基本理念に「人間尊重」を掲げ、多様性推進に取り組むHonda。なかでも、創業者・本田宗一郎の想いのもと、社会に先んじて取り組み始めた障がい者雇用において長い歴史があります。Hondaが目指すのは、障がいの有無に関わらず、誰もが活躍できる風土づくり。人それぞれの特性を受け入れ、互いに支え、認めあう未来の共生職場づくりに向けた取り組みについてご紹介します。
大学卒業後、IT企業在職中に大病を患い、短時間勤務者として復職したことを機に、復職専門部署を設立・運営。同部署で障がい者人材の受け入れ、能力育成に注力し、特例子会社の設立、就労継続A型・就労移行支援事業所の全国展開を手がける。2015年より現職。「障がい者雇用を切り口とした組織開発・人材開発」をテーマに、研修・セミナー・コンサルテーションを精力的に行い、多様性への理解を企業価値の向上へ繋げる活動を続けている。
「身体障害者雇用促進法」制定
中村裕博士*が社会福祉法人「太陽の家」を創設
* 1964年の東京パラリンピック開催に尽力し、「日本のパラスポーツの父」と呼ばれる医師。「保護より機会を!」を理念に掲げ、障がい者の自立を支える「太陽の家」を設立。オムロン、ソニー、三菱商事、デンソー、富士通エフサスと提携し、障がい者の雇用創出の発展に寄与した。
障がいのある方でも当たり前のように働けて、働く喜びを分かち合える場を作っていくべきだという考えのもとで、太陽の家シリーズが打ち出されますが、それは世界的に見ても先進的なものでした。
民間企業の法定雇用率が義務化
本田宗一郎が中村博士と出会う
(「太陽の家」を見学し)どうしてだ?涙のやつが出てきてしょうがないよ。よし、やろう。Hondaもこういう仕事をしなきゃだめなんだ。
ホンダ太陽株式会社を設立
「障がいに関係なく、誰もが活躍できる社会にしたい」という本田宗一郎の想いからホンダ太陽は誕生しました。障がいのある方とただ一緒にいることだけを目指すような会社も多かった時代、ホンダ太陽は、一人ひとりの働き方について考えていたんです。
希望の里ホンダ株式会社を設立
「障害者雇用促進法」に改正 対象範囲をすべての障がい者に拡大
ホンダR&D太陽株式会社を設立
知的障害者の雇用の義務化
ホンダ太陽株式会社 障がい者雇用優良事業所 厚生労働大臣賞受賞
事業主に対し、障がい者への差別禁止・合理的配慮が義務化
精神障がい者の雇用の義務化
「障害者雇用促進法」改正
世に身心障害者はあっても仕事に障害はあり得ない
障がいのある方でも当たり前のように働けて、働く喜びを分かち合える場を作っていくべきだという考えのもとで、太陽の家シリーズが打ち出されますが、それは世界的に見ても先進的なものでした。
(「太陽の家」を見学し)どうしてだ?涙のやつが出てきてしょうがないよ。よし、やろう。Hondaもこういう仕事をしなきゃだめなんだ。
「障がいに関係なく、誰もが活躍できる社会にしたい」という本田宗一郎の想いからホンダ太陽は誕生しました。障がいのある方とただ一緒にいることだけを目指すような会社も多かった時代、ホンダ太陽は、一人ひとりの働き方について考えていたんです。
2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | 2024年4月 | 2026年7月 | |
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Honda雇用率(%) | 2.38 | 2.45 | 2.35 | 2.35 | ? | ? |
法定雇用率(%) | 2.2 | 2.3 | 2.3 | 2.3 | 2.5 | 2.7 |
Hondaはこれまで法定雇用率を大きく上回る形で障がい者雇用を促進してきましたが、年々の法定雇用率の上昇に伴い、実際の雇用率との差は縮まってきています。今後も法定雇用率の段階的な引き上げが予測されるなか、Hondaはさらに、障がいのある方と共に働くことへの理解を加速し、さらなる人材多様性の進化を目指します。
法定雇用率は現在2.3%ですが、2026年度中に2.7%に引き上げられることが決まっています。そして、多くの会社が考えているのは、2.7%を見据えてどうすべきかではなく、3.0%になることを予測していまから準備を進めておくべきではないか、ということです。
出典:厚生労働省「フランス及びドイツの障害者雇用促進制度について」(2015年)に韓国を追加
実際、グローバルスタンダードで見た場合、日本の障がい者雇用は、現状だいぶ遅れているといわざるをえません。日本の雇用率は2.3%で、それを達成している企業は48%しかありません。 一方、ドイツは雇用率5.0%で達成率が92%で、フランスや韓国を見ても、雇用率、達成率ともに日本より圧倒的に高く、日本は決して現状に留まってはいられません。
出典:国連障害者の権利条約事務局「障害を持つ人々に関するファクトシート」より作成
日本の人口における各属性の比率を見ると、障がい者は人口の9.2%にあたります。概ねAB型の人や、左利きの人と同じ割合です。そう考えると、障がい者はもっとたくさん会社にいていいんじゃないかと思えるのではないでしょうか。つまり、決して少なくない障がいのある方を戦力として捉えられるかどうかが、今後の企業において一つの分かれ目になると言えます。
そして、2024年の4月から、障害者差別解消法の改正により、事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化され、日常生活のあらゆるシーンにおいて、障がいを理由とする「不当な差別的取扱い」が禁止されます。障がい者雇用においても、障がいのある方とない方との間で、募集や採用、採用後の待遇を均等に確保するために支障となっている事情を、企業は改善・調整しなければなりません。どのような合理的配慮を行うべきかは、一人ひとりの障がいの特性や職場環境によっても変わってくるため、障がい者と雇用する側で話し合い、具体的な内容を決めていく必要があります。
出典:内閣府「障害者差別解消法が変わります!(リーフレット)」より
いま、法定雇用率を目安にしていた時代は終わりを告げ、企業には「雇用の数」と「雇用の質」の両方を満たし、障がいのある方々の活躍の場を増やしていくことが求められています。「雇用の質」を満たすには、障がいのある方もない方と同じように、「この会社でこういう仕事をしたい」と自ら望み、その希望を叶えられるような職場づくりが必須です。これからの障がい者雇用は、「障がい者」で一括りにするのではなく、一人ひとりに向きあうことが重要なポイントになってきています。それはまさしく、Hondaフィロソフィーの「人間尊重」に立ち返ることにもつながるのではないでしょうか。
社会に先駆け、障がい者雇用に取り組んできたHondaは、一人ひとりの障がい者の状況に配慮しながら、健常者と共に働く職場環境の整備を進めています。障がい者雇用における「雇用の質」を、どのように考え、高めてきたのか。現場の声をお届けします。
障がい者の訓練校で同社を知ったのがきっかけとなり、2011年に入社。事業部に所属し、記念品や名刺、電子化業務などの業務管理に従事している。
地元の大分でHondaの研究開発に携われることに魅力を感じ、2010年にホンダR&D太陽(2021年ホンダ太陽へ吸収合併)入社。事業部に所属し、データ領域の業務管理に従事している。
ホンダ太陽に見学に行って、障がいのある方がたくさん働いていることにびっくりしました。その時、障がいのない方も、手伝うのが当たり前というように一緒に働いているのを見て、ここなら私も働けるのではないかと、安心したのを覚えています。皆さん気を遣いながら働いているのかなと想像していましたが、笑顔で楽しそうに働いているのをみて、印象が変わりました。実際に入社してみて、助けるのが当たり前ということではなく、どうやったらできないことができるようになるかというプロセスを一生懸命みんなで考えながら仕事を進めるなかで、自分の中で、障がい者として働く、社会に関わっていくということの認識が大きく変わりましたね。
前半の「がまん」は業務を遂行する側のもの。できない、やれないと思うことがあっても、簡単にはあきらめず、我慢を重ねて努力する。そのような、業務を遂行する側の自助努力についての言葉です。後半の「がまん」は、教える側、管理する側のもの。ここまでやってほしいな、もう少しスピードを上げてほしいなと心の中で思っていたとしても、ぐっとこらえて我慢し、繰り返し教えて、ひたすら見守る。そのように、互いに努力をしながらやっていくことが大切だと感じています。Hondaの人材育成の考え方に「オン・ザ・チャンス・トレーニング」という手法がありますが、 ホンダ太陽でも、一度ですぐ諦めるのではなく、チャンスを与え続けて、お互いに我慢しながら成長していくということを重視しています。それを表した言葉が、この「がまんvs がまん」です。
ホンダ太陽という会社は、障がい者雇用において、最適解を求められる会社だと思うんです。でも、どうすることが本人のためになるだろうということを一番に考え、「がまんvsがまん」の精神で、一人一人と向きあっている。そういう姿勢が会社を強くしているのだろうと思います。障がいのある方もない方も、それぞれが悩み、試行錯誤しながら働いている。そういう風土がHondaらしさにつながっているように感じます。
本田宗一郎が太陽の家創設者・中村裕博士の「世に身心障害者はあっても仕事に障害はあり得ない」との想いに感銘を受け、大分県に設立した特例子会社。障がい者の在籍率は60.3%にのぼり、障がい者と健常者が同じ作業現場でクルマやバイクの部品を生産。「Hondaのものづくりを通じた、障がいのある人たちの社会的自立の促進」という理念のもと、高品質なものづくりに日々取り組んでいる。
https://honda-sun.co.jp/
支援学校の職場実習とクルマ好きがきっかけとなり、2009年に入社。製造課に所属し、支給部品の図面との照合など、品質不具合を未然に防止する品質管理に従事している。
アットホームな職場の雰囲気に惹かれ、2007年に入社。製造課に所属し、品質管理とマネジメントに従事している。聴覚障がい者とコミュニケーションをとるため手話を覚えた。
入社して1か月ぐらいは、私が作ったものを直属の上司が確認してからお客様のところに届けられていたのですが、その後は上司の確認がなくなりました。自分が作ったものがそのまま完成形としてお客様に届けられることに、「何かあったらどうなるんだろう」と怖くてたまらなくなりました。毎日毎日、不安と緊張の連続で、夜も眠れないような日々が1年くらい続き、やめたいと思ったことも正直ありました。こういった状況でも、反省するところはどこなのか、どうしたら失敗しなくなるだろうかを上司が一緒に考えてくれるので、サポートしてもらいながら業務に励んでいます。
希望の里では、聴覚障がい者と健常者が一緒に作業しています。私は障がいのある方と手話でやりとりをしますが、どうしても年に数回程度、ミスコミュニケーションが発生します。うまく伝わっていないなと感じたときは、その場で作業をストップします。通常、生産ラインを持つ現場でラインを止めることはまずありませんが、希望の里ではあえて現場を止めて、筆談で伝えます。そうしなければ品質と安全が守れないからです。一緒にいいものをつくるために、遅れた分はあとでフォローする。そういう方針でやっています。
最終チェックは健常者が行いますという会社が多い中、希望の里ホンダのように、障がいのある方に責任のある仕事を任せられる現場は珍しいんですよね。企業の一員として、仕事の責任を負うことは、誰でも怖いし、緊張することです。でも、その苦しさを乗り越えてこそ、働く喜びにつながるのではないでしょうか。仕事とは何のためにするものなのか。「人間尊重」を掲げるHondaフィロソフィーがここに息づいているなと感じます。
自動車メーカーでは初の第三セクター方式の重度障がい者雇用企業として、Hondaが熊本県と松橋町(現・宇城市)との共同出資で設立した特例子会社。障がいのある人と健常者が同数程度の割合で働き、クルマやバイクに使われる部品を生産している。
http://www.kibou-honda.co.jp/
「どうして障がい者の方を雇うんですか」「なぜ障がいのある方と一緒に作業を行わなければいけないんですか」。もし現場で部下から問われたら、皆さんはなんて答えるでしょうか。
法定雇用率を達成し、次のステップとして「雇用の数」と「雇用の質」の両立を考えていくなかで、3つの視点がポイントになります。それは社会性、経済性、そして自社らしさです。「自社らしさ」を実現するには、障がいのある方と働く上で、自分の会社がどのような姿でありたいかを考えることが重要です。Hondaらしい障がい者雇用とは一体何なのかという問いを改めて考えていただきたいです。
私たちが目指す共生職場とは、管理職の方が1人で考えて作るものではありません。障がいのある方と対話して考える、そして困ったことがあれば人事の方と共有し、私のような外部の人間とも共有する。そうして皆で協力しながらいい職場を作っていきましょうというのが目指される姿であり、その中で自社らしさも出てくるのではないでしょうか。
今回のセミナーイベントが、障がい者の方と共に働き、悩み、喜びをわかちあう未来へ向けて、一歩進むきっかけになることを願っています。
今回、白砂氏をゲストにお招きし、ホンダ太陽、希望の里ホンダのメンバーと一緒に、管理職を対象にしたセミナーイベントを開催いたしました。「知らなかった事が多く、改めて考えさせられるイベントだった」との声を大変多くいただき、障がい者に対する意識醸成の第一歩になれていたら幸いです。Hondaの障がい者に対する多様性の取り組みに終わりはありません。今後も私たちは、職場の理解促進と意識醸成に向けた理解浸透を図ることで、障がい者との共生職場に向けた取り組みを加速してまいります。
障がい者の福祉についての関心と理解を深める「障がい者週間」にあわせ、2023年12月に開催した意識醸成セミナーでは、有識者による講演【知識編】と、特例子会社のメンバーによるパネルディスカッション【実践編】の二部構成で、人材多様性のありたき姿を参加者と一緒に考えました。
世に身心障害者はあっても仕事に障害はあり得ない