POINTこの記事でわかること
- HondaはCO₂排出量削減に向けた取り組みの一環としてブラジルに風力発電所を建設、2014年に稼働開始
- 自前の発電所による再生可能エネルギー由来の電力100%で自動車を生産しているのは、ブラジルではHondaのみ
- 風力発電を通じて、ブラジルでの自然共生や環境意識の向上に努めている
Hondaは、「環境負荷ゼロ社会の実現」に向けて、2050 年の二酸化炭素排出量実質ゼロ、カーボンフリーエネルギー活用率100%、サステナブルマテリアル率※1100%を目指しています。この実現に向けた活動の一環として、ブラジルでは風力発電所を建設し、そこで生み出された電力のみで自動車生産を実現しています。今回は、ブラジルにおける取り組みをご紹介していきます。
※1 サブマテリアル:原料から廃棄までの全過程で環境や社会に配慮された素材
風力発電という選択
Hondaは、企業活動を含めたライフサイクルを通じて2050年までに「環境負荷ゼロ」の循環型社会を実現する目標を定め、その実現に向けて優先的に取り組む3つのテーマ「二酸化炭素排出量実質ゼロ」「カーボンフリーエネルギーの活用率100%」「サステナブルマテリアル使用率100%」で構成される『Triple Action to ZERO』を2021年にまとめました。その実現に向けたマイルストーンのひとつとして2031年3月期の企業活動CO₂排出総量削減率目標を46%(2020年3月期比)と定めています。この方針に基づいて、モビリティの電動化や開発・製造時に排出されるCO₂の削減などを世界中のHondaグループで取り組むことで、生物多様性の保存を含めた自然共生を目指しています。
2014年11月、ブラジルで風力発電事業を手掛けるホンダ・エナジー・ド・ブラジル(以下、ホンダエナジー)が開所しました。ホンダエナジーは、自動車の生産を担うホンダオートモーベイス・ド・ブラジル(Honda Automóveis do Brasil:以下、ホンダブラジル)の子会社であり、生産活動におけるCO₂排出量の削減を目指して、独自に風力発電所を建設・運営しています。
ホンダエナジー本社(管理棟)
発電所には10基の風力タービンが設置され、定格出力は合計31.7MW(メガワット)、年間9万4,000MWh(メガワットアワー)以上の発電が可能です。これは、3万5,000戸以上の家庭の電力需要に相当します。 2014年の稼働以来、累計で85万1,000MWhの電力を生み出し、約5万1,000tのCO₂排出を削減、110万台以上の車両を風力発電所による電力によって生産してきました。現在ホンダブラジルでは、ホンダエナジーが風力発電によって発電した電力のみで生産に必要なすべての電力をまかなっています。
風力発電所の電力のみで自動車の生産を行うホンダブラジル
ホンダエナジー風力発電所運用監督者 リカルド・ダルボスコ
「私はこのプロジェクトに建設段階から関わっており、当時は施工会社の一員として働いていました。Hondaのチームと接する中で彼らが示す企業の理念や仕事への姿勢に深く感銘を受け、2016年に風力発電所の運転業務への参加を打診されてホンダエナジーに加わり、それ以来Hondaの哲学を実践しながら業務に取り組んでいます。この歩みのなかで、特に電力分野、なかでも再生可能エネルギーの領域で経験と知識を深めることができました」
わずか38カ月で稼働させた風力発電所
ホンダブラジルが再生可能エネルギーの導入を決め、電力の自給自足に成功するまでの日々は、Hondaが環境への責任を行動で示すために積み重ねた挑戦と創意工夫の年月でもありました。
Hondaは1960年代から事業活動による環境負荷の最小化に取り組んできました。2011年には製品CO₂排出量を2020年までに30%(2000年比)削減するという目標を掲げ、生産時やサプライチェーンを含めた企業活動全体でのCO₂排出量削減に向けた取り組みが強化されました。これを受けて、ホンダブラジルでは自社のエネルギー構成を根本から見直すことを決定。「ワイガヤ※2」と呼ばれるHonda特有の意見交換の場でさまざまなアイデアが持ち寄られたのです。
※2 ワイガヤ:自由闊達な議論を通じて、独創的な考え方や解決方法などを見つけ出す Honda 独自の企業文化
「風力発電」という選択
さまざまな選択肢がある再生可能エネルギーの中でも、なぜ風力発電が選ばれたのか。実は、プロジェクトの構想段階では、風力発電に加えてその他の再生可能エネルギーについても検討がなされていました。ところが、太陽光発電や水力発電は広大な土地が必要であり、現地の環境への影響が風力発電よりも大きいことがわかりました。環境負荷の低減だけでなく地域経済や文化・農業も守るため、自然への影響が少なく且つより実現性が高い「風力発電」が選ばれたのです。
配送に困難を極めた風力タービン(重さ15トン・長さ55メートル)
風力タービンを組み立て中の現場。杭の深さは22メートルに及び、土台を支えている
風力発電プロジェクトを進めるにあたってまず課題となったのは、設置場所の選定です。設置場所は、風力や風向の条件だけでなく、設備輸送に適した港や高速道路へのアクセス、そしてブラジルの電力系統への接続距離など、さまざまな物流・技術上の要素を慎重に検討する必要があったのです。最終的には選ばれたのは、ブラジル南部リオグランデ・ド・スル州のシャングリラー市でした。この場所は送電網から約1.2kmの位置にあり、発電地点と送電網の接続点との距離が最適で、プロジェクトの運営に有利な環境を整えていたのです。
ホンダエナジー副社長 エドミルソン・ルイス・デ・サンタナ
「私はこのプロジェクトの初期段階から深く関わっており、発電所の設計、設置場所の選定、設備の仕様決定にも参加しました。現在は副社長としてこの発電所の運営を担当しています。このプロジェクトには、強い愛着と誇りを感じています」
チーム力で乗り切ったプロジェクト
ほかにも風力発電事業に携わる人材の育成や電力業界特有の複雑な規制への対応など、プロジェクトの立ち上げから風力発電所の稼働開始までには、さまざまな課題がありました。これらの課題を解決するために横断チームを立ち上げ、ゼロから研究し、情報を共有しながら「チャレンジ精神」や「三現主義※3」といったHondaの思想に基づいて進めてきました。この多様な専門性の融合こそが、ホンダエナジーの安定運営と持続的成長を支える大きな力となっています。
現在では電気技術・安全管理・事務運営・法務など、幅広い分野の専門知識を持つプロフェッショナルが風力発電所の運営に携わっています。この多様な専門性の融合こそが、ホンダエナジーの安定運営と持続的成長を支える大きな力となっています。
※3 三現主義:生産や営業の現場に行き、現物や現状に触れ、現場で現実を知って得た情報を用いて現実的な評価・判断を行うHondaの文化
ホンダエナジーの設立と風力発電の稼働
ホンダブラジルは、経営承認を経て2011年に風力発電関連事業を手掛ける子会社・ホンダエナジーを設立。2年間の調査を経て、2013年に風力発電所の建設を開始しました。企画から会社の設立、発電所の稼働までに要した期間はわずか38カ月。以来、サンパウロ州にあるホンダブラジルの自動車工場および管理棟へ風力発電所で発電したクリーンな電力を安定的に供給し、Hondaのカーボンニュートラルへの取り組みを強固なものにしてきました。
この成功により、ホンダブラジルは電力の自給自足を達成。年間平均で約5,000tのCO₂排出削減や環境負荷の低減や持続可能な社会づくりにも貢献し、ブラジル国内で唯一自前の発電所による再生可能エネルギー由来の電力のみで生産をする自動車メーカーとなりました。
風力発電所の敷地内での稲作
ホンダエナジー社長 マウリシオ・イモト
「このプロジェクトの一員であること、そしてプロセスの改善や運営を支える優秀で献身的なチームとともに働けることをたいへん誇りに感じています。私たちは、クリーン電力の自給自足を実現したブラジル唯一の自動車メーカーとして、その歩みを続けています」
地域に受け継がれる、ホンダエナジーの哲学
安全への配慮とメンテナンス
風力発電所を安定的に稼働し続けるためには、風力タービンだけでなく、周辺の電気設備に対する定期的なメンテナンスが欠かせません。また、特に強風や大雨などの極端な気象条件は、運営上の大きな技術的課題となります。アクセスが困難になったり予定外の保守を必要としたりする場合もあり、現場では常に柔軟かつ迅速な判断が求められます。これらの際にもチームの効率的な対応により、運営の継続性と安全性が確保されています。
しかし、それ以上に重要なのは、そこに関わる従業員の存在です。本田宗一郎が残した「安全なくして生産なし」という理念のもと、ホンダエナジーでも常に「人」を最優先にした意思決定が行われており、この理念が風力発電や自動車工場などでの安全で持続可能な運営を支えています。
自然共生への取り組み
風力発電所では廃棄物の管理プログラムの実施や地域に生息する動植物の調査・保全にも取り組んでおり、その過程で地域では珍しい生物も確認されました。こうした取り組みが受け入れられ、環境活動の事例のひとつとしてリオ・グランジ・ド・スル州の各企業へ紹介されています。
地域とのつながりも良好で、発電所は技術の進歩を象徴する存在として、観光地として、そして地域とともに環境を守る取り組みとして親しまれています。住民を巻き込んだ学びのプログラムも行っており、人と自然が共に生きる場として地域に根づいています。
地域の人々に開かれ、シャングリラー市の名所として親しまれているホンダエナジー
風力発電所の見学会による環境意識の醸成
ホンダエナジーは地域の市立学校の児童を対象に風力発電所の見学会を実施しています。この取り組みは、子どもたちに学びの機会を提供するとともに地域社会とのつながりを大切にし、環境意識の高い社会づくりに貢献することを目的としています。ホンダエナジーは、今後も安心・安全なクリーン電力の供給や地域社会との繋がりを通して、「環境負荷ゼロ社会の実現」に向けて取り組んでいきます。
地域の子どもたちへ 風力発電の仕組みや自然共生の大切さを伝えている様子