
第9戦アメリカGP出場車 No.10 佐藤琢磨
2004年、シーズンを通じて優勝争いを展開した006
佐藤琢磨の快走は日本人の夢を近づけ、表彰台へと持ち上げた
2004年、日本のF1ファンは大きな夢を見せてもらった。それもほとんど現実に近い夢であった。
ジェンソン・バトンと佐藤琢磨の駆るB・A・R Honda 006はシーズンを通してトップ争いに絡む大活躍をしてみせた。バトンは2位表彰台をモノにし、琢磨はアメリカGPで1990年の鈴木亜久里以来という表彰台登壇(3位)という偉業を達成したのだ。日本人ドライバーによる優勝という夢は、実際すぐそこまできていたのである。
B・A・R Honda 006は前年まで使用していたブリヂストンタイヤをやめ、ミシュランへスイッチした。これは006のマシン開発を担当したジェフ・ウィリスの判断だった。

最強の存在として君臨した“跳ね馬”を追いかけ回したB・A・R Honda 006。
03年のシーズン終了前に、B・A・R Honda 006は005シャシーに006仕様のバックエンドを搭載したハイブリッドマシンですでにテストを始めていた。この時点ではまだタイヤはブリヂストンだったので、結果的に両メーカーの比較テストができた唯一のチームであったことが006開発に大いに役立っているという。ウィリスが開発を進めたサスペンションとエアロダイナミクスは、走り出しの初期段階からミシュランタイヤとうまいマッチングを見せ、タイヤの性能を理想的に引き出していった。そして005のミシュラン型ハイブリッドを基に006が登場し、開幕から驚くべきスピードを見せたのである。
しかしシーズンが進むといくつかの不具合が出てきた。006は強力なダウンフォースを発生してはいたものの、そこにフレキシブルウイング(フラップ)の存在が疑われたのだ。通常は大きなダウンフォースを得て走行しているが、中速から高速の変化域でフレキシブルウイングが作動し、ダウンフォースが急激に抜けてしまう性格を持っていたと言われている。

RA004Eエンジンは900馬力以上を発生し快走を支えた。
FIA(国際自動車連盟)によってフレキシビリティを取り締まるためのリブ(補強材)の搭載が義務づけられて、ウイング問題にはケリがついたのだが、スピード変化やバンプなどでダウンフォースが急激に抜けるという006の高速コーナーでの過激な神経質さはドライバーたちを悩ませた。また、マシンの素性としてタイヤに厳しい走行特性を持ち、高速コーナーなどでは極めて繊細なセットアップが要求されていた。

背後に回ると複雑な気流を整える小さなウイングが林立。
006は初期にはリアウイング・セパレーターが違反扱いとなり撤去させられ、次にはフレキシブルウイングが問題とされた。さらにモナコでは毎レースすさまじいスタートを見せる琢磨のスタート装置にクレームがついた。ラウンチコントロール疑惑である。
結果は“黒ではなく灰色”ということで、プログラム等の修正が命じられたのだが、このプログラムと装置の変更後も琢磨のスタートダッシュは変わることはなかった。実際、このシーズンを通じて、彼のスタートは同僚バトンを常に上まわっていた。
どちらにしても006と琢磨は日本人ドライバーのF1初勝利という夢をもう少しで現実のものにできるところまで近づけてくれた。結果として得たインディアナポリスでの3位は日本のF1ファンや関係者にとっては勲章と言え、日本人の夢を最も現実に近づけた一瞬であった。
琢磨と006はアメリカGPの3位表彰台というリザルト以外にも、記憶に残る場面を作り出していた。ニュルブルクリンクでは軽量アタックでポールポジションを獲得したフェラーリF2004を駆るミハエル・シューマッハの真横、予選2番手に琢磨は並んだのである。天下のワールドチャンピオンが無視できない“ライバル”として琢磨を視界に捉えた。ここに初めて日本人F1ドライバーがグランプリのトップランナーからライバルとして意識される位置を得たのだ。006は日本人ドライバーをその高みにまで運んだマシンとして歴史に名を刻んだのだった。

現代らしくボタンの並ぶコクピット。当然シフトレバーはなく、カラフルな調整ダイヤルがセンターを陣取る。

シャシー
| 型番 | B・A・R Honda 006 |
| トランスミッション | B・A・R/Honda&Xトラック製7速 |
| クラッチ | カーボンプレート |
| サスペンション(前後とも) | ウイッシュボーン/プッシュロッド+アクティブトーションスプリング&ロッカー、メカニカルアンチロールバー |
| ダンパー | KONI |
| ホイール | BBS |
| ホイール径(前後とも) | 13インチ |
| ホイール幅 | フロント/312mm リア/360mm |
| ブレーキ | アルコン(2×6ピストンキャリパー) |
| ステアリング | ラック&ピニオン(パワーアシスト付き) |
| ホイールベース | 3150mm |
| トレッド(前/後) | フロント/1460mm リア/1420mm |
| 車両重量 | 600kg |
| 燃料容量 | 150リットル |
エンジン
| 型式 | Honda RA004E |
| スパークプラグ | NGK |
| エンジン形式 | V型10気筒NA |
| V角度 | 90度 |
| 排気量 | 2998cc |
| 圧縮比 | 未発表 |
| 最高出力 | 900馬力以上/18500rpm以上 |
| ブロック素材 | アルミニウム |
| フューエルインジェクション | Honda PGM-FI |
| エンジン重量 | 未発表 |