TCFD提言への対応
Hondaは「気候変動・エネルギー問題への対応」を環境分野における最重要課題の一つと考え、
2021年4月に「2050年に、Hondaの関わるすべての製品と企業活動を通じ、カーボンニュートラルを目指すこと」を表明しました。
Hondaは金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)により設置された
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同しており、
TCFDが提言する情報開示フレームワークに沿った開示を行っています。
気候変動がもたらすリスクと機会について、シナリオ分析を実施し、経営戦略に反映させると同時に、気候変動に関する情報開示を推進します。
ガバナンス
取締役監視体制
気候変動はHonda全体の業績に重大な影響を与える可能性があります。Hondaでは、「世界環境安全戦略会議」を毎年継続的に開催しています。同会議では、気候変動を含む環境・安全に関する諸課題への長期方針・目標・戦略・進捗状況のモニタリングを実施しており、設定されたCO₂総排出量の削減目標については、取締役会へ報告され、監督されています。
ESG観点を考慮した役員報酬制度についてはHonda Report 2023 p.61の「役員報酬制度」をご参照ください。TCFDガバナンス推奨事項a
TCFDガバナンス推奨事項a:気候関連のリスクと機会に関する取締役会の監督について記述する。
経営層の役割
世界環境安全戦略会議の議長はCEOが務めており、気候変動問題への対応について最終的な責任を負っています。世界環境安全戦略会議では、各地域のPDCAや、気候変動やエネルギー、資源に関わるリスクと機会、それに基づいた短・中・長期的な環境戦略の議論をしています。
同会議では、全社方針や中長期経営計画に基づいたグローバルの中長期環境方針・計画を立案しており重要事項については経営会議にて決定され、取締役会に報告されます。TCFDガバナンス推奨事項b
TCFDガバナンス推奨事項b:気候関連のリスクと機会の評価とマネジメントにおける経営陣の役割を記述する。
戦略
気候変動は自動車業界だけでなく、わたしたちの生活環境やライフスタイルにもさまざまな影響を及ぼします。Hondaでは、気候変動が事業に与える影響を評価・考察するにあたり、TCFD提言にも推奨されているシナリオ分析を活用しています。シナリオ分析は2030年を目途に実施しており、ネットゼロシナリオを含む複数のシナリオ下でのHondaの気候変動に対するリスクと機会を特定し、全社戦略および各事業戦略へ反映しています。
シナリオ分析の概要
Hondaは、1.5℃および4℃を含む複数のシナリオを設定し、将来の世界観・事業環境の変化について想定しています。
二輪・四輪・パワープロダクツ事業を対象として、それぞれのシナリオにおいてTCFD提言に基づく「移行リスク」「物理リスク」「機会」に沿ったリスク・機会を特定しました。TCFD戦略推奨事項a
特定したリスク・機会を踏まえ、短期・中期・長期の時間軸において財務状態に与える影響度を検討しています。
各シナリオで想定される事象に対し、適切に対応しなければ事業上のリスクとなりますが、技術・製品・サービスの進化により、新たな事業機会を創出することができるよう対応を進めています。
また、自然災害による被害や被災リスクを最小化すべく、グローバルバリューチェーンによる安定的な生産体質の構築を推進していきます。加えて、CO₂排出量削減をよりいっそう加速させるため、2023年よりICP(インターナルカーボンプライシング)制度の運用を日本の拠点で開始し、炭素価格はCO₂1トン当たり15,000円と設定しました。炭素削減量を金銭価値化することにより、設備投資を実行する際の判断材料のひとつとして活用しています。TCFD戦略推奨事項b
Hondaでは、より持続可能な企業経営実現のために、こうしたリスク・機会に対する現状の対応施策を検討し、戦略のレジリエンス向上を図っています。今後も複数シナリオを視野に入れ、戦略を立案することで、事業や製品展開に活用し、リスク軽減や機会創出を図り、レジリエンスのある製品・サービス展開を実現します。TCFD戦略推奨事項c
TCFD戦略推奨事項a:組織が特定した、短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会を記述する。
TCFD戦略推奨事項b:気候関連のリスクと機会が組織の事業、戦略、財務計画に及ぼす影響を記述する。
TCFD戦略推奨事項c:2℃以下のシナリオを含む異なる気候関連のシナリオを考慮して、組織戦略のレジリエンスを記述する。
想定する気候シナリオ
1.5℃シナリオ
1.5℃シナリオでは、IEAのNZE(Net Zero Emissions Scenario)、IPCCのAR6 SSP1-1.9の報告内容を参考に、シナリオの世界観を整理しました。
- 1.5℃シナリオでは世界全体で2050年カーボンニュートラルに向けた施策が推進され、脱炭素製品が広く普及すること、再生可能エネルギーの利用が拡大することが想定されます。
- 自動車業界では、燃費・ZEV規制がさらに強化され、先進国を中心にEV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)の需要が増加する見込みです。また、循環型経済への移行が加速することが想定されます。
- さらに、規制の強化と並行して、EVやFCVといった脱炭素製品やサービスを好むお客様が増加するなど、顧客価値観も変化することが想定されます。
- そのほかにも、脱炭素に向けて再生可能エネルギーや省エネルギーなどクリーン技術が発展・普及することが想定されます。
4℃シナリオ
4℃シナリオではIPCCのAR6 SSP3-7.0を参考に、世界観を整理しました。
- 4℃シナリオでは不可逆的な環境の変化が想定され、自然災害が頻発化・激甚化することが想定されます。
Hondaにとっての主要なリスク/機会
リスク
リスク | 時間軸※ | ||
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1.5℃ | 政策・法規制 |
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短期 中期 長期 |
顧客価値観の変化 |
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技術の変化 |
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短期 中期 |
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4℃ | 自然災害の頻発化 ・激甚化 |
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長期 |
時間軸については、短期:~1年、中期:1~3年、長期:3年以上とする。
機会
機会 | 時間軸※ | ||
---|---|---|---|
1.5℃ | 政策・法規制 |
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短期 中期 長期 |
顧客価値観の変化 | |||
技術の変化 |
|
短期 中期 |
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4℃ | 自然災害の頻発化 ・激甚化 |
|
長期 |
時間軸については、短期:~1年、中期:1~3年、長期:3年以上とする。
対応
対応 | ||
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1.5℃ | 政策・法規制 |
Honda Report 2023 p.10、p.18(PDF:10.9MB)
Honda Report 2023 p.18(PDF:10.9MB)
Honda Report 2023 p.19、p.23、p.25(PDF:10.9MB)
Honda Report 2023 p.18、p.23、p.54(PDF:10.96MB)
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顧客価値観の変化 | ||
技術の変化 |
Honda Report 2023 p.10、p.29、p.30(PDF:10.9MB)
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4℃ | 自然災害の頻発化 ・激甚化 |
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リスクマネジメント
Hondaでは「気候変動関連リスク」として、環境規制強化等の「環境に関わるリスク」や地震・水害等の「自然災害等のリスク」を全社重点リスクの一つと位置付けています。
気候変動関連リスクへの対応は主管部門である経営企画統括部で推進しており、全世界にまたがるテーマや、各事業本部と各地域本部の間で議論・整合された環境施策の進捗について情報を集約・整理しています。例えば、規制リスクは、既存の規制に加え新規の規制に関しても情報収集し、水リスクについてはすべての製造拠点を対象に、WRI(世界資源研究所)の「AQUEDUCTツール」、WWF(世界自然保護基金)の「Water Risk Filterツール」を用いて、評価を行っています。
全社の環境戦略を司る世界環境安全戦略会議(事務局:経営企画統括部)では、全社リスクマネジメントオフィサーも出席のうえ、グローバルの中長期環境方針・目標・計画を立案し、経営会議で決定しています。また、世界環境安全戦略会議では、環境目標の主要項目に対する進捗と実績を確認し、課題への対応方針を策定しています。重要事項については経営会議にて決定され、取締役会に報告されます。
各事業本部や各地域本部では、グローバルの中長期環境方針を踏まえ実行計画を策定し、推進しています。
各事業本部では、環境責任者および環境事務局を設置しており、本部内の機能を横断する体制を構築した上で、環境施策を織り込んだ事業計画を策定し、推進しています。
各地域本部では、世界環境安全戦略会議や「6地域環境事務局会議」で共有される情報をもとに、地域計画を策定し、施策を展開しています。計画策定にあたっては、「地域環境会議」を中心に、各事業本部と議論し、整合を図っています。
企業活動に関わる全てのリスクは全社リスクマネジメントオフィサーが議長をつとめる「リスクマネジメント委員会」にて管理されており、気候変動に関連するリスクも対象に含まれています。全社リスクマネジメント活動と連携を図りながら、継続的に気候変動関連リスクを含む環境マネジメントの強化を図っています。TCFDリスクマネジメント推奨事項c
全社リスクマネジメント活動における、リスク評価・管理プロセスについては、Honda Report 2023 p.64、p.65の「ガバナンス リスクマネジメント」をご参照ください。TCFDリスクマネジメント推奨事項a,b
TCFDリスクマネジメント推奨事項a:気候関連リスクを特定し、評価するための組織のプロセスを記述する。
TCFDリスクマネジメント推奨事項b:気候関連リスクをマネジメントするための組織のプロセスを記述する。
TCFDリスクマネジメント推奨事項c:気候関連リスクを特定し、評価し、マネジメントするプロセスが、組織の全体的なリスクマネジメントにどのように統合されているかを記述する。
気候関連リスク・機会を含む環境マネジメント体制
指標と目標
リスク・機会の指標
Hondaは、2050年にHondaの関わるすべての製品と企業活動を通じたカーボンニュートラルを目指しています。二輪車、四輪車、パワープロダクツや船外機、航空機を合わせて、年間3,000万台規模の世界一のパワーユニットメーカーとして、幅広い製品の動力源のカーボンニュートラル化に取り組んでいます。
2050年カーボンニュートラルの着実な実現に向けて、製品領域においては電動製品の販売比率に加え、製品使用時のCO₂排出量原単位を2030年目標として設定し推進します。企業活動領域においては、CO₂排出総量を2019年度比で46%削減する目標を設定して進めています。この目標の実現に向けては、生産効率向上や省エネルギー施策の導入、低炭素エネルギーへの転換、再生可能エネルギーの活用を推進します。
また気候変動の影響を受ける水資源についても、事業に影響を及ぼす供給リスクや、生産拠点の周辺地域に影響を及ぼす枯渇リスクを視野に入れ、取水量の削減に向けて取り組みを行っていきます。TCFD指標と目標推奨事項a
TCFD指標と目標推奨事項a:組織が自らの戦略とリスクマネジメントに即して、気候関連のリスクと機会の評価に使用する指標を開示する。
「環境負荷ゼロ」の実現に向けた目標
2030年目標 TCFD指標と目標推奨事項a |
|||
---|---|---|---|
企業活動CO₂排出総量削減率 (2019年度比) |
46% | ||
電動製品販売比率 | 二輪車 15% |
四輪車 30% |
パワープロダクツ 36% |
製品CO₂排出量原単位低減率 (2019年度比) | 二輪車 34.0% |
四輪車 27.2% |
パワープロダクツ 28.2% |
企業活動 廃棄物等総量削減率 (BAU比) | 14.5% | ||
企業活動 取水総量削減率 (BAU比) | 14.5% | ||
製品リソースサーキュレーション | 社内マイルストーン設定 |
TCFD指標と目標推奨事項a:組織が自らの戦略とリスクマネジメントに即して、気候関連のリスクと機会の評価に使用する指標を開示する。
2050年めざす姿 TCFD指標と目標推奨事項c |
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企業活動CO₂排出総量削減率 (2019年度比) |
CO₂排出実質ゼロ | ||
電動製品販売比率 | |||
製品CO₂排出量原単位低減率 (2019年度比) | |||
企業活動 廃棄物等総量削減率 (BAU比) | 工業系廃棄物ゼロ | ||
企業活動 取水総量削減率 (BAU比) | 工業用取水ゼロ | ||
製品リソースサーキュレーション | サステナブルマテリアル使用率 100% |
TCFD指標と目標推奨事項c:気候関連のリスクと機会をマネジメントするために組織が使用する目標、およびその目標に対するパフォーマンスを記述する。
HondaのGHG排出量 TCFD指標と目標推奨事項b
Hondaはモビリティに携わる会社として、責任を持ってGHG排出量を算定・開示することが、全世界でGHG低減に向けた取り組みを積極的に推進していくために必要なことだと考えています。
事業の特性上、販売した製品の使用時からのGHG排出量を含む、バリューチェーンからの排出量が大きいことにより、スコープ3を算定・開示することが重要と考えています。したがって、Hondaからの直接排出(スコープ1)、間接排出(スコープ2)に加えて、バリューチェーンからの排出(スコープ3)を算定し開示しています。
今後もデータの把握・管理を進め、GHG排出量低減施策の実践に活かしていきます。
TCFD指標と目標推奨事項b:スコープ1、スコープ2、該当する場合はスコープ3のGHG排出量、および関連するリスクを開示する。 気候関連のリスクと機会の評価とマネジメントにおける経営陣の役割を記述する。
TCFD指標と目標推奨事項とは
(t-CO₂e) | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 |
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バリューチェーン全体の排出 | 3億312万 | 2億5,448万 | 2億8,002万 | 2億8,823万 |
スコープ1 | 124万 | 112万 | 116万 | 109万 |
スコープ2 | 379万 | 338万 | 314万 | 273万 |
スコープ3 | 2億9,809万 | 2億4,998万 | 2億7,572万※ | 2億8,441万 |
- スコープ1・2・3はGHGプロトコルにて定義されている。
- スコープ1・2:本田技研工業株式会社および国内外の連結子会社・関連会社の企業活動からの直接・間接GHG排出量。一部小規模な会社は除く。詳細については
ESGデータブック p.137(PDF:9.17MB)
を参照。 - スコープ3:カテゴリー1・2・3・4・5・6・7・9・10・11・12・15の合計。
2021年度からスコープ3カテゴリー11は算定方法を変更。詳細については
ESGデータブック p.136(PDF:9.17MB)
を参照。