女性は男性よりも多くの健康課題を抱えていると言われています。女性は女性ホルモンの影響を受け、月経や更年期の不調をはじめ、妊娠や出産などライフイベントによってさまざまな悩みが生まれます。一方で男性も、ホルモンの減少により、身体、精神、性機能の症状が現れる男性更年期も注目されるようになってきました。
今回、Honda社内で実施した座談会の内容に加え、健康課題との上手な向き合い方について、これまで全国で健康支援や研修を通じ、悩みを抱える多くの方に寄り添ってこられた、ウェルネスライフサポート研究所代表の加倉井さおりさんに解説していただきます。

大切なことを知るきっかけとなる座談会でした

お互いを気遣い、想い合いながら、よい形で働けている、素晴らしい職場だと感じました。今回の座談会は、3つのことに気づくきっかけになったと思います。

  1. 1 職場での生理や更年期の症状が語られてましたが、そのような経験のない女性にとっても男性にとっても、職場でこういった女性特有の不安や悩みを抱えている人がいるということ。
  2. 2 生理の悩みを抱える20代の方は「特別なことではなく普通のことで、男性にも知ってもらった方がいい」と語り、一方で更年期症状をお持ちの50代の方は「言いにくい」と語っています。Hondaの健康推進室が実施したアンケート結果でも「61.7%が言えない、言いにくい」、そして「19.8%が知られたくない」方がいらっしゃいます。女性であっても個人差があり、世代に関わらず「知られたくない」方もいること。
  3. 3 年齢を重ねることで経年的なホルモンの変化により、男女ともに「更年期症状」の可能性があり、それによる影響があること。

一人ひとり考え方や価値観がちがうように、誰にでも起こりうる健康課題も一人ひとり症状が異なり、個人差があります。こういった状況を理解した上で、目の前の人に対し、「困っていることはないか」と向き合うことが大切です。

自分のキャリアを諦めないで!

今回の座談会で語られた職場は、互いが歩み寄ることで乗り越えた良い事例です。一方、私がこれまで受けた相談は、そのようなケースばかりではありません。

他社事例では、毎月陣痛並みの月経痛に悩まされていた女性は、生理休暇を一度も使わず、上司や同僚に相談することもなく、市販の鎮痛剤で対処しながら働き、電車内で倒れ救急搬送となったケース。長時間の立ち仕事や外回りの営業で休憩なく、トイレに行くこともできず、月経血が洋服に付いてしまった体験が恥ずかしくなり退職したケース。男性の多い職場で専門職だった方は、月経の周期が不規則で、ダラダラと続く出血が気になりながらも、仕事が忙しく受診せず仕事を優先した結果、子宮頸がんの発見が遅れ亡くなったケース。月経前症候群(PMS)がひどかったが、上司に言えず、うつ状態になり休職に至ったケース。更年期症状で、集中力が低下しパフォーマンスに自信がなくなり、昇進を諦め退職したケースなどです。

これらのケースに共通することは、我慢をしているということです。その結果、自分のキャリアや妊娠・出産などのライフイベントを諦めている状況もありました。ご本人が望む人生を諦めることは、たった一度きりの人生において本当にあってはならないことだと思います。だからこそ、自分のからだに向き合いセルフケアをすることや、職場でもお互いを理解しサポートし合うことが必要です。

性別・年代を超えて、個々のちがいを知ろう!

性別・年代やライフステージによって、起こりやすい健康課題は様々です。
女性の健康課題は、女性ホルモンの影響を受け、月経に伴う症状や更年期症状で悩むだけではありません。

2019年に私どもウェルネスライフサポート研究所が実施した「働く母1000人実態調査 」では、妊娠・出産、産後の体調について、8割を超える方が心身になんらかの不調を抱えていました。厚生労働省が公開している「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック 」によると不妊を心配したことがある人は夫婦全体の約2.6組に1組、実際に検査や治療を受けたことがある(または受けている)人は約4.4組に1組です。

また、「厚生労働省 平成31年(令和元年)全国がん登録 罹患数・率報告 」によると20代から50代では女性のがん罹患数は男性を上回ります。女性は若いうちからがんになるリスクがあるということです。国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」 のデータを見ると、乳がんは9人に1人が罹患する時代で、30代後半から増え始めています。子宮頸がんは20代後半から増え始め、30~40代がピークであり、子宮体がんは50代、60代が多くなっています。また卵巣がんは40代から増え始め、50~60代がピークとなっています。

一方、女性だけでなく、男性にも更年期があり、更年期症状で悩む人がいます。厚生労働省 更年期症状・障害に関する意識調査(結果概要) 」によると男女ともに更年期症状を自覚し日常生活への影響があると感じていることが明らかになっています。男性に対しても「男だから弱音を吐いてはいけない」「男のくせに」という考えはジェンダーバイアスにつながります。
こちらの資料 には、女性向けの簡略更年期指数(SMIスコア) と男性更年期障害質問票(AMSスコア)が参考資料としてあります。ご自分でもセルフチェックしてみるとよいでしょう。
この他、男女ともにメンタル不調が増え、現在社会において、大きな健康課題となっています。

健康課題は誰にでも起こりうることで、本人だけでなく、パートナーや家族にも関係します。
男女の心と体のしくみを学び、自分の体に関心を持ち、セルフチェックやセルフケアをする、かかりつけ医を持つことが大切です。更年期の症状だと思っていたら別の疾患が隠れているリスクもあります。受診することで「こんなに快適になるのなら、もっと早く受診して治療すればよかった」という場合も少なくありません。

このような健康課題と向き合う上で、職場においては、「サポートする意識」、「歩み寄る姿勢」、「コミュニケーション」が重要になってきます。上司の方は、部下が100%のパフォーマンスで今は働けないことを理解し、安心して休めるようにする、業務を調整することが大切です。
次の項では、職場におけるコミュニケーションの事例をいくつかご紹介します。

1人1人と向き合うコミュニケーションを

職場において健康課題を抱える人たちが働きやすい風土を創るためには、上司や周囲の人たちの理解やサポートが必須です。その上で大切なのはコミュニケーション。不調の詳細を明かすことに抵抗がある人や、どのようにメンバーに聞いたらいいかと悩む上司の方は、以下のような伝え方を参考にしてみてください。

健康課題を持つ本人が、詳しく言いたくない場合

本人 上司
「ご相談したいことがあります。実は今日体調が悪くて、お休みをいただきたいのですが…」
「体調が優れず、仕事にも支障が出て困っています」
など、病名や症状の詳細は言わずに、ご自身の状況を打ち明ける。

上司 本人
「そうなんですね。わかりました。無理せず休んで下さいね。業務を調整します」
「どういったご様子ですか? 業務上配慮したいと思うのですが、どのくらいの期間になりそうか、わかれば教えてください」

体調が悪いように見えるが、本人から申し出がない場合

①直接声をかける 上司 本人
「自分の気のせいかもしれないけれど、何となくいつもより元気がないように感じるけど、大丈夫?」
「もし体調が優れなくて、困っていることがあれば、業務を調整しますよ。何かサポートできることはありますか?」

上司から先に、上記①のような言葉をかけてもらったが、詳しく言いたくない場合 本人 上司

「お声かけありがとうございます。実は昨日から体調が優れなかったので、ご相談するか迷っていました。できれば明日は休暇をいただけると有難いです」
「(生理痛や更年期症状という言葉は使わず、困っている症状だけを伝えて)気にかけていただきありがとうございます。実は昨日から腹痛がひどく、長時間立って仕事をするのがつらい状況です。今日明日と2日間、業務を調整いただけたら助かります」

体調が悪いことを
伝えてもらった場合 上司 本人

「教えてくれてありがとう。無理はしないでくださいね」
「お互い様だから」
「また何か困ったことがあれば、いつでも遠慮なく相談してくださいね」
「しっかり休んで、元気になったらまた頼むよ」

②本人に近い存在のメンバーに声をかけてもらう 上司 本人以外のメンバー
「○○さん、体調がよくないように感じるのだけど、声をかけてみてもらえますか?
もし、私やチームで何かサポートできることがあれば調整したいのでご本人の状況や希望を聞いて、教えてください」

ハラスメントにならないコミュニケーションの取り方

  • 「何となくいつもより元気がないようだけど」など、心配していることを伝える。
  • マジックフレーズ(いつもありがとう、お疲れ様などの前向きな感謝・労いの言葉)を先に伝える。
  • 「『業務上の配慮が必要』と思い、声をかけている」と伝える。
     (例えば、業務上の配慮が必要だから声をかけた、困っていることはないかな?など)
  • 本人が事情や想いを話してくれたら「教えてくれてありがとう」と伝える。

NGな言動

  • 「今日は生理で体調悪いの?」「更年期なんじゃないの?」とストレートに聞く。
  • 辛そうだと気づいても、何も対応しない。

ちなみに、部下がかけてもらって嬉しかった言葉は「いつでも相談して下さいね」「サポートできることはするから」「大切な存在なんだから、自分のからだを大切に」などが多く聞かれます。ぜひ、参考にしてみてください。

将来に向け、ライフプランを考えてみよう!

女性のキャリアを考える上では、ライフステージごとに起こりやすい心とからだの変化を理解しておくことも大切です。女性の体は生まれる前の胎児期から一生分の卵子を持っていて、年を重ねるごとに卵子の数は減り、老化していきます。特に35歳を過ぎると卵巣機能が低下し、妊娠率も下がってきます。若い時期からライフスタイルを見直し、妊娠出産を含めた自分の人生、ライフプランを考えてほしいと思います。

働く女性の健康課題
~女性のライフステージ心とからだの変化

出典:ウェルネスライフサポート研究所

「産みたい時にいつでも産めるように」と、近年「卵子凍結」の選択を考える人もいますが、凍結していた1つの卵子で妊娠・出産できる確率はまだそれほど高くなく、費用も高額です。また妊娠期が高年齢となることで母体と赤ちゃん双方にリスクが高まります。「いつか産める」「高齢出産できる時代」とキャリアを優先する人もいますが、できるだけ20代から男女共に妊娠や出産を含めたライフプランを考える機会を持ち、妊娠前からの健康管理(プレコンセプションケア)をすることをお勧めします。

国立成育医療研究センターのホームぺージ

国立成育医療研究センターのホームぺージ

また妊娠・出産にかかわらず、女性は月経や更年期に関する健康課題と向き合って行かなければなりません。症状を自覚できていることは、自分の体と向き合い、ライフスタイルを見直すチャンスと捉えましょう。ためらわずに相談、受診、治療をしていくことは、自分のキャリアやライフイベントを諦めないためにも大切です。

最後に

たった一度きりの人生、一人ひとりに愛する人がいて、誰もが多くの方に影響を与える尊い存在です。
自分の生き方を主体的に選ぶためにも、健康に関する知識を男女ともに学び、ともに生きる仲間としてお互いを理解し合い、安心して一緒に働き続けたいと思える職場づくりを心がけましょう。

一人ひとり、自分や目の前の人の健康に意識を向ける

セルフケアとともに、他者を理解し、思いやりを向けることが大切です。

制度が使える風土を創る意識を持つ

制度があっても使われていない現実があるなら、それは、制度を使える「風土」がないからです。一人ひとりが、必要な時に休みが取れ、後ろめたさを感じさせない職場を目指す意識を持ちましょう。

誰もが働き続けたいと思う職場を創っていく

真摯に健康課題へ向き合い、お互いを認め尊重し、感謝し合うことが、安心して働ける職場環境につながります。

人生100年時代。
一人ひとりのいのちが輝き、誰もが健やかに自分らしく幸せに生きることができるウェルビーイングな人生を。
そのために、今からできることを是非始めていきましょう。

加倉井 さおり(かくらい さおり)
株式会社ウェルネスライフサポート研究所 代表取締役
保健師/心理相談員/産業保健指導者/健康経営アドバイザー

筑波大学医療技術短期大学部、神奈川県立看護教育大学校卒業後、財団法人かながわ健康財団にて18年間活動。主に健康づくり事業のコンサルティングや企業への巡回健康相談、企業・団体・地域・学校での講師など、健康教育を中心に幅広いテーマを手掛けている。
2011年に株式会社ウェルネスライフサポート研究所を設立。女性の健康支援に特化した「WOMANウェルネスライフ研究会」を主宰。企業での健康支援、コンサルティングを数多く行い、女性の健康支援、仕事と子育ての両立支援、マネジメント層への研修なども全国で行い登壇回数は3000回を超える。産業保健師・看護師など専門職の人材育成も多数行っている。2019年「働く母1000人実態調査~健康×子育て×働き方」を実施。
「健やかに、自分らしく、幸せに生きる」ための情報を発信している。