栄光を飾ったマシン

信頼性を上げ、進化したパワーユニットに成長

2016McLaren Honda MP4-31

安定性が向上し、完走率もアップ
2年目のシーズンは「実質的な参戦初年度」

試練のシーズンを終えたマクラーレン・ホンダは2年目のシーズンに飛躍を期して臨んだ。1シーズン戦ったことによって得られた知見とデータが、Hondaにとって大きな武器となり、2016年型パワーユニットRA616Hは前年投入したRA615Hの弱点を改善したものとなった。

まずは、マクラーレンとの協議によって目指した「サイズゼロ」を追求するあまりに犠牲となってしまった部分を手直しした。主に吸排気系について、省スペース優先であったものを効率優先とし、出力アップを図っている。燃焼室に向かう空気をよりスムーズにするため可変吸気システムを内蔵するサージタンクの位置を30mm高くした。これにより車体側にスペース的な負担をかけるが、マクラーレン側も理解を示し戦闘力向上に取り組んだ。燃料をシリンダー内に直接噴射するインジェクターを、サイドインジェクターからトップインジェクターに変更し、燃焼効率を高め出力向上を果たしている。

最も力を注いだのは信頼性の向上である。前年の経験やデータを基に、各部品の品質管理や徹底した耐久テストに重きを置き、信頼性は格段にアップした。しかしながら、RA615Hの補完版といっていい初期型であることに変わりはなく、出力や制御などトップレベルにはまだ届かない状態だった。

マクラーレンが2016年シーズンに投入したMP4-31は、MP4-30の正常進化版にとどまっている。2017年からF1の車体は大幅なレギュレーション変更を控えており、ほとんどのチームが前年の進化型を投入し、翌年の開発にリソースを集中させていた。

MP4-31は、MP4-30がシーズン途中から採用したショートノーズを踏襲し、ウイングを吊り下げるステーにバーチカルスリットを入れたのが主な変更点だった。サスペンションは前後ともに主な仕様は変えず、若干のレイアウトやサイズの変更を行い、空力の向上とマシンの挙動の適正化を図っている。

その一方で空力パーツ、特にリヤウイングはアップデートの主要パーツとして、数多くの仕様が投入された。フィンの数やスリットの形状などが変更された仕様がレースごとに用意され、マクラーレンのリソースの豊富さを表すものとなったが、残念ながらその効果については画期的な進化を示すことはできなかった。

プレシーズンテストの段階から、RA616Hの信頼性は目に見えて向上し、「実質的な参戦初年度」というフレーズがチームやHondaスタッフから出るほど、マクラーレンもHondaも自信を取り戻していた。しかし、開幕戦オーストラリアG Pの決勝でフェルナンド・アロンソが大きなアクシデントに見舞われ負傷し、次戦欠場という重苦しいムードでシーズンは幕を開けた。信頼性も含め一定の進化を見せたマクラーレン・ホンダであったが、他チームの進化速度はさらに上を行っており、差が縮まらない現実を見せつけられたことも、重苦しいムードの一因となった。

第5戦スペインG Pでアロンソが、マクラーレン・ホンダ復活以来初の予選Q3進出を果たし、シーズンを通して4度のダブル入賞を成し遂げるなど、前年に比べ結果としての進歩は見せた。特に信頼性の向上は、76.2%という高い完走率と延べ17回の入賞という数字が証明している。しかし、ライバルに比べパワー不足は否めず、Hondaはシーズン中から新たなパワーユニットの開発を進めていた。

2017年からの車体規定改定を控え、前年MP4-30最終仕様の正常進化版として戦ったMP4-31。パフォーマンス重視で若干サイズアップしたHonda RA616H搭載のためのボディワーク変更や前後サスペンションのレイアウト変更が主で、空力デバイスはシーズンを通して積極的にアップデートされていった

2017年からの車体規定改定を控え、前年MP4-30最終仕様の正常進化版として戦ったMP4-31。パフォーマンス重視で若干サイズアップしたHonda RA616H搭載のためのボディワーク変更や前後サスペンションのレイアウト変更が主で、空力デバイスはシーズンを通して積極的にアップデートされていった

Honda RA616Hは前年型の「サイズゼロ」にこだわりすぎたパフォーマンス不足を補うための改良が施されている。ターボチャージャーや燃焼システムもシーズン中に積極的にアップデートが施され、第10戦イギリスGPでは可変吸気システムを新たに採用するなど急速なキャッチアップが図られた

Honda RA616Hは前年型の「サイズゼロ」にこだわりすぎたパフォーマンス不足を補うための改良が施されている。ターボチャージャーや燃焼システムもシーズン中に積極的にアップデートが施され、第10戦イギリスGPでは可変吸気システムを新たに採用するなど急速なキャッチアップが図られた

車体側のアップデートで目立ったのは前後ウイングの空力効率向上のための手法だった。特にリヤウイング翼端板はグランプリを追うごとにスリットやフィンが頻繁に追加され、第9戦では5本のマルチスリットを投入。シーズン終盤にはトレンドに従って翼端板上部前方が櫛形に解放されたりもした。

車体側のアップデートで目立ったのは前後ウイングの空力効率向上のための手法だった。特にリヤウイング翼端板はグランプリを追うごとにスリットやフィンが頻繁に追加され、第9戦では5本のマルチスリットを投入。シーズン終盤にはトレンドに従って翼端板上部前方が櫛形に解放されたりもした。

シャシー

シャシー MP4-31
モノコック カーボンファイバー・コンポジット製
安全機構 コクピット・サバイバル・セル
(耐衝撃構造。貫通防止パネル、車体前部・側部・後部の衝撃力緩和構造、前後のロール構造)
ボディワーク カーボンファイバー・コンポジット製。エンジンカバー、サイドポンツーン、フロア、ノーズ、フロントウイング、リヤウイング、ドライバー操作による空気抵抗低減システム(DRS)
フロントサスペンション カーボンファイバー製ウィッシュボーン。プッシュロッド式トーションバー、ダンパーシステム
リヤサスペンション カーボンファイバー製ウィッシュボーン。プルロッド式トーションバー、ダンパーシステム
重量 702kg(ドライバー重量を含む、燃料は含まず)。重量配分は45.5%〜46.5%
電子機器 マクラーレン・アプライド・テクノロジーズ製。シャシー制御とパワーユニット制御、データ収集機器、センサー、データ解析およびテレメトリー・システムを含む
計器類 マクラーレン・アプライド・テクノロジーズ製ダッシュボード
潤滑油

モービリス SHC 1500グリース
高温のドライブシャフトのトライポッドジョイントを潤滑

モービリス SHC 220グリース
セラミック・ホイールベアリングの回転抵抗を最小限に抑える

モービリス SHC油圧オイル
高圧・高温の油圧オイル。シャシー、トランスミッション、パワーユニットのアクチュエーターに使用

ブレーキシステム Akebono製ブレーキキャリパー、マスターシリンダー
Akebono製“ブレーキ・バイ・ワイヤ”ブレーキコントロールシステム
カーボン製ディスク、パッド
ステアリング ラック・アンド・ピニオン型パワーステアリング
タイヤ ピレリ製P Zero
ホイール エンケイ製
無線機器 ケンウッド製
塗装 シッケンズ製品によるアクゾノーベル・カー・リフィニッシュ・システム

パワーユニット

パワーユニット Honda RA616H
最小重量 145kg
パワーユニットコンポーネント ICE(内燃エンジン)/TC(ターボチャージャー)/MGU-K/MGU-H/ES(エネルギー貯蔵装置)/CE(コントロールユニット)
ICE(内燃エンジン) シリンダー数6(以下レギュレーションに準拠)
排気量 1,600cc
バンク角 90度
バルブ数 24
最大回転数 15,000rpm
最大燃料流量 100kg/時(10,500rpm)
燃料搭載量 100kg
燃料噴射方式 直噴(1シリンダーあたり1噴射器、最大500bar)
過給機 同軸単段コンプレッサー、タービン
燃料 エクソンモービル製ハイパフォーマンス無鉛燃料(5.75%はバイオ燃料)
潤滑油 モービル1 エンジンオイル
エネルギー回生システム
機構 モーター・ジェネレーター・ユニットによるハイブリッド・エネルギー回生。MGU-Kはクランクシャフトに、MGU-Hはターボチャージャーに接続
エネルギー貯蔵装置 リチウムイオンバッテリー(重量20〜25kg)。1周あたり最大4MJを貯蔵
MGU-K

最大回転数
50,000rpm

最大出力
120kW

最大回生量
1周あたり2MJ

MGU-H

最大回転数
125,000rpm

最大出力
無制限

最大回生量
無制限

最大エネルギー放出量
無制限

トランスミッション

ギヤボックス カーボンファイバー・コンポジット製ケース、縦置き
ギヤ数 前進8段、後退1段
ギヤ操作 電動油圧式シームレスシフト
デファレンシャル 遊星歯車構造の多板リミテッド・スリップ・クラッチ式ディファレンシャル
クラッチ 電動油圧式カーボン製多板クラッチ
潤滑油 モービル1 SHCギヤオイル
トラクションロスを低減し、ギヤとベアリングを高効率に潤滑・冷却

Honda RA616H