2007年08月31日 ニュースリリース
2007年本田賞 世界初の実用的な腹腔鏡下胆嚢摘出手術を行い現代の内視鏡外科手術の急速な普及と技術革新への端緒を開いたフランスの開業医 フィリップ・ムレ博士へ -本田財団が授与-
(財)本田財団(設立者:本田宗一郎・弁二郎兄弟、理事長:川島廣守)は、2007年の本田賞をフランスのフィリップ・ムレ博士(Philippe Mouret, M.D., General Surgery)に授与することを決定した。ムレ博士は28人目の本田賞受賞者となる。

フィリップ・ムレ博士
かつて腹部や胸腔内の腫瘍などの摘出手術は、開腹によるものが当然とされていたが、リヨンで開業していた外科医のムレ博士は、1987年にCCDカメラを用いた世界初の実用的な手技による腹腔鏡下胆嚢摘出術を行い、現代の内視鏡外科手術の急速な普及と技術革新への端緒を開いた。
腹腔鏡下の胆嚢摘出手術自体はミューヘ博士の先例もあったが、ムレ博士は婦人科におけるセム博士(Dr. Kurt Semm)の技法に独自の工夫を加え、より困難な外科手術に応用した。この成功はデュボワ博士
、ペリサ博士
らと共に広められ、今日の外科手術の概念を全く変えることとなった。
独自の医療哲学を持つムレ博士は、この手術方法をあくまで患者の体への負担をできるだけ軽減させること(低侵襲性)を追及するために開発した。これにより切開を最小限に止めることで、痛みや消耗が少なく回復に要する日数も大幅に短縮される。加えて入院に要する費用や医療リソースの削減、患者の社会復帰の早さなど、社会経済的メリットも得られるため、欧米に次いで日本を始め全世界で急速に普及が進んだ。また、その後のエレクトロニクスと手術技法の進化により、胃がんや肺がんなど応用範囲が大きく広がり、さらには術者の微妙な操作を助ける最先端ロボット手術の発展にもつながった。
ムレ博士の「医師の“痛み”が患者の痛みを和らげる」という哲学に基づく偉大な功績は、人や社会との調和を第一に考えるエコテクノロジー※の最良の実例の1つであり、本田賞にふさわしいものである。
第28回本田賞授与式は、2007年11月19日に東京の帝国ホテルで開催され、副賞として1,000万円が贈呈される。
- ※エコテクノロジー(Ecotechnology)
文明全体をも含む自然界をイメージしたEcology(生態学)とTechnology(科学技術)を組み合わせた造語。人と技術の共存を意味し、人類社会に求められる新たな技術概念として1979年に本田財団が提唱。
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フィリップ・ムレ博士の略歴
1938年9月29日生
最終学歴
1966年リヨン大学医学部博士課程(医学博士)
職歴
- ・病院勤務
1957年 リヨン病院勤務医試験合格
1960年 リヨン病院研修医試験合格
1964年 リヨン病院研修医金賞候補
1966~1970年 リヨン病院外科助手
1967~1970年 救急外科医
元リヨン病院内勤外科医、元パリ病院内勤外科医(指導教授Bismuth教授)
- ・教職
1962年 解剖学講師
1963年 検死解剖医
1964年 法医学監督官
1961年~1964年 勤務医および研修医向け講師
ほか、以下の各大学にて腹腔鏡手術の講義を担当
パリ、リヨン・サンテティエンヌ、ニース、クレモン・フェラン(C.I.C.E)、トリノ(イタリア)
- ・個人開業
1968年~2001 年 リヨン開業医
1981年~現在 トリノ(イタリア・ピエモンテ州)の個人病院勤務
2000年4月~2006年7月 ハノイ・フレンチホスピタル(Ben Vien Viet Phap)嘱託勤務
ほか、実践教育プロジェクト「Into The Field」の一環としてKrishna Hospital in Arnad(インド・ガジャラト州)に出向
学会活動
フランス外科学会会員、リヨン外科学会会員、フランス外科医師会会員、フランス内視鏡外科学会(S.F.C.E)創立者・初代会長、フランス腹腔鏡外科学会(S.F.C.L)会員
表彰歴
1992年 Delannoy Robbe賞(フランス国立医学アカデミー)
1993年 Bullukian賞(リヨン外科学会)
2000年 湖南大学(現・中南大学湘雅医学院、中国・湖南省長沙市)名誉博士号
2002年 アメリカ腹腔鏡学会賞(アメリカ・ニューオリンズ)
2006年 フランス外科医師会名誉会員
軍役
フランス医療予備隊軍医大佐