素晴らしい経験と成果をもたらした
レッドブルとのパートナーシップ
© HRC「感謝」の言葉しかない
2018年にトロロッソにパワーユニット供給を始めてから、もう8年間が経とうとしています。2019年にはレッドブルとのパートナーシップを結んで、この間、いろいろなことがありましたが、総括すれば「感謝」のひと言だと思います。
まずは、マクラーレンと袂を分ち、一時撤退も覚悟した時にHondaを信頼して受け入れてくれた当時のトロロッソ代表、フランツ・トストさんへの感謝です。そしてトップチームであるレッドブルも、まだ確固たる実績がないHondaを信用してパワーユニットを採用してくれました。その後の結果が成功を証明していますが、当時の状況を考えれば大きな決断だったと思います。その思いに応えるべく、Hondaはものすごいプレッシャーのなか最大限の努力を重ね、ともに素晴らしい結果を残すことができました。そして、2020年にHondaがF1活動の終了を決めた時にも理解をしてくれ、その後も協力関係を続けてくれたこと、その結果として記録的な勝利を重ねることができたことにも感謝しています。
私個人として付け加えさせてもらえば、苦しいなかから、そして難しい立場の時期も乗り越え、最高の成果をもぎ取った我々Hondaのエンジニア、そしてスタッフを誇りに思い、彼らにもとても感謝しています。
傑出したドライバーであるマックス・フェルスタッペンと、ともにレースができたことも素晴らしい経験でした。数多くの記録的な勝利を重ねたことはもちろんですが、個人的に最も印象深いのは今年(2025年)の日本グランプリですね。マシンのパフォーマンスとしては苦しい状況で始まったシーズンでしたが、予選でポールポジションを獲得し、決勝でもマックスらしいレースで勝ち切ってくれました。まさに奇跡的な予選と決勝で、感動的なレースでした。マックスの日本・鈴鹿でのレースに対する強い思いが伝わってきましたし、レース後、使用したヘルメットを我々にプレゼントしてくれるなどホンダに対する思いも私はしっかり感じることができ、我々のパートナーシップの集大成と言えるレースだったと思っています。

記憶、そして記録に残る栄光の数々
レッドブルとのパートナーシップが始まった頃は、まだ私は直接の担当ではなかったのですが、2020年4月から本田技研工業のブランドコミュニケーション本部長という立場でモータースポーツを担当する立場になりました。同年に会社としてF1活動終了を決断し、その後の道筋を作ったことは、実際にF1に関わるようになって最初の、そして最大のミッションでした。活動終了を8月にはレッドブル側に打診し、正式に発表したのは10月2日でした。
その後は、2021年のラストイヤーに全力を尽くすことと、2022年以降にレッドブルへどのようにパワーユニットを移行していくかが大変な作業となりました。レッドブル側からは、Hondaが作ったパワーユニットを引き続き使っていきたいという要望があり、我々としてはこちらの都合でF1活動を終了するのだから、レッドブルになるべく迷惑をかけない方針で進めていったのですが、当初の予想よりもいろいろ難所が多く、最終的な落としどころとして我々が作ったものをそのまま使ってもらい、メンテナンスや現場でのオペレーションも我々が行うということにしました。とても難しい作業でしたが、最終的にレッドブル側との信頼関係を基にベストな状況を作れたと思っています。
これによって、Hondaは主体的なF1活動を終えましたがレッドブル・パワートレインズとの技術提携という形で関係は継続されました。2022年にHRC(ホンダ・レーシング)が新体制となってF1を筆頭に4輪レースも手掛けることになり、HRCが技術提携を引き継ぎ、F1パワーユニットの開発と製造の支援、そして現場でのオペレーションのサポートも従来どおり、すべてHRCが担うことになりました。

HondaとしてのF1最終年、2021年の最終戦でマックスがチャンピオンを獲得したことは、本当に嬉しかったです。我々としては、ラストイヤーに勝負を懸けてまったく新しいパワーユニットを投入しました。とても大変な作業でしたが、皆の苦労と努力が報われた気がしましたね。そういう点ではあの年が、Hondaとレッドブルとのパートナーシップのクライマックスだったかもしれません。
その後は、レッドブル・パワートレインズとの技術提携という関係になり、2022年にダブルタイトル獲得、2023年はシーズン22戦中21勝と年間最多勝利記録を更新する快挙に貢献することができました。マックスはドライバーズ・チャンピオンシップを4連覇し、我々がそれに貢献できたことは大きな誇りであり、自信にもなりました。
大変なことも数多くありましたが、レッドブルは最高のパートナーであったと自信を持って言えます。お互いにリスペクトし合って仕事を進められたこと、チーム全体がフレンドリーな雰囲気だったこととともに、「勝ちにこだわる」という強い思いを完全に共有することができたことが、その理由です。
Honda、そしてHRCはこの8年間で多くのものを得ることができました。非常に厳しい時代から、レッドブルとともに常勝できるまでの道のりを非常に短期間で登り詰めることができて、その間の試行錯誤や学び、F1の現場での緊張感ある体験は、何ものにも変えられない貴重なものです。この経験と自信が、2026年から新たな挑戦をしようと決めたベースになっていることは、言うまでもありません。
そして、私個人が一番強く確信したことは、『HondaにとってF1はとても大事なものだ』ということです。HondaがHondaとして、他とは違う会社だというためのものすごい大きな要素のひとつがF1だということが改めてよくわかりました。そして、挑戦し、勝つことの難しさや素晴らしさを、我々が体験することはもちろん、世界中の方々にその経過や結果を伝えることができる。それがF1で、F1がHondaブランドの大きな柱であることを再認識させられました。
レッドブルと一緒に戦い、パワーユニットで貢献した時代は終わりますが、我々HondaとHRCは2026年から始まる新たなパワーユニットを搭載したF1に挑戦するための準備を始めています。レッドブルもまた新時代のF1に挑戦し、今度はお互いがコンペティターとして戦うことになりますが、これまでの良い関係がなくなるわけではありません。2026年からは同じ戦いの場にいる者として、お互いに築いた信頼関係は保ちつつ、良きライバルとしてともにF1を盛り上げていけたらいいなと思っています。
