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Honda P2 IEEEマイルストーン記念式典レポート

Honda Robotics × IEEE Recognition | Ceremony Report

Honda P2のIEEEマイルストーン認定を記念し、式典が開かれる

2026年4月28日の午前、Honda和光ビルのホールに関係者が集まりました。1996年のP2発表から30年。その歩みがIEEEという世界最大の電気・電子技術学会によって「歴史的業績」として認められました。
IEEEが評価した理由は、二足歩行の制御技術だけではありませんでした。工場の生産ラインを担う「産業用機械」が当たり前だった時代に、Hondaは「人のそばで、人を助けるロボット」という新しい概念を具現化しました。
授賞式では、2020年にアジア人として初めてIEEE会長を務めた福田敏男氏(現 名古屋大学名誉教授)より、Honda取締役 代表執行役社長 三部 敏宏へ、銘板が贈呈されました。Hondaにとってはロボティクス分野では初、そして2017年の「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」に続く2度目の受賞。三部のスピーチでは、今回の認定に対する感謝の意と、これからも困難を乗り越えて新たな技術を開発していく強い意志が語られました。

IEEEマイルストーン銘板
IEEEマイルストーン銘板
開発関係者との集合写真
開発関係者との集合写真

「本認定は、一台のロボットとしての完成度のみならず、技術者たちの挑戦そのものをご評価いただいたものと受け止めています。Hondaはこれからも、すべての人に「生活の可能性が拡がる喜び」を提供することを目指し、困難な技術開発に挑み続けてまいります」 ── 三部 敏宏(みべ としひろ)本田技研工業株式会社 取締役 代表執行役社長

式典では、IEEE側からの銘板贈呈に続いて、三部から関係者への感謝プレートの贈呈も行われました。P2開発にご協力をいただいた大学・研究機関、そして開発を支えたサプライヤー各社が壇上に招かれ、名前が呼ばれるごとに会場から拍手が起きました。

銘板の除幕シーン
銘板の除幕シーン
銘板贈呈後の記念写真
銘板贈呈後の記念写真
感謝プレート贈呈の様子
感謝プレート贈呈の様子

感謝プレートを贈呈した方々

組織・会社 貢献の内容
国立大学法人 旭川医科大学 姿勢制御と歩行の統合機能に関する知見の提供により、歩行制御系の基本コンセプト確立に貢献
神奈川県総合リハビリテーションセンター 歩行パターン計測・床反力解析など、Hondaが有していない計測技術とノウハウをの提供により、初期の歩行ロボットの関節構成や仕様の決定に貢献
株式会社 ハーモニック・ドライブ・システムズ 研究の初期段階から減速機の小型化・薄型化・軽量化・低イナーシャ化・低フリクション化など多岐にわたる技術課題解決の取り組みにより、歩行ロボットの実現に貢献
株式会社 昭和測器 研究の初期段階から研究の進捗に合わせた六軸力センサの小型軽量化・性能向上などの技術課題解決の取り組みにより、歩行ロボットの実現に貢献
マイコン計測工業 株式会社 小型多軸ロボット制御のためのコントローラボードの小型化・機能統合により、二足歩行制御の実現に貢献

贈呈式に続いて行われた記念講演では、IEEE側からP2認定の意義が語られ、開発者自身がその舞台裏を明かし、現在進行形の研究者がP2から続く技術の系譜を描きました。30年という時間を、3人がそれぞれの視点から照らした2時間でした。

記念講演

福田 敏男
Lecture 01 福田 敏男(ふくだ としお) 「P2が変えたもの──IEEEが認めた概念の転換」 名古屋大学名誉教授 / 元IEEE会長(2020年) IEEEロボティクス&オートメーション・ソサイエティ元会長(1998–1999年)

「おめでとうございます」と笑顔で壇上に立った福田氏は、「P2とは長い付き合いで、ほとんど同級生みたいなものですね」と会場を和ませるところから話し始めました。1996年のP2発表から今日まで、ずっとこのロボットの成長を見守ってきた一人として、今回の認定を誰よりも喜んでいる様子が伝わってきました。
福田氏が初めてP2を国際舞台で目の当たりにしたのは1997年のフランス。当時、日本ロボット学会の学術誌の10周年を祝う場で突如登場したP2に、会場はどよめいたといいます。「あれはエポックメイキングな瞬間でしたね。みんなびっくりしていました」。世界のロボット研究者が四脚や車輪に注力していた時代に、二本足で歩く人間型ロボットが現れたのです。
IEEE会長として銘板を贈呈した今回の認定について、福田氏は「世界で293件目、日本から58件目の認定です」と紹介しました。東海道新幹線や富士山レーダーと並ぶ、日本の技術史の殿堂入りです。

「P2は単に歩いただけではありません。ロボットが医療・教育・リハビリテーションなど、社会の中で人を支援できるという新たな概念を世界に示した。その転換点こそが、IEEEマイルストーンとして認められた理由です。」 ── 福田敏男氏(名古屋大学名誉教授 / 元IEEE会長)

現在75歳を超えてなお研究の最前線に立つ福田氏は、マイクロ・ナノロボット、生体模倣ロボット、フィジカルAIと、興味の赴くまま研究を広げ続けています。「最近はゴキブリのロボットを作っていましてね」と会場が一瞬ざわついたところで、「水中でも動けるんです。自分で酸素を作り出して生きているゴキブリの仕組みを参考にしていまして」と涼しい顔で続けました。「Hondaのパワーで、これからも世界を変えてほしい」──力強いエールで講演を締めくくりました。

竹中 透
Lecture 02 竹中 透(たけなか とおる) 「P2開発の軌跡──不可能への挑戦」 株式会社本田技術研究所 OB/ P2開発者/一般社団法人 ワークロイド・ユーザーズ協会 特別アドバイザー

竹中氏がHondaに入社したのは1989年、平成元年のことです。「面白いことをやってるよ」という一言に引き寄せられて入社を決めた竹中氏を待っていたのは、入社当日からの洗礼でした。「こういうロボットを作ってるんだけど、歩かなくて困ってるんだ」──その日から二足歩行ロボットの制御担当としてのキャリアが始まりました。
研究の出発点は1986年。「20世紀中には実現不可能」と言われていた人間型二足歩行ロボットに、Hondaは真正面から挑みました。当初の常識は「足をがっちり固めるほど安定する」というものでした。しかし現実は逆でした。硬くすれば硬くするほど、ロボットは転ぶ。暗礁に乗り上げたチームは「足裏を柔らかくしてみよう」という発想の転換にたどり着きます。

「入社当日に「歩かなくて困ってるんだ」と言われて、そのままP2の制御担当になりました。足裏をがっちり固めれば安定すると思っていたのが大間違い。柔らかくすることで踏ん張れる──その発想の転換がすべての始まりでした。」 ── 竹中透氏(P2開発者)

P2発表の映像上映では、会場が固唾をのむ場面がありました。和光研究所のデザインスタジオで、P2が廊下を時速2kmで歩くシーン。その進路上に置かれていたのは、なんとイタリア製の赤いソファー(当時の価格で約80万円)。「直前に知らされたので、横をすり抜ける時はさらにドキドキしました」。1998年に発表した論文は10年間で1,300回以上引用され、IEEEから最も影響力のある論文として表彰されています。

講演中の竹中氏(P2とともに)
講演中の竹中氏(P2とともに)
式典後の歓談の様子
式典後の歓談の様子
吉池 孝英
Lecture 03 吉池 孝英(よしいけ たかひで) 「P2から続く道──足から手へ、そしてアバターへ」 株式会社本田技術研究所 統合研究センター フロンティアロボティクス研究 エグゼクティブチーフエンジニア

「P2以降のHondaロボティクスについてお話しします」と語り始めた吉池の講演は、P2からASIMO、そして最新の多指ハンドとアバターロボットへと連なる技術の系譜を、実際の映像とともにたどる内容でした。
ASIMOはP2の二足歩行技術を受け継ぎ、最大時速9kmでの走行、片足でのケンケンジャンプ、そして人を見ながらすれ違うという高い自律性を実現しました。そのバランス制御の技術は現在、歩行補助装置・水中ロボット・電動モビリティへと幅広く展開されています。
「続いてハンドの話をします」と切り替わると、会場の空気が変わりました。1997年の3本指ハンドから始まった、Hondaの「手」の30年史です。「ワイヤーの伸びと摩擦が壁でした。人並みの力で繊細な作業をするという目標は、なかなか達成できなかった」と率直に振り返ります。

「ASIMOが走り、ジャンプし、人とすれ違う。その一つひとつの動作の根っこには、P2で確立した制御の思想があります。足も、手も、アバターも──すべてはP2から始まりました。」 ── 吉池孝英(本田技術研究所 統合研究センター フロンティアロボティクス研究 エグゼクティブチーフエンジニア)

そしてHondaが現在開発している最新の多指ハンドは、4本指・各4関節・合計16の自由度、指先力は人の約2倍の12kg。M1.6という極小ネジの挿入と回転、針の穴への糸通し──「人間でも難しい作業ができます」と吉池が言い切ると、会場から驚きの声が上がりました。耐久試験は45万回以上。締めくくりは「フィジカルAIによって、ロボットが自分でスキルを獲得できる時代がきます。P2が切り拓いた道の続きを、私たちは歩んでいます」という力強い言葉でした。

講演中の吉池
講演中の吉池
「ASIMO開発コンセプト」スライドとともに
「ASIMO開発コンセプト」スライドとともに

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