくファーストステップまで進めることができました。

※完全自動運転で、ドライバーを必要とせず無人で運行することができる配車サービス

——具体的にどのような技術実証実験を計画しているのでしょうか?

松永

「CiKoMa」を一般の方に乗車していただくのは、2024年2月から順次の予定をしていますが、技術実証実験を行うアグリサイエンスバレー常総内に「Honda ASV-Lab.」と呼ばれるHondaのブースがあり、そこでは2022年11月から、停車状態の「CiKoMa」に乗り、技術の一部を体験できます。

すでに地域の方から「早く動いているのに乗りたい」「かわいい」という声を寄せていただいているので、これから実際に「CiKoMa」に乗っていただくのが楽しみです。まずは地域の方々に体験してもらい、ご意見をいただきながらアップデートできればと考えています。

※アグリサイエンスバレー常総の技術実証実験における研究・整備拠点。「CiKoMa」の利用受付や、研究成果の展示も行っている。

小室

「WaPOCHI」も同じく2024年2月から順次、本格的な技術実証実験を開始する予定です。前段階として現場で実際に試作機を動かしてテストする必要があるので、そこで市民の方々の反応を見て、最終調整を行おうと考えています。

——技術実証実験を進めるなかで感じる、Hondaらしさや強みは何でしょうか?

小室

「CiKoMa」も「WaPOCHI」も、これまでの世の中にない新しいモビリティなので、人々に受け入れてもらえるかがとても重要です。Hondaでは、「現場」「現物」「現実」に重きを置いた「三現主義」を大切にしており、「現場」で「現物」を用いた技術実証実験を行わなければ、「現実」の課題は見えてこないと考えています。今回は常総市と手を組めたことで、スピード感をもって開発を進められました。開発チームのメンバー皆が同じスピード感で、「三現主義」に基づいて動けるのはHondaらしさであり、Hondaならではの強みと感じています。

技術実証実験で見えてきた課題と実現したい未来

——技術実証実験を開始するにあたり、見えてきた課題はありますか?

松永

事前に歩行者の動きをある程度予測していましたが、いざ技術実証実験を行ってみると、なかなかその通りにはいかず、想定外なこともありました。

これらの経験も活かしながら、前面に配置したLEDパネルの光や音を介して、「これからこういう動きをしようとしていますよ」「歩行者のことがきちんと見えていますよ」と、なるべく自然な動きで周囲の歩行者にモビリティの意思が伝わるよう、乗る人だけでなく周囲の歩行者が安心して歩けるように引き続き改良していきたいですね。

小室

ここ1年くらい、市民の方々の不安をなるべく軽減できるよう積極的に取り組んできました。先ほどお話ししたHonda ASV-Lab.でHondaの取り組みを展示したり、地元の高校に試作機を持ち込んで講義をしたり。あとは地域のお祭りに「CiKoMa」を持っていって、説明をしたこともありました。皆さんとてもポジティブに受け入れてくれて、特に学生さんや小さいお子さんは目を輝かせながら話を聞いてくれましたし、大人の方からも応援いただけて、率直にうれしかったです。

——最後に、「CiKoMa」と「WaPOCHI」を通して実現したい「夢」を教えてください。

小室

「WaPOCHI」の一番わかりやすいメリットは荷物を持ってくれることですが、「WaPOCHI」と一緒に歩くのが楽しいから散歩したいと思ってもらいたいですね。歩行の自由度を上げる、歩く楽しさを広げる、この両面で人々の生活を変えていくことを目指しています。

松永

人口が少ない地域や高齢者の多い地域など、移動手段が限定される地域でも、移動の足を気にせずどこへでも出かけられるようになるといいですね。

そういう意味では、技術だけを作っているわけではなく、まさに世の中の環境も作っているという自覚があります。人の移動の自由を確保し、人々の笑顔を増やしていくことが本質的な目的であり、モビリティはそのための手段。「CiKoMa」や「WaPOCHI」のある未来が、豊かで楽しく生きられる世界であることを願っています。

Honda CIマイクロモビリティが実現する未来社会 Honda CIマイクロモビリティが実現する未来社会
松永

また、僕自身、中学生の頃にHondaのソーラーカーが走っているのを見て、すごいなと思いエンジニアになろうと決めたんです。常総市に来た子どもたちが私たちのモビリティを見て、5年後10年後、エンジニアを志してくれたらうれしいなと思っています。

小室

今の学生さんたちが、近い将来に先陣を切って最新AI技術の研究開発を進めてくれることになると思います。そんな彼らにとって、この技術実証実験がよい刺激になることを期待しています。

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