Chapter 22020-2021

Honda F1ワークス活動終了を決断、そして有終の美を飾る

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2019年にレッドブルをパートナーに迎えて待望の初優勝を遂げ、年間3勝を挙げたHondaは、いよいよ念願のタイトル獲得が視野に入ってきた2020年、その目標に向かって準備を加速させていた。しかし、年明けから新型コロナウイルスが急速に感染拡大し、世界中が混乱に陥った。2月にスペイン・バルセロナでプレシーズンテストは予定通り行われたものの、コロナ禍の影響が見通せないまま、シーズンは3月オーストラリアでの開幕を迎えた。そして万全の対策にも関わらず、グランプリウイークになって参戦チームスタッフに感染者が出たことでオーストラリアGPは急遽中止に。新型感染病の猛威は世界的に広がりを見せ、開幕戦はもとよりシーズンそのものがまったく見通せない状況となっていく。

F1存続を懸けて関係者は懸命の努力を払い、6月2日にFIA(国際自動車連盟)は7月3〜5日にオーストリアのレッドブルリンクでシーズンを再開することを正式発表。確定8戦のスケジュールが公表され、随時開催可能なグランプリを追加して全17戦を設けた。また、この影響により開発や就業の制限など、緊急対策レギュレーションが設けられることになった。コロナ禍が本業にどのような悪影響を及ぼすか見通せないHondaは、すでに進めていた翌シーズンに向けた新たなパワーユニットの開発を凍結。一方で、F1活動の終了を検討し始めていた。これはコロナ禍の影響ではなく、全世界的に自動車メーカーに突きつけられたカーボンニュートラルへの対応に、資金や人材などのリソースを集中する必要があるとの判断によるものだった。

新たに組まれたスケジュールは、開幕戦をオーストリアGP、そして翌週に同じレッドブルリンクで第2戦シュタイアーマルクGPを開催するなど変則的な日程をとった。日本GPを始め中止の判断が下される開催地が多いなか、2週連続同サーキットにおける連戦(3回)、開催可能地域での新規グランプリ追加、無観客大会や関係者の度重なるPCR検査の義務付けなどグランプリ開催中の感染拡大に徹底的に対処し、F1界全体がシリーズ成立させることに力を尽くし、コロナ禍の厳しい状況に立ち向かっていた。

このシーズン、レッドブルホンダは想定外の苦戦を強いられた。王者メルセデスのパフォーマンスが突出し、得意としていたサーキットでも太刀打ちできない状況が続く。シーズン初優勝は8月の第5戦、イギリス・シルバーストンで行われた70周年記念GPでマックス・フェルスタッペンが飾った。しかし、その後もなかなか勝利には手が届かず、シーズン2勝目はシーズン最終戦アブダビGPまで待たなければならなかった。

トロロッソはこのシーズンからレッドブルが新展開するアパレルブランド「アルファタウリ」を名乗ることになった。ハイライトは第8戦イタリアGP。10番グリッドからスタートしたピエール・ガスリーが波乱の展開となったレースで、タイヤ戦略が功を奏してトップチェッカーを受けたのである。ガスリーは念願の初優勝を成し遂げ、チームはアルファタウリとなって初表彰台が優勝という快挙を、2018年にHondaとジョイントを始めてから50戦目という節目のレースで達成したのである。

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10月2日、Hondaは2021年シーズン限りでのF1活動終了を発表した。翌年までの活動継続は、パワーユニットを供給するチームに対する時間的配慮としたが、Hondaのエンジニアはラストイヤーに勝負をかけた。開発を停止していた新型パワーユニットの投入を決断し、明らかに時間が足りない状況のなかで力を振り絞って新型の完成に邁進した。「新骨格パワーユニット」と呼ばれたRA621Hは、それまで積み重ねた知見をもとにパフォーマンスのブレイクスルーを成し遂げるために新設計されたものだった。

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劇的なフィナーレ、悲願の初戴冠

2021年もコロナ禍の影響は続き、プレシーズンテストは日程を6日間から3日間に短縮し、開幕戦バーレーンGPの開催地であるバーレーン・インターナショナル・サーキットに移して行われた。年末年始も不休で開発を続け新型パワーユニットを間に合わせたHondaにとってこのテスト日程短縮は痛手だったが、RA621Hはテスト中大きなトラブルなく順調に走行をこなし、開発陣の不安は杞憂に終わった。

開幕戦はレッドブルホンダのフェルスタッペンが予選でポールポジションを獲得し、RA621Hのポテンシャルの高さを証明した。レースは接戦の末2位に終わったが、Hondaラストイヤーにかける姿勢が表れ、その成果といえる結果だった。またこのシーズンからHondaの育成ドライバーとしてFIA-F2選手権で活躍した角田裕毅がアルファタウリからF1デビューを果たし、そのデビューレースで9位入賞を果たしたことも、Honda陣営にとっては明るい話題となった。

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その後のシーズンは、5連覇8度目のタイトルを狙うメルセデスのルイス・ハミルトンと、初のチャンピオン獲得を目指すレッドブルホンダのフェルスタッペンの一騎打ちとなった。イタリア・イモラで開催された第2戦エミリオ・ロマーニャGPでフェルスタッペンがシーズン初優勝を飾り、メルセデスと対等に勝負できることを見せつけると、序盤は拮抗した戦いが続く。そしてターニングポイントと目されていた第5戦モナコGPでフェルスタッペンが念願のモナコ初優勝を遂げ、流れはレッドブルホンダに傾いていく。第9戦までレッドブル・ホンダは5連勝、そのうち4勝を挙げたフェルスタッペンはシリーズ・ランキングでトップに立ち、2位ハミルトンに大きく差をつけていた。

良い流れを得てレッドブル優位でシーズン前半戦は進んだが、第10戦イギリスG Pでその優位が揺らぎ始める。トップをいくフェルスタッペンと2番手ハミルトンが接触し、フェルスタッペンはリタイア、ハミルトンが優勝と明暗がはっきり分かれ、続くハンガリーGPでもフェルスタッペンはスタート直後のアクシデントで9位、ハミルトンが優勝という結果に終わった。これにより、フェルスタッペンはランキングトップの座をハミルトンに明け渡すことになってしまった。

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サマーブレイク明け、第12戦ベルギーGPは雨で決勝レースはほとんど走れず、ポールポジションのフェルスタッペンがそのまま勝利したもののハーフポイントに。続くオランダGPでフェルスタッペンが母国大会で歓喜の優勝を飾りランキングトップを奪い返した。しかし、第14戦イタリアGPでは再びフェルタッペンとハミルトンが絡むアクシデントが発生。両雄の脱落により、チャンピオンシップの行方は混沌の度合いを深め、シーズンは終盤戦を迎えることとなる。一進一退の攻防は最後まで続き、史上初の両者同ポイントという超接戦で最終戦アブダビGPを迎えた。

決戦の最終戦、フェルスタッペンはポールポジションを獲得したが、レースではハミルトンが優位を築いた。ピットインを先延ばしにしたセルジオ・ペレスが懸命にハミルトンをブロックしチームメイトをアシストするシーンは、レッドブルホンダが一丸となってタイトル獲得にかける思いを印象付けた。接触も懸念された激しい攻防の末、ペレスをパスしたハミルトンは再び独走状態となり、ハミルトンの連覇でシーズンは幕を閉じるかに見えた。しかし、レース最終盤、コース上にストップしたマシンが出てセーフティカーが導入されると状況は一変。この間にフレッシュタイヤに交換して有利な状態のフェルスタッペンが、最終ラップにハミルトンをオーバーテイクし、トップチェッカーを受けた。あまりに劇的な幕切れに、誰もが息を呑んだ。この瞬間、フェルスタッペンは初のチャンピオンに輝き、Hondaは悲願のタイトル獲得を成し遂げたのであった。

2015年から7年間に渡った第4期Honda F1活動は、F1史上に残る激しい戦いの末にタイトル獲得という劇的な結果で幕を閉じた。厳しい状況のなか、すべてを出し切ったHondaのエンジニア、スタッフの努力が報われた瞬間であり、Hondaにとってまさに有終の美を飾った2021年シーズンだった。

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