多くの日本企業にとって、多様性の推進は待ったなしの社会課題です。多くの課題がある中、女性活躍について、Hondaでは2021年に女性活躍推進法の行動計画を改定し、女性役職者数を20年度に対し2025年までに3倍、2030年までに4倍にする、および、新卒採用に占める女子学生の割合を20%以上とする目標を掲げています。
三部:
社内における女性の管理職の少なさは昔から指摘されてきました。製造業という業種柄、Hondaは圧倒的に男性の割合が高く、男性中心の企業文化であったことは事実です。だからといって業種を理由に女性活躍推進を諦めてしまうのならば、そもそも最初からやらなければよいという話です。しかし、Hondaにおいて、女性の活躍推進が注力すべき重要な課題であることは、紛れもない事実です。
今の取り組み状況を見ると、やるならもっとちゃんとやろうよ、というもどかしさも正直少しあります。と同時に、KPIとして目標値を設定するものの、数値の達成がゴールではありません。最終ゴールは「異質な考えを持つ従業員同士が意見をぶつけあうことで、新しいビジネスや価値を創造し、会社が成長すること」。これを見失わないことが肝要です。
三部:女性活躍のアイデアはいくつか持ち合わせています。例えば、近年はクルマを販売したのちも継続的にお客様に培ったデータやノウハウを使いながら新しいサービスを提供していく「リカーリングビジネス」の需要が急速に広がっています。こうしたビジネス環境の変化の時こそ、女性の活躍の場が広がるチャンス。何より、意思決定の議論には、男性だけでなく女性の意見も必要です。外部人材の登用も含め、継続してアプローチしたいと思います。
男性従業員も全員、育休を取得できるHondaへ
男性従業員の育児参画も直近の課題。Hondaは「2025年までに男性の育児目的休暇 取得率を100%」という目標を掲げています。
※育児目的休暇とは、産後パートナー休暇と育児休職のこと
三部:
私が若手社員の頃は日本が右肩上がりの高度経済成長時代で、男性の育児目的の休暇が話題に挙がることはまずありませんでした。極論を言えば「寝ずに働け」という雰囲気でしたからね。しかし今はそんな時代ではありませんし、育児は女性の仕事であるという考え自体が論外です。私たち世代のやり方を顧み、男性従業員も全員きちんと育児目的の休暇を取得できる企業へと明確に変わっていかなくてはなりません。だからこそ、それは議論の余地はありません。育休を取れればいいのではなく、取るべきだと思っています。
三部:
もちろん、この休暇は我が子の成長の過程で必要なことですが、一度仕事から離れて育児をすることで新たな視点を得られ、ひいてはこれまで気づかなかった仕事の課題が見えてくると思います。一時的に環境を変えることは、人生に大きな価値をもたらしてくれるはずです。
誰もが当たり前に育休を取得できる職場環境に
三部:ただし、形式的に短期間休めばよいという話でもありません。育児にどう向き合っていくかをパートナーと話し合うには2~3日では足りないでしょう。
三部:子供を育てることの大変さは理解していますので、制度の中で、必要な期間を目一杯使っていただきたいと思います。制度はあっても利用しにくい雰囲気が職場で仮にあるとするなら、何がネックなのか確認し、十分に把握した上で、会社として効果のある策を講じる。現場のマネジメントが躊躇することなく、従業員が育休を取得できる環境を作っていく必要があります。
一方で、今の若い世代の価値観が変わり、制度を重視していることは理解できます。ただし、Hondaへの入社動機はあくまで仕事の内容が魅力的であることで、その先に充実した制度があったというのが理想です。
多様性を受容する職場風土の醸成が要
職場でのアンコンシャスバイアスにより、本人が望むような仕事を付与されず、本来の力を発揮できない従業員もいる。固定観念をあらため、一人ひとりが自らの姿勢や視点を変え、新しい価値を受け入れることが多様性推進の第一歩となる。
※アンコンシャスバイアスとは、無意識の偏見、思い込みのこと
三部:
「多様性の受容」って結構難しいんですよね。戸惑う声が社内に多いことも認識はしています。Hondaは二輪に75年、四輪に50年以上携わり、成功体験を積み重ねてきました。そこで良くも悪くも培われた「今まで自分たちはこうしてきたんだから」という固定観念が、時として変化の波を邪魔するケースが、往々にしてあります。いわゆる大企業病ですよね。そうした固定観念を一度壊さない限り、多様性の推進はなかなか難しいと思います。言うだけなら簡単ですが、現実を認識し、地に足をつけて進めなくては。まず「私たちはできていない」と自覚し、新しい価値を受け入れ、職場風土を変える覚悟を決めないといけません。