Hondaとともに戦った時代は格別だった
© Red Bull Contents PoolHondaとは昔、私が日本で活動していた頃からのつきあいで、今も知り合いが多くいます。もちろん、彼らが2015年からF1に復帰すると聞いた時、ぜひ我々のチームでHondaのパワーユニットを搭載したいと考えコンタクトを取っていました。しかしHondaとコミュニケーションを進めた結果、正直に言って準備不足だと感じました。それでもなんとかうまくいくことを祈っていましたが、やはり苦戦しましたね。2015年も4〜5レースに1回は彼らとミーティングを持って意見交換をしていて、パワーユニットのアップデートがうまくいったら、カスタマー契約してもらうつもりで動いていました。しかし、2016年、2017年と状況は改善しませんでした 。
そんな折、Honda側から相談を持ちかけられたのです。確か2017年のベルギーGPの頃だったと思います。「トロロッソはHondaに興味があるだろうか? 現在、Hondaはマクラーレンと大きな問題を抱えている」ということでした。私は「考えてみましょう」と返答し、すぐさまレッドブル・モータースポーツアドバイザーのヘルムート・マルコ、当時本田技研工業モータースポーツ部長だった山本雅史さんとミーティングを行い、本田技研工業本社とミーティングすべく日本に飛びました。Hondaに対して私は強くアドバイスしました。「F1活動を続けていれば、必ず成功できます」と。この話を受けて、すぐに我々はHondaとマクラーレンの間に何が起こっているのかを調査しました。そこで分かったのは、マクラーレン側から技術的なフィードバックが十分に行われていないということでした。実際にHRD Sakura(現HRC Sakura)のファクトリーを見て、「我々が十分なフィードバックを行ってHondaと戦っていけば必ず成功できる。Hondaにはそれだけの資金力とリソースがある」と私は確信していましたので、八郷隆弘社長(当時)には「我々と強力な開発プログラムを進めていけば、必ず活路は開けますよ」と伝えました。
© HRCHondaと果たした3つの約束
2018年の契約に向けて、私はHondaに3つのプレゼンテーションを行いました。ひとつは日本人ドライバーをF1で走らせること。これは2019年日本GPのFP1で山本尚貴を走らせることで実現しました。ふたつ目は、トロロッソとともにグランプリで優勝すること。これも2020年のイタリアGPで実現することができました。そして3つ目は、パワーユニットのパフォーマンスを向上させることができれば、将来的にレッドブル・レーシングとパートナーシップを結び、チャンピオンシップに挑戦できるということでした。しかしこればかりは私の力だけではどうにもなりません。八郷社長は、トロロッソとそれを成し遂げたいと言ってくれましたが、「申し訳ない、社長。我々ではそこまでの力を持っていません。トロロッソは若手育成が目的のチームで、グランプリに勝ち続け、チャンピオンシップに挑戦できるほどのインフラが整っていないのです」と答えて、レッドブル・レーシングとのパートナーシップを勧めました。当時レッドブル・レーシングにはF1最高峰の頭脳が集まっていましたからね。
そのため、2018年はお互いにレッドブルに認めてもらうためのアップデートに専念するシーズンとなりました。2017年末から、我々はHRD Sakuraにエンジニアを滞在させ、デプロイメントの考え方、マシンとの連動性など、パワーユニットに必要な要素をできる限りフィードバックとして提供しました。それからのHondaは本当に素晴らしかったと思います。パワーユニットのアップデートの度にパフォーマンスを向上させてくれ、2018年開幕2戦目のバーレーンGPで、ピエール・ガスリーにより予選6位、決勝4位という戦績を収めました。また、アルファタウリとして新体制となった2020年にはHondaとグランプリ勝利の喜びを分かち合うこともできました。まさに素晴らしい進歩でした。
© HRC私は2023年シーズン限りでF1の最前線を退きましたが、Hondaと戦えた時代は本当に格別なものでした。特にチームとして、初めてワークス・パワーユニットを搭載できたことは感動的でさえありました。それまでのカスタマーエンジンでは、我々のエンジニアの意見がパワーユニットに反映されることなどあり得ませんでした。Hondaは我々の意見を真摯に受け止め、チームにとっても大きなモチベーションとなったパートナーシップだったと思います。引退した現在でも、フリー走行から決勝まで全戦観戦し、うまくいかなかったレースではどのように改善すべきか、チームに問いたい衝動に駆られるほどです(笑)。Hondaのスタッフ、チーム全員が今もとても恋しいです。もう年齢的に世界中を飛びまわるのは厳しいですが、そうでなければすぐにでもみんなと再会したいくらいです!
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