「隠しながら、魅せる」がHondaの流儀になるまで
ディテールを隠すためのカモフラージュリバリーの変化
――カモフラージュリバリーは、公道でのテスト走行時に開発中のクルマの形状やキャラクターライン※を隠すための仕掛けです。ゼブラ柄や唐草模様などノイズになる柄で車体を覆い、発売前のディテールを読み取られにくくします。
※キャラクターライン:車体の表面に入る、形状の特徴を表す線。 クルマの個性となる大切な要素の一つ
――近年、そんなカモフラージュリバリーが施されたクルマが、SNSなどで広がり、発売前から関心を集めるきっかけにもなっています。
――そしてHondaがカモフラージュリバリーで選んだのは、クルマのディテールを隠すだけでなく、そのクルマの「個性を伝える」というアプローチです。
形状を隠す「擬装」と興味を引く「訴求」。この2つは目的が相反します。そのためSuper-ONEでは、車体の開発責任者とカモフラージュリバリーを担ったデザイナーが初期段階から議論し、擬装よりも訴求に比重を置く方針を決めてからプロジェクトをスタートさせました。
――この視点は、PRELUDE開発の中に萌芽がありました。当時は事前に割合を決めずに進めたため、隠す機能を優先したグラフィックになったのです。その経験から、Super-ONEでは制作に入る前に開発チームとデザイナーが方針を共有し、Super-ONEらしさをより積極的に表すグラフィックを検討できました。
Super-ONEを彩るグラフィックの制作プロセスに迫る
Super-ONEが備る二面性から辿りついた「平行四辺形」
――Super-ONEのカモフラージュリバリーは、イギリス・インドネシア・日本の3地域で展開されました。地域ごとにクルマやEVへのイメージ、光の入り方や街の景色、出展するイベントの役割や雰囲気も異なるため、全体コンセプトは統一しつつ、カラーリングを3種展開することに。
――第1弾となるイギリス版デザインの制作にあたり、開発チームとの議論の末に決め手となったのは、クルマ本来のコンセプトとグラフィックのつながりという評価軸でした。このグラフィックを手掛けた永井雅生は、制作初期を振り返りながらこう話します。
永井
最初にSuper-ONEを見たとき、張り出したスタンスによる安定した四角形のフォルムが印象的で、かわいいなと思いました。一方で開発チームに聞くと、みんな口をそろえて「走りがすごくて楽しいクルマ」と言うんです。
――このビジュアルとドライバビリティの二面性を、永井はグラフィックの根幹に据えました。デザインの核としたのは、連続配置した平行四辺形のモチーフです。フォルムから抱いた四角形の安定感を図形で、開発チームが自負する疾走感を連続性で、それぞれ表現しました。グラフィックは、図形の大きさや重ね方まで緻密に設計されています。
永井
平行四辺形は、1・2・4・8倍の倍数関係となる4サイズ、3層構造で構成しています。大きなパーツは力強さを、小さなパーツは緻密さを表現し、グリッドに沿ってきれいに整列させたあとにあえてズレを加え、動きの大胆さを出しました。私がデザインをするときは、最初にモノクロの状態ではじめ、グラフィック自体のパフォーマンスを高めていくんです。そして、色がない状態でもコンセプトを表現できるデザインが完成した段階で、最適なカラーリングを探していきました。
色が纏う「スピード感」と「デジタル感」
――デザイン全体に落とし込んだ二面性は当然、色にも反映されました。永井は、Super-ONEが持つ幾何学的でエッジの効いた造形「デジタルアイコニック」を手がかりに、スピード感とデジタル感を表す色を探し始めます。
永井
平行四辺形と組み合わせたときに、スピード感とデジタル感の両方を最も表現できたのが、マゼンタとシアンでした。
――さらに検討段階では、イギリスの冬の曇り空では、より暗い色の方が合うのではないかという意見もありました。そこで、デジタル感を保ちながら2色の彩度を抑え、ベースのブラックになじむ色へ調整しました。
――鮮やかさを一段抑えたことで、より平行四辺形の連なりが際立つ。主張させるための色から、動きを見せるための色へ。イギリスを走ったSuper-ONEは、この調整を経た姿でした。
3種のカモフラージュリバリーがそれぞれの舞台へ
イギリス(マゼンタ×シアン)
――こうして完成した共通のグラフィックデザインをベースに、イギリス、インドネシア、日本と、披露する環境に合わせてそれぞれ色を変えました。
――イギリスでは、「Goodwood Festival of Speed※」で走る姿を想定し、走行中も平行四辺形が地面と水平に見えるよう配置を調整しました。一方で、車体形状が見えやすくなるという指摘もあり、「魅せること」と「隠すこと」の両立には課題も残りました。
※Goodwood Festival of Speed:イギリスで毎年開催される世界最大級のモータースポーツイベント。歴代のレーシングカーから最新の市販車、開発中のクルマまでが実際に走行する
インドネシア(ライムグリーン×ブルー)
続いて展開したのはインドネシアです。東南アジアでHondaが持たれているスポーティなイメージに合わせ、マゼンタはライムグリーンに、ブルーはさらに彩度を高めて、それぞれのグラデーションの組み合わせで「クリーンで新鮮、活発なEV」というインドネシアならではのEV像を表現しています。展示会場となるインドネシア国際モーターショー(GIIAS)が華やかな空間で落ち着いた色では埋もれてしまうため、強烈なカラーリングが必要でした。
また、GIIASは購入を検討する来場者が多く集まる場でもあり、量産モデルが多数並ぶ中、開発中のクルマを展示すること自体が異例でした。それでもあえてカモフラージュ姿で出展したのは、発売までまだ時間がある段階から、期待を少しずつ育てたいという狙いがあったからです。
日本(グレー×ブラック)
――世界を巡り、最後に披露したのが日本でした。日本版は、走りや技術に焦点を当てた「Honda四輪技術ワークショップ」での披露に合わせ、グレーとブラックを基調としました。
走りや技術にフォーカスするワークショップの趣旨に合わせ、性能面・機能面を強調できるよう色味はモノクロに寄せられていますが、カラーリングの明度をそのままにして動きがしっかり見えるよう工夫されています。
また、ワークショップで隣に並んだ新プラットフォームが完全なモノクロだったのに対し、グレーにほんの少しだけパープルを入れて差別化。Super-ONE本来のカラーリングが醸し出される趣向をこらしました。
お客様とのタッチポイントすべてにデザインを意識
グラフィックが様々なグッズに
――Super-ONEのグラフィックは、やがてクルマを離れ、グッズ制作にも広がっていきました。トミカやアクリルキーホルダー、イヤホン、ステッカーなど、Super-ONEと同じグラフィックを施したアイテムが次々と生まれています。
トミカ No.19 ホンダ Super-ONE(初回特別仕様)
© TOMY
数々のグッズを企画し、実際に形にした開発側の訴求・グッズ担当者とともに、永井はデザイナーとしてSuper-ONEのイメージを体現できるよう監修する立場で関わりました。これはお客様とのタッチポイントを通じて、クルマの世界観を伝える試みでもあります。
――クルマだけでなく、SNSやグッズなどお客様とのタッチポイントすべてにデザインを行き渡らせることで生まれる世界観。それが、永井がカモフラージュリバリーから得た手応えです。発売前から点ではなく線で考え、段階的に期待値を高めていく。隠すために用いられてきた仕掛けに魅せる役割が託されたとき、Hondaはその発想力と想像力でさらなる新しいアプローチを披露していきます。



