Hondaは理想的なパートナーだった
© Red Bull Contents Pool(2025年ハンガリーGP)私がHondaに興味を持ったのは、Honda F1マネージングディレクターの山本雅史さんとHondaのコーディネーターの方と話をしてからのことでした。提携の話は順調に進み、私は最初からHondaが成功することを信じていました。そして初年度(2018年)はまず、トロロッソにパワーユニットを供給してもらうことで話がまとまりました。当時の本田技研工業社長は八郷隆弘さんでしたが、彼にこの提携が成功すれば、レッドブル・レーシングにもパワーユニットを供給してもらうという話もしました。確かにいくつかのハードルは設けましたが、最初からレッドブルがHondaと組むことを私は想定していました。そしてその年のカナダGPでHondaはパワーユニットにアップデートを施し、我々に確かにパフォーマンスアップした成果を見せてくれました。振り返れば、非常にいい形で話がまとまったと考えています。
© XPB(2019年日本GP)私はHondaが最初にF1で苦戦したのは、チームからの要求が多すぎたのが原因だったと考えています。シャシーコンストラクターの都合ばかりでパワーユニットを作っていたら、パフォーマンスが二の次になるに決まっています。ですから我々は、新たにF1パワーユニット開発の総責任者となった浅木泰昭さんを始めHondaの開発陣には、熱交換器とか、パワーユニットのサイズなど一切指定や指示はしませんでした。ただ可能な限り最善を尽くし、最もパワフルなパワーユニットを作って欲しいと伝えました。最初にHondaのパワーユニットがレッドブルに搭載された時のことを覚えています。彼らは数多くのパワーユニットをテストに備えて持ち込んできました。それまでのカスタマーチームとしての経験では、パワーユニット1基にスペアパーツだけという状況に慣れていたため、まるで1990年代に戻ったのではないかと戸惑いさえ感じたのを覚えています。非常に用意周到で、協力的かつ強力なパートナーシップのスタートだと感じました。
2019年の勝利から上昇機運が加速
とはいえ、最初は日本流のやり方に慣れなければならなかったのも確かです。特にパフォーマンスについて、彼らは明確な主張をあまりしてきませんでした。ただ、テクニカルディレクターの田辺豊治さんは現場をよくわかっていて、我々の要望をよく理解してくれました。常に我々はパワーを要求し、それにHondaはうまく応えてくれました。そうして2019年のオーストリアGPで優勝を遂げることができ、我々はさらに前進しました。
© Red Bull Contents Pool2019年はメルセデスがさらにパワーユニットのパフォーマンスを高め、Hondaも我々も正直2020年までそのレベルには到達できていませんでした。でもその後、Hondaは活動終了を宣言しているにもかかわらず、新たなパワーユニットの開発投資を決断してくれました。そうして2021年はフェラーリ、ルノーを遥かに凌ぎ、メルセデスのレベルに匹敵する以上のパワーユニットを提供してくれました。
Hondaの凄さは、開発アプローチのプロフェッショナルさにあると思います。まず大前提として、企業規模が違いました。言ってしまえばHRD Sakura(現HRC Sakura)のロビーだけで中堅チームの開発拠点がすっぽり入ってしまいます。そしてHondaは勝利に必要なことは惜しみなくやってくれました。それまでは常に開発投資の節約から要求が通らないことが多く、ストレスを感じていた我々には本当に願ってもないパートナーでした。
Hondaとのジョイントで学んだこと
2020年10月の活動終了宣言から、我々は交渉を続け、なんとかこのアドバンテージを維持したいと考えました。独自のパワーユニット開発会社を立ち上げ、Hondaの知見を譲り受けてミルトンキーンズで製造しようといろいろ交渉を続けました。幸いにも2022年からパワーユニット開発凍結規定が決まったため、最初に1年間はホモロゲーションされたパワーユニットの供給を受けることにして、Hondaと2025年までテクニカルパートナー契約を継続することで、パワーユニットの供給継続が可能になりました。
Hondaとともに歩んだ8年間は、非常にいろいろなものを生み出しました。2度のコンストラクターズ・チャンピオンシップ、4度のドライバーズ・チャンピオンシップに加え、角田裕毅、岩佐歩夢という日本人ドライバーの育成を手掛け、鈴鹿ではスペシャルカラーリングのマシンを走らせたり、東京でショーランを実現したり、Hondaのイベントに参加したりとプロモーション面でも非常に友好的な関係を築けました。そして何より、Hondaと一緒に開発を続けるなかで、設備投資ももちろんですが、人材こそが重要であることを学びました。成功するためには安易な道などなく、ただ正しい投資と開発の方向性が必要であることは、この8年間の貴重な経験のなかで得られたもののひとつだと考えています。
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