学生たちとデザイナーが出会う「Honda Design Meetup」
デザイン学生とHondaデザイナー
双方向の出会いの場
2023年からスタートし、今年で4回目の開催となる「Honda Design Meetup」。会場は、埼玉県和光市にある本田技術研究所デザインセンターです。実際にデザインが行われるスタジオへ行き、デザイナーと出会い、プロダクトを見て、感じてもらう。学生側にとってはHondaのデザインを体験する場であると同時に、Honda側も若い世代の価値観や発想を学ぶ。インターンシップや会社紹介のセミナーとは一線を画す、「双方向の出会いの場」として設計されています。
2日間のプログラムは、全6コース(後述)共通のデザイン講義から始まり、その後各コースで自己紹介や課題の発表、実機・模型・デモ機・素材などの観察、事前課題のブラッシュアップが行われ、最後に各自課題のプレゼンテーションという流れで行われました。
作業時間だけでなく、昼食の時間もHondaのデザイナーと言葉を交わせる和気藹々とした雰囲気の中で、最初は緊張気味だった学生たちも次第に打ち解けていく。「一方的に教える場ではなく、学生もHondaも高め合える場にしたい」という根幹の思いが、プログラム全体に反映されています。
6つの専門領域が互いに連携する、Hondaデザイナーの役割
多岐にわたるHondaデザイナーの仕事
Hondaのデザイナーは、開発の最初期であるコンセプトを描くことから、プロダクトへと落とし込み、お客様の手に届けるまで、すべてのプロセスに関わります。そこでは、効率的かつ高精度に開発を進めるため、6つの専門領域でデザイナーが互いに連携する体制をとっています。
最初に行われたデザイン講義では、まずオートモービルと、モーターサイクル、パワープロダクツに共通するデザインの流れを解説しました。
デザインの流れ
①コンセプト(何のために作るのか、開発の目的)を定める
②コンセプトを具現化する:大きさや乗車姿勢などの骨格決め→スタイリング→モデル制作→設計・工場との打ち合わせ→評価会
③商品としてローンチする:発表会対応、取材対応など
次に、各領域で活躍する現役デザイナーたちが登場。モーターサイクル・パワープロダクツ、オートモービル、コミュニケーションデザインに分けて具体的な仕事内容を紹介しました。
造形が得意な人、色や素材に強い人、体験設計が得意な人、ブランドの見せ方に長けた人——。デザイナーには得手不得手があるものですが、Hondaのデザイナーに求められるスキルは一つではありません。それは難しさを伴う一方で、広い領域で自分の可能性を試したい人にとって、魅力的な場だと言えます。
そして街に出れば、自分が手がけた製品をお客様が楽しそうに使う姿に出会える。講義では、そんなやりがいも共有されました。
実物を見て、つくり、発表する。プロの仕事に触れた2日間
各コースごとのプログラムを紹介
デザイン講義の後、参加者は6つのコースに分かれ、課題に取り組んでいきます。
課題はデザインセンターの広く大きな空間で取り組むことができ、6つの専門領域でデザイナーが密に連携するHondaデザイナーの協働のプロセスを肌で感じられます。学生たちの関心領域が自然と広がり、刺激し合える場がここにはあります。
今回は、6つのうち、3つのコースを中心に紹介します。
UI/UXデザイナーコース
このコースでは、学生が事前に提出した課題を現役デザイナーがプロ目線でアドバイスしながら、ブラッシュアップしていくかたちで進みました。現場では、実際の業務でも使われている、開発中の次世代メーター・CID(Center Information Display)のデモ機や、ステアリングのプロトタイプを学生が体験する姿も見られました。
UI/UXデザインの範囲は、モニターのグラフィックや操作性、サウンド、ライティングなどのインテリアだけでなく、低速走行音や降車時に足元を照らすライティングなどのエクステリアにも及び、「モビリティに乗る体験」を一貫してデザインしています。
UI/UXデザイナーコース担当講師
操作性や便利さだけではなく、新しい体験をデザインしていく。特に、楽しさをつくっていくことが、今のクルマのUI/UXのトレンドであり、他社との差別化を図るうえでも大きな命題になるのかなと思います。
将来に求められるUI/UXデザインを探るにあたり、学生たちの多くは「疲れや情報過多から解放されたい」という、自身のリアルな感覚から発想していたといいます。かたちにとらわれないUI/UXだからこそ、デバイスや所有形態まで含めて、学生たちは自由にユーザー体験のあり方を構想し、デザイナーたちは体験に感じる価値そのものの変化を学生たちから学び取っていました。
カーモデラーコース
モーターサイクル・パワープロダクツモデラーコース
モデラーは、デザイナーが描いたスケッチを立体へと具現化する仕事です。デザイナーが「0から1」、つまり何もないところからアイデアを生み出す役割だとすれば、モデラーはそれを「1から100」へ——スケッチに込められた意図を汲み取り、立体として磨き上げ、完成度を高めていく役割です。ただしHondaのモデラーに求められるのは、指示通り形にする再現力だけではありません。自ら気づき、提案し、クルマのフォルムに昇華していく「提案力」が重視されます。
このコースでは、初めてクレイ(工業用粘土)に触れる学生も多い中、実際に手を動かしてモデルを造形する体験が用意されました。現場では、原寸大のクレイモデルでモデリングを体験。
さらにMR(複合現実)ゴーグルを使ったデジタルデータを数分で原寸確認できるツールも体験でき、フィジカルとデジタル、両方の開発現場に触れられます。
モデラーコース担当講師
開発の現場では、データからミリングマシーンを使ってクレイで立体にすることができますが、実寸大の大きさで見ると印象が全く異なります。だから、直接クレイでモデリングする必要がある。フィジカルとデジタル、その違いを体感することが重要だと思っています。
限られた時間の中で、いかにスケッチのイメージを形にし、より良いフォルムへとブラッシュアップできるか。真剣な表情でクレイを削りながら、色々な角度から確認する姿が見られました。
モーターサイクル・パワープロダクツデザイナーコース
モーターサイクル・パワープロダクツのデザインは、機能・性能・人間工学的な要素のすべてを、外観のデザインとして表現します。また、バイクは人が身体で操るプロダクトであるがゆえに、人の感覚に寄り添う繊細な視点も必要であることがレクチャーで語られました。
課題は「トレンドを分析して二輪商品を提案する」というもの。社会背景の分析からターゲット設定、提供価値、そしてデザインの提案と、極めて実践的な構成です。2日間ではコンセプトのブラッシュアップに加え、スケッチワークにも挑戦。タイトな進行にも、参加した学生たちは意欲的に取り組んでいました。
重視するのは、マーケット(市場)から入り、ユーザーの課題を捉えて解決しようとする「コンセプト構築力」。特に、モーターサイクルはオートモービル以上に地域特化のニーズが強く、世界の多様なユーザーの気持ちを学生のうちから理解してほしいという思いが、プログラムに込められています。
モーターサイクル・パワープロダクツデザイナーコース担当講師
近年はAI活用も進み、ポートフォリオだけではその人の本質や考える力を理解することがますます難しくなってきています。だからこそ、完成されたアウトプットだけでなく、学生一人ひとりの視点や考え方を、直接の対話を通じて知ることができたことは、とても有意義だったと思います。
アドバイスを受けて、提案内容を大きくブラッシュアップさせた学生の姿もあり、モーターサイクル・パワープロダクツのデザイナーに求められる課題解決力を身につけようとする学生の熱意が、そこにはありました。
カーデザイナーコース
CMFデザイナーコースのプログラム内容
カーデザイナーコースは、課題の仕上げ以上に、デジタル3Dモデリングのデモや実機体験を通じて、「クルマのデザインっていいな」と実感してもらうことが狙い。Hondaのデザインがどんな場所で、どんな仕事のやり方で行われているかを「知ってもらう」ことに重きを置いた内容でした。
CMF(Color, Material, Finish)デザイナーコースは、「将来に求められるCMFデザイン」をテーマに、人中心の思想や未来を見据える視点を伝えるプログラムでした。CMFは単なるカラーコーディネートではなく、クルマ一台の世界観をお客様に伝わる形にする仕事。素材サンプルに触れる「サンプリング」も重視されました。
Hondaが問う「デザインの価値」を、未来へつなぐ
デザインは何のためにあるのか?
Hondaデザイナーが担う役割の全体像を見せ、より現場に近い体験を提供することで、学生が「自分の個性や特技を活かせる場所かどうか」を考えられ、Hondaデザイナーたちも学生たちの視点や思考、提案力に触れられる「Honda Design Meetup」。
この機会を大切にするHondaのデザイナーたちの根底にあるのは、「そもそも、デザインは何のためにあるのか」という問いです。モノをつくるその先には、必ずお客様がいる。
Hondaは2030年のビジョンとして、「すべての人に、『生活の可能性が拡がる喜び』を提供する」ことを掲げています。移動や暮らしを通じて、一人ひとりの可能性を拡げていく。その喜びを具体的なカタチにし、創造していくこと。そこにHondaデザイナーたちの役割があります。
そしてこれからの時代を生きる次世代デザイナーには、グローバルで戦っていく力を育ててほしい。「Honda Design Meetup」には、毎年国内外から強い志を持つ学生が集まります。刺激し合い、こんな仲間がいるんだと感じられる——そうなることが、私たちHondaにとっても嬉しいことなのです。
AIが発達し「上手く描く」ことが代替されていくこれからの時代。人中心のデザイン思想、人の役に立つ喜びを大切にするHondaでは、物事を広い視点で捉え、深く考え、構想し、形にしていこうとする姿勢に魅力を感じます。そして、その根底に「人のために」という想いがあることも、大切にしたい価値観の一つです。
そして、デザイナーを志望する若者たちの成長の場として“驚きと感動”の場であり続けたい。このDesign Meetupで出会った学生たちが、いつかモビリティの世界で活躍してくれたら。それが、私たちHondaにとって一番の願いです。


