栄光を飾ったマシン
規定対応に追われた
純日本F1チーム初年度マシン

(画像はSA06Aと山本左近、鈴木亜久里代表、佐藤琢磨)
カスタマーシャシー規定に翻弄され
急遽、暫定マシンを製作してF1参戦
元F1ドライバーの鈴木亜久里が代表となり、2005年11月に創設されたF1チームがスーパーアグリである。参戦初年度となる2006年は、カスタマーシャシー使用解禁を見込んで2005年型B・A・R 007か、Hondaが2006年用に開発していたHonda RA106にて参戦する予定を立てていた。しかし、ライバルチームからの指摘でコンコルド協定に抵触する可能性が出てきたため、計画を大幅に軌道修正。開幕戦までの時間を考えると、自分たちでマシンをゼロから設計製造することは不可能で、チームは2002年にアロウズが使用したA23を購入し、2006年レギュレーションに合わせて製作した空力パーツを組み合わせたSA05で開幕戦に臨む決断を下した。
だが、日進月歩で進化するF1の世界で、4年前のマシンをレギュレーションに適合させるのは想像以上に難しい作業だった。2005年に最低地上高が大きく引き上げられたため、ノーズからフロントウイングを吊り下げるステーを短くしてウイングの地上高を引き上げなければならなかった。またクラッシュテストの評価基準はA23が作られたときよりも厳しくなっていたため、サイドポンツーン形状を変更して対応しなければならなかった。またそのサイドポンツーンはエンジンが2.4ℓV8になり必要とされる冷却性能が異なってしまったため、開口部の大きさを変更。このほか、SA05ではエンジンカウル、ディフューザー、リヤウイングもA23のままでは使えないため、レギュレーションに合わせて手が加えられている。
Hondaはスーパーアグリを積極的にサポートした。アロウズA23が搭載していたのはフォード・コスワース製3ℓV型10気筒エンジンだったが、スーパーアグリが搭載するエンジンはHondaの2.4ℓV型8気筒であるRA806E。当然サイズや細部が異なり、エンジンを車体に接続させるマウントからして20㎜も異なっていたため、その改変にはHondaの協力が不可欠だった。その他、ハイドロ系やエレクトロニクス系などもHondaエンジンに適応するため一新した。
こうしたチームの努力とHondaをはじめとする多くのサポートによって、スーパーアグリSA05は2月15日にイギリス・ケンブル空港でシェイクダウン。その直後にドライバーラインナップが発表され、佐藤琢磨と井出有治が正式に新チームのドライバーとなった。
参戦までの準備期間が非常に短かったため、あくまでもSA05はレースに参戦のためレギュレーション合致を目的として作られた暫定マシンだった。チームはその後、改良シャシーのSA06Aを第12戦ドイツGPから投入。SA05との大きな違いは、20㎏の軽量化、エンジンおよびギヤボックスの低重心化と、それにともなうリヤサスペンションジオメトリーの改良だ。さらにサイドポンツーンから後方のボディワークが絞り込まれ、空力性能を大きく改善した。これによって中高速コーナーでのダウンフォースが増しリヤの挙動が安定した。
しかし、SA06Aはそのフロントサスペンションとフロントの空力パッケージがSA05のままだったため、リヤが改善されたぶん前後バランスが悪くなり、ステアリングを切っても曲がりづらいアンダーステア傾向のマシンになってしまった。それを改善する目的で開発された新しいフロントサスペンションは第14戦トルコGPから投入され、マシンはBバージョンとしてSA06Bと名付けられた。この新型フロントサスペンションは、SA05がモノコックの両サイドに下側に伸びたキールにロワアームが接続されたツインキールを採用していたのに対し、限りなくゼロキールにしたことで、モノコック下の空気の流れをスムースにしたものだ。
しかし、4年前のモノコックを使用するという時点で、ライバルチームから大きな後れをとっていたスーパーアグリは2004年に表彰台を獲得した経験を持つ佐藤の腕を持ってしてもポイント争いに絡むことはできなかった。チームメイトの井出は4戦でチームを去り、その後フランク・モンタニーが7戦を走り、残り7戦は山本左近がステアリングを握ったものの、入賞争いを演ずることなくシーズンを終えた。新チームにとって、F1の厳しい洗礼を受けたシーズンだったが、この経験が翌年に良い成果をもたらしたことは間違いない。

鈴木亜久里代表を中心に、2004年までBARで活躍した佐藤琢磨(写真右)、フォーミュラ・ニッポン2005年シリーズ2位の井出有治(同左)をドライバー起用し、主要メンバーを日本人で固めたF1参戦チームとして大きな話題となった。

序盤戦仕様のスーパーアグリSA05。旧型シャシー流用のため、サスペンション取り付け位置が不自然に低いのが印象的。あくまで暫定シャシーのため2006年出走にかかわらず「05」とネーミングされたが、全16戦中11戦まで使用した。

SA06Aは第12戦ドイツGP1戦のみの投入となり、第13戦からはフロントサスペンションを改良したSA06Bが登場。これまでノーズ後方左右に大きく垂れ下がっていたボディワークはほぼなくなり、戦闘力もかなり向上した。
RA806E
