2022年の育児・介護休業法の改正で新たに「産後パパ育休制度」が創設され、2023年3月には育児給付金の引き上げ方針が発表されるなど、産後は女性・男性問わず育休を取得することや、仕事と家庭を両立しやすい環境づくりは当然という意識が、社会全体の中でも高まっています。
ですが、男性の育休取得率はまだまだ低く、実際に男性が育休を取得することで、収入やキャリアにどのような影響があるのか、不安を持つ人は少なくありません。今回は、こうした「育休取得の不安あるある」について、男性育休取得推進研修や育休前・復帰前セミナーなどの講師を多数務める、ワンダライフLLP代表の林田香織先生に解説していただきました。
Q1

育休取得期間中の収入の低下が不安です。

林田’s ポイント!
林田’s
ポイント!
◯家庭全体の生涯賃金にメリットあり!
◯安定した家計基盤への投資期間!

育休中は会社から給与の支給はありませんが、国から給与の67%の育児休業給付金が支給されます。また、育休取得期間中の社会保険料は免除されますし、2023年3月には、国が育児休業給付金の支給額をこれまでの賃金の67%から最大80%支給にまで引き上げる方針を発表するなど、近年、育休期間の実質収入が減らないような子育て支援策が増えています。それぞれの家庭によって家計の状況は様々なので、家計の状況をきちんと把握した上で判断することが大切です。

また、中長期的な視点で考えてみることも必要です。例えば、男性が育休を取らないことで、パートナーの育児負担が増えて、パートナーが働いている場合は、フルタイムからパートタイム勤務へと働き方を変える必要性に迫られる場合があります。パートナーが働いているかどうかに関わらず、ワンオペ育児は負担が大きく、体調を崩してしまう女性も少なくありません。こうした可能性をトータルで考えると、男性の育休取得はむしろ、家庭全体の仕事と育児の両立基盤を創る重要な機会になりますし、家計全体の生涯賃金においてプラスとなる場合も多いのです。

さらに、企業の雇用形態が流動的になりつつある現在の社会的背景を考えると、夫婦が健康に働き続けられる環境づくりは、家計面のリスクヘッジとしても、今後はより真剣に考えなければいけない課題です。
育休による収入の変化を長期的な視点で捉え、育休期間は子育てに必要な時間であると同時に、家族が安定して働き続けられる環境づくりと、安定した家計の基盤づくりに向けた投資期間と考えてはいかがでしょうか。


Q2

育休を取ることで、
職場に
迷惑をかけるのではないかと心配です。

林田’s ポイント!
林田’s
ポイント!
◯分割取得も選択肢に!
◯上司は最大限のサポートを!

実は育休制度はフレキシブルで、男性は「産後パパ育休」(※Hondaでは出生時育児休職という制度)と通常の「育児休業」を合わせると、出生後8週間に2回、その後も2回の最大4回の分割取得ができます。取得のタイミングも産後すぐに限定されているわけではないので、たとえば出産と業務の繁忙時期が重なった場合、「1回目の育休で出産に立ち会い、業務が落ち着いた1ヶ月後に2度目の育休を取る」という取り方も可能です。職場に迷惑がかかることが心配という方は、育休制度をきちんと理解し、家族と育休取得のタイミングをしっかり話し合ったうえで、分割取得について上司に相談することをおすすめします。

そして上司は、部下から分割取得の相談を受けた場合、可能な限り本人の希望が叶うように、業務の分配の見直しなどを検討してください。どうしても対応が難しい場合でも、本人とチームの状況を鑑みて、部下が提示した育休スケジュールが最大限に叶うようサポートしましょう。

育休に限らず、病気になったり、看護や介護があったりと、社員の約8割が、働く時間や場所になんらかの制限がある制約社員だと言われています。上司の皆さんには、さまざまな制約の中で業務を回す大変さがあると思いますが、こうした状況こそ、誰かが休むことを前提にした働き方や、チーム体制を再構築する良い機会と捉えていただきたいです。


Q3

育休を取ると、キャリア構築のタイミングを
逃すのではないかと不安です。

林田’s ポイント!
林田’s
ポイント!
◯キャリア計画に合った取得時期/期間を決める!
◯今後のキャリアに必ずプラスになる!
◯取得期間が長い人ほど仕事を効率化している!

出産時期が社内資格試験の時期と重なり、育休取得について悩む方は多いようです。
Q2でもお伝えしたように、育休は分割取得ができます。自分のキャリア計画に合った取得時期や取得期間をフレキシブルに決められます。キャリア構築と育児の両立においても、育休制度を理解することと、ご家族とお互いの今後のライフプランやキャリアプランをしっかり話し合うことが大切です。

また、育休を取得し、育児を経験することは、今後のキャリアにも必ずプラスになるオン・ザ・ライフ・トレーニングです。長い人生、育休期間に一度立ち止まることで、見えてくるキャリアがあります。育児経験を通じて得た視点や考えは、今後キャリアアップして管理職になったときにも、必ず役に立つスキルとなります。

実際、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」によると、育休取得期間が長いほど、効率的に仕事をするための工夫をする傾向が強くなり、会社に仕事で応えたいと感じる人が多い、という結果が出ています。その意味では、育休は自身のキャリア形成のビッグチャンスでもあるのです。

取得期間別意識の変化(男性)

子育ては成長するビッグチャンス!

これまでとは異なる人間関係・出会いが生まれて価値観にも変化が。
仕事の「幅」も広がる

仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業
出典:三菱UFJリサーチ& コンサルティング(2018)
仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業

Q4

育休を取得すると仕事より育児優先と思われ、
責任のある業務に就けないのではないかと不安です。

林田’s ポイント!
林田’s
ポイント!
◯自分の働くスタンスを周囲にきちんと伝える!
◯上司は本人の意向をしっかり確かめる!

まず、妊娠・出産や育休取得を理由に、会社側が社員を意図的に職務から外したり、降格させるなどの不利益な扱いをすることは法律で禁止されています。ですが、育休取得期間中に社内が再編成されたり、もともといた部署が廃止になったなどの様々な理由で、育休取得前と取得後で仕事内容が変わる可能性はあり、その場合は違法ではありません。

気をつけたいのが、育休取得者の希望と上司の配慮が食い違い、業務内容や部署が変更になった場合です。これを避けるために育休取得者は、今後自分がどういうスタンスで働きたいのか、周囲にきちんと伝える必要があります。責任のある業務にも積極的に取り組みたい意欲があるなら、たとえば「子供が急な病気になった場合、こうしてチーム内で業務をシェアする体制をつくります」など、具体的な提案を通して、自分と周囲が共に働きやすい環境を主体的につくることを心がけましょう。

そして上司は憶測で過剰な配慮をすることなく、部下としっかりコミュニケーションを取り、本人の仕事に対する意向を確かめる必要があります。育児と仕事の両立のあり方も同じ育児期でも多様です。育児のために短時間勤務をしている場合も仕事を諦めているわけではないですし、育休を取得した男性=仕事より育児を優先する人でもありません。業務量への配慮はしつつも、業務の質は本人の能力に見合う配分を心がけるなど、上司の視点を活かし、部下の希望を叶えられる環境づくりをサポートしましょう。

育休に関しては、取る/取らない、期間が短い/長いの2択で考えるのではなく、上司と部下がお互いに知恵を出し合って話し合い、一緒に最適解を探っていくことが重要です。上司はどうすれば部下が、復帰後のキャリアでベストパフォーマンスを発揮できるのか、部下はどうしたら自分の望むライフプランとキャリアプランを実現できるのか、じっくり話し合っていきましょう。

チームメンバーの育休取得により、チームの業務体制を見直すことが、ひいては風通しの良い、多様な人が働きやすい職場づくりのきっかけになるはずです。

林田 香織(はやしだ かおり)
日米の教育機関において、長年にわたり日本語教育(高校・大学・ビジネスマン向け)に従事。8年の在米期間を経て、2010年にロジカル・ペアレンティングLLP(現ワンダライフLLP)を創業。自治体・企業においてDE&I推進セミナー/ライフ・キャリアデザインセミナー/女性活躍推進セミナー/育休前・復帰前セミナー/両立セミナー等の講師を多数務めている。
また、日本最大の父親支援団体、NPO法人ファザーリング・ジャパンの理事として、財務省/内閣府/厚生労働省/文部科学省など、中央省庁と連携した取り組みの推進をサポートするほか、子供の社会参画を支援するNPO法人コヂカラ・ニッポンの理事として、子供の社会参画のコーディネートや大学と連携したコースのデザインも行っている。
夫と男子3人の5人家族。

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