丹所 健 Ken Tansho

苦しんだ時間の思いをぶつけ
この夏、復活の狼煙をあげる

  • 生年月日2001年2⽉7⽇
  • 出身神奈川県
  • 経歴湘南⼯⼤付属⾼校-東京国際⼤学
  • ベストタイムなし(マラソン未出⾛)
丹所 健

待ち望んだ初マラソンへ
周囲へ結果で恩返しを

 丹所健がいよいよ初マラソンに挑む。2023年の入社1年目こそ、全日本実業団選手権や東日本実業団駅伝に出場したが、それ以降、表立ったレースに姿を見せていなかっただけに、周囲も待ちわびた感があるかもしれない。そしてそれは本人が誰よりも一番、感じている。感慨深い表情で「ようやくですね」という言葉を噛み締めた。

「体調不良や故障が続き、思うように走れなかったので、自分でも“やっとここまでたどりついた”という感じがします。ただもともとマラソンは25歳前後と決めていたので、タイミングとしては当初の予定からは大きくズレていません。ここ数年の強化は決してイメージ通りではありませんが、自分の持ち味はポジティブさ。直前のマラソン練習はほぼパーフェクトにこなせたので、この北海道マラソンは楽しみな気持ちが強いです」

丹所 健

 東京国際大学では、今もHondaで共に走る伊藤達彦から日本人エースの座を譲り受け、同期のイェゴン・ヴィンセントと大学駅伝でチームの一時代を築いた。しかしHonda入社後は本人の言葉通り、体調不良と故障に苦しみ、特に2年目の2024年、レースは記録会1本のみ。2025年に入り、ようやく練習が継続できるようになり、今年2月の大阪マラソンにエントリーしたが、直前に仙骨の疲労骨折を負い、欠場を余儀なくされた。さすがにこの時のショックは大きかった。

「正直、選手としてここが引き際なんじゃないかと思ったりもしました。ただ自分には後押ししてくれる人が多くて、その応援になんとか応えたいという思いがありましたし、自分の闘志も消えなかったんです。可能性がある限りは挑戦し続けなければならないと、自分を奮い立たせ、できることを継続してきました」

 後押ししてくれる人として、丹所がまず名前を挙げるのは所属するHonda埼玉製作所製品技術課の同僚や上司。「自分が下を向いているときでも、背中を押してくれました。だからこそ、下を向きながらでも前に進めて、今の自分があります」と、真剣な表情で感謝の言葉を口にする。
 そしてもうひとりは伊藤達彦だ。チームのムードメーカーでもあるキャプテンは時に真面目に、そして時にラフな言葉で丹所を勇気づけてきた。

「達彦さんは常に明るく、“お前はマラソンで活躍できるから大丈夫”と励ましてくれたんです。学生時代からずっと変わらず大きな存在ですが、その言葉に何度も救われました」

 周囲の理解と応援があるから今の自分がある。だからこそ北海道マラソンでは結果で恩返しをしたいと丹所は言葉を強める。

丹所 健

気持ちの強さが武器
復活した姿を見せる

 大阪マラソン欠場の要因となった故障は春まで引きずったが、5月から本格的にマラソン練習を開始し、ここまでは予定通りのメニューを消化してきた。できればもう少し強化の時間が欲しかったと言うが、そこはポジティブな性格を発揮し、不安視していない。

「与えられた時間の中で結果を出すのがアスリートとしての務めです。それに北海道マラソンで求められるのはスピードではなく、タフなコンディションの中でどれだけ粘りきれるか。月間1000kmを越えるレベルで距離を踏んできていますし、暑さには自信があるので、自分には有利な大会だと思います。あとは大阪マラソン前の反省から、1日1日を大切に過ごすこと。それだけを考えて今は調整しています」

 目標は2時間12分00秒以内で日本人3位以内の選手に与えられるマラソングランドチャンピオンシップ出場権獲得。だが、「最後まで温存して、勝負どころで仕掛けるレースをすること。勝ち切って、自分の存在をアピールしたいです」と、優勝によって成し遂げたいと話す。

 それには理由がある。入社からの3年半、雌伏の時を過ごしてきた。本来であれば、この間に5000m、10000mでスピードを磨き、その上でのマラソン挑戦としたかったが、それは叶わなかった。だが、苦しんだからこそ、得られた別の強さがあると丹所は信じている。

「Hondaに来てから自信を持ってスタートラインに立てたレースは1年目の東日本実業団駅伝くらいしかありません。故障で走れず苦しい時間を過ごす中、いくつもの壁を乗り越えて今があると思っていて、だからこそ気持ちの面は強くなったと思いますし、レースにかける思いも誰よりも強いはずです。それをここで発揮したいんです」

丹所 健

 小川智監督も「気持ちの強さは丹所の一番の武器。まずは今の力を発揮することが第一ですが、それができれば、次のマラソンにも明るい展望が見えてくるはずです」と、ここを飛躍のステップにしてほしいと話す。

 復活をアピールし、まだまだ自分はやれるという姿を見せたい。それが丹所の北海道マラソンにかける一番の思いだ。苦しい時間を重ねたからこそ、慎重になる面も、大胆になれる面も増えた。初マラソンに向かうにあたり怖いものはない。

「今は本当にワクワクしているんです。よく言われるマラソンでの35kmからの苦しさも自分は知りません。でも分からないからこそ楽しみですし、実際に楽しみながら走れば、その苦しさもクリアできるんじゃないかと思っています」

 大学駅伝で見せた強さを今度はマラソンで。丹所のマラソンデビュー戦は彼の競技生活の新たなステージの幕開けでもある。

(取材・文:加藤康博)