東京2020を目指す
アスリートの素顔に迫る!
パラトライアスロン 荒力選手密着取材

2018年の「Mt Mayon ASTC Paratriathlon Asian Championships」(開催国:フィリピン)で4位、「Eton Dorney ITU Paratriathlon World Cup」(開催国:イギリス)で7位に入賞するなど、パラトライアスロン選手として世界の第一線で活躍している荒力選手。彼のもうひとつの顔、それは「ホンダ太陽」で働く、企業人としての顔だ。荒力選手の日常に密着しながら、強さの秘密や2020年東京パラリンピックへの思いに迫った。

MOVIE 取材動画

スポーツするのが
楽しい!
それが僕の原動力

荒力選手のアスリート人生は、24年を越えている。「ホンダ太陽」に入社後、最初に取り組んだのは競泳だった。「友人に誘われて、たまたま競泳大会に出場しました。そうしたら、泳ぐのが楽しくて」と荒力選手。その後も大会に出場するごとに記録は伸び、荒力選手はどんどん競泳にのめり込んでいったという。「もっと上を目指そう、という気持ちで練習に励み、遂に2000年シドニーパラリンピック、そして2004年アテネパラリンピックに出場することができました」と振り返る。

アテネで納得のいく泳ぎができた荒力選手は、競泳選手として第一線から退くことを決意した。その頃、興味本位で始めたのがパラトライアスロン。始めた理由は、「スイム(競泳)、バイク(自転車)、ラン(長距離走)の3つの種目ができて、楽しいから」。ここでも競技の楽しさが、荒力選手がスポーツを始めるキッカケになった。そしてある日、荒力選手に刺激的な情報が飛び込んでくる。

2016年
リオパラリンピックで
パラトライアスロンが
正式種目に

「東京パラリンピックにパラトライアスロンの選手として出場し、メダルを取りたい」。アスリート魂に再び火がついた荒力選手。2016年からパラトライアスロンのトレーニングを本格的にスタートした。

「レースもトレーニングも、楽しくて仕方ない。息抜きは?と聞かれても、思いつきません。というか、体を動かすこと自体が息抜きになっています。だからアスリートとして長続きしているのかも。原動力は“楽しい!”という気持ちですね。そして、僕のアスリート生活を支えてくれているのが、家族と会社の理解と支援です。本当に感謝しています」。

自分に素直に、楽しいことを、徹底的にやる。そして、応援してくれる家族、仲間、会社の期待にこたえるべく、一途に取り組む。強い気持ちと周りの応援が、長年トップアスリートとして活躍する荒力選手を支えていた。

常に上を
目指すことで
辿りついた大舞台

「ホンダ太陽」に入社して始めた競泳。泳ぐのが楽しく、記録もどんどん伸びたことから、荒力選手は「大会で良い記録を目指そう」と決意。その結果、世界最高峰の舞台・パラリンピックにまで出場できたという。

「初出場したシドニーを振り返ると、周りの雰囲気にのまれて、自分で思い描いていた泳ぎができず、くやしい思いをしました。だからこそ、4年後も出場して、自分の泳ぎをしてメダルを取ろうと決めたのです」と荒力選手。

上を目指し続ける強い気持ちよって、4年後のアテネパラリンピックへも見事出場。さらに納得のいくレースへとつながった。そして今、その強い気持ちはトライアスロンへと120%注がれている。

練習は自己流
試行錯誤の毎日

競泳選手時代もコーチはなし。練習メニューもすべて自分で考えていたという荒力選手。トライアスロンでもコーチはおらず、バイクは近隣の高校の自転車部の先生にアドバイスをもらい、ランは大分のトライアスロンチームの練習に参加してトレーニングを学ぶなど、いろいろなやり方に触れて自分流にアレンジしながら、トレーニングを積んでいる。

「大会の時は、他の選手のバイクの改造やトレーニングの様子を見て、自分に活かせることを探しています」と、探究心でいっぱいだ。

大切にしている
自分ルール

まず、大事にしているのが睡眠時間だという。「最低6~7時間は寝るようにしています。ウチの子どもより早く寝ることも(笑)」。

食事においては、献立やカロリーなど細かいことは気にしないが、「肉、野菜、魚など、食材が偏らないようにバランスに気をつけています」とのこと。そして、練習後のビールが自分へのご褒美。ちなみに、荒力選手の大好物は“鶏の唐揚げ”と“鶏天”。

「大分県民ですから(笑)」。そして勝負メシは「焼肉、カルビです!」。大会前には家族で焼肉を食べて、気合いを入れるそう。

1 DAY
SCHEDULE
荒力選手の一日(平日)

05:50起床・食事

06:50自宅を出発

07:50出勤

08:15業務

10:00休憩

10:10業務

12:15昼食&20分仮眠

13:30トレーニング

トレーニング前のストレッチと
筋力トレーニング(腹筋・背筋各20回×5セット)

月・火・木曜はバイク(40km)とラン(10km)の練習
※火曜日はバイク後、理学療法士の指導のもと、体幹&筋力トレーニングも実施

水・金曜はスイム(3km)とラン(10km)の練習
※水曜のランは大分のトライアスロンチーム「トライアスロンチームかぼす」の練習に参加(19:00~20:00)

18:30トレーニング終了

19:00帰宅

夕食・お風呂・家族との団らん

22:00就寝

土曜は基本的にオフ。翌日曜が大会の場合は、トレーニングを実施。
また、朝6時からプールで競泳の練習会が行われているので、参加できる場合は参加。

日曜は大会がなければ、早朝よりランニング。家族が起床する時間に帰宅し、一緒に朝食。その後、家族との時間。

TRIVIA トリビア

01

オリンピックとパラリンピックでは
トライアスロンの距離が違う!?

オリンピックの距離はショートディスタンスと呼ばれ、スイム1.5km、バイク40km、ラン10kmとなります。一方、パラリンピックは、その半分。スイム0.75km、バイク20km、ラン5kmです。

02

トライアスロンには
「第4の種目」がある!?

それがトランジション。スイムからバイクへ、バイクからランへと競技を移り変える過程を指します。トランジションではウエットスーツを脱いだり、靴を履いたりと次の種目への準備を行いますが、その間もタイムは加算されていくのです。つまり、「競技のタイムを1分縮める」ことと「トランジションを1分縮める」ことは、同じタイムの短縮になります。

03

パラトライアスロンには
クラス分けがある!?

選手によって異なる、障がいの種類や程度。それによって競技力に差が生まれないよう、パラトライアスロンでは同程度の競技能力を持った選手同士にクラスを分け、その中で順位を決めています。大きくは「下肢に障がいがあり車いすを使用する選手」、「切断など肢体不自由の立位の選手」、「視覚障がいの選手」に分けられ、さらにその中で障がいの程度によって2~4つのクラスに分けられます。

SUPPORTERS 荒力選手を支える人たち

ホンダ太陽 製造部製造課第2製造係2班

班長 渡邉 昭次さん

荒力選手の人柄をひと言で表すと「努力家」。責任感が強く、仕事に一生懸命。現在はリアビューミラーの製造ラインで、最終チェックの工程を担当してもらっていますが、安心して任せられます。トップアスリートなので寡黙そうにも思えますが、時には冗談も言いますし、気軽に同僚にも声をかけるなど、とっても気さくな人ですよ。仕事とスポーツを両立して取り組んでいる姿は、職場の仲間に刺激を与えています。私自身、荒力選手の影響で車いすバスケを始めました。彼のおかげでスポーツが身近になりましたね。スポーツを始めたことで、体調やモチベーションが大きく向上したように思います。荒力選手には職場のみんなが、2020年東京パラリンピックへの出場と、好成績を期待しています。

ホンダ太陽 総務部

部長 廣瀬 正明さん

荒力選手の魅力は、素直で優しいところ。アスリートとしては、パラリンピックに2度出場している経験が彼の強みだと思います。高いモチベーションは、全従業員に対してもお手本となるところ。仕事でも遊びでもスポーツでも、荒力選手の存在は刺激になっていると思います。実は2004年アテネパラリンピック後に、荒力選手は「悔いなくやりきった」と語っていました。そこで、彼の仕事でのキャリアを考え、班長をお願いしたのです。一生懸命取り組んでくれましたが、2016年のリオパラリンピックよりトライアスロンが正式種目になることが決まり、彼のスポーツ魂がふつふつと沸いたのでしょうね。「挑戦したい」と相談されたので、業務調整をして、彼を応援する環境を整えました。「ホンダ太陽」は、従業員の人生と夢を応援し、生きがい、やりがいを大切にしています。荒力選手には2020年の東京オリンピックに向けて、精一杯がんばってくれることを期待します。

TEAMMATES 仲間の大切さについて

仲間のおかげで楽しくがんばれる

私は「ホンダアスリートクラブ」に所属しています。おかげで仕事は午前中のみ、午後からは離職してトレーニングに集中することができています。社内にはトレーニングルームもあり、練習環境を整えていただいているので、大変ありがたいですね。私のほか、所属しているのは車いすマラソンの選手3名です。いつも一緒に練習できるわけではありませんが、みんながいる時は、いつもより楽しい時間が過ごせます。競技は違いますが、チームメートという気持ちです。

HONDA ATHLETE CLUB ホンダアスリートクラブ

荒力選手が所蔵している「ホンダアスリートクラブ」とは、
Honda特例子会社「ホンダ太陽」「ホンダR&D太陽」(所在地:大分県)にある、
「障がい者スポーツ」のトップアスリートたちが所属するチーム。
1999年に「ホンダ太陽」の公式クラブとして、活動をスタート。
Hondaは、夢にチャレンジするアスリートたちを応援したいという想いから、
さまざまな面でバックアップを行っています。

荒 力 Ara Chikara

1975年3月31日、熊本県生まれ。高校1年の頃にバイク事故による怪我で右上腕神経が麻痺し、右手の自由が利かなくなる。職業訓練校で1年間学び、「ホンダ太陽」に入社。現在は製造部製造課に所属。競泳で2000年シドニーパラリンピックと2004年アテネパラリンピックに出場。2016年からトライアスロンに挑戦。

密着取材を通して見えた、荒力選手の素顔。
それは、アスリートとしてはベテランながらも
がむしゃらに夢を追いかけ続ける
“少年”のようにピュアでひたむきな姿でした。
Hondaはこれからも荒力選手の挑戦をサポートし、
夢にチャレンジするアスリートたちを応援し続けます。