「第38回大分国際車いすマラソン大会」レポート 〜それぞれの想いと決意を胸にレースを駆け抜けたアスリートたちの記録〜「第38回大分国際車いすマラソン大会」レポート 〜それぞれの想いと決意を胸にレースを駆け抜けたアスリートたちの記録〜
世界中の車いすランナーが目標とする、世界最高峰の舞台。それが「大分国際車いすマラソン大会」だ。
その歴史は古く、1981年、世界で初めて「車いす単独のマラソンの国際大会」としてスタート。
現在は国際パラリンピック委員会の公認大会にもなっている本大会に、
Hondaは障がいを持つアスリートの“夢”を応援すべく、協賛企業の一社として名を連ねている。
世界中からトップアスリートが集結する中、Hondaの特例子会社 ホンダ太陽、ホンダR&D太陽のホンダアスリートクラブの選手や従業員選手、Honda契約選手たちもエントリー。それぞれの想いと決意を胸に、レースに挑んだ彼らの素顔に迫る。

ホンダアスリートクラブ
選手紹介

  • 渡辺 習輔
    渡辺 習輔
    Shusuke Watanabe
    1968年5月28日生まれ
    兵庫県出身
  • 河室 隆一
    河室 隆一
    Ryuichi Kawamuro
    1973年7月12日生まれ
    大分県出身
  • 佐矢野 利明
    佐矢野 利明
    Toshiaki Sayano
    1987年12月8日生まれ
    大分県出身
今大会には、ホンダアスリートクラブから河室隆一選手、渡辺習輔選手、佐矢野利明選手の3名が参加。河室選手はフルマラソンの部、渡辺選手、佐矢野選手はハーフマラソンの部にエントリーした。他に、前回大会で優勝し、2連覇の期待がかかる山本浩之選手(マラソンの部:Honda契約選手)、喜納翼選手(女子の部:ホンダ太陽サポート選手)などが参加した。
※ホンダアスリートクラブとは… Hondaの特例子会社であるホンダ太陽、ホンダR&D太陽の公式クラブ。障がい者スポーツのトップアスリートチーム。

大会前日

〜地元・大分での開催に特別な想いを馳せる選手たち〜

今回、大会へ参加する選手は計223名。海外からは16ヶ国57名(うち女子12名)がエントリー。レース前日は、「ガレリア竹町ドーム広場」で開会式を開催。その後、商店街でパレードを行い、外国人選手とも笑顔で会話する日本人選手も見られ、和やかな雰囲気に包まれる中でも、選手たちが時折見せる真剣な眼差しに、今大会へ賭ける意気込みが顔をのぞかせた。

2年越しの大分国際車いすマラソン大会!

ホンダアスリートクラブの選手が語る意気込み

ホンダアスリートクラブにとっては“地元で開催される大会”であり、さらに昨年は大会史上初めて台風の影響により中止となったため、今大会は2年ぶりの開催となる。選手それぞれ目標や決意は違えども、今大会に賭ける想いは同じだ。2017年にハーフマラソンからマラソンに転向し、フルマラソン出場の河室選手は次のように話す。
河室隆一選手
河室選手「今日まで吐くほど練習をしてきました。『走った距離は裏切らない』と信じています。ただ、今大会は世界中からトップアスリートたちが集まっています。決して楽な展開にはならないでしょう。そのなかで先頭集団に食らいつき、上位入賞を目指したいと思っています」
淀みなく目標を語ってくれた河室選手、言葉と言葉の間から、絶対に諦めない、自己ベストを尽くす、という強い意志が溢れていた。
一方、同大会のハーフマラソンにおいて、過去6回の優勝を誇るベテラン・渡辺選手は、終始朗らかな笑顔を見せながら、今大会への想いを次のように語る。
渡辺選手「私は、ホンダR&D太陽に入社してから車いすマラソンを始めたんです。当時、陸上競技用車いす『レーサー』をHonda、ホンダ太陽、八千代工業が共同開発し、その試走を兼ねて選手に指名されました。業務から始まったマラソンですが、いまでは私の“生き甲斐”になりました。今大会は、世界中のトップ選手たちが集まりますから、デッドヒートが予想されます。明日は同僚たちも応援に駆けつけてくれると言っていますし、カッコいい姿を見せたいですね(笑)」
渡辺習輔選手
過去の優勝実績から当然、今回も上位入賞に期待がかかる渡辺選手だが、そのリラックスした様子は、むしろ重責を楽しむかのように見られた。
そんな二人と肩を並べているのが、ホンダアスリートクラブ最年少の佐矢野選手だ。2014年から短距離をメインにシフトし、今年は「北海道・東北パラ陸上競技選手権大会100m」で優勝。日々努力を重ねる期待の若手選手。
佐矢野利明選手
佐矢野選手「渡辺さんは技術がありますし、河室さんは練習量がすごい。日々2人から刺激を受けながら、ついに今日を迎えました。僕が車いすマラソンを始めたのは、16年前。10代のころです。自分自身が大分県出身ということもあり、当時から『大分国際車いすマラソン大会』には特別な想いがあります。明日は2年間、待ちに待った本番当日。練習の成果を存分に発揮したいですね。目標は入賞、6位以内を目指してがんばります!」
普段は短距離選手として活躍している佐矢野選手が、唯一ハーフマラソンに出場するのが本大会。地元への想い、そして人一倍持つ、強い闘志が溢れ出ているように感じた。

ホンダ太陽サポート選手・喜納翼が選手宣誓を務めた「開会式」

国際大会とあって、開会式には広瀬大分県知事、桜田オリンピック担当大臣、鈴木スポーツ庁長官も参加。多くの報道陣が詰めかけた。
選手宣誓を行ったのは、前回大会の女子の部で優勝した、ホンダ太陽がサポート契約をする喜納翼選手。高らかに宣誓を終えると、喜納選手は安堵したのか、満面の笑みを浮かべた。
その後、選手たちは周辺をパレード。最後に有力選手の記者会見が行われ、そこには前回大会で優勝した、Hondaのレーサーを使用している山本選手や、選手宣誓も務めた喜納選手の姿もあった。

大会当日

〜熱い戦いを繰り広げた選手たち〜

レース当日、スタート2時間前には、スタート地点である大分県庁前にほど近い公道に、選手たちが続々と姿を現した。ウォームアップに励む選手たちの表情は、前日とはうってかわり真剣な眼差しを見せ、ピリピリとした緊張感が漂う。本大会への気迫が感じられた。
公園の近くでウォームアップする喜納選手。
選手は各自、通行止めされた公道でレース本番までの準備を進める。

号砲とともに走り出した選手たち

午前10時。ついにレースがスタート。開始数分で、あっという間にスタート地点から選手たちの姿が消えた。先導車両、Hondaの燃料電池自動車「クラリティ FUEL CELL」のあとに続き、猛スピードでコースを駆けていく。
第一折り返し地点(5km過ぎ)を越えると、最初の山場「弁天大橋」が現れる。大分川をまたぐように、橋の中央にかけてゆるやかな坂となる橋を車いすレーサーで走り切ることは決して容易ではない。毎年TEAM Hondaの応援団は、この橋で待ち構え、身を乗り出すように選手へ激励をおくる。
ハーフマラソンの先頭集団に、赤いウェアを着た渡辺選手の姿を見つけたTEAM Honda応援団。その背中を押すように、「がんばれー!」と声が枯れるほど大きな声援をおくる。渡辺選手も、そのエールに応えるようにレーサーの車輪を必死にこぐ。声援と車輪の音が混じり合う中、先頭集団に位置する渡辺選手が猛スピードで駆け抜けていった。

9選手の混戦! 白熱するタイトル争い

大会当日は好天に恵まれ、風もなく、全選手にとって走りやすい状況にあったためか、マラソンでは第2折り返し地点(25キロ付近)を過ぎても上位9選手による争いが続いた。同様にハーフマラソンも、大きな先頭集団が終盤まで続き、両レースともデッドヒートが展開された。そして、レースはついに最終局面へ。
ゴール地点で、選手たちの到着を今や遅しと待ちわびる観客、そしてTEAM Hondaの応援団。そこにアナウンスが流れる。「トップを走るのは、渡辺習輔選手!」。その声に思わず歓喜する一同。そして競技場に渡辺選手が先頭で入ってくると、会場中から大きな歓声が湧いた。

目が離せないレース展開に会場がクギ付け

トラックを走る渡辺選手を後続の選手7名が必死に追いかける。TEAM Hondaの応援団も「がんばれー!」と力の限り声援をおくる。ゴールまで数百メートル。渡辺選手のすぐ後ろに位置していた2人の選手がラストスパートをかける。負けじと渡辺選手も力強くレーサーの車輪をこぐ――。
だが、あと一歩及ばず、最終的には惜しくも3位。優勝したのは、百武強士選手(タイム46分11秒)。渡辺選手と百武選手の差は“わずか3秒”、2位のチェン・マンタン選手(中国)との差はたった1秒だった。
ゴールを切った渡辺選手は、悔しそうにうつむく。しかし、すぐに顔を上げ、百武選手に駆け寄ると、笑顔で「おめでとう」と声を掛け、熱い握手を交わした。
そこには、同じ競技にひたむきに取り組む、ライバルであり同志としての顔があった。
河室選手が出場したフルマラソンは、上位9選手がわずか秒単位の差でフィニッシュ。世界トップレベルの激しい駆け引き、手に汗握るレース展開となった。

大会結果

T54 男子マラソン

  • 4位
    山本 浩之
    (Honda契約選手)
  • 6位
    西田 宗城
    (Honda契約選手)
  • 7位
    エレンスト・ヴァン・ダイク
    (Honda契約選手)
  • 15位
    河室 隆一
    (ホンダ太陽 ホンダアスリートクラブ)
    1時間32分35秒
  • 33位
    坂元 幸雄
    (ホンダ太陽従業員)

T54 男子ハーフマラソン

  • 3位
    渡辺 習輔
    (ホンダ太陽 ホンダアスリートクラブ)
    46分14秒
  • 6位
    佐矢野 利明
    (ホンダ太陽 ホンダアスリートクラブ)
    46分21秒
  • 11位
    山口 修平
    (ホンダR&D太陽従業員)

T51 男子マラソン

  • 2位
    エルネスト・フォンセカ
    (Honda契約選手)

T54 女子マラソン

  • 1位
    喜納 翼
    (ホンダ太陽サポート選手)
  • 6位
    アマンダ・マクグローリー
    (Honda契約選手)

2年ぶりの大分国際車いすマラソン大会を終えた選手たち

並々ならぬ想いと決意で今大会に挑んだホンダアスリートクラブの選手たち。レースを終えた後、何を感じ、何を思ったのだろうか? 3選手それぞれが、それぞれのレースを振り返る。
渡辺選手
渡辺選手「先頭で競技場に入れたときは、弁天大橋でもらった声援に応えられるかなと思ったのですが、悔しいですね。今日は天気もよく風もなかった。条件がよかったことで、早い段階から選手同士の駆け引きがあり、うまく自分のペースに持ち込めなかった。今大会の経験を次に活かしていきます」
ベテラン渡辺選手の目は、もう既に次を見据えていた。新たな挑戦はもう始まっているようだ。
佐矢野選手「試合前、渡辺さんと『ワンツーフィニッシュを決めよう!』と話していたので、残念です。先頭集団から抜け出して、第2集団を切り放そうと思ったのですが、参加選手はみな手強く、そう簡単に引き離すことはできませんでした。今回はレース展開が読みづらく、難しい戦いになりましたが、やっぱりレースは楽しいですね。」
佐矢野選手
レースが楽しくて仕方がないという様子を見せる佐矢野選手。そして「速く走りたい」という自己への欲求は尽きない。
河室選手
河室選手「序盤の接触から立て直すことができず、非常に悔しい。今日の経験をバネに、今後トレーニングを見直して、来年の『大分国際車いすマラソン大会』では、トップ集団に入れるようにがんばります」
レース中に他選手と接触してしまい、15位という結果に終わった河室選手。レース終了後も、しばらく悔しそうな表情を浮かべていたが、職場の同僚から「お疲れ様」と声を掛けられると、表情をパッと切り替え、笑顔を見せた。次なる大会へ向けて気持ちを切り替え、闘志に燃える試合前のような表情をみせた。

Honda、ホンダ太陽がサポートする選手たちの活躍

女子の部で優勝した喜納選手(タイム1時間39分36秒)。自己ベストを5分以上更新する素晴らしい走りを見せ、大会2連覇を達成。さらに世界選手権(2019年4月開催)の切符も手にし、笑顔で表彰台へ。
喜納選手 「目標としていた1時間40分を切ることができたので、よかったです。大分で走ると、熱い応援をもらえるので、今日のレースは楽しみにしていました。レース中、『HONDA』の旗が見えた瞬間は本当にうれしかったですね。Hondaのメンバーたちの声援は、大きな力になりました。応援してくださった皆さんに、“ありがとうございます”と伝えたいです」
喜納選手
前回大会のマラソンの部の覇者。山本選手(Hondaのレーサーを使用)は、今大会では4位という結果に。
山本選手
山本選手「来年の世界選手権出場を見据え、日本人3位以内に絶対に入ろうと決めて試合に臨みました。結果は日本人2位ということで、及第点かなと思っていますが、自己採点は、赤点ギリギリという感じでしょうか。今後は来年の世界選手権などの国際的な大会での入賞を目指し、さらに練習を積みたいと思います」

TRIVIA

  • 時速60km!車いすマラソン驚きのスピード

    足で走るのと車いすレーサーで走るのでは、ダントツに車いすレーサーの方が速い。世界記録も男子マラソンは2時間1分39秒だが、男子車いすマラソンは「1時間20分14秒」と大差がついている。トップ選手になれば最高時速60キロとも言われるそのスピードは、観客たちに大きな驚きとともに感動を与える。
  • 世界記録は大分で誕生!

    現在の車いすマラソンの男子世界記録が出たのは「大分国際車いすマラソン大会」(1999年)でのこと。つまり世界中から集まったアスリートたちはみな、優勝はもちろん、世界記録も狙いに来ているのだ。記録を狙いやすい理由として、同大会のコースは、海岸部を中心に走るため、比較的ゆるやかなことが挙げられる。
  • 高い評価を受ける「大分国際」!

    大分国際車いすマラソン大会は、数多くの世界新記録が誕生・世界最高レベルの争いが繰り広げられるだけではなく、2,000名を超えるボランティアやさまざまな企業支援が、国内外から高い評価を受けている。

MESSAGE

ホンダアスリートクラブにとっては、悔しさが残る結果となった「第38回大分国際車いすマラソン大会」。しかし、見るものにとっても、アスリートたちにとっても、夢と感動に溢れる大会であったことはきっと間違いはない。選手たちは既に気持ちを切り替え、次の目標に向けて切り替え、それぞれの“夢”へと走り出している。Hondaはこれからも、車いすマラソンの高みを目指し続ける彼らのチャレンジに、熱いエールを送り続ける。
これからもTEAM Hondaの一員として、アスリートたちを支援していきたい。
ホンダ太陽 総務部 部長 廣瀬正明さん
ホンダ太陽 総務部 部長 
廣瀬正明さん
「ホンダ太陽は、全従業員の約半数が障がいを持つ社員で構成された、Hondaの特例子会社です。ホンダアスリートクラブのメンバーは仕事と練習を両立し、日々努力を重ねています。今はまず、選手たちに『お疲れ様でした』と伝えたいです。今後も障がいの有無に関わらず、すべての“人”が楽しく元気よく、そして誇りを持って生活できる社会を目指して、さまざまな形で社会に貢献していきたいです」
Honda 社会活動推進室 室長 宮﨑光明さん
Honda 総務部 社会活動推進室 室長 
宮﨑光明さん
「今回ホンダアスリートクラブの選手たちは、優勝には届きませんでしたが、すべての選手から勝利を目指す執念を感じ、私自身も勇気をもらいました。今後も国内外の大会に向け、私たち社員も“TEAM Honda”の一員として、選手をサポートしていきたいです」
「The Power of Dreams」。夢の力を原動力に、これからもHondaは、夢にチャレンジするアスリートたちを応援し、さまざまな面でバックアップしていきます。今後もTEAM Hondaの選手たちの活躍に、ぜひご注目ください。