栄光を飾ったマシン

マクラーレン・ホンダ復活は、試練のシーズンに

2015McLaren Honda MP4-30

7年ぶりにF1参戦を果たしたHonda
準備不足は否めず、トラブル多発

Hondaは2013年5月に、2015年からのFIA F1世界選手権参戦復帰とマクラーレンへのF1パワーユニット供給を発表。2008年シーズン末に撤退して以来7年ぶりの復帰であり、第2期に記録的な勝利を獲得したマクラーレン・ホンダの復活となった。

2014年からF1エンジン規定はV6・1.6ℓターボの内燃機関とMGU-Kに加え、ターボチャージャーの軸回転を利用して発電するMGU-Hを用いてモーター動力を積極的に活用するハイブリッドシステムへ移行していた。Hondaの復帰は、高出力で複雑なハイブリッドエンジンを搭載する新時代F1への挑戦だった。

2012年からF1への復帰を検討していたHondaにとって、新しいパワーユニットの複雑なシステムは未知に近いものであり、実際には2年に満たない開発期間はあまりに短かすぎた。マクラーレンの要求する超コンパクトなパワーユニットという難題も重なり、耐久信頼性も含めて万全とはいえない状態で復帰初年度を迎えることとなる。

Hondaのパワーユニットを搭載するために新たに設計されたMP4-30は、「サイズゼロ」と呼ばれるコンセプトで、コクピットより後方のボディワークを可能な限りスリムにし、リヤ部にクリーンな空気を流すことで、空力面での優位性を高めた革新的な車体だった。一方で、前年のMP4-29で試みた設計をオーソドックスに戻した部分も多い。一例をあげると、MP4-29ではサイドポンツーン左側にインタークーラー、右側にウォーターラジエターとエンジンオイルクーラーを配し、空力効率を優先し冷却面が横を向く独特の搭載方法だったが、MP4-30では熱交換器をスリム化し前傾させることで従来のレイアウトに戻している。豊富なリソースを持ち、トライと修正を繰り返すマクラーレンらしい手法である。

そのマクラーレンらしさは、シーズン中に多くのアップデートや修正を重ねたことでも発揮された。シーズン当初、新規定に合致させたロングノーズで登場したフロント部は、シーズン中に修正が重ねられ、シーズン中盤にはショートノーズとなった。フロントウイングもサーキットに合わせた数多くの仕様を実戦投入し、戦闘力アップへの意欲的な取り組みを見せた。

しかし、注目を集めたマクラーレン・ホンダの復活は、シーズン前のテストから暗雲に覆われていた。トラブルが続き周回数は伸びず開発は停滞し、テスト最終日にはフェルナンド・アロンソがコースアウトしてクラッシュし負傷。このためアロンソは開幕戦を欠場せざるを得なくなった。迎えた開幕戦オーストラリアGPでは、アロンソの代役ケビン・マグヌッセンがグリッドに向かう途中に白煙を上げてスタートできず、チームは一気に暗いムードに包まれた。それでも波乱の展開のなかで、ベテランらしい堅実さを見せたジェンソン・バトンが11位完走を果たしたことが、チームにとって一筋の光となった。

初入賞は第6戦モナコGP。10番グリッドからスタートしたバトンが堅実なレース運びで8位入賞を果たし、シーズン初ポイントを獲得した。しかしその後も頻発するトラブルと、それを回避するために出力を絞るという悪循環が起こり、予選決勝ともに満足な結果が残せないシーズンとなる。予選では一度もQ3進出は果たせず、決勝最高位はアロンソの5位(第10戦ハンガリーGP)だった。また、年間4基に制限されたパワーユニットエレメントの使用規定に対し、アロンソ、バトンとも最大12基の投入となり、トラブルだけでなくパワーユニット基数制限ペナルティによるグリッドダウンも決勝で結果が出せない要因となった。

当時の空力トレンドに合わせて、極限までボディワーク後半を大きく絞り込んだ「サイズゼロ」コンセプトで設計されたMP4-30。2014年の「アリクイノーズ」を代表とするハイノーズ+追加ノーズストラクチャー方式は禁止され、ローノーズへと変更。第7戦オーストリアGPからショートノーズへと進化した

当時の空力トレンドに合わせて、極限までボディワーク後半を大きく絞り込んだ「サイズゼロ」コンセプトで設計されたMP4-30。2014年の「アリクイノーズ」を代表とするハイノーズ+追加ノーズストラクチャー方式は禁止され、ローノーズへと変更。第7戦オーストリアGPからショートノーズへと進化した

2015年型Honda RA615Hはマクラーレンからの「極限までコンパクトに」という要求により設計された。MGU-HはコンプレッサーとタービンにサンドイッチされるかたちでICEのVバンク内に収められ、その関係でターボチャージャー寸法に制限が生じ、エネルギーリカバリー量の絶対的不足に悩まされた。

2015年型Honda RA615Hはマクラーレンからの「極限までコンパクトに」という要求により設計された。MGU-HはコンプレッサーとタービンにサンドイッチされるかたちでICEのVバンク内に収められ、その関係でターボチャージャー寸法に制限が生じ、エネルギーリカバリー量の絶対的不足に悩まされた。

前半戦仕様のMP4-30。前年までのクロームカラーを踏襲し、ノーズデザインも2015年規程に合わせたワイド&ローなプロポーション。シーズン当初から積極的なアップデートを繰り返し、カラーリングは第5戦スペインGPからグラファイトブラックベースに変更。続いてノーズ形状もショートノーズへと改められた。

前半戦仕様のMP4-30。前年までのクロームカラーを踏襲し、ノーズデザインも2015年規程に合わせたワイド&ローなプロポーション。シーズン当初から積極的なアップデートを繰り返し、カラーリングは第5戦スペインGPからグラファイトブラックベースに変更。続いてノーズ形状もショートノーズへと改められた。

シャシー

シャシー MP4-30
モノコック カーボンファイバー・コンポジット製
ボディワーク カーボンファイバー・コンポジット製。エンジンカバー、サイドポンツーン、フロア、ノーズ、フロントウイング、リヤウイング、ドライバー操作による空気抵抗低減システム(DRS)
フロントサスペンション カーボンファイバー製ウィッシュボーン。プッシュロッド式トーションバー、ダンパーシステム
リヤサスペンション カーボンファイバー製ウィッシュボーン。プルロッド式トーションバー、ダンパーシステム
重量 702kg(ドライバー重量を含む、燃料は含まず)。重量配分は45.5%〜46.5%
電子機器 マクラーレン・アプライド・テクノロジーズ製。シャシー制御とパワーユニット制御、データ収集機器、オルタネーター、センサー、データ解析およびテレメトリー・システムを含む
計器類 マクラーレン・アプライド・テクノロジーズ製ダッシュボード
潤滑油

モービリス SHC 1500グリース
高温のドライブシャフトのトライポッドジョイントを潤滑

モービリス SHC 220グリース
セラミック・ホイールベアリングの回転抵抗を最小限に抑える

モービリス SHC油圧オイル
高圧・高温の油圧オイル。シャシー、トランスミッション、パワーユニットのアクチュエーターに使用

ブレーキシステム Akebono製ブレーキキャリパー、マスターシリンダー
Akebono製“ブレーキ・バイ・ワイヤ”ブレーキコントロールシステム
カーボン製ディスク、パッド
ステアリング ラック・アンド・ピニオン型パワーステアリング
タイヤ ピレリ製P Zero
ホイール エンケイ製
無線機器 ケンウッド製
塗装 シッケンズ製品によるアクゾノーベル・カー・リフィニッシュ・システム

パワーユニット

パワーユニット Honda RA615H
最小重量 145kg
パワーユニットコンポーネント ICE(内燃エンジン)/TC(ターボチャージャー)/MGU-K/MGU-H/ES(エネルギー貯蔵装置)/CE(コントロールユニット)
シリンダー数 6(以下レギュレーションに準拠)
排気量 1,600cc
バンク角 90度
バルブ数 24
最大回転数 15,000rpm
最大燃料流量 100kg/時(10,500rpm)
燃料搭載量 100kg
燃料噴射方式 直噴(1シリンダーあたり1噴射器、最大500bar)
過給機 同軸単段コンプレッサー、タービン
燃料 エクソンモービル製ハイパフォーマンス無鉛燃料(5.75%はバイオ燃料)
潤滑油 モービル1 エンジンオイル
エネルギー回生システム
機構 モーター・ジェネレーター・ユニットによるハイブリッド・エネルギー回生。MGU-Kはクランクシャフトに、MGU-Hはターボチャージャーに接続
エネルギー貯蔵装置 リチウムイオンバッテリー(重量20〜25kg)。1周あたり最大4MJを貯蔵
MGU-K

最大回転数
50,000rpm

最大出力
120kW

最大回生量
1周あたり2MJ

MGU-H

最大回転数
125,000rpm

最大出力
無制限

最大回生量
無制限

最大エネルギー放出量
無制限

トランスミッション

ギヤボックス カーボンファイバー・コンポジット製ケース、縦置き
ギヤ数 前進8段、後退1段
ギヤ操作 電動油圧式シームレスシフト
デファレンシャル 遊星歯車構造の多板リミテッド・スリップ・クラッチ式ディファレンシャル
クラッチ 電動油圧式カーボン製多板クラッチ
潤滑油 モービル1 SHCギヤオイル
トラクションロスを提言し、ギヤとベアリングを高効率に潤滑・冷却

Honda RA615H