Honda Stories

 

製品 2022.10.14

レッド・ドット・デザイン賞3冠。デザインから考えるHondaの未来像

レッド・ドット・デザイン賞3冠。デザインから考えるHondaの未来像

国際的なプロダクトデザイン賞である「レッド・ドット・デザイン賞」。Hondaは2022年、二輪・四輪・パワープロダクツ(以下、PP)の3部門で同時受賞しました。中でもPPでの受賞は12年ぶり。発電機「EU26iJ」受賞の背景には、社外デザイナー・渡辺弘明氏を招へいし、固定観念を壊すというチャレンジがありました。デザインと設計の両立やHondaデザインの意義について、渡辺氏を含む担当デザイナーや、Honda デザインセンターの南俊叙センター長に聞きました。

南俊叙

常務執行役員/デザインセンター・センター長 もっと見る 閉じる 南俊叙

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磯野史弥

モーターサイクルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ もっと見る 閉じる 磯野史弥

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中浦創

イノベーションデザイン室 ソリューションデザインスタジオ もっと見る 閉じる 中浦創

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渡辺弘明

株式会社プレーン代表取締役 もっと見る 閉じる 渡辺弘明

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PP部門では12年ぶりの受賞

左からプロトタイプ、量産製品、最終モックアップモデル 左からプロトタイプ、量産製品、最終モックアップモデル

EU26iJの「レッド・ドット・デザイン賞」(以下、レッド・ドット賞)受賞をどのように感じていますか?

南

プロダクトデザインにおいてヨーロッパでは最も権威ある賞ですから、初めから受賞できたらいいなと思っていました。お客様に喜ばれる製品を作るうえでの努力が認められたと受け止め、うれしく思っています。渡辺さんにとってはどういう存在ですか?

渡辺
渡辺

日本だとグッドデザイン賞などもありますけれど、レッド・ドット賞は欧州を中心に、グローバルで存在感が大きい賞です。受賞するとメディアで取り上げてもらえるようになってお客様の目に触れる機会も増えますから、訴求力が高まりますよね。

南

今回のEU26iJの開発工程においては、あえて「レッド・ドットを取ろうよ!」と賞の名前を出していました。PPとしては、2010年に受賞して以来レッド・ドット賞を取っていなかったので、メンバーを鼓舞したいという思いもあったのです。

「レッド・ドット賞」の盾。EU26iJは同賞のミュージアムにも展示されている 「レッド・ドット賞」の盾。EU26iJは同賞のミュージアムにも展示されている
南

そして今回は、四輪・二輪・PPの3部門で同時受賞となりました。四輪は毎年多くの製品が出るため競争が激しいですから、賞を取れなかったからといって必ずしも製品の出来が悪いわけではない。逆にPPの製品はどれも息が長く、新製品が毎年出るわけではない。だからこそ偶然ながらも3部門同時に受賞したことで、Hondaには四輪・二輪・パワープロダクツという3事業の柱があると認知してもらえますし、二輪のメディアに発電機が掲載されるといった面白い相乗効果もありました。

「マイナスの発想」から生まれたデザイン

「EU16i」を超える価値をお客様に提供したいと語る、中浦さんと磯野さん 「EU16i」を超える価値をお客様に提供したいと語る、中浦さんと磯野さん

改めて、発電機EU26iJのコンセプト、またデザインが生み出されるまでにはどんな挑戦があったのでしょうか?

磯野
磯野

Hondaが2000年に発売した、世界初のマイコン制御式正弦波インバーターシステムを搭載したハンディタイプ発電機「EU16i」は爆発的なヒット作で、北米を中心にいまだに根強い人気があります。ハリケーンなどで電線の切れやすい米国では、発電機は日本よりも身近な存在。そういった文化の中で、21kgという、大人が簡単に運べるハンディタイプの発電機はお客様へのインパクトも大きかったのでしょう。

その上位機種であるEU26iJのフルモデルチェンジの企画が持ち上がり、米国に視察へ行ったのですが、発電機の使われ方が大きく変わっていると実感しました。さらに先代機はいまだに多く売れており、モデルチェンジをするなら大胆に行う必要があると考えていました。

そこで、近年のデザインの潮流と、発電機が数十万円という高額な製品あることを鑑みて、要素を少なくシンプルにしてスマートに見せる「プレミアム・インテリジェンス・デザイン」というコンセプトにたどり着きました。それを基にデザインの検討を進めましたが、実はプロトタイプ段階からデザインに行き詰まっていたんです。

南

行き詰まったときこそ、凝り固まった「常識」と距離を置き、広い視野を持つことが大事なのです。その意味でも、渡辺さんの参加により、社内にはない視点が持ち込まれたのは非常にプラスな効果でした。通常は社内だけでデザインを検討しますが、そもそも今回は社外デザイナーとのコラボレーションで新たな価値を生み出したいと思い、コンセプト考案中からスタッフに社外デザイナーを探してもらっていたのです。渡辺さんの名前が挙がった時は、プロダクト界隈では著名なデザイナーですし、私自身もファンで、手掛けられた作品を持っていましたから、やりましょうと即答しましたね。

渡辺
渡辺

Hondaさんの製品デザインにはずっとチャレンジしてみたかったので、依頼をいただいたときはうれしかったですね。私は、デザインとはデザイナーが問題に気付き、どう解決するかを表現することだと考えています。ハンディタイプの発電機とはいっても30kg近くあって重いので、運ぶ際にクルマや壁にぶつけやすいというのが今回の課題でした。他社製品はプロテクターを付けているものが多いのですが、EU26iJはぶつけやすい箇所をなくしました。「ないものにはぶつけられない」という、いわば「マイナスの発想」です。

渡辺さんがデザインしたプロトタイプ 渡辺さんがデザインしたプロトタイプ
渡辺
渡辺

ここに社外の私がプロジェクトに入る意味があります。社内デザイナーは製品の内部構造を熟知しているので、マイナスの発想はしづらいのかもしれません。私は内部構造よりコンセプトを重視し、自由に発想することを心掛けています。私がデザイン案を出した後、製品化するまでに磯野さんたちは相当な苦労があったはずです。

磯野
磯野

おっしゃる通り、渡辺さんのようなアイデアは思い付きませんでした。ここにタンクがあって、ここにエンジンがあってと設計図が頭に入っているほど、発電機に対する固定観念がありましたから。渡辺さん提案のデザインに決まってから量産化に至るまでは、強度や構造面で懸念を持つ設計部門など、関係部署とのネゴシエーションに力を入れました。「このデザインと機能を両立させたい」という一心でした。

機能美を追い求めて奮闘した発電機「EU26iJ」

EU26iJのデザインのチャレンジは、Hondaにも大きなインパクトを与えたという EU26iJのデザインのチャレンジは、Hondaにも大きなインパクトを与えたという

EU26iJの中で、デザイン上のチャレンジとなったのはどのポイントでしょうか?

南

PPは、ユニークな形や美しいデザインとして機能が表現されている「機能美」を見せられるのが理想だと考えています。EU26iJでは、機能と形の両方が新しくなったことを表現したかったのです。具体的に言うと、見た目から重さを感じないデザインも実現させたかった。

EU26iJは、3kVA(キロボルトアンペア)クラスのハンディタイプの発電機としては世界最小かつ最大出力レベルの製品です。とはいえ26.5kgありますから、コンパクトで軽い製品のように見せることで、「重くて運べない」から「意外と運べる」とお客様の気持ちを変えていくのが重要だと考えていました。渡辺さんのデザインはこの点を実現できるものだったので、「これでいこう」と決めました。

中浦
中浦

渡辺さんデザインのプロトタイプ、磯野さんによる試作検討段階を経て、私は量産モデルのデザインを担当しました。当時のプロトタイプだと、大きさ、コスト、重さがネックで量産化できないという壁にぶつかっていたんです。でも、デザインをゼロから考え直すよりは、私自身も今回のコンセプトである「プレミアム・インテリジェンス・デザイン」が魅力的だと思っていたので、プロトタイプを生かしながら製品に落とし込むところで奔走しました。

中浦さんがデザインした最終モックアップ 中浦さんがデザインした最終モックアップ
中浦
中浦

こだわったポイントの一つは「色」。真横から見ると真四角に見える形状で、よりコンパクトに見せるためにベースの色を黒に。カットした角の部分を赤く見せることで、リニューアルをキャッチーに表現したいと考えました。また従来のハンディタイプの発電機では樹脂カバーの中に金属フレームが入っている場合が多いのですが、それではサイズが大きく重くなってしまいます。お客様が求めているコンパクトさと機能面を両立させるため、設計部門に交渉し、フレームは入れずとも強度を保てるよう外観パネルによるモノコック構造を採用してもらいました。

南

四輪と違って、PPは機能重視ということもあってデザインの評判が分かりづらい。そうすると、デザインからコストカットされるのが現実です。でも、私はパワープロダクツもデザインが重要だと言い続けましたし、今回はデザイン部のメンバーがデザインの意味を真剣に伝え、設計部門も意図を汲み取って動いてくれました。「デザインが会社に与える価値」を経営陣が見出してくれたのは、このEU26iJからだと感じています。デザインを通したブランディングの重要性ですね。

中浦
中浦

ロゴの変化も大きいですよね。

南

パワープロダクツにあるロゴも、かつては1枚のシールに「HONDA」と印字したものが貼られていたんです。シールを剥がしてしまえば、どのメーカーの製品か分からなくなってしまう。これではHondaのアイデンティティーが崩されているのと同義です。これだけはどうしても変えたいと思い、社内で改善するよう何度も言い続けました。それにより、今は「HONDA」の一文字ずつが切り抜かれた形になりました。製品のデザインは各デザイナーに任せますが、そういった細部のブランディングをきちんと確立させていくのは私の役目です。

デザインを通した「驚きと感動」を

Hondaの使命、デザインの力を語る南センター長 Hondaの使命、デザインの力を語る南センター長

サステナブル社会の実現に向けて、自動車やPPも電動化といった大きな変革期を迎えています。その中で、プロダクトデザインの意義はどのようになっていくとお考えでしょうか。

南

デザインの意義は大きく変わるわけではないと思っています。自動車も燃料がガソリンから電気や水素になるだけで、人がプロダクトを使う目的や行為が変わるわけではありません。自動車であれば、移動するという本質は同じです。環境が変わっても、プロダクトの本質的な役目とは人のためにどう便利にするのか、使いやすくするのか、そしてどう感動を与えるのかだと考えています。

その実現のために、私は2020年に二輪・四輪・パワープロダクツの3部門に分かれていたデザイン室を集約しました。単にファシリティーをつなげただけでなく、デザイナー同士の相乗効果も狙っています。同じ場で一緒に仕事をしていると、他部門のデザインも目に入ってきますので、そこで会話して自分の担当デザインに生かしたり、考え方を変えられたりできたらいいと思っています。同じ製品をずっと担当していると、発想がどうしても固まりがちですからね。

中浦
中浦

私は、EU26iJの実売モデルを担当する直前、その頃はデザインセンターができる前で、四輪・PP間でのジョブローテーションとして、四輪のデザインチームに所属していました。そこで、四輪のデザイナーが自分のデザイン案を実現するために、設計や部品部署の人と交渉する姿を間近に見てきましたし、その体験があったのでEU26iJのデザインを通すことができたのだと思います。

プロトタイプから量産製品まで、デザインと機能の両立にこだわった プロトタイプから量産製品まで、デザインと機能の両立にこだわった
南

お客様からプロダクトに求められるのは「商品がかっこいい」だけではなく、そのプロダクトで得られる体験も重視される時代になりました。プロダクトと広告などのクリエーションをつなげていき、いかにHondaがやりたいこととお客様が求めていることが合致しているブランドにしていくかを日々考えています。

Hondaはお客様と世の中に対して、常に驚きと感動を与える存在でありたい。それはデザインという意味だけではありません。ハンディタイプの発電機も、二輪のカブ、四輪のステップワゴンのような箱型のクルマもそれまでは存在しなかった製品です。こうした「驚きと感動」があるものづくりを徹底して行うのがHondaの使命だと思っています。これからも、「このプロダクトは驚いてもらえるか? 街中でお客様が見た時に振り返ってもらえるか?」という自問をし続け、世の中にHondaがあって良かったと感じてもらえる存在でありたいと思っています。

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