2013年09月26日 ニュースリリース
「2013年本田賞」固体力学・流体力学分野での計算力学の創設と発展に貢献 テキサス大学オースティン校計算工学・科学研究所所長ティンズリー・オーデン博士に本田財団が授与
公益財団法人 本田財団(設立者:本田 宗一郎・弁二郎兄弟、理事長:石田 寛人)は、2013年の本田賞※1を、あらゆる分野で幅広く活用されているコンピューターシミュレーションの基礎となる計算力学を創設し発展させた、ティンズリー・オーデン博士(J. Tinsley Oden)に授与することを決定しました。アメリカのテキサス大学オースティン校計算工学・科学研究所所長と、同校の研究担当副校長であるオーデン博士は本田賞34回目の受賞者となります。
オーデン博士は、数学・コンピューター科学・物理学・応用数学を統合し、科学技術分野での諸問題を解明する「計算力学」を確立した草分けです。連続体の非線形現象のコンピューター解析手法を確立し、また、広範かつ強力な数学的計算手法である「有限要素法」のエキスパートとしても知られています。さらに、コンピューターシミュレーションにおける誤差の数学的評価と体系的な管理手法を確立しました。今日では科学、医学、そして工学分野に影響を及ぼす学問領域として、計算技術・科学の基礎が築かれ、ものづくりや、防災、薬物設計、医科手術、気候・天候予測などに応用されています。
また、オーデン博士の活動は、日本計算工学会(JSCES)、日本計算力学連合(JACM)を含む、世界30以上の計算力学研究組織を束ねる、国際計算力学連合(IACM)の創設につながり、計算力学の世界的な発展に寄与しました。
現在、オーデン博士はアメリカのテキサス大学オースティン校での計算工学・科学研究所所長として研究チームを率い、科学技術のいくつかの重要分野で目覚ましい進歩を成し遂げました。ものづくりでは、プロセスの最適化によりコストや時間を大幅に削減するとともに、製品の品質・安全性の向上を図り、また医学・生物学で広く活用されるコンピューターシミュレーションを開発し、心臓血管外科手術、人工心臓弁、ステント設計、がん治療、投薬計画において、患者一人ひとりに合わせた治療法を可能にしました。さらに、気候変動モデル、エネルギーシステム、新素材および交通システムの改善などにも取り組んでいます。
最近のオーデン博士の研究は、航空機や自動車などの機械において、原子・素粒子レベルからシステム全体までのさまざまなスケールでの現象をつなぎ合わせる「マルチスケールモデル」の開発に注力しています。また、観察データとモデルパラメーターでの不確かさを、数学的統計手法を活用して推定し、コンピューター予測の精度を高める「予測科学」の第一人者でもあります。
オーデン博士は、「コンピューター科学は理論科学、実験科学に並ぶ「第三の柱」であり、知見を高め、人類に価値のある結論をもたらす新たなパラダイムとして役に立っています」と述べています。
1980年に創設された本田賞は、人間環境と自然環境を調和させるエコテクノロジー※2を実現させた功績に対し、毎年1件の表彰を行っております。今日、あらゆる分野でコンピューターシミュレーション技術が活用され、ものづくりから医療に至るまで、さまざまな領域での資源・時間の節約や、品質・安全性の向上に結び付き、オーデン博士の業績がエコテクノロジーの具現化を幅広く達成できたことは、本田賞にふさわしい成果と考えます。
第34回本田賞授与式は、2013年11月18日に東京都の帝国ホテルで開催され、メダル、賞状とともに副賞として1,000万円がオーデン博士に贈呈されます。
- ※1本田賞(Honda Prize):1980年に創設された科学技術分野における日本初の国際賞
- ※2エコテクノロジー(Ecotechnology):文明全体をも含む自然界をイメージしたEcology(生態学)とTechnology(科学技術)を組み合わせた造語。人と技術の共存を意味し、人類社会に求められる新たな技術概念として1979年に本田財団が提唱
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http://www.hondafoundation.jp

ジョン・ティンズリー・オーデン博士
ジョン・ティンズリー・オーデン(J. Tinsley Oden)博士
テキサス大学オースティン校計算工学・科学研究所(ICES)所長
生まれ
1936年12月25日 ルイジアナ州アレクサンドリア生(アメリカ国籍)
学歴
1959年 ルイジアナ州立大学土木工学科卒業
1960年 オクラホマ州立大学土木工学科修士課程修了
1962年 オクラホマ州立大学工業力学科博士課程修了
名誉学位
1987年 ポルトガル・リスボン工科大学より名誉博士号
2000年 ベルギー・モン理工科大学より名誉博士号
2001年 ポーランド・クラクフ工業大学より名誉博士号
2004年 テキサス大学オースティン校にて学長表彰
2006年 フランス・カシャン高等師範学校より名誉博士号
2010年 オハイオ州立大学より名誉博士号
職歴
1959年、ルイジアナ州立大学助手
1961〜63年、オクラホマ州立大学応用力学科講師、土木工学科准教授
1963〜64年、General Dynamics社勤務(研究部門構造担当シニア技師)
1964年9月〜73年9月、アラバマ大学ハンツビル校機械工学科 助教授〜教授
1973年9月〜現在、テキサス大学オースティン校航空宇宙工学/機械工学科教授
1974年9月〜現在、テキサス大学オースティン校計算工学・科学研究所(ICES)所長
(1974-1993 TICOM, 1993-2003 TICAM)
1981年9月〜現在、テキサス大学オースティン校数学科教授
2003年3月〜現在、テキサス大学オースティン校研究担当副校長
2011年〜現在、テキサス大学オースティン校コンピューター科学科教授
略歴
オーデン博士は工学、数学、そしてコンピューター科学を統合し、自然科学の世界にコンピューター・シミュレーションを生み出した、計算力学の創設と発展に多大な貢献をしたことで国際的な名声を得ている。このようなシミュレーションは、医学、材料工学、エネルギー探査そして気候科学など様々な分野で活用されている。現在博士はテキサス大学オースティン校において計算工学・科学研究所所長として、半導体モデルと癌治療に主眼を置いたマルチスケール“アダプティブ”モデルの研究を進めている。また、アメリカ土木学会のカルマンメダル(1992年)、アメリカ計算力学学会のニュウマンメダル(1993年)、国際計算力学連合のニュートン・ガウスメダル(1994年)、アメリカ機械学会のティモシェンコメダル(1996年)他多数を受賞している。
出版物
“Mechanics of Elastic Structures”:McGraw-Hill, New York City, 1967年“非線形連続体の有限要素法”:McGraw-Hill, New York City, 1972年“Finite Elements vol.1 to 6”:(E. B BeckerおよびGraham F. Carey共著) Prentice-Hall, Englewood Cliffs, 1981年“Applied Functional Analysis, 2nd ed.”:(L. F. Demkowicz共著)CRC Press, Boca-Raton, 2010年“An Introduction to Mathematical Modelling”:Wiley, Hoboken, 2011年