森 亮介は二輪事業でアフリカ地域を担当し、その中でも西アフリカに注力をしています。ミッションはアフリカでの販売台数の拡大。Honda二輪の世界シェアはNo.1ですが、西アフリカにおいては1%以下。そんなチャレンジングな環境の中、西アフリカでのシェアNo.1という高い目標を目指し、日々奔走しているのです。森は、なぜアフリカに対してここまでの情熱を持っているのか。活動を続けるエンジンの源を紹介します。
森 亮介Ryosuke Mori
二輪事業本部 営業部 営業三課
新卒でPanasonicに入社し、カナダ、アメリカ、中国での海外営業を経験。2018年にHondaに中途入社し、アフリカ・中近東エリアへの営業を担当。キャリアを歩み始めた頃から「人々の生活のベースアップに役立てる事業」に携わることを志し、Hondaでもその夢を追いかけている。
学生時代、チュニジアで見た「現実」の世界
2018年にHondaに中途入社した森 亮介が活躍するフィールド──。
それは、日本から遠く離れたアフリカ大陸にありました。
そんな彼のアフリカに対する興味の起点は大学時代にまで遡ります。
森 「高校生の頃まで“人より優れた才能はない”と自分に自信がありませんでした。そんな中で英語だけは得意なことに気付き、外国語を使えば少しでも人の役に立てるのではないかと考え、大学で外国語を学ぶことを決意しました」
得意な英語を生かして大学へ入学した森はフランス語を専攻することになります。
森 「大学入学当時は、発展途上国に漠然とした興味を持っており、国連に入りたいと考えていました。フランス語を選択したのは、国連の主要な公用語だったからです」
在学中、森は北アフリカのほぼ中央に位置するチュニジアを訪れます。
森 「本やネットを通じて勉強していたものの、実際にチュニジアに行き、現地に足を踏み入れたことで、“環境による格差”がこの世にあることを体感しました。恵まれた日本で生まれ、選択肢の多い自分との間のギャップには衝撃を受けました。
砂漠の奥地にある小さな村では働きたくても働けない人、学校に行きたくても行けない子どもたちの存在を目の当たりにしました。この経験から私が実現したいのは、やりたいことがあっても実現できない環境にいる人たちにその環境から一歩抜け出してもらい、夢に近づく手助けをすることだと気付きました」
少しずつアフリカに没入していった森。
このときには、いつかアフリカで働きたい気持ちを持つようになりました。
そして大学卒業後、新卒でPanasonicに入社をします。
海外で働き、成長が出来るという観点からPanasonicへの入社を決意しました。松下 幸之助氏の水道哲学に共感していたことも入社の後押しをしました。
森 「アフリカに行きたいという気持ちは強く持っていたのですが、当時は英語とフランス語を話せるくらいしかスキルがありませんでした。まずはビジネスマンとしての力を身に付けようと考えました。」
海外での業務経験を生かし、アフリカへ貢献するためにHondaへ
Panasonic入社後、最初の3年間はアメリカ・カナダを担当した森。月10日ほどアメリカへ出張し、現地メーカーや代理店へ営業をしました。その後、3年間中国に駐在。マネージャーとして5人の部下をマネジメントしながら、中国語を勉強して現地で営業活動を行いました。
森 「中国駐在期間は販売を拡大し、工場の稼働率を高めることがミッションでした。また、収益性の向上・受給を最適化するオペレーションなど、経営層と喧々諤々の議論をしながら、改善に努めました」
その後、中国での役割を進めていく中で、アフリカに対する想いが再び森の心に浮かび上がりました。
森 「北米・中国・日本に広がるチームメンバーと徹底的に施策を打った結果、大型の案件獲得に成功しました。その時、もともと中国のチームメンバーは非常に優秀だったこともあり、もう私がいなくても大丈夫だと確信しました。
それに、彼らの主導で今後の販売を拡大することが現地にとってベストだと感じたのです。そして、役目の終わりを感じるとともに、学生時代に思い描いたアフリカで仕事がしたいという気持ちが膨れ上がりました」
Panasonicに入ってからもアフリカに対する興味を持ち続け、ルワンダやウガンダ、エチオピアなどに休みの度に旅行していました。
森 「アフリカは、成長著しくポテンシャルが高い。また解決すべき社会課題が多く、だからこそ自分が貢献できる場所があると思いました。何より何度行ってもワクワクする場所であり、アフリカで仕事がしたい気持ちが高まっていました。
自分の尊敬する人達がアフリカへ貢献するビジネス・活動をしていることも要因です。ケニアナッツカンパニーを立ち上げた佐藤 芳之さん、国連で活躍した緒方 貞子さん、アフリカで起業した周りの友人たち。彼らに憧れ、追いつきたいという気持ちが強くなっていました」
こうして森は、転職を考え始めます。中国の現場で開拓力・営業力を培ったことで、自身のスキルにも自信がついていました。そうして、転職活動の中でたどり着いたのがHondaでした。
森 「Hondaを選んだ理由は、ふたつありました。ひとつは、Hondaの影響力です。Panasonicの部品営業の経験から、アフリカにサプライチェーンを誘致し、産業・経済を活性化できるのは、日本企業では自動車・二輪メーカーだと考え、その中でHondaの二輪は世界No.1であるため、影響力の高さを感じました。
もうひとつは、二輪のポテンシャルです。アフリカではバイクタクシーが一般的で、人々の生活の足になっています。また1台のバイクがライダーとその家族の収入を支えています。バイクには人の選択肢を広げる力があると考えました。
そして採用面談で営業部長が途上国においてはまずは二輪で入り込み、その後四輪を売ることがHondaの勝ち技だと教えてくださり、Hondaであれば自分の志が実現出来ると確信しました」
知名度が低いギニアで、さらなるシェア伸長を目指して
活躍の舞台をHondaへと移した森には、入社後のギニア出張において、非常に思い出深いエピソードがあります。
森 「ギニアには立派な店舗があるのにも関わらず、バイクがあまり売れなかったのです。実際に店舗を見てみると、代理店の中国人経営者と、現地のギニア人スタッフとのコミュニケーションが満足にできていない状態でした。
経営陣は英語しか話せない、ギニア人スタッフはフランス語しか話せないので、明らかに意思疎通ができていなかったのです」
このとき、森の培った経験が生かされました。
森 「自分がフランス語を話せたので、間に入ってコミュニケーションを取り、経営陣とスタッフで共通の目標を持ち、販売活動が出来るように方向付けをしました。他にもそれまで出来ていなかった、スタッフに対する商品研修を企画し、実行しました。このとき、Hondaで初めて“自分にしかできないこと”ができた実感を得られました」
ギニアでは、安価なインド車や中国車がシェアを獲得しており、Hondaの知名度はまだまだ低いのが現状です。
この状況で店舗数だけを拡大しても到底売れない。
だからこそ現地のキーマンを見つけ出し、必死でメリットを伝え、ギニア人スタッフと一緒に関係性をつくっていきました。
森 「スタッフとご飯を一緒に食べて、雑談をすることで関係性を築きつつ、一緒に販売活動に取り組みました。その中で、小さな成功体験を積んでもらうことで、自発的な行動に繋げていきました。
ギニアのバイクタクシー市場はギニア人が主導する市場ですから、私が日本に帰っても活動が続けてもらえるように、やり方を丁寧に教えながら、現場を周り、彼らのスキルアップに努めました」
ローカルスタッフを指導する一方、現地でHondaを広めるために、森はまず試乗会を行い、バイクタクシーライダーにHonda車に乗ってもらう方法をとりました。
森 「そこで電話番号を聞き出し、後日電話をします。その後、彼の属するバイタク組合のトップに会いたいとお願いをして、アポを取って会いに行く。そうした活動を地道に続け、ギニアの首都コナクリの地図上にキーマンと組合の名前をプロットして、継続的に営業をかけていきました。
キーマンを最初に訪問しても、バイクをタダでくれなどと言われ話を聞いてもらえないので、ノベルティや日本のお菓子を渡して会話をするところから始めました。その内、競合の不満や支払い条件などを話してくれるので、そこから糸口を見つけて販売していきます。
アナログで、決して効率の良いやり方ではないですが、現地では何が正しい方法かはわからないので、こうした活動を滞在時間中、常にやり続けています。1台でも売れる成功体験が生まれたなら、その施策を拡大し、ダメだったら違う切り口を見つけることが重要です」
2020年の現在、西アフリカ全体でのシェアを伸ばすために、さらなる取り組みに着手しています。
森 「経営戦略的な視点で物事を考えるようにしています。1〜2年現地で販売活動をしていく中で、このままではシェアを高められないと感じました。
これまでは今ある商材を現地に行って売る形でしたが、商材や予算、人材の段階から考え直しています。バリューチェーンの中で自社に足りていない、他社に負けている部分を考えた時に今のやり方だけでは勝てるものではありません。廉価な商品や、販売店・代理店の増加、キャンペーンを打つなど、さまざまな方面からアプローチしていこうと考えています」
描く未来とアフリカのポテンシャルにかける想い
アフリカでのシェア拡大に向け、地道な努力を続け、着実な成果をあげている森。
アフリカのポテンシャルには、さらなる期待を寄せています。
森 「アフリカの人口は2050年には世界の4人に1人に当たる25億人を突破すると見込まれています。現状、Hondaのシェアが高い地域はアジアです。これからも伸びていくものの、将来を見据えたときにはアフリカのポテンシャルの方が圧倒的に高いと考えています。
また社会課題が多いからこそ、それを解決するようなビジネス・スタートアップが生まれ始めており、新しい産業・マーケットができることが期待されます」
その一方で、懸念点もあると言う。Hondaのプロダクトの価値についてこう話します。
森 「アフリカのマーケットにおいてHondaのプロダクトは高い。10万円のバイクを買うのにも、毎日数百円ずつ払って積み立てていくことが一般的で、ファイナンスサービスの観点でもどう踏み込んでいけるかが大切だと感じています。
最終的には、シェアNo.1を達成し、アフリカでも世界のHondaと言われるようになりたいですね」
現時点では、Hondaとしてのブランドを確立出来ておらず、積極的な投資を行い、マーケットに切り込んでいる状況。 “売り切り”だけのビジネスではない分、一歩先へ行くためにも、お客様目線でロイヤリティを高めることが重要だと言います。
森 「お客様から求められることを生み出し続けることがロイヤリティを高めるために必要です。店舗での販売、メンテナンス、パーツ、プロモーション活動、ファイナンスなど、現地で必要とされる活動をし続け、どの顧客接点でも良い体験を提供できる体制を整えていきたいです。
更にシェアの低い現状から考えると、自分たちはチャレンジャーです。トライアンドエラーを繰り返して、何度でも挑戦をし続けたいと思います。
また現地の企業、日本企業などアフリカ進出をしている色んな企業との連携を深めていきたいですね。アフリカのマーケットを大きくしたい、貢献したい気持ちは進出している企業で同じだと思いますので、お互いの強みを生かしながら、一緒に成長していきたいんです」
アフリカ市場において、自分たちの目指す先をはっきりと描いている森。ビジネススクールに通うなど、成長への意欲も持ち続けています。
森 「現地に行って施策を打つ中で、会社の中で現場にだけいても一歩上の視点で考えられないことを痛感しました。現在はグロービス経営大学院に在学し、経営を体系的に学んでいます。自らの能力開発はもちろんのこと、周りの学生と切磋琢磨し、刺激を受けながら、人的ネットワークを築いています。
こうした知識は、アフリカのような難しい市場であればあるほど活きてきます。それまで自分が培った営業としての考え方に加えて、Hondaとしての経営資源(ヒト・モノ・カネ)を捉えた上で、アフリカという地域・各国に対して、戦略的に施策を打っていかなければNo.1になれないと考えています。
また社内に熱いメンバーがいますので、協力を得ながら一緒に戦っていきます」
アフリカでバイクによって人々の生活をより良くしようと奔走する森。自身の想いをエンジンにしてこれからも走り続けます。