Sustainable impacts 2025/12/15
世界一の技術で社会の可能性を広げたい。知財でHondaのイノベーションに貢献する
知的財産・法務統括部で知財業務を担当する上原。研究開発職としてキャリアを始めた自らの経験から、「技術だけでは新しいモノは生み出せない」と話します。Hondaがこれからもイノベーションを起こし続けるために──上原が知財担当者として大切にする想いやHondaだから感じる仕事のやりがいとは。
上原 みちるMichiru Uehara
コーポレート管理本部 知的財産・法務統括部 四輪事業知的財産部 第二知財課
学生時代は材料工学を専攻。新卒で入社した化学メーカーでは研究開発に携わりながら、開発テーマの特許出願や調査を担当。2024年Hondaにキャリア入社。電池領域の知財業務を担当している。
知財はデスクワークだけではない。現場で得られるインスピレーションを大切にする
Hondaの事業活動を支えるコーポレート管理本部。上原が所属するのは、その傘下に位置する知的財産・法務統括部です。
「知的財産・法務統括部は、知財と法務に関わる領域からHondaの開発や事業、経営と一体になって、Hondaの企業価値を最大化することがミッション。Hondaの事業を円滑に進めるために、自社が取り組む技術に対して特許権をはじめとする知財権を取得したり、すでに知財権を得ている企業がないか、事業を行う上でのリスクを調査したりするほか、他社の知財情報から技術動向を把握し、Hondaが注力すべき開発や事業の方向性を検討し、自社の経営戦略に活かしていく役割を担っています。
知財一筋の人、技術領域でキャリアを積んできた人以外にも、文系学部出身者や私のようにキャリア入社した人など、メンバーのバックグラウンドはさまざま。私が所属するのは、四輪事業における知財を担当する部署です。クルマに関わる技術はとても幅広く、機械・電気・情報・材料などの技術領域がありますが、それぞれに専門領域を持ちながら担当しています」
現在、上原が担当しているのは電池領域、とくにEV(電気自動車)の強化において重要となる次世代電池の知財業務。特許出願や特許調査、他社の動向分析などを行っています。その際に重要なことは、さまざまな関係者、とくに技術者との密接なコミュニケーションだと話します。
「開発部門から『この技術で出願したい』と相談をもらうこともあれば、開発状況を共有してもらうなかでこちらから提案することも。Hondaの研究開発を担う本田技術研究所のメンバーを中心に、日々コミュニケーションを重ねて信頼関係を築くことを大切にしています。
また、知財戦略は経営においても重要です。自社の出願結果を元に技術構築状況を共有し、知財情報から他社の開発動向などを経営層に報告しながら、開発・事業における競争力向上について議論することも私たちの役割です」
開発担当者との信頼関係を築くために上原が心がけているのが、Hondaが大切にしている「三現主義」。現場・現物・現実を重んじることです。
「知財はたしかにデスクワークが多い仕事ですが、文章を読んだり書いたりしているだけで仕事が進められるわけではありません。実際の技術や、その技術で作られたモノと向き合うからこそ得られるインスピレーションが必ずあります。
そのため、できる限り開発現場に足を運び、技術者とコミュニケーションをとりながら現物に触れることが大切だと思っています。Hondaの技術者は皆、初歩的な質問にも丁寧に答えてくれるのでありがたいですね」
研究開発で実感した知財の重要性。フィロソフィーに惹かれてHondaへ
上原は、学生時代に材料工学を専攻。卒業後は化学メーカーに就職し、研究開発に長く携わります。この経験が、今につながっていると振り返ります。
「研究開発を通じて、まだ世の中にない新しいモノを生み出すこと、そしてお客様に価値として提供して収益につなげるということは、簡単なことではありませんでした。技術が優れていても、お客様に受け入れられなければモノは売れません。そのようななかで、どのように開発を進めて、どのようなモノを、どう提供して収益を上げていくのかを、さまざまな立場の人たちと考えて取り組む必要があることを痛感しました。
学生時代も含め、基礎研究から始まるものづくりの流れを経験したことで、技術と、事業としてのデザインの両方が必要で、知財は両者の成否を左右するものとして重要であると実感するとともに、実物を見て、作ってみないことには、その技術の価値を関係する人たちに伝えることは難しいのだと知りました」
研究者として感じた現場・現物の大切さと知財の重要性をきっかけに、上原は知財業務にも挑戦し始めます。
「知財業務は、知的財産法という法律、研究開発という技術領域、さらに事業や経営など多岐にわたる領域と関わり合いながら進める必要があります。そこにおもしろさを感じて、研究開発ではなく知財の仕事でキャリアを歩みたいと考えました」
その後、プライベートとの両立を重視するために新たな挑戦環境を求め、2024年にHondaにキャリア入社。入社の決め手になったのは、Hondaが成し遂げてきたイノベーションやフィロソフィーに惹かれたことでした。
「日本を代表する製造業の企業として、技術オリエンテッドでこれまで数々のイノベーションを起こしてきたことに魅力を感じました。
また、新しいモノを生み出していく経験をするなかで、技術だけでなくイノベーションを起こすための個人のマインドや組織のあり方にも関心を持ち、とくに経営学者である故・野中 郁次郎先生の知識経営に感銘を受けたのですが、そのなかには本田 宗一郎からインスピレーションを受けた内容があったことも、興味を持ったきっかけでした。
私が惹かれたHondaらしい文化は、選考過程でも感じました。立場に関係なく意見をぶつけ合うワイガヤや、一人ひとりの想いや夢を大切にすることを、日常業務と結びつけながら説明してくれたことが印象に残っています」
技術の前では皆平等。経営層とのやりとりで感じたイノベーションの源泉
入社してからは、特許出願や権利化などの業務からスタートした上原ですが、1カ月ほど経った頃、早速大きなチャレンジが待っていたと話します。それは、協業に関するプロジェクトでした。
「協業の可否を検討するため、知財に関する分析業務や資料作成を担当することになったのです。当初は、あくまで下準備に近い業務だろうと思っていたので、『まずは自分にできることをやろう』と同僚や上司に相談しながら進めていました。ところが、どんどんとプロジェクトが大きくなっていって、経営層の判断を仰ぐための報告資料も作成することに。周りの人たちにサポートしてもらいながら、なんとか完成させました」
その報告会にも同席することになった上原。経営層とのやりとりで、Hondaらしさを体感したと言います。
「Hondaは大きな企業ですので、経営層と接する機会はほぼないと思っていましたし、一方的に報告する形になるものだと思っていました。けれど実際は、お互いにとことん議論している様子が印象的でした。『技術の前では皆平等』という言葉の通り、対等にやりとりしていることが新鮮でしたね」
その後も、日常的に開発部門のトップや経営層に報告する機会があるなかで、「知財担当者として挑戦すべきことはたくさんあり、まだまだ自分は成長途上だ」と日々新たな気持ちで業務に取り組んでいると続けます。
「先輩方がどのような夢を起点にHondaという組織を作ってきて、部門のトップや経営層がどのような想いで運営していこうと考えているのかといった視点でコメントをもらえることがとてもおもしろいですし、良い経験ができています。
そのなかで感じるのは、Hondaはとても技術に対する想いが強いということ。現場のメンバーから経営層まで一貫して、『世界一の技術を自分たちで作っていくんだ』という想いや飽くなき探究心があふれていますし、知財担当者としてもその想いを持っていなければいけないと感じています。
また、『技術として良いモノであり、かつ、お客様の目の前の不便を解消するモノであることはもちろん、お客様自身も気づいていないような課題を解決し、価値を提供するモノを作りたい』という強い想いも伝わってきます。それが、これまでのイノベーションの源泉になっていると思うのです」
知財ならではの感覚を磨きながら、新しい価値を生み出すことに貢献したい
新たなことに挑戦しながら、知財業務のやりがいをあらためて感じていると笑う上原。難しさもありながら、日々の業務を進める上では、Hondaの知財部門ならではのおもしろさがあると話します。
「製造業全体として海外のスピード感に押されている状況があり、もっと競争力を高めなければいけません。かつ、モビリティは組み合わせる技術が多岐に渡りますので、それぞれの強みを活かした進め方をする必要があります。現場レベルでも、競争環境の厳しさと、それに応じた日々の刻々とした状況変化を感じており、その時々で臨機応変に対応しながらも本質を見失わないことが必要で、そこは難しさを感じる部分です。
一方で、Hondaの知財は『独立した部署』ではなく、開発者の近くで『一緒に発明を作っていく部署』であり、事業側のメンバーと議論しながら『一緒にビジネスを作っていく部署』であること。そのようにして、知財で技術を守り、事業を成長させていけることが、とてもおもしろいです」
そして、そんなHondaならではのおもしろさが生まれた背景を、こう続けます。
「Hondaの知財は、現場から離れた第三者ではなく、先輩方が開発者や事業側のメンバーと一緒に現場で培ってきた知恵が豊富にあり、その知恵を知財部門として活用できること、さらに、その時々でさまざまなメンバーとの議論を通じて新しい視点を取り入れ、より良いものに進化させていけることが強みだと感じています。
その根底にあるのは、個々の想いを大切にして挑戦を歓迎する風土、そして、立場に関係なく自由闊達な議論をする『ワイガヤ』といったHondaのカルチャーだと感じています。とくに、ワイガヤを通してお互いを理解しているため、それぞれがその分野のプロとして信頼し合っており、言葉にならない部分からも想いを汲み取ろうとする人が多いのです。
それこそが、本質に迫り、新たな価値を創造するきっかけとなり、厳しい競争環境においてもイノベーションを起こすことにつながると考えています」
そのなかで上原は、Honda知財という仕事の醍醐味を味わいながら、これまでのキャリアで積み重ねてきた想いをかなえる大きな目標を描いています。
「自分の専門性や得意分野を活かしながら、Hondaの製品やサービスを通してお客様に新たな価値を提供し、社会の可能性を広げることに挑戦したいです。そのために知財はもちろん、技術、さらには事業や経営などの視点を磨いたり、社内外のさまざまな方たちと協力したりしながら、知財担当者として貢献していきたいと思っています。
私自身、キャリアのスタートが研究開発だったからこそ、『研究開発だけで新しいモノが生み出せるわけではない』『多様な知を融合させないと、お客様や社会にとっての価値は生み出せない』ということを、身をもって感じています。優れた技術を事業にするために多角的に考える必要があるなかで、さまざまな知と密接に関わり合う知財は、多様な知を融合するきっかけを作るものとして、果たす役割が大きいと思っています」
多様な知を融合させるため必要なことは、やはり「現場での経験」だと言います。
「知財の仕事は、一見すると頭を使うばかりに見えますが、実際には現場での経験を通じて、『このような対応が良さそうだ』という感覚を身につけることが大切だと思っています。
たとえば私は趣味で武道を嗜みますが、実戦に臨む上で、武道における『型』や師匠からの教えといった知識を頭で考えずとも身体で体現できるようにするには、日々の稽古を通じて感覚として身体に覚え込ませることが必要であると教わってきました。そのような身体に覚え込ませた知を『身体知』と言いますが、知財も身体知が非常に大切だと思っています。
そして、Hondaの知財は、さまざまな人の身体知を統合することができるからこそ、新たな価値を創出し、イノベーションに貢献していくことができる、そんな組織だと感じています。
周りにたくさんいるエキスパートたちの知見も吸収しながら現場経験を積み、私もさらにその感覚を磨いていきたいですね」
開発者と同じように技術への誇りと探求心を持ちながら、知財担当者として事業を加速させる。その想いで、Hondaのイノベーションに貢献していきます。
※ 記載内容は2025年10月時点のものです